
日本看護協会、看護職のさらなる賃上げを主張|秋山会長「全産業との格差いまだ大きい」
日本看護協会は2026年4月16日の記者会見で、秋山智弥会長が医療・介護の看護職のさらなる賃上げを訴えた。全産業平均との賃金格差は依然として大きいと指摘し、ベースアップや夜勤手当の引上げを要望。2026年6月の介護報酬臨時改定と2027年度改定議論への影響を整理する。
要点まとめ
日本看護協会は2026年4月16日に記者会見を開き、秋山智弥会長が医療・介護分野の看護職のさらなる賃上げを訴えました。2026年度診療報酬改定(+3.09%)を一定評価しつつも、「全産業平均と医療・介護分野の賃金格差はいまだ大きい」と指摘。夜勤手当が2010年頃からほぼ据え置きである点や、30〜40代で他産業との賃金差が広がる点を挙げ、他産業への人材流出に強い危機感を示しました。2026年6月に訪問看護・居宅介護支援へ処遇改善加算が拡大される一方、看護職全体の処遇底上げは依然として課題で、2027年度の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた議論にも大きく影響しそうです。
目次
はじめに
世間一般で大幅な賃上げが続くなか、医療・介護の現場で働く看護職の処遇は十分に改善しているのでしょうか。日本看護協会は2026年4月16日、東京都内で記者会見を開き、秋山智弥会長が2026年度診療報酬改定を振り返るとともに、看護職のさらなる賃上げの必要性を強く訴えました。
会見のなかで秋山会長は、全産業の賃上げの流れに対して医療・介護分野が後れを取っていること、夜勤手当が長年ほとんど上がっていないこと、年齢を重ねるほど他産業との賃金差が広がることなどを指摘。看護職が専門職として生涯働き続けられる賃金水準をめざし、国への働きかけを続ける姿勢を示しました。
本記事では、会見での発言内容、看護職と全産業の賃金格差の現状、2026年6月施行の介護報酬臨時改定(訪問看護への処遇改善加算拡大)との関係、そして2027年度の診療報酬・介護報酬同時改定議論への波及までを整理します。医療・介護で働く看護職はもちろん、これから転職を考えている方にとっても、処遇の動向を読み解く手がかりになるはずです。
秋山会長が会見で語った主な発言内容
日本看護協会は2026年4月16日、東京都内で記者会見を開催しました。秋山智弥会長は冒頭、2026年度診療報酬改定が+3.09%のプラス改定となったことについて、一定の賃上げ原資を確保した政府の姿勢を評価しました。一方で、看護職を取り巻く環境は依然として厳しいとの認識を示し、次のような問題意識を繰り返し強調しています。
「世間一般の賃上げに比べ、医療・介護は後れを取っている」
秋山会長はまず、「世間一般の賃上げの潮流に比べて、医療・介護分野が後れを取っている」と問題を提起。春闘で大企業を中心に大幅な賃上げが広がるなか、医療・介護分野の賃金改定率は全産業平均に追いついていない、との現状認識を示しました。
そのうえで、全産業と医療・介護分野との賃金格差を埋めるためには、ベースアップ評価料による一時的な上乗せだけでなく、基本給そのものを底上げする恒常的な仕組みが不可欠であると主張。プラス改定の評価と並行して、今後も国に粘り強く働きかけを続ける考えを示しました。
年齢が上がるほど開く全産業との賃金格差
会見では、看護職固有の課題として「30代、40代と年齢が上がるにつれて全産業平均との賃金格差が開く傾向にある」点も取り上げられました。若手時点では比較的差が小さい一方、中堅からベテランにかけて他産業との差が拡大することで、キャリアの途中で離職・転職を選ぶ要因になりかねない、との問題意識です。
秋山会長は、看護職が管理職や専門看護師、認定看護師などの道を歩んでも、キャリアと責任に見合う処遇が得られていないケースが多いと指摘。看護管理者やスペシャリストの評価体系を含めて、賃金モデル全体の見直しが必要だと訴えました。
2010年頃からほとんど上がらない夜勤手当
もう一つ強調されたのが、夜勤手当の水準です。会長は「夜勤手当は2010年頃からほとんど上がっていない」と指摘し、長時間・交代制勤務の負担に対する対価が十分でない現状に危機感を示しました。
