床からの立ち上がり介助|転倒後に自力で起き上がれない人を安全に起こす手順
介護職向け

床からの立ち上がり介助|転倒後に自力で起き上がれない人を安全に起こす手順

転倒して床に座り込んだ利用者を、介護職が腰を痛めず本人も傷つけずに起こす手順を解説。動かす前の観察と受診判断、椅子を使った四つ這い→片膝立ちの段階的介助、2人介助、床走行リフトの活用、抱え上げない原則まで、厚労省の腰痛予防指針をもとに実践的にまとめます。

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この記事のポイント

転倒して床に座り込み、自力で起き上がれない利用者を起こすときは、まず「動かしてよいか」を確認します。頭を打った、強い痛み、意識がおかしいなど骨折や頭蓋内出血を疑うサインがあれば動かさず看護師・救急へ。安全が確認できたら、近くに椅子を置き、横座りから四つ這い、片膝立ち、椅子につかまって立つ順に本人の力を引き出して介助します。自力で起きられないときは無理に一人で抱え上げず、身長差の少ない2人以上、または床走行リフトを使います。厚生労働省の指針は「原則として人力による人の抱上げは行わせない」と明示しています。

目次

デイルームや居室で「ドン」という音がして駆けつけると、利用者が床に座り込んでいる。介護の現場では珍しくない場面です。このとき多くの職員が反射的にやってしまうのが、「大丈夫ですか」と声をかけながら脇の下に手を入れ、一人で抱え起こそうとすることです。しかしこの対応には、二つの大きなリスクが隠れています。

一つは利用者の安全です。転倒直後は、骨折や頭の中の出血が起きているかどうかがまだわかりません。痛みを訴えられない認知症の方や、頭を打っても一見けろっとしている方もいます。ここで慌てて動かすと、骨折部をずらしたり、容態を悪化させたりしかねません。もう一つは介護職自身の腰です。床に座り込んだ人を持ち上げる動作は、前かがみと中腰が重なる、腰痛を起こす典型的な姿勢です。厚生労働省の統計では、社会福祉施設を含む保健衛生業の腰痛による死傷者の発生率(死傷年千人率)は0.25で、全業種平均0.1の2倍以上に上ります。

この記事では、転倒後に自力で起き上がれない利用者を、本人を傷つけず、自分の腰も守って床から起こすための手順を、動かす前の観察から段階的な起こし方、2人介助、リフトの活用、再発防止まで、公的資料と看護・理学療法の技術資料をもとに整理します。「起こし方」だけでなく「起こしてよいかの見きわめ」から扱うのが、この記事の立ち位置です。

まず「動かしてよいか」を確認する|転倒直後の観察と判断

床からの起こし方を学ぶ前に、必ず身につけておきたいのが「動かしてよいか」の見きわめです。起こす技術より先に、この判断が来ます。疑わしいときは動かさず、看護師や救急に判断を委ねるのが原則です。

1. 反応・意識を確認する

駆けつけたらまず、名前を呼びかけて反応を見ます。ここで見るのは「呼びかけへの反応(意識レベル)」です。目を開けるか、受け答えができるか、いつもと様子が違わないかを確認します。呼びかけても反応が鈍い、起きていられない、ぼーっとして眠り込む、といった意識レベルの低下があれば、頭蓋内で出血が起きているおそれがあり、すぐに救急要請が必要です。転倒のショックでパニックになっているだけの場合と、意識レベルの低下は分けて考えます。

2. 頭を打ったかどうかを確認する

次に重要なのが「頭を打ったか」です。日本医療安全調査機構の提言では、転倒・転落による頭部打撲、あるいはその疑いがある場合、受傷直後に意識障害がなくても、その後急速に悪化して死に至る例(talk & die)があると注意を促しています。とくに高齢者は脳が萎縮しているため、頭蓋内出血が起きても症状が出にくいことが知られています。頭を打った可能性があれば、その場では大丈夫に見えても、看護師に報告し、経時的に観察する体制をとります。

3. 抗凝固薬・抗血小板薬を飲んでいないか

ワルファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)、アスピリンなどの抗凝固薬・抗血小板薬を服用している利用者は、頭を打ったときに頭蓋内出血が起こりやすく、止まりにくいという特徴があります。同機構の提言でも、頭部打撲が明らかでなくても、これらの薬を飲んでいる患者が転倒した場合は頭蓋内出血の可能性を認識するよう求めています。服薬情報は転倒対応の重要な判断材料です。日頃から、担当利用者が抗凝固薬を飲んでいるかを把握しておきましょう。

