嚥下訓練とは

嚥下訓練とは

嚥下訓練を介護現場目線で解説。食物を使わない間接訓練(口腔体操・アイスマッサージ・頭部挙上訓練)と食物を使う直接訓練(一口量・とろみ・代償嚥下法)の違い、言語聴覚士(ST)と看護師・介護職の連携、嚥下造影(VF)・嚥下内視鏡(VE)評価、ミールラウンドと経口維持加算の関係まで、最新エビデンスを踏まえてまとめます。

ポイント

この記事のポイント

嚥下訓練(えんげくんれん)とは、加齢や脳卒中・認知症などで「飲み込み(嚥下)」の機能が低下した人に対して、誤嚥や窒息を防ぎながら安全に経口摂取を続けるために行うリハビリテーションのこと。食物を使わない間接訓練(基礎訓練)と、実際に食物を使う直接訓練(摂食訓練)の2本柱で構成され、言語聴覚士(ST)が中心となり、看護師・介護職・歯科衛生士・管理栄養士がチームで関わります。

目次

嚥下訓練の全体像と目的

嚥下訓練は、口に食べ物を入れてから胃に送り込むまでの一連の動作を、安全かつ効率的に行えるように再学習・再強化するための介入です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「訓練法のまとめ(2014版)」では、嚥下訓練は大きく 間接訓練(食物を使わない基礎訓練)直接訓練(食物を使う摂食訓練) に分類されています。

目的は単に「食べられるようにする」ことだけではありません。介護現場では次の4つを同時に追いかけます。

  1. 誤嚥性肺炎の予防:高齢者の死因として上位を占める誤嚥性肺炎を、食事姿勢・口腔ケア・嚥下訓練の組み合わせで予防する。
  2. 低栄養・脱水の予防:食事量が落ちて低栄養になると、嚥下筋(舌・頸部・喉頭周囲)も痩せてさらに飲み込みが悪くなる悪循環を断つ。
  3. 経口摂取の維持・再獲得:胃ろう・経管栄養から経口摂取に戻す、あるいは現在の経口摂取を可能な限り維持する。
  4. QOL(生活の質)の保持:食べる楽しみは尊厳に直結する。家族や仲間と食卓を囲む時間を守る。

嚥下訓練は医療と介護の境目をまたぐ介入で、医師の指示・訪問リハビリテーションでのSTの介入・施設の食事介助・在宅家族の声かけまで、関わる人と場が広いのが特徴です。

間接訓練(食物を使わない訓練)の代表例

誤嚥のリスクが高い段階や、覚醒が不安定で食物が使えない段階で行うのが間接訓練です。「飲み込みに使う筋肉と感覚を、食事の前にウォーミングアップする」イメージで、リスクが低く介護職や看護師でも導入しやすいものが多くあります。

  • 嚥下体操(パタカラ体操):「パ・タ・カ・ラ」を発音することで唇・舌先・舌奥・舌全体を順に動かす。食前5分の習慣化が定番。
  • 口腔・舌の運動:舌を前後・左右・上下に動かし、頬を膨らませる・すぼめる、唇をすぼめる動作を反復。舌圧の維持に有効。
  • 頸部ROM訓練:頸部前後屈・側屈・回旋。喉頭挙上に関わる頸部前面の柔軟性を保ち、嚥下時の喉仏の動きを引き出す。
  • アイスマッサージ(寒冷刺激法):凍らせた綿棒や金属スプーンで前口蓋弓・舌根部を刺激し、咽頭期の嚥下反射を誘発する。
  • 頭部挙上訓練(シャキア法):仰臥位で爪先を見るように頭だけを持ち上げる。舌骨上筋群を強化し、上部食道括約筋の開大を促す。
  • メンデルソン手技:嚥下時に喉仏を最も高い位置で数秒保持する練習。喉頭挙上不全の代償・改善に使う。
  • ブローイング訓練:ストローで水を吹く・巻き笛を吹く。鼻咽腔閉鎖不全や呼気筋力低下の改善。
  • K-point刺激法:臼後三角の後方を刺激し、開口反射と嚥下反射を引き出す。重度認知症で開口困難な人に有効。

