
移乗支援ロボット(非装着型)は介護者の腰や移乗負担を減らすか|Hug・リショーネ・SASUKEなど抱え上げ支援機器の研究エビデンスを現場目線で読む
非装着型の移乗支援ロボット(Hug/リショーネ/SASUKE)は介護者の腰部負担や移乗の手間を本当に減らすのか。国内外の研究エビデンスを一次ソースで確認し、効果と限界(適応する利用者の限定・操作の手間・スペース・コスト・長期データ不足)を介護職目線で整理します。
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結論:介助の人数と抱え上げは減らせる。でも『腰痛がなくなる』とは別の話
ベッドと車いすの間の移乗。これは介護の仕事のなかでも、腰をいちばん痛めやすい動作です。人の体を抱え上げ、ひねり、支える。この繰り返しが、多くの介護職の腰に少しずつ負担を積み重ねていきます。
「抱え上げなくていい機械があれば、腰がラクになるのでは」。そう考えて開発されたのが、非装着型の移乗支援ロボットです。介助者が体に着けるアシストスーツとは違い、床に置いて使う据え置き・可動型の機器で、HugやリショーネPlus、SASUKEといった製品があります。
研究と現場の報告を一次ソースまでたどって整理すると、結論はこうなります。特定の利用者・特定の場面では、移乗にかかる介助の人数を2〜3人から1人に減らし、人の力で抱え上げる動作そのものを減らせることが確かめられています。これは腰を守るうえで大きな意味があります。
ただし、ここから先が大切です。「この機械を入れれば介護職の腰痛がなくなる」とまでは、研究は言っていません。使える利用者が限られること、準備や操作に手間がかかること、本体が大きく置き場所や移動スペースがいること、1台100万〜200万円ほどの費用がかかること。これらが普及の壁として繰り返し指摘されています。そして「腰痛になる人が実際に減った」「辞める人が減った」という、いちばん知りたい部分の質の高い証拠は、まだ十分にそろっていません。
この記事では、非装着型の移乗支援ロボットが「何を」「どこまで」減らすのかを、研究の数字を日常の言葉に置きかえながら、誇張せずに読み解きます。装着型アシストスーツやノーリフティングケアと、どう使い分けるかも一緒に考えます。
目次
なぜ『どこまで効くのか』を正確に知る必要があるのか
介護現場の腰痛は、軽く見てよい問題ではありません。腰を痛めて働き方を変えざるをえなくなったり、職場を離れたりする人がいるのは、現場で働く人なら肌で知っていることです。だからこそ「腰の負担を減らす」とうたう機器には期待が集まります。
一方で、期待が大きいぶん、話が大きくなりやすいのも事実です。「ロボットを入れれば腰痛ゼロ」「もう抱え上げはいらない」。こうした単純な言い切りは、導入後の現場で「思っていたのと違う」というギャップを生みます。実際には、使える利用者が限られていたり、準備に時間がかかって忙しい時間帯には使いにくかったり、置き場所に困ったりします。期待だけが先行すると、せっかく買った機器が倉庫で眠る、という残念な結果にもなりかねません。
大切なのは、機械が「何を」減らし、「何は」減らさないのかを、研究の事実に沿って等身大でとらえることです。非装着型の移乗支援ロボットの場合、研究がはっきり示しているのは主に次の2つです。ひとつは「移乗にかかわる介助者の人数を減らせること」、もうひとつは「抱え上げの動作や前かがみの時間を物理的に減らせること」。これは確かな前進です。
けれども、「腰痛になる人が減った」「離職が減った」という、もう一歩先の効果については、まだ研究が追いついていません。研究の世界では、こうした「最終的に知りたい結果」を確かめるには、多くの人を長く追いかける必要があり、時間も費用もかかるからです。
