
緑内障とは
緑内障は視神経が障害され視野が徐々に欠ける疾患。40歳以上の約5%、80歳以上では約11%が罹患する日本の中途失明原因第1位。早期発見と点眼による眼圧低下で進行を抑える方法を介護現場目線で解説。
この記事のポイント
緑内障とは、視神経が障害されて視野が徐々に欠けていく疾患です。日本眼科学会によれば40歳以上の約5%、80歳以上では約11%が罹患し、日本人の中途失明原因の第1位を占めます。一度失われた視野は回復しないため、点眼薬で眼圧を下げて進行を抑えることが治療の柱です。介護現場では「歩いていてよくぶつかる」「車のサイドミラーを見落とす」など視野障害のサインを早期に拾い上げ、定期受診と点眼継続を支援することが重要になります。
目次
緑内障の定義と発症の仕組み
日本眼科学会は緑内障を「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義しています。簡単にいえば、目の奥にある視神経が徐々に傷んで視野が欠けていく病気で、進行は不可逆ですが、適切に眼圧を下げれば進行を遅らせることができます。
視神経が傷む直接の原因は完全には解明されていませんが、もっとも重要な危険因子は眼圧(目の硬さ)です。眼の中は房水(ぼうすい)という透明な液体で満たされ、これが産生と排出のバランスで一定の圧を保っています。排出経路(隅角)の目詰まりや構造異常で眼圧が上がる、あるいは眼圧が正常範囲でも視神経が脆弱な体質の人で発症します。
多治見スタディ(2000-2001年・日本緑内障学会)では、40歳以上の有病率は5.0%、緑内障患者の約7割が「正常眼圧緑内障」と報告されており、日本人では「眼圧は正常でも緑内障」というケースが多数を占めることが分かっています。これは「健康診断で眼圧が正常だから安心」とはいえない理由でもあります。年齢別では70歳以上で10.5%、80歳以上で11.4%と加齢で上昇し、緑内障は日本における中途失明原因の第1位を占めています。
緑内障の種類と症状
緑内障は隅角(房水の出口)の状態と発症経過によって複数のタイプに分類されます。介護現場で多く出会うのは加齢で発症する原発緑内障です。
- 原発開放隅角緑内障:隅角は開いているが線維柱帯の目詰まりで房水排出が低下。慢性的に眼圧上昇が続き、無自覚のうちに進行
- 正常眼圧緑内障:眼圧20mmHg以下でも視神経が傷む。日本人緑内障の約7割を占め、加齢・近視・低血圧・睡眠時無呼吸が危険因子
- 原発閉塞隅角緑内障:隅角が狭く房水排出が物理的に妨げられる。急性緑内障発作では眼圧が一気に上昇し、激しい眼痛・頭痛・吐き気・視力低下を起こし数日で失明する緊急疾患
- 続発緑内障:糖尿病・ぶどう膜炎・ステロイド長期点眼/服用・眼外傷・血管新生などで二次的に起こる
- 発達緑内障(小児緑内障):先天的な隅角形成異常による
慢性緑内障の症状は「ほとんど自覚症状がない」のが最大の特徴です。視野欠損は「視野の中心の鼻側」など周辺から始まり、両眼で互いに補い合うため失われた視野に気づかないまま進行します。「物にぶつかる」「階段を踏み外す」「車を運転していて自転車にひやっとする」「文字の一部が読めない」といった生活上のヒヤリハットで初めて発覚することが少なくありません。急性発作型は数日で失明する緊急事態であり、片頭痛と誤認して内科受診する高齢者がいるため、強い頭痛+眼痛+嘔気+視力低下を伴う場合は直ちに眼科受診が必要です。
白内障・加齢黄斑変性との違い
緑内障は「失われた視野は戻らない」という意味で、白内障や加齢黄斑変性とは決定的に治療目標が異なります。介護現場で疾患のイメージを正しく共有しておくことが、ご本人・家族の点眼継続支援の動機付けにもつながります。
| 疾患 | 障害される部位 | 主な見え方 | 治療目標 |
|---|---|---|---|
| 緑内障 | 視神経 | 視野が周辺から欠ける(中心視力は最後まで残る) | 点眼で進行抑制(治癒不可) |
| 白内障 | 水晶体 | 全体がかすむ・まぶしい | 手術で根治可 |
| 加齢黄斑変性 | 網膜中心(黄斑) | 中心がゆがむ・暗くなる | 抗VEGF注射で進行抑制 |
緑内障の中心視力は最後まで保たれることが多いため、視力検査では正常でも視野の大部分を失っているケースがあります。視力検査だけで「目は問題ない」と判断せず、視野検査(OCT・ハンフリー視野検査)で評価する必要があります。なお閉塞隅角タイプでは白内障手術により水晶体を薄い眼内レンズに置換することで隅角を物理的に広げ、緑内障の根本治療になることもあります。
診断と治療の流れ
緑内障の診断と治療は段階的に進められます。介護現場で関わる場面は主に「定期受診の付き添い」「点眼の継続支援」「合併症のサインの早期察知」です。
- スクリーニング・診断:眼圧検査・眼底検査・OCT(光干渉断層計)・視野検査の3〜4本柱で行う。日本緑内障学会は「40歳になったら一度は眼科で緑内障検査を」と推奨
- 薬物療法(点眼):プロスタグランジン関連薬(1日1回)を第一選択に、効果不十分なら β遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・α2刺激薬などを追加。合剤点眼でアドヒアランスを高める
- レーザー治療:開放隅角型では選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)、閉塞隅角型ではレーザー虹彩切開術(LI)を行う。外来・短時間で実施可