注意点として、嚥下体操は「やればやるほどよい」ものではなく、疲労や誤嚥リスクをむしろ高める例もあります。STの評価に基づいて頻度・強度を決めることが原則です。

直接訓練(食物を使う訓練)と代償嚥下法

VF・VEで嚥下機能を確認したうえで、食物を実際に飲み込む段階の訓練が直接訓練です。誤嚥リスクと裏表のため、医師指示と多職種カンファレンスを経て条件を細かく決めて実施します。

  • 一口量の調整:ティースプーン1杯(3〜5g)程度から開始し、嚥下後に咽頭残留がなければ少しずつ増やす。
  • 食形態(とろみ)の調整:日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「学会分類2021」に基づき、ゼリー食・ピューレ食・ソフト食・常食を段階的に上げる。
  • 食事姿勢の調整:誤嚥リスクが高い人は30度仰臥位で頸部前屈、状態が良ければ60度・90度に角度を上げる。
  • 息こらえ嚥下(声門閉鎖嚥下):飲み込む前に息を止め、嚥下後に強く息を吐く。声帯閉鎖を強化して喉頭侵入・誤嚥を防ぐ。
  • 複数回嚥下(反復嚥下):一口を1回で終わらせず、空嚥下を2〜3回追加して咽頭残留を除去する。
  • 横向き嚥下・うなずき嚥下:梨状窩残留がある側と反対に頸部を回旋して飲み込む、あるいは頸部前屈で咽頭通過を整える。
  • 交互嚥下:固形物とゼリー・水分を交互に飲み込み、咽頭残留を洗い流す。

食形態調整は管理栄養士、姿勢調整は看護・介護職、嚥下手技の習得はSTというように役割が分かれます。チームで同じプロトコルを共有することがミスを防ぐ鍵です。

間接訓練と直接訓練の違い

項目間接訓練(基礎訓練)直接訓練(摂食訓練)
食物の使用使わない使う(ゼリー・とろみ水・調整食)
誤嚥リスク低い高い(事前評価必須)
主な対象食事再開前・覚醒不安定・絶食中の人VF/VEで誤嚥が一定範囲内と確認できた人
担い手ST中心、看護師・介護職も実施可STと看護師の指導下で介護職も介助
必要物品綿棒・氷・スプーン・口腔ケア用品調整食・吸引器・パルスオキシメータ
頻度の目安毎食前5〜10分+セッション1日1〜2回食事の場面そのものを訓練として活用
評価指標頸部ROM・舌圧・反射の出現むせ・湿性嗄声・SpO2低下・残留量

多くの利用者では「間接訓練で土台を整えながら、直接訓練で実食場面を磨く」という二段構えで進みます。どちらか一方だけでは、機能低下の予防にも改善にも届きません。

評価から訓練までの流れ(VF・VE・ミールラウンド)

  1. スクリーニング:反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテスト等で嚥下障害の有無を見極める。看護師・介護職による日々のむせ観察も入口になる。
  2. 嚥下造影検査(VF):バリウム入りの検査食を口に入れた状態をX線透視で確認する。喉頭侵入・誤嚥・咽頭残留の有無、最適な食形態と姿勢を客観的に決められる。
  3. 嚥下内視鏡検査(VE):鼻から内視鏡を入れて咽頭の状態を直接観察する。被曝なしでベッドサイドや在宅でも実施可能。声帯動き・梨状窩残留・喉頭侵入を確認。
  4. 多職種カンファレンス:医師・ST・看護師・介護職・管理栄養士・歯科衛生士でVF/VE結果を共有し、食形態・姿勢・訓練メニューを決定する。
  5. 訓練の実施:間接訓練と直接訓練を並行して計画。ST介入は週1〜数回、それ以外の時間は看護・介護職が継続。
  6. ミールラウンド:医師・歯科医師・ST・管理栄養士などが食事場面を巡回観察し、姿勢・食形態・介助方法を再評価する。経口維持加算(後述)の算定要件にもなる重要プロセス。
  7. 再評価とプラン更新:おおむね3か月ごと(または状態変化時)にVE再検・体重・喫食率・誤嚥性肺炎発症の有無を確認し、訓練プランを修正する。