この記事は、その「分かっていること」と「まだ分かっていないこと」の境目をはっきりさせることを目的にしています。導入を検討する立場でも、現場で使う立場でも、過度な期待でも過度な失望でもなく、道具として正しく使いこなすための土台にしてください。
非装着型の移乗支援ロボットとは何か、装着型・つり下げリフトと何が違うのか
移乗を助ける機器は、大きく「装着型」と「非装着型」に分けられます。経済産業省と厚生労働省が定めた「ロボット技術の介護利用における重点分野」(介護テクノロジー利用の重点分野)でも、この2つは別の項目として整理されています。
装着型と非装着型の違い
装着型は、介助者が腰などに着けて使う機器です。マッスルスーツ(空気圧式の人工筋肉)やHAL介護支援用(生体電位を読み取る方式)が代表で、人が抱え上げるときの腰の負担を、着けた本人の力に上乗せする形で軽くします。この記事のテーマではありませんが、同じ「腰を守る機器」として後で使い分けに触れます。
非装着型は、介助者が体に何も着けず、床に置いた機械が抱え上げ動作そのものを肩代わりするタイプです。重点分野の定義では「ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う」「移乗開始から終了まで介助者が一人で使用できる」「ベッドと車いすの間の移乗に用いる」「据付け工事を伴わない」とされ、さらに「つり下げ式の移動用リフトは除く」と明記されています。つまり、天井走行リフトやスリング式リフトとは、制度上はっきり区別された別カテゴリーです。
代表的な製品
厚労省の介護ロボット手引きや各種実証事業で取り上げられてきた非装着型の代表機種には、次のようなものがあります。
- 移乗サポートロボット Hug(株式会社FUJI):利用者の胸や脇の下を保持し、本人の脚力を活かしながら立ち上がり・方向転換を助けて移乗する。本人がある程度立てる・支えがあれば動けることが使用の前提になる機種。
- 離床アシストロボット リショーネ/リショーネPlus(パナソニック エイジフリー):電動ケアベッドの半分が電動リクライニング車いすに分離する「ベッドと車いすの一体型」。そもそも抱え上げての移乗を不要にする発想の機器。
- ROBOHELPER SASUKE(マッスル株式会社):シートで体を包み、自力で立てない人をベッドと車いすの間で抱き上げるように移乗する。揺れが少なく体圧が分散される設計。
このほか、安川電機の移乗アシスト装置や、理化学研究所・住友理工のROBEARなども開発・実証されてきました。ただし後述するように、リショーネPlusやROBEARのようにすでに製造を終了した機種もあるのが、この分野の現実です。
研究は「腰の何」を測ってきたのか
非装着型ロボットの効果を確かめる研究は、主に次のような点を見てきました。「移乗にかかわる介助者の人数が減ったか」「人の力で抱え上げる動作や前かがみ(体幹の前傾)の時間が減ったか」「利用者の離床時間や行動範囲、表情がどう変わったか」、そして「現場の腰痛がどうなったか」。次の章では、これらについて研究が出した数字を、できるだけ日常の言葉に置きかえて見ていきます。
研究と実証が示した数字を、日常の言葉に置きかえて読む
ここでは、非装着型の移乗支援ロボットについて確認できた研究・実証の数字を、専門用語をできるだけかみくだいて並べます。それぞれ「何の研究か」「どんな対象か」を添えるので、数字の重みを等身大で受け取ってください。
① 介助の人数が「2〜3人 → 1人」に減った(リショーネ/縦断・事例研究)
パナソニックの離床アシストロボット「リショーネ」を、重い介護を必要とする施設入居者に使った国内の研究があります(Kato ほか、医療サービス研究の国際誌 BMC Health Services Research、2022年)。それまで移乗に2〜3人の介助者が必要だった利用者について、リショーネを11か月使い続けるうちに、最終的にすべての移乗を1人の介助者で行えるようになったと報告されています。
