施設で利用者が嘔吐したときの対応|介護職の初動・誤嚥防止・感染疑いの見極めと報告
介護職向け

施設で利用者が嘔吐したときの対応|介護職の初動・誤嚥防止・感染疑いの見極めと報告

介護施設で利用者が嘔吐したとき、介護職が最初にすべき初動を時系列で解説。誤嚥・窒息を防ぐ側臥位、吐物の観察(コーヒー残渣様・血性は危険サイン)、ノロ等を疑う嘔吐の見極めと標準予防策・吐物処理(次亜塩素酸・外側から内側へ)、看護師/救急への連絡判断、記録と報告、制吐剤など医行為の線引きまで。

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この記事のポイント

施設で利用者が嘔吐したら、まず「誤嚥・窒息を防ぐ」ことが最優先です。顔を横に向けて側臥位にし、吐物が気道に入らないようにしたうえで、口の中の吐物をかき出します。次に吐物の色とにおい、量を観察します。コーヒー残渣様(黒褐色でザラつく)や鮮血が混じるものは上部消化管出血のサインで、看護師への即報告と受診検討が必要です。突然の嘔吐や複数名の嘔吐はノロウイルス等の感染性胃腸炎を疑い、標準予防策と正しい吐物処理に切り替えます。制吐剤を使うかどうかの判断は医行為であり、介護職は行いません。

目次

介護施設で働いていると、食事中や食後、あるいは夜間の巡回中に、利用者が突然嘔吐する場面に必ず出会います。嘔吐は「よくあること」に見えて、対応を誤ると誤嚥性肺炎や窒息、感染症の集団発生、そして見逃してはならない重い病気のサインを取りこぼす入り口になります。高齢者は嘔吐反射や咳反射が弱く、吐いたものを自力で吐き出しきれずに気道へ流し込んでしまうことがあるため、初動の数十秒が命を左右します。

この記事は、施設で利用者が嘔吐したときに介護職が実際にとる初動を、時系列に沿って整理したものです。「まず体をどうするか」から始まり、吐物の観察でつかむ危険サイン、感染性胃腸炎を疑う嘔吐の見極めと吐物処理、看護師や救急への連絡判断、そして記録・報告と、制吐剤など医行為の線引きまでを一気通貫でまとめました。発熱時の初動をまとめた「施設で利用者が発熱したときの対応」と同じシリーズとして、現場で判断に迷わないための実務ガイドとして使えます。

嘔吐を発見したときの初動フロー|最初の3ステップ

嘔吐を発見したら、頭の中で手順を組み立てる前に体が動くよう、優先順位を固定しておきます。順番は「①誤嚥・窒息を防ぐ体位」「②口腔内の吐物除去」「③応援要請と周囲の安全確保」「④観察」「⑤処理と報告」です。以下、最初の3ステップを詳しく見ていきます。

ステップ1|まず顔を横に向け、側臥位にする

仰向けのまま嘔吐すると、吐物が重力で気道に流れ込み、窒息や誤嚥性肺炎を起こします。最初にやることは、利用者の顔を横に向け、体ごと横向き(側臥位)にすることです。座位で食事中なら、上体を前かがみにして口が下を向くようにし、吐物が自然に外へ出る向きをつくります。ベッド上なら体を横向きにし、下あごをやや前に出すと気道が保たれます。

意識がもうろうとしている、または反応が鈍いのに呼吸はある場合は、救急蘇生法でいう「回復体位」をとります。厚生労働省『救急蘇生法の指針』でも、意識障害があり自発呼吸がある傷病者に対し、吐物などによる窒息を防ぐ目的で横向きの姿勢をとらせるとされています。無理に起こしたり、水を飲ませたりはしません。

ステップ2|口の中の吐物をかき出す

口腔内に吐物が残っていると、次の呼吸で吸い込んでしまいます。手袋を着けた指やガーゼで、見える範囲の吐物をかき出します。義歯があれば外します。喉の奥に指を深く入れると嘔吐反射をさらに誘発するため、あくまで見える範囲にとどめます。吸引が必要なほど詰まっている場合は、喀痰吸引の研修を修了した職員または看護師が対応します。

ステップ3|応援を呼び、周囲の安全を確保する

一人で抱え込まず、大声で応援を呼びます。役割は「利用者に付く職員」と「周囲の利用者を離れた場所へ移す職員」に分けます。嘔吐物は広範囲に飛散し、感染性胃腸炎であれば近くにいる人が浮遊するウイルスを吸い込んで容易に感染します。周囲の利用者を3メートル以上離すこと、窓を開けて換気することを、処理より先に始めます。ここまでを落ち着いて連鎖させることが、その後のすべての判断の土台になります。

