
認知症の食事の困りごと|食べない・食べ方がわからない・異食・盗食への家族の対応
認知症で食べない・食べ方がわからない・異食・盗食・むせが増えたとき、家族はどう対応すればよいか。脳の働きから理由を読み解き、病型ごとの違いと明日から試せる工夫、誤飲時の対応と相談先を公的資料に基づいて整理します。
この記事のポイント
認知症が進むと「食べない」「食べ方がわからない(失行)」「食べ物以外を口に入れる(異食)」「人の物を食べる(盗食)」「むせが増える(嚥下低下)」といった食事の困りごとが現れます。多くは脳の働きの変化が原因で、叱っても本人にはコントロールできません。無理強いはせず、原因を見極めて環境と声かけを整え、誤嚥・低栄養・誤飲のサインが出たら早めにケアマネジャー・かかりつけ医・管理栄養士・地域包括支援センターへ相談するのが基本です。
目次
毎日の食事は、ご本人の健康を支えるだけでなく、ご家族にとっても「一緒に過ごす大切な時間」です。それだけに、親が急に食べなくなったり、箸の使い方に戸惑ったり、食べ物でないものを口に入れようとしたりすると、「どうして?」「私の作り方が悪いの?」と不安や自責の気持ちでいっぱいになる方は少なくありません。
けれど、認知症による食事の困りごとの多くは、ご本人のわがままでも、ご家族の介護の失敗でもありません。脳のどの部分が変化したかによって、「食べ物だと認識できない」「食べる動作の手順がわからない」「満腹を感じにくい」といった、本人にもどうにもできない変化が起きているのです。
このページでは、認知症で起こりやすい5つの食事の困りごと――食べない/食べ方がわからない/異食/盗食/嚥下の低下――について、なぜ起こるのかを脳の働きから読み解き、ご家庭で明日から試せる工夫と、つい見逃しがちな危険のサイン、そして「ここに相談すれば一人で抱えなくていい」という窓口を、厚生労働省や国立長寿医療研究センターなどの公的資料に基づいて整理します。一つずつ、できるところから取り入れてみてください。
認知症の食事の困りごとはなぜ起こるのか
食事は「見て・わかって・運んで・噛んで・飲み込む」の連続作業
ふだん意識せずにしている食事は、実はいくつもの脳の働きが連携した複雑な作業です。目の前のものが食べ物だと認識し(認知)、箸やスプーンを正しく使い(行為の組み立て)、口まで運び、適切な量を噛んで、むせないよう飲み込む(嚥下)。この一連の流れのどこか一つでもつまずくと、食事はうまくいかなくなります。
認知症は、脳の障害によってこの流れの各段階に影響します。厚生労働省の認知機能低下に関するハンドブックでも、認知症になると「嚥下障害、失認や空間認知障害、食事時の姿勢や集中力の問題、嗜好変化、抑うつや薬剤の副作用など、多種の要因により、栄養状態が悪化することがある」と説明されています。つまり、食事の困りごとは一つの原因ではなく、複数の要因が重なって起きているのが普通なのです。
「失認」と「失行」――言葉だけ知っておくと対応が楽になる
食事の困りごとを理解するうえで、二つの言葉を知っておくと役に立ちます。
- 失認(しつにん):目は見えているのに、それが何かわからなくなること。厚労省ハンドブックの例では「目の前のコップが見えているのに、それが何かはわからない」状態を指します。食事では「お皿のごはんを食べ物として認識できない」形で現れます。
- 失行(しっこう):手足の麻痺はないのに、それまでできていた動作の手順がわからなくなること。箸やスプーンの使い方、口を開けるタイミングなどがわからなくなります。
どちらも「やる気がない」のでも「ふざけている」のでもなく、脳の変化による症状です。これを知っているだけで、「なぜ食べないの!」と責める気持ちが、「食べ物だとわからないのかもしれない」という見守りの視点に変わります。
困りごと①「食べない・食が進まない」
「食べない」の背景はひとつではない
