
養護老人ホームとは
養護老人ホームは老人福祉法第20条の4に基づく措置施設。経済的・環境的理由で在宅生活が困難な65歳以上の自立高齢者を、市町村長の措置で入所させる仕組みと費用負担を解説します。
この記事のポイント
養護老人ホームは、老人福祉法第20条の4を根拠とする措置施設で、環境上の理由および経済的理由により居宅で生活することが困難な65歳以上の高齢者を、市町村長の措置によって入所させる施設です。原則として身体的に自立した高齢者が対象で、特養(介護施設)とは目的・対象者・入所手続きが大きく異なります。
目次
老人福祉法第20条の4が定める養護施設
養護老人ホームは、老人福祉法第20条の4に「環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な65歳以上の者を入所させ、養護するとともに、その者が自立した日常生活を営み、社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設」と定義されています。1963年(昭和38年)の老人福祉法制定当初から続く養護施設であり、戦後の生活保護法に基づく養老施設を前身としています。
名称が似ている特別養護老人ホーム(特養)とは法的位置づけがまったく異なります。特養は介護保険法に基づく介護保険施設で、要介護3以上の高齢者へ身体介護を提供することが目的です。一方、養護老人ホームは介護施設ではなく福祉施設であり、自立した高齢者の生活基盤を整え、社会復帰を支援することを主目的としています。
原則として介護サービスは提供されない
養護老人ホームでは、食事・健康管理・生活相談・機能訓練など日常生活上の援助は提供されますが、原則として介護サービスは含まれません。入所者が要介護状態になった場合は、外部の居宅介護サービスを利用するか、施設が「特定施設入居者生活介護」(外部サービス利用型を含む)の指定を受けている場合は、施設内で介護保険サービスを受けることが可能です。2006年の制度改正で特定施設指定が認められて以降、要介護化した入所者の継続入所を支える仕組みが整備されました。
入所定員は減少傾向
厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、養護老人ホームの施設数は全国で約950施設、定員は約6.2万人です。特養(約58万人)と比べて規模は小さく、新設は限定的で、措置控えと呼ばれる自治体予算上の制約により、必要な高齢者が入所できないケースも指摘されています。
特養・軽費老人ホームとの違い
「老人ホーム」と名のつく施設は複数あり、混同されがちです。養護老人ホームは自立した高齢者が対象である点が他施設との最大の違いです。下表で目的・対象・費用・契約形態を整理します。
| 項目 | 養護老人ホーム | 特別養護老人ホーム(特養) | 軽費老人ホーム(ケアハウス) |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 老人福祉法第20条の4 | 老人福祉法第20条の5・介護保険法 | 老人福祉法第20条の6 |
| 主目的 | 環境改善・社会復帰支援 | 要介護高齢者への介護提供 | 低額で生活支援を提供 |
| 対象者 | 原則自立、65歳以上、経済的・環境的困難 | 原則要介護3以上、65歳以上 | 自立〜軽度介護、原則60歳以上 |
| 入所手続き | 市町村長の措置(行政処分) | 本人と施設の契約 | 本人と施設の契約 |
| 月額費用 | 0〜14万円(前年所得に応じ39段階) | 約8〜14万円(介護保険適用) | 約7〜13万円(収入に応じ補助) |
| 介護サービス | 原則なし(特定施設指定で対応可) | 包括的に提供 | 外部サービス利用が基本 |
最大の違いは「契約か措置か」です。特養や軽費老人ホームは利用者と施設が直接契約を結ぶのに対し、養護老人ホームは市町村が入所の必要性を行政判断する措置制度で、利用者の意思だけでは入所できません。一方で、本人や家族に契約能力がない場合(認知症・身寄りなし・経済的困窮など)でも、市町村の判断で入所できるという行政によるセーフティネット機能を担っています。
措置入所の判定プロセス
養護老人ホームへの入所は、市町村の措置として実施されます。本人申請・契約ではなく、市町村が職権で入所決定を行う行政処分であり、判定までの流れは次の通りです。
- 相談・申し込み:本人・家族・民生委員・地域包括支援センター等が、市町村の高齢福祉担当窓口に相談します。生活困窮や虐待発見など、関係機関からの通報・連絡で着手することもあります。
- 調査:市町村職員またはケースワーカーが本人宅を訪問し、心身の状況・住環境・家族関係・経済状況・所得・年金等を調査します。診断書や健康診査結果も確認されます。
- 入所判定委員会:医師・社会福祉士・施設長・行政担当者等で構成される入所判定委員会が、調査結果をもとに「環境上の理由」「経済的理由」のどちらか(または両方)に該当するか、自立した生活が可能かを審査します。