- 観血的手術:薬物・レーザーで眼圧コントロールが不十分な場合、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)・線維柱帯切開術(トラベクロトミー)・チューブシャント手術などを選択
- 白内障同時手術:閉塞隅角型では白内障手術で水晶体を眼内レンズに置換し隅角を広げる根本治療を行う
- 急性発作対応:閉塞隅角の急性発作は緊急眼科受診。眼圧下降薬の点滴・点眼後にレーザー虹彩切開術を行う
緑内障治療の本質は「進行を遅らせること」です。失明に至る方は治療を中断したケースが多く、症状が出ないため自己判断で点眼を止めてしまう「アドヒアランス不良」が最大のリスクです。介護現場では「症状がないからこそ続ける必要がある」という疾患特性をご本人・家族と共有し、点眼カレンダーや訪問看護による点眼支援などの仕組み化が予後を左右します。
介護現場で押さえる支援のポイント
緑内障は「点眼を続けられるかどうか」が予後を決めます。介護職・看護師・ケアマネが日々の支援で押さえるポイントを整理します。
- 点眼の確実な実施:プロスタグランジン製剤は1日1回(朝または夜)、β遮断薬は1日2回など製剤ごとに用法が異なる。複数点眼は5分以上間隔をあける
- 点眼手技の指導:手指衛生→下まぶたを軽く引いて結膜嚢に1滴→1分ほど閉瞼+目頭を軽く押さえる(鼻涙管への流出による全身吸収・苦み・色素沈着を予防)
- 視野障害を踏まえた環境整備:視野の鼻側・上方が欠けている場合、廊下の障害物・段差・テーブル角の家具配置を見直す。歩行介助では患側からアプローチしない
- 転倒予防:視野欠損は転倒リスクを2〜3倍に増加させる(複数研究の知見)。フレイル評価とあわせて住環境整備を行う
- 認知症との合併:点眼忘れ・点眼回数の重複が起こる。お薬カレンダー・訪問看護・服薬支援アプリを活用し家族や事業所で見守る
- 運転・自動車免許:両眼視野が一定以下に低下すると免許の更新条件を満たさなくなる。早期に主治医・家族と共有して代替交通手段を計画する
- 市販薬の注意:閉塞隅角緑内障では抗コリン作用のある総合感冒薬・抗ヒスタミン薬・胃腸薬で発作を起こすことがある。お薬手帳に「閉塞隅角緑内障あり」を明記
よくある質問
Q. 緑内障は完治しますか?
A. 残念ながら現代医療では完治は不可能で、治療目標は進行を遅らせて生涯にわたり実用的な視機能を保つことです。早期発見と眼圧コントロールにより多くの方は失明に至らずに過ごせます。
Q. 点眼は一生続けるのですか?
A. 原則として生涯継続が必要です。眼圧が下がっても点眼を中止すると再上昇するため、症状がなくても続ける必要があります。レーザーや手術で眼圧コントロールが安定すれば点眼数を減らせる場合があります。
Q. 健康診断で「眼圧正常」でしたが緑内障の心配はないですか?
A. 安心はできません。日本人の緑内障の約7割は正常眼圧緑内障です。40歳を過ぎたら一度は眼底検査・OCT・視野検査を含む眼科ドックを受けることが日本緑内障学会から推奨されています。
Q. 認知症の方の点眼は誰がどう支援すればよいですか?
A. 訪問看護による点眼指導・代行、デイサービス利用日のスタッフ実施、施設では看護師・介護職の連携で実施します。お薬カレンダー+点眼後にチェック印をつける方法、合剤点眼で回数を減らす方法も有効です。
Q. 急性緑内障発作はどう見分けますか?
A. 突然の強い眼痛・頭痛・吐き気・霞視・対光反射消失が典型です。閉塞隅角タイプの方が薄暗い場所で長時間過ごした後や、抗コリン作用の市販薬を服用した後に起こりやすく、放置すれば数日で失明します。これらの症状があれば直ちに眼科を受診してください。
参考資料
- 日本眼科学会「目の病気:緑内障」https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=35
- 日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン(第5版)」https://www.ryokunaisho.jp/
- 日本眼科医会「よくわかる緑内障―診断と治療―」https://www.gankaikai.or.jp/health/49/index.html
- 日本眼科医会「緑内障といわれた方へ―日常生活と心構え―」https://www.gankaikai.or.jp/health/56/
- 健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)「緑内障の症状」https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ryokunaishou/shoujou.html
- 厚生労働省eヘルスネット「視覚障害」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
まとめ
緑内障は日本の中途失明原因第1位で、40歳以上の20人に1人、80歳以上では約11%が罹患する身近な疾患です。視神経の障害により失われた視野は戻らず、点眼で眼圧を下げて進行を遅らせることが治療の中心となります。「自覚症状がない」ことが最大の落とし穴であり、定期受診と点眼の継続が予後を決めます。介護現場では転倒リスクを踏まえた環境整備、点眼支援、急性発作のサインの早期察知が重要な役割となり、フレイル予防と並んで高齢者の生活機能を守る基盤になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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