吐物の観察|色・におい・量でつかむ危険サイン

体位を確保して落ち着いたら、吐物を「捨てる前に観察する」ことを習慣にします。吐物は利用者の体内で何が起きているかを教えてくれる貴重な情報で、色・におい・量・混ざり物を看護師に正確に伝えられるかどうかが、その後の医療判断のスピードを決めます。処理してしまうと二度と確認できないため、写真を撮る、または量や色をメモしてから片づけます。

色でわかる危険サイン

  • コーヒー残渣様(黒褐色でザラザラ):胃酸で変色した古い血液です。上部消化管(胃・十二指腸)からの出血を示すサインで、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・急性胃炎などが疑われます。MSDマニュアルでも、コーヒー残渣様の吐物は上部消化管出血のうち緩徐なものやすでに止血したものに起因すると解説されています。看護師へ即報告します。
  • 鮮やかな赤(鮮血):出血して間もない、あるいは勢いのある出血の可能性があります。量が多い、勢いよく吐くといった場合は緊急性が高く、救急要請を含めて検討します。
  • 緑色・黄色(胆汁様):胆汁が混じった状態で、腸閉塞(イレウス)など消化管が詰まっているときに見られることがあります。腹部の張りや強い腹痛を伴う場合は要注意です。
  • 便のようなにおいの吐物:腸の内容物が逆流している可能性があり、腸閉塞を強く疑います。ただちに看護師・医師へ連絡します。

量・回数・タイミングも記録する

一度きりの少量か、何度も繰り返しているかで緊急度は大きく変わります。繰り返す嘔吐は脱水を招き、高齢者は容易に全身状態が悪化します。「いつ・何回・どのくらいの量を・何をきっかけに(咳きこんだ後か、食後か、突然か)」を押さえておきます。食事と無関係に突然噴き出すように吐く場合は、脳の病気(脳出血・くも膜下出血など)による嘔吐も念頭に置き、頭痛・意識・手足の動き・ろれつを合わせて観察します。

危険サイン早見表|様子見せず報告・連絡する基準

現場で迷ったときに一目で判断できるよう、吐物の色ときっかけ、そして「すぐ看護師・救急」に該当する併発症状を早見表にまとめました。1つでも右列に当てはまれば、様子見ではなく報告・連絡へ動きます。

観察項目比較的落ち着いて対応すぐ看護師・受診/救急を検討
吐物の色食べたものの色・透明〜白っぽいコーヒー残渣様・鮮血・便臭・緑色(胆汁様)
回数1回で治まった短時間に繰り返す・止まらない
意識清明で受け答えができるもうろう・呼びかけへの反応が鈍い・けいれん
腹部張りや痛みがない強い腹痛・お腹がパンパンに張る
頭部症状なし激しい頭痛・ろれつが回らない・手足の麻痺
呼吸普段どおりゼーゼー・むせ込みが続く・顔色が悪い/唇が紫
発熱・脱水なし、水分がとれる高熱・尿が出ない・ぐったり・口の中が乾く

特に「意識の変化」「激しい頭痛」「強い腹痛」「呼吸の異常」を伴う嘔吐は、単なる胃腸の不調ではなく脳・心臓・腹部の重い病気が隠れていることがあります。これらは介護職が原因を判断する必要はなく、判断は医療職に委ねるという線引きが大切です。介護職の役割は、この早見表の右列を早く見つけて、正確に伝えることです。

ノロ等の感染性胃腸炎を疑う嘔吐の見極め

嘔吐対応でもう一つ外せないのが、「これは感染性胃腸炎ではないか」という視点です。ノロウイルスに代表される感染性胃腸炎は、施設内で一気に広がり集団感染を起こします。以下のような特徴があれば、標準予防策を徹底し、吐物処理を感染対応モードに切り替えます。

感染を疑う嘔吐の特徴

  • 突然、勢いよく吐く:ノロウイルスは前ぶれなく噴き出すような嘔吐が典型です。
  • 同じ時期に複数の利用者・職員が嘔吐や下痢:ユニットやフロアで嘔吐・下痢が続けて出たら集団感染を強く疑います。
  • 下痢・腹痛・微熱を伴う:ノロウイルスの潜伏期間は通常24〜48時間で、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・微熱が1〜2日続きます。健康な人は1〜2日で回復しますが、高齢者は重症化しやすい点に注意します。
  • 冬季(特に11〜2月ごろ):流行期は感染性胃腸炎の可能性が高まります。