4. 痛みと手足の動きを確認する

強い痛みを訴える、特定の部位を触ると激しく痛がる、手足を動かせない、左右で動きが違う、といったサインがあれば、骨折や麻痺を疑います。とくに大腿骨の付け根(大腿骨近位部)は高齢者が転倒で折りやすく、折れていても座り込んだままなら動けてしまうことがあります。痛がる部位を無理に動かすと骨折部がずれるため、痛みが強い場合は動かさず、看護師の指示を待ちます。

動かしてはいけないサイン(疑わしければ動かさない)

  • 呼びかけへの反応が鈍い、眠り込む、いつもと様子が明らかに違う
  • 頭を打った可能性がある(とくに抗凝固薬・抗血小板薬を服用している)
  • 手足のしびれ・麻痺、ろれつが回らない、けいれん
  • 特定の部位の強い痛み、変形、動かせない(骨折の疑い)
  • 激しい頭痛、繰り返す嘔吐

一つでも当てはまれば、その場で起こそうとせず、体位を保ったまま看護師・医師へ連絡、必要なら119番通報します。判断に迷ったときも、動かさない方を選ぶのが安全です。反応がなく呼吸も普段どおりでない場合は、心肺蘇生の対象になり得るため、応援を呼びAEDを手配します。

起こす前の準備|介助者の腰を守る3つの原則

安全が確認でき、起こしてよいと判断できたら、いきなり手を出さず、まず環境と自分の姿勢を整えます。床からの起こし方は、介助者の腰痛が最も出やすい場面のひとつです。次の3原則を押さえてから動きます。

原則1:重心を近づけ、前屈みで持ち上げない

看護技術の資料では、直立を基準に20度以上前屈みになるだけで第3腰椎への負担が増し、その姿勢で20kgの重りを持つと負担は約2.2倍になるとされています。腰は前屈しただけで痛めるのではなく、前屈み姿勢のまま重さを受けることで痛めるのがポイントです。介助者は膝を落として腰を低くし、利用者と自分の重心ができるだけ近づくようにします。腕を伸ばして遠くから引き上げるのは最も危険です。

原則2:本人の「立つ力」を引き出す(残存機能の活用)

厚生労働省の腰痛予防対策指針は、まず対象者の残存機能を活かすことを求めています。自立歩行・立位保持・座位保持ができるかで介助量は大きく変わります。丸ごと抱え上げると本人の力はまったく使われず、介助者が全体重を支えることになります。椅子や手すりにつかまってもらう、足を踏ん張ってもらうなど、本人ができる部分は本人にやってもらうのが、双方にとって安全で、本人の機能維持にもつながります。

原則3:一人で抱え上げない(ノーリフトの原則)

厚生労働省は平成25年の指針改訂で、全介助が必要な対象者には「リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」と明示しました。座り込んだ人を一人で持ち上げるのは、この原則から外れる行為です。本人が協力できない、体格が大きいといった場合は、次に述べる2人介助やリフトに切り替えます。「起こしきれずに再び転ばせる」二次被害を防ぐためにも、無理をしない判断が大切です。

椅子を使った段階的な起こし方|四つ這い→片膝立ち→立位

床からの立ち上がり介助のなかで最も安全性が高いのが、椅子(または安定した台)を使う方法です。看護・理学療法の技術資料でも第一選択とされています。適応の目安は「介助者の指示をある程度理解でき」「四つ這いの姿勢がとれる」利用者です。本人の協力が得られる場面で使います。

準備:しっかりした椅子を近くに置く

肘掛けのある、体重をかけても動かない安定した椅子を、利用者のすぐ近く(手が届く位置)に置きます。キャスター付きや軽い椅子は避けます。壁際なら椅子を壁に当てて動かないようにするとより安全です。声かけで「これから一緒に起き上がりましょう」と手順を伝えてから始めます。