- 市町村長の決定:判定委員会の答申を受け、市町村長が入所の可否と入所先施設を決定。本人・家族に書面で通知します。
- 入所:市町村と施設の間で入所委託契約が結ばれ、入所手続き開始。費用は市町村が施設へ措置費として支払い、本人は所得に応じた費用徴収額を市町村へ納入します。
「環境上の理由」とは家族関係不和・虐待・住居喪失・身寄りなしなどを、「経済的理由」とは生活保護受給・低年金・無収入などを指します。両者は重複することも多く、ホームレス状態の高齢者・家族からの虐待被害者・退院後に行き場を失った高齢者などが典型的な対象です。
現場で押さえるべきポイント
- 費用は所得連動の39段階:本人および扶養義務者の前年度収入に応じ、月額0〜約14万円の39段階で費用徴収額が決まります。年収27万円以下なら自己負担なし。生活保護受給者の場合も費用は実質的に発生しません。
- 特定施設指定の有無を確認:施設が特定施設入居者生活介護の指定を受けていれば、入所後に要介護化しても施設内で介護サービスを継続して受けられます。指定の有無で長期入所の安心感が大きく変わります。
- 「措置控え」の地域差に注意:自治体予算の制約から、必要な高齢者に対して措置入所決定が出されない「措置控え」が発生している地域もあります。措置入所の希望が通らない場合は地域包括支援センター等で相談を続けることが重要です。
- 職員の専門性:養護老人ホームの職員配置基準は、生活相談員・支援員・看護職員・栄養士・調理員などが定められています。特養と異なり介護職員の配置義務はありませんが、特定施設指定の場合は別途配置基準が適用されます。
- 退所・移行時の支援:本人の状態が改善し自立生活が可能になれば退所支援を、要介護状態が進めば特養や有料老人ホームへの移行支援を行うのも養護老人ホームの重要な役割です。
よくある質問
- Q. 養護老人ホームと特養はどう違う?
- A. 養護老人ホームは老人福祉法第20条の4を根拠とする措置施設で、原則自立した65歳以上の経済的・環境的困窮者が対象。特養は介護保険施設で、要介護3以上の高齢者へ介護を提供する契約施設です。入所手続き(措置 vs 契約)も対象者像も大きく異なります。
- Q. 自分で申し込めますか?
- A. 養護老人ホームは市町村の措置で入所が決まる行政処分のため、本人申請による契約入所はできません。市町村の高齢福祉担当窓口に相談し、調査・判定を経て市町村長が入所決定を行う流れです。地域包括支援センターや民生委員からも相談できます。
- Q. 要介護になったら退所しなければなりませんか?
- A. 必ずしも退所ではありません。施設が特定施設入居者生活介護の指定を受けていれば、入所したまま介護保険サービスを受けられます。指定がない場合でも、外部の訪問介護等を組み合わせて継続入所することは可能ですが、状態が著しく重度化した場合は特養等への移行が検討されます。
- Q. 費用はどれくらいかかりますか?
- A. 本人および扶養義務者の前年度所得に応じて月額0〜約14万円の39段階で費用徴収額が決まります。低所得者は無料、生活保護受給者は措置費から支弁されるため実質負担ゼロです。入所一時金や敷金はありません。
- Q. 生活保護受給者でも入所できますか?
- A. はい、生活保護受給は経済的理由として該当します。むしろ生活保護受給者で居宅生活が困難な場合、養護老人ホーム措置入所は重要な選択肢です。福祉事務所のケースワーカーから市町村高齢福祉担当へ繋ぐ流れになります。
参考資料
- 老人福祉法(昭和38年法律第133号) — e-Gov法令検索(第20条の4が養護老人ホームの根拠規定)
- 養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(昭和41年厚生省令第19号) — 厚生労働省(職員配置・設備・運営の最低基準)
- 介護保険3施設の概要(特養・老健・介護療養型) — 厚生労働省(施設類型と養護老人ホームの位置関係)
- 養護老人ホームへの入所措置事務マニュアル — 奈良県(市町村による措置事務の判断基準と手続き)
- 養護老人ホームの現状と課題 — 公益社団法人全国老人福祉施設協議会・厚生労働省提出資料
まとめ
養護老人ホームは老人福祉法第20条の4に基づく措置施設で、経済的・環境的理由により居宅生活が困難な65歳以上の自立した高齢者を、市町村長の措置によって入所させるセーフティネット施設です。介護施設である特養とは目的・対象者・入所手続きがまったく異なり、原則として介護サービスは提供されない点が大きな特徴です。要介護化した入所者は特定施設入居者生活介護の指定により施設内で介護を受けられる仕組みも整備されており、自立から要介護への移行期を支える重要な役割を担っています。介護現場で働く方にとっては、経済的困窮や虐待・身寄りなしといった社会的課題を抱える高齢者を支える専門領域として、改めて押さえておきたい施設類型です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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