「食事を出しても手をつけない」「数口で止めてしまう」――この「食べない」には、まったく違う複数の理由が隠れています。理由によって対応がまるで変わるため、まず「なぜ食べないのか」を観察することが出発点になります。
国立長寿医療研究センターの家族向け資料でも、認知症の経過では食欲低下・低栄養が入院の直接原因として多くみられ、「栄養状態を改善することが重要」と指摘されています。食べないことを軽く見ず、しかし焦らず原因を探ることが大切です。
考えられる主な理由
- 食べ物だと認識できない(失認):お皿の上のものが食べ物に見えていない可能性があります。一品ずつ「これはお味噌汁ですよ」と具体的に伝えると、口をつけることがあります。
- 体調や口のトラブル:便秘、発熱、だるさ、入れ歯が合わない、口内炎、虫歯などで食べるのがつらい場合があります。認知症の方は痛みを言葉で伝えにくいため、表情やしぐさから察することが必要です。
- うつ状態・意欲の低下(アパシー):気持ちが沈むと食欲は落ちます。高齢者のうつは認知症と見分けにくいことがあり、急な食欲低下が続くときは受診の目安になります。
- 薬の影響:薬の副作用で食欲が落ちたり、口が乾いたり、味覚が変わったりすることがあります。新しい薬を始めた直後の変化は主治医に伝えましょう。
- 被害的な思い込み(BPSD):「毒が入っている」と感じて食べないことがあります。否定せず、安心できる雰囲気をつくることがきっかけになります。
家庭で試せる工夫
- 無理強いはしない。強く促すほど食事が嫌な記憶になり、かえって拒否が強まります。これはすべての困りごとに共通する大原則です。
- 一口でも食べられたら「食べられたね」と認める。食べた量より「一緒に食事の時間を過ごせたこと」を評価する姿勢が、次の意欲につながります。
- 好きなもの・食べやすいものから。栄養バランスは二の次でかまいません。まず口に入ることを優先し、間食や好物を少量ずつ試します。
- 環境を静かに整える。テレビを消し、食卓に食事以外の物を置かないと、集中しやすくなります。
- 一緒に食べる。介護者が向かいで同じものを食べて見せると、「食べ物だ」と理解しやすく、まねて食べてくれることがあります。一人で食べる「孤食」は食欲や幸福感の低下と関連することが報告されています。
困りごと②「食べ方がわからない」(失行・失認)
「食べ方がわからない」は失行・失認のサイン
箸やスプーンを目の前にしても手が止まる、食べ物を口に運べない、口を開けるタイミングがわからない――こうした様子は、先ほど触れた失行・失認によるものです。厚生労働省のハンドブックでも、アルツハイマー型認知症では「箸の使い方や口を開けることもうまくできなくなることがある」と説明されています。
大切なのは、これを「拒否」と取り違えないことです。食べたい気持ちはあるのに、体の動かし方の手順がわからず固まっているだけ、というケースが少なくありません。叱ったり急かしたりすると、ご本人は混乱し、ますます動けなくなってしまいます。
家庭で試せる工夫
- 最初の数口を介助する。スプーンを手に添えて一緒に口まで運ぶ、最初のひとさじを口に入れて差し上げると、その後は自分で続けられることがあります。「きっかけ」を渡すイメージです。
- 食べる動作を見せる。向かいに座って自分が食べてみせると、まねて食べ始めることがあります(被影響性を生かした方法)。
- 道具をシンプルにする。持ちやすい太柄のスプーン、すくいやすい縁の立ったお皿、滑り止めマットなどの自助具で、動作のハードルを下げられます。
- 品数を減らし、一品ずつ出す。たくさんの器が並ぶと、どれをどう食べるか判断できず混乱します。一品ずつ順に出すと取り組みやすくなります。
- 声かけは短く具体的に。「お箸を持ちましょう」「ひと口どうぞ」と動作を一つずつ案内します。長い説明や複数の指示は避けます。