ステップ1:横座りになる

あお向けや座り込んだ状態から、まず横座り(体を横に向けて座る姿勢)を作ります。肘を支点にして、上半身を斜め上方向に起こしていきます。介助者は骨盤や肩を支え、本人が自分で体を起こす動きを助けます。ここで一気に引き起こさず、本人のペースに合わせます。

ステップ2:四つ這いになる

横座りから、椅子の方へ向き直って四つ這い(両手両膝を床につけた姿勢)になります。介助者は骨盤をしっかり支え、体が横に崩れないよう安定させます。四つ這いは、次の片膝立ちへ移るための土台になる大切な姿勢です。

ステップ3:椅子に手をついて片膝立ちになる

四つ這いのまま、両手を椅子の座面に置きます。そして片方の足を前に踏み出し、その足の膝を立てて片膝立ち(片方は膝立ち、もう片方は足裏を床につけた姿勢)になります。このとき、前に出した足と反対側に少し体重をかけると安定します。介助者は骨盤や腰を支え、ふらつきを止めます。

ステップ4:椅子につかまって立ち上がる

片膝立ちから、椅子の座面や肘掛けを支えにして、前傾しながらゆっくり立ち上がります。介助者は腰やお尻のあたりを支え、立ち上がる力を後押しします。ここでも介助者が持ち上げるのではなく、本人が椅子を押して立つのを支えるイメージです。立ち上がったら、そのまま椅子に座ってもらい、ひと息つきます。

立位・座位の直後は起立性低血圧に注意

床から立ち上がった直後は、血圧が下がってふらつくこと(起立性低血圧)があります。「気分は悪くないですか」「めまいはありませんか」と声をかけ、しばらく座って様子を見てから移動します。急に歩かせると再転倒につながります。

状態別・起こし方の選び方|前方/後方介助・2人介助への切り替え

椅子を使う方法が使えるのは、本人がある程度協力できる場合です。実際の現場では、協力が得られない、体格が大きい、四つ這いがとれないなど、状況はさまざまです。利用者の身体機能レベルと、介助者との体格差、転倒した場所の環境によって、適した方法を選び分けます。

前方・後方からの介助

椅子を使うほどは自立していないが、ある程度上体を起こせる場合は、介助者が前方または後方から支えて起こす方法をとります。前方からは、向かい合って本人の体を引き寄せながら立位へ導きます。後方からは、本人の背後に回り、脇の下から腕を通して(前で腕を組んでもらい、その腕に介助者の腕を差し入れる形)、重心を近づけて起こします。前方・後方どちらにするかは、転倒した場所のスペースや、介助者がやりやすい方を選びます。いずれも介助者は腰を落とし、前屈みのまま持ち上げないことが鉄則です。

2人介助が適応になる場面

次のような場合は、一人で無理をせず、2人以上での介助に切り替えます。

  • 全介助レベルで、本人の協力(立つ・つかまる)がほとんど得られない
  • 利用者の体格・体重が介助者より大きい
  • 四つ這いや片膝立ちの姿勢がとれない

無理に一人で起こそうとすると、腰痛を招くだけでなく、起こしきれずに再び転倒させる二次被害につながります。厚生労働省の指針も、人力で抱え上げざるを得ない場合は「対象者の状態及び体重等を考慮し、できるだけ適切な姿勢にて身長差の少ない2名以上で作業すること」としています。身長差があると片方に負担が偏るため、体格の近い職員でペアを組むのが理想です。

2人介助の基本手順

まず近くに椅子か車椅子を用意します。1人が本人の頭・肩を支えて上半身を起こし、長座位(両脚を前に伸ばして座る姿勢)を作ります。その後、本人に胸の前で両腕を組んでもらい、1人は後方から組んだ腕に自分の腕を差し入れて上半身を、もう1人は前方から両膝(または太もも)を抱え、「せーの」と息を合わせて同時に持ち上げ、椅子や車椅子に移します。声を合わせてタイミングをそろえることが、双方の安全と負担軽減の要です。ただし、前かがみで抱え上げる動作自体が腰への負担になるため、可能ならリフトを優先します。

床走行リフト・移動用リフトの活用|抱え上げをゼロにする

本人の協力がまったく得られない、体格が大きい、床から持ち上げる高さが大きいといった場面で、最も腰痛リスクが低く、利用者も安全なのがリフトの活用です。厚生労働省が全介助時に「原則として人力による人の抱上げは行わせない」と示していることを踏まえれば、床からの起こしこそリフトの出番といえます。