「感染かどうか」を決めつけない

感染性か非感染性かを最終的に判断するのは医療職です。介護職は「感染の可能性がある」と考えて安全側に倒す、つまり最初から標準予防策(すべての人の血液・体液・排泄物・吐物を感染の危険があるものとして扱う考え方)で対応するのが原則です。感染性胃腸炎の原因ウイルスにはノロのほかロタ、アデノなどがあり、いずれも吐物や便に含まれます。厚生労働省『介護現場における感染対策の手引き』でも、嘔吐物・排泄物は感染性胃腸炎を想定して速やかに、かつ入念に処理することが求められています。

アルコール消毒だけで安心しない

ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくく、少量のウイルス(10〜100個程度)でも感染するといわれます。手指のアルコール消毒だけでは不十分で、流水と石けんによる手洗いと、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒を組み合わせる必要があります。この違いを知っているかどうかが、二次感染を止められるかどうかの分かれ目になります。

標準予防策と吐物処理の手順|ノロを広げないために

吐物処理は「自分が感染しないこと」「汚染を広げないこと」「消毒を確実に行うこと」の3原則で動きます。厚生労働省『介護現場における感染対策の手引き』の手順に沿って、実務の流れを示します。可能なら処理者と補助者の2人1組で役割分担します。

手順1|換気・避難・準備

  • 窓を開けて換気します。処理を行う職員以外は近づかないようにします。
  • 近くの利用者を別室へ移動させます。嘔吐があった場合、周囲2メートルくらいは汚染していると考えます。
  • 「ノロセット(吐物処理セット)」を汚染から離れた清潔な場所に用意します。中身はマスク、使い捨てエプロン(長袖ガウン)、使い捨て手袋、ペーパータオル、ビニール袋、次亜塩素酸ナトリウム液など。保管場所を職員間で共有しておきます。

手順2|個人防護具(PPE)を着ける

手指衛生のあと、使い捨てエプロン(長袖ガウン)→サージカルマスク→使い捨て手袋の順に着けます。ノロウイルスは飛沫や塵埃を吸い込んで感染することがあるため、マスクは必ず着用します。可能ならゴーグルと靴カバーも着けます。髪は束ね、指輪や腕時計は外します。

手順3|吐物を覆い、外側から内側へ拭き取る

  • 濡れたペーパータオルや布で吐物を覆い、拡散を防ぎます。消毒液をスプレーで噴霧してはいけません。噴霧するとかえって病原体が舞い上がり、感染機会を増やします。
  • 吐物を外側から内側に向けて静かに拭き取り、一度拭いたペーパータオルはすぐ捨てます。汚染を広げないよう一方通行で拭きます。
  • 先に吐物(有機物)を取り除きます。有機物が残っていると次亜塩素酸ナトリウムの効果が落ちるためです。

手順4|次亜塩素酸ナトリウムで消毒する

吐物・排泄物で高濃度に汚染された床は0.1%(1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で清拭します。日常の環境消毒(ドアノブ・手すりなど)はより薄い0.02%(200ppm)が目安です。手引きでは、嘔吐物・排泄物を拭き取った後に0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭し、金属部は腐食を避けるため一定時間おいてから水拭きするとされています。消毒範囲は吐物の中心から半径約2メートルを目安にします。

手順5|PPEを正しく外し、手を洗う

手袋→エプロン→マスクの順に、汚染面に触れないよう外してビニール袋に入れ、密閉して廃棄します。最後に流水と石けんでていねいに手を洗います。処理後も十分に換気を続けます。汚染された衣類やリネンは、周囲を汚染しないよう丸めてビニール袋に入れ、次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%)に10分ほど浸すか、85℃以上・90秒以上の熱水消毒をします。

看護師に報告するか、救急を呼ぶか|連絡判断の3段階

嘔吐対応で介護職が最も迷うのが「これは看護師に相談するレベルか、救急車を呼ぶレベルか、しばらく様子を見てよいのか」という線引きです。判断のよりどころを3段階で整理します。原因の診断はしませんが、緊急度の見立てと連絡は介護職の重要な役割です。

ただちに救急要請(119番)を検討する

  • 呼びかけに反応しない、意識がもうろうとしている、けいれんしている
  • 嘔吐とともに激しい頭痛、ろれつが回らない、手足の麻痺がある(脳卒中の疑い)
  • 顔色が悪く唇が紫色、呼吸が苦しそう、むせ込みが止まらない(誤嚥・窒息の疑い)
  • 大量の吐血・鮮血の嘔吐、冷や汗をかいてぐったりしている(大量出血・ショックの疑い)