これらの工夫は、ご本人が「自分で食べられた」という感覚を保つためのものでもあります。できる部分は本人に任せ、できない部分だけをそっと支える――この自立支援の姿勢が、食べる力を長く保つことにつながります。
困りごと③「異食」食べ物でないものを口に入れる
異食とは――食べ物でないものを口に入れてしまう
異食(いしょく)とは、食べ物かどうか判断できず、食べ物以外の物を口に入れてしまう症状です。背景には、目の前の物が「食べられる物かどうか」を認識できなくなる失認があります。とくにティッシュ、紙、ボタン電池、洗剤、たばこ、薬(包装シートごと)、観葉植物の葉、小さな置物などは、誤飲すると命にかかわる危険があります。
異食は、本人が「危ないことをしている」とわかっていてやっているわけではありません。叱っても止められるものではなく、責めるとかえって混乱や不安を強めてしまいます。家族にできる最も確実な対策は、危険な物を本人の視界・手の届く範囲から遠ざける環境づくりです。
家庭で試せる環境の工夫
- 口に入りそうな小物(電池、薬、洗剤、たばこ、小さな飾り物など)は、本人の生活空間から自然に片づけ、見えない・届かない場所へ。
- 洗剤や薬は、子どもの誤飲対策と同じように、施錠できる棚や高い場所へ移します。
- 食卓まわりは「食べ物だけ」が見える状態にしておくと混乱が減ります。
- 取り上げるときは無言で奪わず、「こちらのほうがおいしいですよ」と食べ物と交換すると、怒りや抵抗を招きにくくなります。
誤飲してしまったときの対応――自己判断で吐かせない
万が一、食べ物でないものを飲み込んでしまったときは、あわてて吐かせようとしないことが重要です。洗剤や灯油などは、吐かせると気管に入って肺を傷めるなど、かえって危険な物があります。何をどれくらい口にしたかを確認し、まずは専門機関に相談してください。
- 公益財団法人 日本中毒情報センター「中毒110番」:何を飲んだか、どう対処すべきかを電話で相談できます(大阪072-727-2499/つくば029-852-9999など、受付時間あり)。
- 呼びかけに反応が鈍い、けいれん、呼吸がおかしい、ボタン電池や鋭利な物を飲んだなど、緊急性が高い場合は迷わず救急(119番)へ。
- ふだんから、かかりつけ医に「異食があること」を伝えておくと、いざというときの対応を相談しやすくなります。
困りごと④「盗食・過食」人の物を食べる・食べすぎる
盗食・過食は「我慢する力」の障害
盗食(とうしょく)とは、家族の目を盗んで冷蔵庫や戸棚の食べ物を食べてしまったり、外出先で他人の食事に手をつけてしまったりする行動です。過食(家中の食べ物を手当たり次第に食べる、満腹を感じにくい)と重なって現れることもあります。
これらは「行儀が悪い」「意地汚い」のではなく、「他人の物は取ってはいけない」という判断や、衝動を抑える力をつかさどる脳の部分が障害された結果です。とくに前頭側頭型認知症(ピック病を含む)では、脱抑制(衝動を抑えられない)や食習慣の変化が初期から目立ちます。国の難病情報センターも、前頭側頭葉変性症の症状として「万引きや盗食などの反社会的行動」「過食となり、濃厚な味付けや甘い物を好む嗜好の変化」を挙げています。本人に言い聞かせても止まらないのは、このためです。
家庭で試せる工夫
- 食べ物を目につく所に置かない。食卓やキッチンに出しっぱなしにせず、戸棚や冷蔵庫の中へ。必要なら冷蔵庫・戸棚に補助錠をつけるのも一つの方法です。
- 取り上げて叱らない。無理に取り上げると怒りや不安が爆発しやすくなります。少量を小分けにして「これがあなたの分ですよ」と渡すと落ち着くことがあります。
- 食事の時間・量を見える形にする。決まった時間に決まった席で食べる習慣をつくると、前頭側頭型認知症で見られる「常同行動(同じパターンを繰り返す傾向)」をうまく生かして安定しやすくなります。