これは「機械の力で1人ぶんの人手が浮く」という、現場にとって分かりやすい効果です。浮いた人手を他のケアに回せるという副次的な効果も指摘されています。ただしこの研究は、少人数の利用者(この研究では3名)を詳しく観察した研究であり、「多くの施設で平均的にこうなる」と一般化できる規模ではない点に注意が必要です。
② 利用者の「行動範囲」と「表情」が広がった(リショーネ/事例研究)
同じ系統の研究では、リショーネを使うことで、ほぼ寝たきりに近い重度の利用者でも、これまで行けなかった場所(庭など)に出られるようになり、生活範囲(ライフスペース)が広がったことが示されています。ある利用者では、庭に出た記録が観察開始時の0%から、後の時期には12%に増えました。
さらに、顔の表情を分析した結果、前向きな表情(笑顔など)の割合が増えた例も報告されています。ある利用者では前向きな表情の割合が6.8%から13.3%に増え、後ろ向きな表情はほぼ見られなくなりました。これは「介助者の負担を下げる」だけでなく「利用者の生活そのものが豊かになりうる」ことを示す結果です。ただし、これも少人数の事例観察であり、表情の判定には観察者の見立てが含まれる点は割り引いて読む必要があります。
③ 前かがみ(体幹の前傾)の時間が「約23%」減った(腰部負担の実験研究)
移乗そのものではありませんが、介助者の腰の負担を客観的に測った研究として、ベッド上のケア(おむつ交換や体位変換)を助ける機器の無作為クロスオーバー試験があります(Omura ほか、科学誌 Scientific Reports、2022年)。これは、対象の介助者をくじ引きのように振り分けて「機器あり」「機器なし」を同じ人で比べる、効果を確かめやすいタイプの研究です。
介助者28名(平均年齢41.2歳)で測ったところ、腰を痛めやすい「45度を超える前かがみ姿勢」の時間が、機器を使うと平均23.0%減りました(本当の値はおおよそ16.4〜29.6%の範囲に収まると考えられ、偶然では説明しにくい差)。秒数でも平均26.5秒短くなっています。介助者自身も「機器を使ったほうが良いケアができた」と評価しました。
ここで重要なのは、研究者自身が「この機器は腰の負担をゼロにはしていない」「腰痛の発生を予防できるかどうかは、現時点では不明」とはっきり書いていることです。前かがみの時間を減らせても、それが「腰痛になる人を減らす」ことに直結するとまでは、この研究では言えない、という慎重な姿勢です。
④ 現場の主観:「腰がラクになった」という声と、慎重な声の両方がある
厚生労働省の実証研究や各自治体の導入事例集には、非装着型ロボットを移乗目的で導入した施設で、「腰痛のためにふだんの仕事を控えたいと思わなかった」と答える職員の割合が増えた、「2人介助が1人介助になった」「抱きかかえる必要がなく体がラク」といった声が並びます。腰痛の高リスク項目が中リスクに下がった、という現場発表もあります。
一方で、海外の研究者が日本の施設で行った調査では、Hugの導入前にスタッフの86%が何らかの腰痛を訴えていたものの、導入のための研修直後のアンケートでは「腰の負担を減らせそう」と答えた職員が8割いた反面、「利用者が安心して使えると思う」と答えたのは15%にとどまった、という結果もありました。つまり、介助者側のメリットは感じても、利用者の受け入れや安心感には課題が残る、という現場のリアルな温度差が記録されています。
数字を読むうえでの大前提
これらはいずれも、少人数の事例研究・実証・主観アンケートが中心です。多くの人を長く追って「腰痛になる人が何割減った」「離職が何割減った」と数字で示した、質の高い大規模研究は、まだ確認できていません。次の章で、こうした数字の正しい読み方を整理します。