日本看護協会はかねて、夜勤手当額が10年以上ほとんど据え置かれてきたことを問題視しており、2026年度診療報酬改定ではベースアップ評価料を夜勤手当の増額にも充当できるよう要望。会見でも、夜勤負担の軽減に向けた財政支援の継続を政府に求める考えを改めて示しました。
「他産業への人材流出の懸念は高まる一方」
秋山会長は、「他産業への人材流出の懸念は高まる一方だ」と述べ、看護職の離職増加への警戒感をあらわにしました。医療・介護現場の人員不足が深刻化する一方で、より賃金水準の高い他産業への転職が進めば、病院・訪問看護・介護施設いずれの現場にも大きな影響が及びかねません。
そのうえで、「看護職が専門職として生涯にわたって働き続けられる賃金水準の確保」を目標に掲げ、「看護職がキャリア、職務の責任に見合う十分な処遇が得られるよう、これからも粘り強く国に働きかけていく」と決意を示しました。
看護職と全産業の賃金格差の現状
秋山会長が会見で繰り返し言及した「全産業との格差」は、各種統計でも裏付けられています。ここでは、看護職を含む医療・介護分野の賃金水準が、どの程度全産業平均との差を抱えているのかを整理します。
全産業と医療・介護の賃金改定率の差
日本看護協会が公表している要望書などによると、2025年の全産業の賃金改定率は5%台に達した一方、医療・介護分野はこれを大きく下回る水準にとどまっています。人事院や民間調査でも、医療・福祉分野の賃上げ率は全産業平均に追いつけていない傾向が続いており、格差が固定化しつつあるのが現状です。
こうした状況を受け、日本看護協会は厚生労働大臣や老健局長への要望書のなかで、看護職員の処遇改善を継続的に進めるよう要請。2026年度介護報酬改定にあたっては、介護職員等処遇改善加算の対象を介護職員に限定せず、看護職員を含めて介護分野で働くすべての職員に拡大するよう求めてきました。
介護職と全産業の給与格差は月8.2万円
看護職と並んで、介護現場で働く職員の賃金格差も深刻です。厚生労働省が公表した最新データによると、介護職員の賞与込み給与は月31.4万円で、全産業平均39.6万円との差は月8.2万円。前年の8.3万円から0.1万円しか縮まっておらず、ほぼ横ばいの状況が続いています。
介護施設や高齢者施設では、介護職と看護職がチームで利用者のケアに当たっており、介護職の処遇改善が遅れれば、施設全体の人材確保に支障が生じかねません。看護職の処遇改善と介護職の処遇改善は表裏一体であり、どちらか一方だけを手当てしても、現場の人材流出を食い止めるのは難しいのが実情です。
看護職の年齢別賃金カーブの課題
秋山会長が指摘したとおり、看護職の賃金は年齢が上がるにつれて全産業平均との差が広がりやすい構造です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、30代・40代以降の一般労働者の賃金カーブに対し、看護職のカーブが相対的に緩やかであることが示されています。
この背景には、病棟勤務から外れた中堅・ベテラン層のキャリアパスが十分に整っていないこと、管理職や認定看護師・専門看護師などの役割への手当が限定的であることなどが挙げられます。日本看護協会は、複線型等級制度に基づく「看護職のキャリアと連動した賃金モデル」の普及を通じ、年齢とキャリアに応じた処遇改善を推進していく方針です。
夜勤手当と労働時間の負担
看護職、とりわけ病棟勤務の看護師にとって夜勤手当は大きな収入源であり、同時に心身への負担も大きい勤務形態です。日本看護協会の調査では、看護職の夜勤手当額は2010年代を通じてほぼ横ばいで推移しており、物価上昇や最低賃金の引上げに追いついていないとの指摘があります。
2026年度診療報酬改定では、ベースアップ評価料の増額と、夜勤手当への充当が可能となりました。ただし、これだけで他産業との格差を埋めるのは難しく、基本給の引上げや夜勤手当水準そのものの見直しを含む、より抜本的な対応が求められています。
2026年6月介護報酬臨時改定(訪問看護への処遇改善加算)との関係