夜間などで看護師が不在の場合は、施設の緊急時対応マニュアルとオンコール体制に従い、迷ったら救急要請を優先します。119番通報時は、いつから・何回吐いたか、吐物の色、意識・呼吸の状態、既往歴と服薬を伝えられるようにします。

すぐ看護師に報告し、受診を相談する

  • コーヒー残渣様・緑色(胆汁様)・便臭のある吐物
  • 嘔吐を繰り返す、止まらない、水分もとれない(脱水の進行)
  • 強い腹痛やお腹の張りを伴う
  • 発熱を伴う、複数名が嘔吐・下痢している(感染症の疑い)

経過観察しながら記録・共有する

1回で治まり、意識も呼吸も安定し、水分がとれ、危険サインがない場合は、水分を少量ずつ補いながら経過を観察します。ただし「様子を見る」=放置ではありません。再度の嘔吐、顔色、尿量、活気の変化を継続して見て、悪化があれば上の段階へ引き上げます。観察したことは必ず記録し、次の勤務者へ申し送ります。

制吐剤は判断しない|嘔吐対応での医行為の線引き

嘔吐対応では、介護職が「やってよいこと」と「医療職に委ねること」の境界を正しく理解しておく必要があります。ここを曖昧にすると、よかれと思った対応が事故や責任問題につながります。

介護職が判断・実施してはいけないこと

  • 制吐剤(吐き気止め)を使うかどうかの判断・服用させる判断:薬を使うべきかどうかの医学的判断は医行為です。介護職が独断で市販の吐き気止めを飲ませてはいけません。前述の競合情報でも「市販の吐き気止めを飲ませない」ことが繰り返し注意されています。
  • 原因の診断:ノロか、脳の病気か、胃潰瘍かといった原因の判断は医師の領域です。
  • 吸引が必要な深さの喀痰・吐物の吸引:喀痰吸引は原則医行為で、実施できるのは研修修了者や看護師など、定められた者に限られます。

介護職ができること(条件つきを含む)

  • 誤嚥・窒息を防ぐ体位の確保、口腔内の見える範囲の吐物除去、応援要請、周囲の避難と換気、吐物処理、観察と記録・報告
  • 服薬の介助:厚生労働省の通知では、容態が安定し連続的な経過観察が不要であるなどの条件を医師・看護職員が確認したうえで、あらかじめ薬袋で利用者ごとに区分され医師の処方・薬剤師の服薬指導を受けた、一包化された内服薬などの服用を介助することは、原則として医行為でないとされています。ただしこれは「決められた薬を飲むのを手伝う」ことであり、「吐き気があるから薬を出す・やめる」という判断とはまったく別物です。

迷ったときの原則はシンプルです。判断が必要な場面は看護師・医師へ、介護職は観察と初動と正確な報告に徹する。この線引きを守ることが、利用者の安全と自分自身を守ることにつながります。

嘔吐後の経過観察|誤嚥性肺炎と脱水を見逃さない

嘔吐は「吐いて終わり」ではありません。むしろ吐いた後の数時間から数日が、誤嚥性肺炎と脱水という二つの合併症を見逃さないための大事な観察期間になります。初動が適切でも、その後の見守りが甘いと状態が静かに悪化します。

誤嚥性肺炎を疑う「後から出るサイン」

嘔吐時に少量の吐物を気道に吸い込んでいると、その場では大きな異変がなくても、数時間から翌日にかけて発熱、痰がらみの咳、呼吸が浅く速い、SpO2の低下、元気がない、食欲がないといった形で現れます。高齢者は典型的な症状が出にくく、「なんとなく元気がない」「食が進まない」だけのこともあります。嘔吐後は呼吸の様子と体温、活気を意識して観察し、変化があれば看護師へ報告します。誤嚥のリスクが高い利用者では、嘔吐後の口腔ケアで口の中を清潔に保つことも肺炎予防につながります。

脱水を見逃さない

嘔吐や下痢が続くと、体から水分と電解質が失われ、高齢者は短時間で脱水に傾きます。脱水のサインは、口の中や舌の乾き、皮膚のはりの低下、尿の量が減る・色が濃くなる、ぼんやりする・反応が鈍い、脈が速いなどです。感染性胃腸炎が疑われる場合でも、水分補給は重要で、少量ずつこまめに補います。ただし飲めない、飲むとすぐ吐く、ぐったりしているといった場合は、点滴などの医療的対応が必要になることがあるため、看護師・医師に相談します。

「いつもと違う」を言語化して共有する

ふだんの様子を最もよく知っているのは、日々ケアしている介護職です。その利用者の平常時と比べて何がどう違うのかを言葉にして記録・共有することが、医療職の判断材料として何より役立ちます。嘔吐後は経過観察の項目を申し送りに明記し、次の勤務者が同じ視点で見守れるようにしておきましょう。