- 誤嚥・窒息に注意する。口に次々と詰め込んでしまう時期は、窒息の危険が高まります。小皿で一品ずつ出す、一口大に切る、急がせないなどの工夫を。
盗食や過食は対応が難しい症状のひとつです。前頭側頭型認知症が疑われる場合は、ご家庭での工夫だけで抱え込まず、専門医療機関に相談しながらケアの方法を組み立てることが勧められています。デイサービスなどを毎日利用して生活リズムを整えると、問題となる食行動が落ち着くこともあります。
困りごと⑤「嚥下の低下・むせ」誤嚥と窒息に注意
むせ・飲み込みにくさは命にかかわるサイン
認知症が進むと、飲み込む力(嚥下機能)そのものが低下し、食事中にむせる、飲み込みに時間がかかる、食べ物が口の中に残る、といった様子が増えてきます。これを軽く見てはいけないのは、誤嚥(食べ物や唾液が誤って気管に入ること)が誤嚥性肺炎・窒息・低栄養・脱水という命に直結する事態につながるからです。
厚生労働省の調査資料でも、重度の摂食嚥下障害が生じると「誤嚥性肺炎・窒息・低栄養・脱水など生命の危険に直結する深刻な事態を招く」とされています。とくに注意したいのが、むせ(咳き込み)が起きないまま唾液や食べ物が気管に入る「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」です。むせていないから安心とは限らない、という点を覚えておいてください。
気づきたいサイン
- 食事中や食後にむせる、咳き込む、声がガラガラになる
- 飲み込むのに時間がかかる、食べ物を口の中にためたままにする
- 原因のはっきりしない微熱や痰が続く(不顕性誤嚥の可能性)
- 食事量が減り、体重が落ちてきた
家庭で試せる工夫
- 姿勢を整える。あごを軽く引き、背もたれにもたれず深く腰かけ、足を床につけます。あごが上がると気管に入りやすくなります。
- とろみ・形態を調整する。水分でむせるときは市販のとろみ剤を使う、固形物は一口大に切る・やわらかく煮るなど、飲み込みやすい形にします。
- 一口量を少なく、ゆっくり。小さめのスプーンを使い、前の一口を飲み込んでから次を運びます。
- 食後すぐに横にしない。食後30分〜1時間ほど上体を起こしておくと、逆流による誤嚥を防ぎやすくなります。
- 口腔ケアを欠かさない。口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に直結します。
むせが続く、肺炎を繰り返す、食べる量が明らかに減ったといった場合は、家庭の工夫だけで様子を見ず、かかりつけ医や歯科(嚥下のリハビリ)、管理栄養士に早めに相談してください。飲み込みの状態に合った食事形態や訓練を専門職と一緒に考えられます。
認知症のタイプ別・食事の困りごとの違い【独自整理】
同じ「食事の困りごと」でも、認知症のタイプで現れ方が違う
食事の困りごとは「認知症だから」とひとくくりにされがちですが、実際には原因となる病気(病型)によって現れ方や対応のコツが異なります。厚生労働省のハンドブックに掲載された病型別の整理(枝広あや子氏による)や、難病情報センター・専門学会の資料をもとに、ご家庭での見分けと対応のヒントを表にまとめました。タイプを正確に診断するのは医師の役割ですが、「うちの場合はどれに近いか」を知っておくと、対応の見通しが立ちやすくなります。
| 認知症のタイプ | 食事で起こりやすいこと | 家庭での対応のヒント |
|---|---|---|
| アルツハイマー型 | 食べたこと自体を忘れる/食べ物を食べ物と理解できない(失認)/箸が使えない・口を開けられない(失行)/食事に集中できない | 一品ずつ具体的に声かけ、最初の数口を介助、静かな環境。「さっき食べたでしょう」と否定せず、少量を出し直す |
| レビー小体型 | 幻視(食べ物に虫が入って見える等)や視空間認知の障害で、口と食器の位置関係がつかめない/日や時間で調子の波が大きい | 無地の食器で錯視を減らす、照明や座る位置で影を調整、調子の良い時間に合わせて食事を出す |