数字の正しい読み方:研究を等身大で受け取る6つの注意点
非装着型の移乗支援ロボットの研究は、希望を持てる結果と、はっきりした限界の両方を含んでいます。誤解を避けるために、6つの注意点を押さえておきましょう。
- 「介助人数が減る」と「腰痛が減る」は別の話。研究が比較的はっきり示しているのは「2〜3人介助が1人になった」「前かがみの時間が減った」という、その場で測れる変化です。「腰痛になる人が実際に減った」「離職が減った」という最終的な結果は、別に確かめる必要があり、現時点では質の高い証拠が限られています。前者が示されても、後者が自動的に証明されたわけではありません。
- 少人数・短期間の研究が多い。リショーネの行動範囲・表情の研究は3名規模、腰部負担の試験も28名規模です。「この人たちでこうだった」という貴重な事実ですが、「どの施設でも平均的にこうなる」と一般化するには、もっと多くの人を対象にした研究が必要です。
- 「使える利用者」が限られる。Hugは本人がある程度立てる・支えれば動けることが前提です。SASUKEは自力で立てない人に使えますが体重・身長の上限があります。リショーネは失禁が多い人には向かない、といった適応・不向きが各機種にあります。「すべての利用者に使える万能機」ではありません。
- 主観の数字は割り引いて読む。「腰がラクになった」「負担が○%減った」というアンケートは、現場の実感として大事ですが、本人の印象であり、客観的な腰の負担量を測ったものとは限りません。施設独自の基準による聞き取り結果のこともあります。
- 前かがみが減っても腰の負担がゼロになるわけではない。腰部負担の研究でも、研究者自身が「負担を完全には取り除けていない」「腰痛予防につながるかは不明」と明記しています。機器は負担を「下げる」ものであって「消す」ものではありません。
- 普及そのものに壁がある。リショーネPlusやROBEARのように、効果が報告されていても製造を終了した機種があります。大きさ・設置スペース・操作の手間・1台100万〜200万円級のコストが、現場での継続利用や買い替えのハードルになっています。「良い研究結果がある=どこでも使い続けられる」ではない点も、現実として知っておく必要があります。
研究の知見を現場でどう活かすか:誰に・どの場面で使うかを見極める
研究が示すのは「特定の利用者・場面で確かに効く」という条件つきの効果でした。だとすれば、現場での活かし方は「万能機として全員に使う」ではなく、「向く人・向く場面を見極めて、ピンポイントで使う」ことになります。worker(介護職)目線で、知見を実務に落とし込む手順を整理します。
1. 利用者ごとに「適応」をアセスメントする
機種ごとに向く利用者が違います。Hugのように「本人がある程度立てる・支えれば動ける」ことが前提の機器と、SASUKEのように「自力で立てない人」に使える機器では、対象がまったく異なります。体重・身長の上限、拘縮や失禁の有無、認知機能(機械を怖がらないか)まで含めて、利用者一人ひとりにアセスメントするのが出発点です。これは普段の移乗介助のアセスメントと同じ発想で、科学的介護情報システム(LIFE)に基づくアセスメントとも親和性があります。
2. 「腰の高リスク場面」に優先的に充てる
腰部負担の研究が示すように、負担が大きいのは「抱え上げ」と「前かがみが長く続く動作」です。2〜3人介助が必要な重い利用者の移乗、トイレでの更衣・パッド交換など、腰の高リスク場面を洗い出し、そこに機器を優先的に充てると、限られた台数でも腰を守る効果を最大化できます。
3. 「人力二人介助」「ノーリフティングケア」と使い分ける