記録と報告|捨てる前に観察し、結論から伝える

初動が終わったら、対応を記録に残して多職種で共有します。記録は事故防止のためだけでなく、医師の診断を助け、家族への説明の根拠にもなります。あとから「あのとき何色だった?」と聞かれて答えられるよう、その場でメモする習慣をつけます。

記録に残す項目

  • 発生時刻ときっかけ:いつ、何をしていたとき(食事中・食後・巡回中など)に嘔吐したか。
  • 吐物の性状:色、におい、量、混ざり物(血・未消化物など)。可能なら写真を撮る。
  • 回数と経過:何回吐いたか、間隔、その後治まったか繰り返したか。
  • 随伴症状:意識、呼吸、顔色、腹痛、発熱、下痢、頭痛、麻痺の有無。
  • バイタルサイン:体温、脈拍、血圧、SpO2(測定した範囲で)。
  • 実施した対応と報告先:体位・口腔内除去・処理の内容、誰にいつ報告したか。

報告と申し送りのコツ

報告は結論から伝えます。「○号室の△△さんが○時に嘔吐、吐物がコーヒー残渣様で、看護師に報告済み」のように、危険サインの有無を最初に言うと受け手が動きやすくなります。感染が疑われる場合は、他の利用者の健康観察を強化し、嘔吐・下痢の発生状況を継続して把握することも申し送りに含めます。日ごろから吐物処理セットの場所と手順を全職員で共有し、実践的な訓練をしておくと、いざというときに初動が乱れません。

よくある質問(FAQ)

Q. 嘔吐した利用者に、すぐ水を飲ませてよいですか?

A. 吐いた直後に急いで飲ませると、再び嘔吐したり誤嚥したりする恐れがあります。まず落ち着かせ、口をゆすぐ程度から始め、吐き気が治まってから少量ずつ水分を補います。ただし意識がもうろうとしている、繰り返し吐いている場合は無理に飲ませず、看護師の指示を仰ぎます。

Q. 顔を横に向けるのはなぜですか?仰向けではだめですか?

A. 仰向けのまま嘔吐すると、吐物が気道に流れ込んで窒息や誤嚥性肺炎を起こす危険があります。顔を横に向け側臥位にすることで、吐物が自然に外へ流れ出て気道が守られます。意識がなく呼吸がある場合は回復体位をとります。

Q. 吐き気止めの薬が居室にあれば、飲ませてよいですか?

A. いいえ。薬を使うかどうかの判断は医行為であり、介護職が独断で行ってはいけません。医師の処方に基づき、あらかじめ利用者ごとに区分された薬の服用を、条件を満たしたうえで介助することはできますが、「吐き気があるから薬を出す」という判断は看護師・医師に委ねます。

Q. 嘔吐物の消毒はアルコールでよいですか?

A. ノロウイルスなどはアルコールが効きにくいため、環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使います。吐物・排泄物で汚れた床は0.1%(1000ppm)、日常の環境消毒は0.02%(200ppm)が目安です。手洗いは流水と石けんで行います。

Q. 夜勤で看護師がいないとき、誰に相談すればよいですか?

A. 施設の緊急時対応マニュアルとオンコール体制に従います。意識障害・激しい頭痛・大量の吐血・呼吸困難など緊急性が高い症状があれば、迷わず救急要請を優先します。判断に迷う状態こそ、オンコールの看護師や医師へ連絡します。

参考文献・出典

まとめ|嘔吐対応は初動・観察・報告で決まる

施設で利用者が嘔吐したときの対応は、「誤嚥・窒息を防ぐ体位」から始まり、「吐物の観察で危険サインを拾う」「感染を疑って標準予防策と正しい吐物処理に切り替える」「緊急度を見立てて看護師・救急へつなぐ」「記録して共有する」という流れで一本につながっています。原因を診断するのは医療職ですが、その医療判断を早く正確にするための初動と観察と報告は、そばにいる介護職にしかできません。

特に、コーヒー残渣様や鮮血の吐物、意識・呼吸・頭痛・強い腹痛を伴う嘔吐は、見逃してはならないサインです。そして制吐剤を使うかどうかは介護職が判断しない、という線引きを守ることが、利用者と自分を守ります。日ごろから吐物処理セットの場所と手順、緊急時の連絡体制を全職員で共有し、いざというときに迷わず動けるようにしておきましょう。発熱・急変・誤嚥など、施設での症状別の初動対応をひととおり身につけておくことが、現場で信頼される介護職への近道です。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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