| 前頭側頭型(ピック病など) | 過食・盗食・早食い・口に詰め込む/甘い物や濃い味を好む嗜好の変化/同じ物ばかり食べる常同行動 | 食べ物を出しっぱなしにしない、小皿で一品ずつ、窒息に注意。常同行動を生かして食事の時間・席を一定に。専門医療機関に相談 |
表からわかること――「食べない」と「食べすぎる」は正反対なのに同じ病気
この表を並べてみると、アルツハイマー型では「食べたことを忘れる・食べ方がわからない(食べない方向)」が中心なのに対し、前頭側頭型では「過食・盗食・詰め込み(食べすぎる方向)」が目立つ、という正反対の困りごとが、どちらも「認知症」として現れることがわかります。だからこそ、ネットや本で見た一般的な対応をそのまま当てはめるのではなく、「目の前のご本人がどのタイプの困りごとを抱えているか」を観察し、それに合わせて工夫を選ぶことが大切です。
とくにレビー小体型の「食べ物に虫が見えて食べない」、前頭側頭型の「盗食・常同行動」は、知らないと「わがまま」「困った行動」と受け取ってしまいがちですが、いずれも病気による症状です。タイプの見当がつくと、ご家族の気持ちも「叱る」から「工夫する」へと切り替えやすくなります。診断や薬の調整が必要な症状もあるため、気になるときはかかりつけ医や認知症の専門医に相談してください。
家族の心構え:困ったときの5つの基本
困ったときに思い出したい、5つの心構え
5つの困りごとは別々のもののように見えて、家族の向き合い方には共通する基本があります。具体的なテクニックに迷ったときは、次の5つに立ち返ってみてください。
- 叱らない・無理強いしない。どの困りごとも、本人がわざとやっているのではなく脳の変化によるものです。無理に食べさせる・取り上げる・問い詰めることは、嫌な記憶と抵抗を強めるだけです。
- 「なぜ?」を観察する。同じ「食べない」でも、失認・体調不良・うつ・薬・妄想と理由はさまざま。理由が変われば対応も変わります。決めつけずに様子を見ることが、いちばんの近道です。
- 環境を変える(本人ではなく)。本人の行動を変えようとするより、危険な物を片づける・静かにする・食器をシンプルにするなど、まわりを整えるほうが効果的で、家族も疲れません。
- できることは本人に任せる。全部介助するより、できる部分を残してそっと支えるほうが、食べる力も自尊心も長く保てます。
- 一人で抱え込まない。食事の困りごとは家族の努力だけで解決しないことも多くあります。専門職に相談することは「介護を投げ出すこと」ではなく、本人と家族を守る大切な選択です。
そして忘れないでほしいのは、介護する家族自身の食事と休息も同じくらい大切だということです。厚労省の資料も、介護負担が増すと家族自身の食生活が疎かになりやすいと注意を促しています。あなたが倒れてしまっては、支え続けることはできません。
よくある質問
Q. 「ご飯はまだ?」と何度も言われ、さっき食べたばかりです。どう答えれば?
食べたこと自体を忘れているため、「さっき食べたでしょう」と否定しても本人には事実として通じず、不信感や不安につながります。「もうすぐできますよ」「お茶でも飲んで待ちましょう」と受け止めたうえで、少量のおやつや軽い食事を出すと落ち着くことがあります。使った食器をすぐ片づけず食卓に残しておくと、「食べたんだな」と納得できる場合もあります。
Q. 無理にでも食べさせないと、栄養が足りないのではと心配です。
無理に口へ運ぶことは、誤嚥や嫌な記憶につながり逆効果です。まずは好きな物・食べやすい物を少量ずつ、回数を分けて出してみてください。それでも食べる量が少ない状態や体重減少が続くときは、自己判断でサプリ等に頼る前に、かかりつけ医や管理栄養士に相談を。栄養補助食品や食事形態の調整など、安全な方法を一緒に考えてもらえます。