今回の日本看護協会の主張は、同時期に施行される介護報酬の臨時改定とも密接に関わっています。2026年6月1日から、介護職員等処遇改善加算の対象範囲が拡大され、これまで対象外だった訪問看護・居宅介護支援などにも処遇改善加算が新設される予定です。
臨時改定の背景と概要
社会保障審議会介護給付費分科会は、2025年12月に「令和8年度(2026年度)介護報酬改定に関する審議報告」をまとめました。介護職員の賃金を他職種と比べて遜色のない水準に引き上げることを目的に、現行の介護職員等処遇改善加算について、対象サービスの拡大や生産性向上への取組みを上乗せ要件とする上位区分の新設などが示されています。
改定の施行時期は2026年6月とされ、2025年12月から2026年5月までの半年間は「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」として補助金によるつなぎ措置が講じられます。臨時改定は、本来の3年に1度の介護報酬改定とは別枠で、処遇改善に焦点を絞って前倒しで実施されるものです。
訪問看護・居宅介護支援への加算新設
臨時改定のポイントの一つが、介護職員の配置がないために現行では対象外とされてきた訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援(いずれも予防サービスを含む)を、処遇改善加算の評価対象サービスに追加することです。
新たに対象となるサービスについては、別建ての加算を新設。既存の処遇改善加算Ⅳに準じる形で、キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱや職場環境等要件の充足を算定要件に位置づける方針が示されています。これにより、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所でも、介護保険財源を通じた処遇改善の仕組みが使えるようになります。
医療保険の訪問看護との分断という課題
一方で、今回の加算拡大で対象となるのは、あくまで介護保険の訪問看護・介護予防訪問看護部分です。医療保険で算定する訪問看護や、病院・診療所が運営する訪問看護は直接の対象ではなく、同じ訪問看護ステーションでも利用者によって処遇改善加算の対象となる業務とならない業務が混在する複雑な構造になります。
日本看護協会は、医療保険・介護保険を問わず、訪問看護や病院・介護施設で働く看護職全体の処遇改善が必要だと訴えてきました。今回の会見で秋山会長が「医療・介護の看護職の更なる賃上げ」と包括的な表現を用いたのも、こうした分断された制度を横断して処遇を底上げしたい、との問題意識の表れといえます。
介護施設における看護職員の位置づけ
特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院などの介護施設でも、看護職員は医療的ケアや健康管理の担い手として欠かせない存在です。日本看護協会の調査によれば、これらの施設系サービスで看護職員以外への処遇改善加算を実施している事業所は半数超に達する一方、看護職員の基本給水準は他職種と比べても低位にあるとされます。
2026年6月の臨時改定では、施設系サービスでも処遇改善加算の上位区分が新設される予定です。加算の対象職員の範囲をどう運用するか、看護職員にも配分する仕組みをどう整備するかは、各法人・事業所レベルでの判断に委ねられる部分が大きく、現場の看護職にとっても注視すべきポイントとなります。
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2027年度診療報酬・介護報酬改定議論への波及
日本看護協会の今回の主張は、単に2026年度改定の評価にとどまらず、2027年度(令和9年度)に予定される診療報酬・介護報酬の同時改定議論に向けた布石でもあります。2027年度は、診療報酬改定と介護報酬改定がほぼ同時に議論される重要な年であり、医療・介護の報酬体系全体を見直す大きな節目となります。
同時改定に向けた議論の開始時期