非装着型ロボットは万能ではありません。準備や操作に手間がかかるため、急ぐ場面や狭い居室では、スライディングシートやスタンディングリフト、人力の二人介助のほうが向くこともあります。「この利用者のこの移乗は機器」「この場面は人力二人介助」「この体位変換はスライディングシート」と、ノーリフティングケア(持ち上げない介護)全体の中に機器を位置づけて使い分けるのが現実的です。装着型アシストスーツは「機器を使わず人で介助するときの腰の保険」として併用する選択肢になります。
4. 操作の習熟とフォローアップを仕組みにする
現場発表では「慣れると自己流になりヒヤリに気づきにくい」「導入後のフォローが課題」と指摘されています。導入研修だけで終わらせず、担当者を置く・定期的に使い方を見直す・利用者の状態変化を再アセスメントするといった運用の仕組みづくりが、効果を持続させる鍵です。これは個人技ではなく、多職種・チームで回す体制づくりの話です。
5. 利用者の安心・QOLも評価軸に入れる
研究では「行動範囲が広がる」「表情が前向きになる」という利用者側の効果も示されました。一方で「利用者が機械を怖がる」「安心して使えるか不安」という声もあります。介助者の負担軽減だけでなく、利用者本人が安心して使えているか、生活が広がっているかも評価軸に入れることで、機器の価値を正しく判断できます。
導入のメリットと、現場が直面する壁・キャリアへの意味
メリット(研究・実証で示されてきたこと)
- 移乗の介助人数を減らせる:2〜3人介助だった移乗が1人で行えるようになった事例が報告されている。浮いた人手を他のケアに回せる。
- 抱え上げ・前かがみの動作を物理的に減らせる:人の力で持ち上げる動作や、腰を痛めやすい前傾姿勢の時間を減らせることが客観的に測られている。
- 利用者のQOL向上につながりうる:離床時間が延び、行動範囲が広がり、表情が前向きになった事例がある。あざ・表皮剥離など移乗時の事故予防にもつながりうる。
- 体力差によらず介助できる:小柄・非力な職員でも安全に移乗介助ができる、男性利用者への介助負担が減ったという現場の声がある。
デメリット・現場が直面する壁
- 適応する利用者が限られる:機種ごとに「立てる人向け/立てない人向け」「体重・身長の上限」「失禁が多い人には不向き」などの制約があり、全員には使えない。
- 準備・操作に手間と時間がかかる:1回の移乗に要する時間が、機器を使うことでむしろ増えた(特に夜間)という実証結果もある。忙しい時間帯には使いにくい。
- 設置スペース・本体サイズの問題:大型の機器が多く、狭い居室では取り回しにくい。リショーネは50kgあり段差を越えにくい、ベッド下に一定の空間が必要、といった環境条件がある。
- コストが高い:本体価格は1台100万〜200万円程度。多くの導入が補助金に支えられており、補助がないと導入・買い替えのハードルが高い。
- 製造終了のリスク:効果が報告されていたリショーネPlusやROBEARが製造を終了している。市場として成熟途上で、長く使い続けられる保証が弱い。
- 腰痛・離職の長期的な低減は未証明:「腰痛になる人が減った」「辞める人が減った」という最終的な効果を、多人数・長期で示した質の高い研究はまだ限られている。
介護職のキャリアにとっての意味
移乗支援ロボットを含む介護テクノロジーは、国(厚労省・経産省)が重点分野として開発・普及を後押ししており、介護報酬でもテクノロジー活用が評価される流れにあります。機器の適応を見極め、ノーリフティングケアの中に位置づけ、チームで運用を回せる人材は、これからの現場で価値が高まります。「ロボットに仕事を奪われる」のではなく、「自分の腰を守りながら、機器を使いこなしてケアの質を上げる」スキルが、介護職のキャリアを支える武器になります。導入の旗振り役・教育担当を担える経験は、転職市場でも評価されやすい強みです。