Q. 異食を見つけました。すぐ吐かせたほうがいいですか?
自己判断で吐かせるのは危険です。洗剤や石油製品などは吐かせると気管に入って肺を傷めることがあります。何をどれくらい口にしたかを確認し、日本中毒情報センターの「中毒110番」やかかりつけ医に相談してください。反応が鈍い・けいれん・呼吸の異常・ボタン電池や鋭利な物の誤飲などがあれば、迷わず119番です。
Q. 盗食をやめさせたいのに、言っても聞いてくれません。
盗食は「我慢する力」をつかさどる脳の障害によるもので、言い聞かせてもコントロールできません。やめさせようとするより、食べ物を見える所に置かない・少量を本人の分として渡すなど環境で対応します。前頭側頭型認知症が疑われる場合は、専門医療機関に相談しながらケアを組み立てましょう。
Q. むせていなければ、誤嚥の心配はないですか?
必ずしもそうとは言えません。むせ(咳)が起きないまま気管に入る「不顕性誤嚥」があり、原因不明の微熱や痰が続くときはそのサインのことがあります。むせの有無にかかわらず、肺炎を繰り返す・食事量が減るなどがあれば、かかりつけ医や歯科に相談してください。
Q. 家族だけで対応するのが限界です。どこに相談すれば?
担当のケアマネジャー、かかりつけ医、地域包括支援センターが入口です。食事・栄養のことは管理栄養士、飲み込みのことは歯科や言語聴覚士など、専門職につないでもらえます。相談は早いほど選択肢が増えます。詳しい窓口は次の「まとめ」で整理します。
参考文献・出典
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まとめ:一人で抱え込まず、相談先とつながる
困りごとは、専門職とチームで支えられる
認知症による食事の困りごと――食べない、食べ方がわからない、異食、盗食、むせ――は、どれもご本人のわがままでも、ご家族の介護の失敗でもありません。脳の変化によって起きる症状であり、叱るより「なぜ起きているのか」を見て、本人ではなく環境と声かけを整えることが対応の基本でした。そして何より、一人で、家族だけで抱え込まないことがいちばん大切です。
食事の困りごとが続くとき、体重が減ってきたとき、誤嚥や誤飲が心配なときは、次の窓口に相談してください。「まだ相談するほどでは」と感じる段階でも、早めに動くほど使える支援や選択肢は増えます。
- ケアマネジャー(介護支援専門員):介護サービス全体の相談窓口。食事介助のヘルパー、デイサービス、訪問の専門職などを一緒に検討できます。まずはここへ。
- かかりつけ医・認知症専門医:食欲低下・体調・薬の影響・病型の見極め・気になる行動の相談。盗食や異食など対応の難しい症状は専門医療機関へ。
- 管理栄養士:低栄養や食事量の不安、食べやすい献立・形態・栄養補助食品の相談。かかりつけ医や地域から紹介を受けられます。
- 歯科・言語聴覚士(ST):飲み込み(嚥下)の評価、安全な食事形態や訓練、口腔ケアの相談。
- 地域包括支援センター:どこに相談したらよいか分からないときの総合窓口。お住まいの地域の支援につないでくれます。
- 日本中毒情報センター「中毒110番」:異食・誤飲時の応急対応の相談先。緊急時は119番。
食事は、栄養を摂るだけの時間ではなく、ご本人とご家族が穏やかに過ごす大切なひとときです。うまくいかない日があっても、それはあなたのせいではありません。できる工夫を一つずつ、そして専門職という心強い味方とチームを組んで、無理のない形で支えていきましょう。
監修者
介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム
医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)
訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。
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