2027年度の同時改定に向けては、2026年後半から中央社会保険医療協議会(中医協)や社会保障審議会介護給付費分科会などの場で、本格的な論点整理が始まる見通しです。処遇改善の在り方、地域包括ケアの深化、医療・介護連携の評価などが主要テーマとなる見込みで、看護職の処遇は中心的な論点の一つに位置づけられる可能性が高いでしょう。
秋山会長が今回の会見で、現時点から「粘り強く国に働きかけていく」と明言したのは、2027年度改定に向けた議論の起点を意識しての発言といえます。診療報酬改定の基本方針は、改定年の前年である2026年12月頃に厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会・医療部会で示されるため、日本看護協会としては夏から秋にかけて要望活動を強化する構えです。
ベースアップ評価料の恒久化と拡充
2024年度改定で新設されたベースアップ評価料は、2026年度改定で増額され、夜勤手当への充当も認められました。2027年度改定では、このベースアップ評価料を恒久的な仕組みとして維持・強化できるかが焦点になります。
日本看護協会は、ベースアップ評価料を一過性の措置にとどめず、毎年の物価上昇や賃上げ動向に連動して見直す仕組みを求める方針です。加えて、基本給そのものを引き上げる枠組みや、看護職員処遇改善評価料の拡充なども、改定議論のなかで取り上げるよう求めていくとみられます。
介護分野の看護職員処遇改善の課題
2027年度介護報酬改定では、2026年6月の臨時改定で先行する処遇改善加算の拡大を踏まえつつ、介護分野で働く看護職員の処遇改善をどこまで組み込むかが大きな論点となります。日本看護協会は、介護職員等処遇改善加算の対象職種から看護職員が実質的に外れている現状を問題視しており、介護分野の看護職員にも十分な処遇が行き渡る仕組みを求めています。
特別養護老人ホームや訪問看護ステーションなどで働く看護職員は、病院勤務の看護師と比較しても賃金水準が低い傾向にあるとされ、キャリアの選択肢として介護分野を選びにくい一因となってきました。同時改定を通じて、医療・介護いずれの現場でも看護職が安心して働き続けられる処遇体系を整えられるかが問われます。
看護職員確保と地域包括ケアへの影響
処遇改善は、看護職員確保の観点からも重要です。2025年以降、団塊の世代が後期高齢者となり、在宅医療・介護の需要はますます拡大していきます。訪問看護や介護施設で働く看護職員が十分に確保できなければ、地域包括ケアシステムの実現そのものが揺らぎかねません。
日本看護協会は、自律型看護人材の育成や未従事看護職の復職支援といった取組みと並行して、処遇改善を両輪で進める方針を示しています。2027年度改定を見据え、処遇・キャリア・働き方の三位一体改革をどこまで描けるかが、医療・介護の人材戦略の成否を分けるポイントとなるでしょう。
まとめ
2026年4月16日の日本看護協会会見で、秋山智弥会長は医療・介護の看護職のさらなる賃上げを強く訴えました。2026年度診療報酬改定のプラス改定を評価しつつも、「全産業平均と医療・介護分野の賃金格差はいまだ大きい」と指摘し、ベースアップや夜勤手当の引上げ、基本給の底上げを通じた恒常的な処遇改善の必要性を強調しています。
2026年6月に施行される介護報酬臨時改定では、訪問看護・居宅介護支援にも処遇改善加算が拡大され、在宅ケアを担う看護職の処遇改善に向けた一歩が踏み出されます。ただし、医療保険の訪問看護や病院勤務の看護師、介護施設の看護職員など、看護職全体に処遇改善が行き渡るまでには、2027年度の診療報酬・介護報酬同時改定を含めた継続的な議論が欠かせません。
看護職として働く方、これから看護の道でキャリアを築こうとしている方にとって、自分の賃金水準やキャリアパスが、全産業や他職種と比べてどのような位置にあるのかを把握することは、将来の働き方を考えるうえで大切な視点です。処遇の動向を定期的にチェックしながら、自分に合った職場や働き方を見直してみてはいかがでしょうか。
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