現場ですぐ使える、移乗支援ロボットを活かすヒント
- 「全員に使う」をやめて「この人に使う」へ。導入前に、施設内で誰のどの移乗に向くかをリスト化しておくと、機器が倉庫で眠るのを防げる。
- 腰の高リスク場面から充てる。2〜3人介助の重い移乗、トイレでの更衣・パッド交換など、腰を痛めやすい場面を優先する。
- 「機器の移乗は時間がかかる」前提で配置を。準備に手間がかかるので、急がない時間帯・余裕のあるシフトに組み込むと使い続けやすい。
- 利用者の「怖い」を無視しない。機械を怖がる利用者には無理に使わない。声かけと慣らしを丁寧に。安心して使えるかも評価軸に。
- 担当者を決めてフォローを仕組み化。自己流・ヒヤリを防ぐため、定期的に使い方を見直し、利用者の状態変化を再アセスメントする。
- 装着型・人力・スライディングシートと併用。機器が向かない場面は無理せず使い分け、腰を守る手段を複数持っておく。
- 補助金・レンタル制度を確認。本体が高額なため、導入支援事業や介護保険レンタルの対象かを事前に調べると負担を抑えられる。
よくある質問
Q. 非装着型の移乗支援ロボットを入れれば、介護職の腰痛はなくなりますか?
A. 「なくなる」とまでは、研究は示していません。研究で比較的はっきり確かめられているのは「移乗の介助人数を2〜3人から1人に減らせた」「抱え上げや前かがみの動作・時間を減らせた」という、その場で測れる変化です。一方で「腰痛になる人が実際に減った」「離職が減った」という最終的な効果を、多人数・長期で示した質の高い研究はまだ限られています。腰の負担を「下げる」道具であって「消す」道具ではない、ととらえるのが正確です。
Q. どんな利用者にも使えますか?
A. いいえ。機種ごとに向く利用者が異なります。Hugは本人がある程度立てる・支えれば動けることが前提、SASUKEは自力で立てない人にも使えますが体重・身長の上限があります。リショーネは失禁が多い人には不向き、といった適応・不向きがあります。利用者ごとのアセスメントが欠かせません。
Q. 装着型のアシストスーツとどちらが良いのですか?
A. 目的が違うので、優劣ではなく使い分けです。非装着型は「抱え上げ動作そのものを機械が肩代わりする」もので、特定の利用者の移乗を1人で安全に行いたい場面に向きます。装着型(マッスルスーツ・HALなど)は「人が介助するときの腰の負担を補助する」もので、機器を使わず人の手で介助する多くの場面の保険になります。両方をノーリフティングケアの中で組み合わせるのが現実的です。
Q. 導入すれば必ず業務時間が短くなりますか?
A. 必ずではありません。準備や操作に手間がかかるため、1回の移乗に要する時間がむしろ増えた(特に夜間)という実証結果もあります。介助人数が減るメリットと、1回あたりの所要時間が延びうるデメリットの両方を踏まえて、使う場面を選ぶ必要があります。
Q. なぜ「効果あり」の機種でも製造終了になるのですか?
A. 効果が報告されていても、本体が大きく高価で(1台100万〜200万円程度)、設置スペースや操作の手間といった普及の壁があり、市場として十分に広がりきらないためと考えられます。実際にリショーネPlusやROBEARは製造を終了しています。「研究で良い結果がある=どこでも長く使える」とは限らない点に注意が必要です。
まとめ:人数と抱え上げは減らせる。腰痛をなくす魔法ではなく、見極めて生かす道具
非装着型の移乗支援ロボット、すなわちHug、リショーネ、SASUKEといった「抱え上げを機械が肩代わりする」機器について、研究の到達点を整理してきました。
確かなのは、特定の利用者・場面で、移乗にかかわる介助の人数を2〜3人から1人に減らし、人の力での抱え上げや前かがみの動作を物理的に減らせること。さらに、利用者の離床時間や行動範囲、表情が前向きに変わった事例も報告されています。これは介助者の腰を守るうえでも、利用者の生活を広げるうえでも、意味のある前進です。
同時に、限界もはっきりしています。使える利用者は機種ごとに限られ、準備や操作には手間がかかり、本体は大きく置き場所を選び、1台100万〜200万円級のコストがかかります。効果が報告された機種でも製造を終了した例があり、「腰痛になる人が減った」「離職が減った」という最終的な効果を多人数・長期で示した質の高い研究は、まだ限られています。
だからこそ、現場での向き合い方は「導入すれば腰痛ゼロ」という期待でも、「どうせ使えない」という失望でもなく、向く人・向く場面を見極めて、ノーリフティングケアや装着型アシストスーツ、人力二人介助と組み合わせて生かす。この一点に尽きます。機器の適応をアセスメントし、チームで運用を回せる介護職は、これからの現場でますます求められます。自分の腰を守りながら機器を使いこなす力は、ケアの質を高め、あなた自身のキャリアを支える確かな武器になります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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