このサイクルが回らないと「同じ食形態・同じ姿勢」が固定化し、本来上げられるはずの食形態を下げ続けてしまうリスクがあります。

介護施設での経口維持加算と嚥下訓練のつながり

特養・老健などの介護保険施設では、嚥下訓練を施設運営に組み込むインセンティブとして経口維持加算が設定されています。経口摂取が困難になりつつある利用者に、多職種で食事観察・計画・モニタリングを行うと算定できる加算です。

  • 経口維持加算(Ⅰ):医師・歯科医師の指示のもと、医師・歯科医師・管理栄養士・看護職員・介護職員・言語聴覚士などが共同して食事観察(ミールラウンド)と栄養ケア計画を実施した場合に算定。
  • 経口維持加算(Ⅱ):(Ⅰ)に加えて、協力歯科医療機関の歯科医師等の助言を受け、利用者ごとに造影撮影や内視鏡検査による評価を行った場合に算定。

つまり、ST単独で訓練を提供するだけでなく、看護師・介護職・歯科衛生士・管理栄養士で「食事場面を観察し、計画を立て、評価する」ことが報酬上の前提になっています。看護師にとっては誤嚥性肺炎予防の主担当として、また介護職にとっては日々の食事介助の質を加算という形で見える化する制度です。

加算を取るためだけに帳票を整えるのではなく、嚥下訓練の効果を可視化し、利用者本人と家族にフィードバックするための仕組みとして活用するのが望ましい姿です。

よくある質問

Q. 嚥下訓練は誰が行うのですか?言語聴覚士でなくても実施できますか?
A. 訓練計画の中心は言語聴覚士(ST)が担いますが、間接訓練の多く(嚥下体操・口腔ケア・頸部ROM)は看護師・介護職員・家族でも継続実施できます。直接訓練は誤嚥リスクがあるため、ST・看護師の評価と医師指示のもとで実施するのが原則です。
Q. 嚥下訓練は1日にどのくらいやればいいですか?
A. 食前5〜10分の嚥下体操に加え、ST介入を週1〜数回というのが介護施設の標準的なペースです。ただし疲労が強いと逆効果になるため、本人の覚醒状態と耐久性を見ながら強度を調整します。
Q. 認知症で指示が入らない人にも嚥下訓練はできますか?
A. 「真似してください」と言葉で指示する代わりに、唇に触れて舌を出す動作を引き出す、K-point刺激で開口を引き出す、食前のアイスマッサージで嚥下反射を高めるなど、感覚刺激中心の方法に切り替えます。「できる動作だけを取り出す」のがポイントです。
Q. 胃ろうを造設したら嚥下訓練はもう必要ないのでしょうか?
A. むしろ必要です。胃ろう造設後も唾液嚥下は続いており、訓練を止めると嚥下機能はさらに低下します。少量のゼリーから経口摂取を再開できるケースもあるため、間接訓練の継続が経口摂取の再獲得につながります。
Q. 訪問リハビリで嚥下訓練を受けることはできますか?
A. STが在籍する事業所であれば可能です。VEを在宅で実施する歯科医院や訪問診療医も増えており、自宅でも本人の使い慣れた食器・食卓で評価と訓練を受けられます。訪問リハビリテーションの解説もあわせてご覧ください。

参考資料

  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「訓練法のまとめ(2014版)」https://www.jsdr.or.jp/
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「学会分類2021(食事)」(食形態の段階分類)
  • 厚生労働省「介護報酬告示・解釈通知(経口維持加算)」
  • 健康長寿ネット「嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)」公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/
  • 産業医科大学病院リハビリテーション部「間接的訓練・直接的訓練のしかた」

まとめ

嚥下訓練は、食物を使わない間接訓練と食物を使う直接訓練の二本柱で、誤嚥性肺炎の予防と経口摂取の維持・再獲得を目指すリハビリテーションです。言語聴覚士(ST)が中心に立ちつつ、看護師・介護職・歯科衛生士・管理栄養士が役割を分担し、VF・VEによる客観評価とミールラウンドで訓練プランを更新していきます。経口維持加算のように、嚥下訓練を多職種で組み込むことを評価する仕組みも整っており、施設・在宅問わず一連の流れとして運用することが、利用者の食べる楽しみと尊厳を守る鍵になります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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