床走行式リフト(移動用リフト)

キャスターで移動できるリフト本体に、利用者を包むスリング(吊り具)を取り付けて吊り上げる機器です。床に座り込んだ状態からでも、スリングを体の下に敷き込めば、抱え上げずに床から車椅子やベッドへ移すことができます。転倒の起こし対応にも使えるため、施設に配備されていれば積極的に選択肢に入れます。

使うときのポイント

  • スリングは体格・用途に合わせて選ぶ:サイズや形状が合わないと、ずり落ちや圧迫の原因になります。トイレ用・全身用など用途別のスリングがあります。
  • 敷き込みは体位変換の要領で:座り込んだ利用者の体を横に傾け、スリングを半分敷き込んでから反対側へ、と体位変換の技術を応用します。
  • 吊り上げ中は必ず付き添う:揺れや不安に配慮し、声をかけながらゆっくり操作します。
  • 日頃の練習が前提:緊急時にいきなり使うと手間取ります。ふだんの移乗でリフトに慣れておくことが、転倒対応の速さにつながります。

座位・立位が保てる場合の福祉用具

リフトまでは要らないが自力では起きられない、というときは、本人の残存機能に応じた用具も有効です。厚生労働省の指針は、座位が保持できる場合はスライディングボード等、立位が保持できる場合はスタンディングマシン(立ち上がり補助機)等の使用を検討するよう示しています。床に据え置く立ち上がり補助手すりや、突っ張り式の縦手すりを近くに設置しておくと、本人がつかまって起き上がりやすくなります。

やってはいけない起こし方|現場で起きがちなNG対応

床からの起こしで事故や腰痛が起きるパターンには共通点があります。とっさの場面ほどやってしまいがちなNG対応を整理します。

脇の下に手を入れて一人で引き上げる

最も多いのがこれです。脇の下から抱えて引き上げると、介助者は前屈み+中腰の姿勢で全体重を受け、腰を痛めます。利用者側も、肩関節を痛めたり、脱臼のリスクがあります。本人の力を使わず全介助になるため、機能維持の観点からも避けたい対応です。

片手・片腕だけを引っ張る

「手を貸しますね」と片手を引くのは、一見やさしい介助に見えますが、本人のバランスを崩しやすく、介助者も体をひねって腰を痛めます。手を引くなら両手で、本人が踏ん張る動きを妨げないよう支える程度にとどめます。

安全確認より先に起こす

骨折や頭部打撲の確認をせずに起こすのは、最も避けるべき対応です。痛みを訴えられない利用者ほど、動かす前の観察が命綱になります。「まず起こしてから考える」ではなく「起こしてよいか確かめてから動く」順番を徹底します。

【独自の視点】「起こし方の技術」より「起こさない判断」が先

床からの立ち上がり介助は、つい「どう起こすか」の技術に関心が向きがちです。しかし現場の事故を分けているのは、起こす技術の巧拙よりも、「今、起こしてよいのか」を立ち止まって判断できるかです。厚生労働省のノーリフティング指針(腰痛予防)、日本医療安全調査機構の頭部外傷の提言(利用者の安全)は、別々の文脈で出された資料ですが、床からの起こしという一つの場面で交わります。前者は「一人で抱え上げるな」、後者は「頭を打っていたら動かす前に立ち止まれ」と告げています。この二つを同時に思い出せるかどうかが、介助者と利用者の双方を守る分かれ目です。技術の前に、この二つの原則を体に染み込ませておくことをおすすめします。

起こした後にやること|記録・報告と再発防止

無事に起こせても、対応はそこで終わりではありません。転倒後の観察と再発防止まで含めて、はじめて一連の対応が完結します。

起こした後の経過観察

頭を打った可能性がある場合は、その場で異常がなくても、時間を追って観察を続けます。日本医療安全調査機構の提言が示すとおり、頭蓋内出血は受傷直後に症状がなくても数時間から数日かけて現れることがあります(talk & die、慢性硬膜下血腫)。意識レベル、頭痛、嘔吐、麻痺、いつもと違う様子(ぼんやり、失禁が増えた、歩き方が変わった)がないか、看護師と連携して継続的に見守ります。

事実を正確に記録・報告する

発見時の状況(いつ・どこで・どんな姿勢だったか)、頭を打ったか、痛みの訴え、バイタル、行った対応を、憶測を交えず事実として記録します。転倒は事故報告(インシデント/アクシデント)の対象です。「なぜ起きたか」を分析し、施設全体で共有することが、次の転倒を防ぐ材料になります。

再発防止:転倒の原因を環境から見直す

  • 環境:段差、滑りやすい床、通路の障害物、暗い照明を点検し、手すりの設置を検討する
  • 身体・薬剤:ふらつきや起立性低血圧、睡眠薬・降圧薬などの影響を多職種で見直す
  • 動線:トイレまでの距離、夜間の移動など、その利用者が転びやすい場面を特定する
  • 離床センサー等:立ち上がりを察知できる見守り機器の活用を検討する

床から起こす技術は、転倒が起きてしまったときの最後の砦です。同時に、その場面を減らすための環境整備と多職種連携が、根本の対策になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 転倒した利用者を、まず起こしてから看護師を呼んでもよいですか?

順番が逆です。まず反応・意識、頭を打ったか、痛みや手足の動きを確認し、疑わしいサインがあれば起こさずに看護師を呼びます。起こしてよいと判断できてから動くのが原則です。痛みを訴えられない利用者ほど、動かす前の観察が重要になります。

Q. 軽い体格の利用者なら一人で抱え起こしてもよいですか?

厚生労働省の指針は、体重の数値にかかわらず原則として人力での抱え上げを避けるよう求めています。軽く見えても、床から持ち上げる動作は前屈み+中腰で腰への負担が大きく、本人の力を使わない全介助になります。椅子を使って本人の力を引き出す方法や、2人介助・リフトを優先してください。

Q. 一人しかいない夜勤中に利用者が床に座り込んでいたら?

まず安全確認(反応・頭部・痛み)を行い、動かしてよいかを判断します。骨折や頭部打撲が疑われれば、動かさずにその場で応援・看護師・救急を要請します。起こしてよい場合でも、無理に一人で抱えず、椅子を近くに置いて本人の力を引き出す方法をとります。本人が協力できないときは、応援が来るまで安楽な体位を保って待つ判断も必要です。

Q. 頭を打っていなさそうで、本人も「大丈夫」と言っています。観察は不要ですか?

高齢者は脳の萎縮により、頭蓋内出血が起きても症状が出にくいことがあります。とくに抗凝固薬・抗血小板薬を服用している方は、打った様子がはっきりしなくても頭蓋内出血のリスクを念頭に置きます。「今は大丈夫」でも、時間を追って意識レベルや様子の変化を観察し、看護師に報告しておくのが安全です。

Q. スライディングボードとリフトはどう使い分けますか?

厚生労働省の指針では、座位が保持できる場合はスライディングボード等、立位が保持できる場合はスタンディングマシン等、全介助で協力が得られない場合はリフト等、と残存機能に応じて使い分けます。床から座位も保てないほど協力が得られないケースでは、床走行式リフトが第一選択になります。

参考文献・出典

まとめ

転倒して床に座り込み、自力で起き上がれない利用者への対応は、「起こし方」だけでなく「起こしてよいかの見きわめ」から始まります。この記事の要点を整理します。

  • 動かす前に観察する:反応・意識、頭を打ったか、抗凝固薬の服用、痛みと手足の動きを確認。疑わしければ動かさず看護師・救急へ。
  • 腰を守る3原則:重心を近づけ前屈みで持ち上げない/本人の立つ力を引き出す/一人で抱え上げない。
  • 椅子を使った段階的な起こし方:横座り→四つ這い→椅子で片膝立ち→椅子につかまって立位。本人の協力が得られる場面での第一選択。
  • 協力が得られなければ切り替える:前方・後方介助、身長差の少ない2人介助、そして床走行リフトへ。厚生労働省は全介助時の人力抱上げを原則禁止としています。
  • 起こした後も気を抜かない:頭部打撲は遅れて悪化することがあるため経過観察を継続し、事故報告と環境の見直しで再発を防ぎます。

床から人を起こす技術は、いざというときに利用者と自分の両方を守る力になります。ふだんからリフトや2人介助に慣れ、観察の順番を体に染み込ませておくことが、とっさの場面で落ち着いて動くための備えになります。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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