高齢者の脱水症|熱中症以外の通年リスクと家庭での見極め・経口補水・受診タイミング
ご家族・ご利用者向け

高齢者の脱水症|熱中症以外の通年リスクと家庭での見極め・経口補水・受診タイミング

高齢者の脱水は熱中症の夏だけでなく、低湿度の冬、食欲の落ちる春秋にも起こります。本記事では口腔粘膜・皮膚ツルゴール・尿色など家庭で見極めるサイン、薬剤性・嚥下障害・認知症で起きる隠れた脱水、経口補水液OS-1の正しい使い方と心疾患・腎疾患時の注意、119番が必要な重症サイン、訪問看護による評価まで、ご家族が今日から実践できる予防と対応を厚労省・健康長寿ネット・大塚製薬工場の公的情報に基づき解説します。

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高齢者の脱水は夏の熱中症だけでなく、低湿度の冬・食欲が落ちる春秋・薬剤や嚥下障害がある日常まで通年で起こります。加齢で口の渇きを感じにくくなるため、本人は気づかないうちに進行します。家庭で確認すべきサインは(1)口腔内・舌の乾燥、(2)尿が濃く量が減る、(3)傾眠・食欲低下・元気のなさの3つ。水分摂取量の目安は食事込みで1日1.0〜1.5L(体重×30mL)です。意識障害・痙攣・血圧著低・尿が半日出ないのいずれかが出たらためらわず119番してください。心不全・腎不全で水分制限がある方は経口補水液(OS-1)の使用前に主治医へ確認を。

目次

「夏は脱水に気をつけていたけど、冬は油断していた」「最近親がぼんやりしていて転倒が増えた——これも脱水のサイン?」在宅で高齢のご家族を介護していると、脱水は季節を問わず・地味な不調から始まることに気づきます。

厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第3版」でも、栄養アセスメントの基本項目に水分摂取量・排便状況・食事環境が並びます。健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)は、高齢者は口渇中枢の感受性低下・腎機能低下・トイレ回避による水分制限などにより「特別な病気がなくても容易に脱水になる」と警告しています。

本記事では、熱中症以外の通年型の脱水に焦点を当て、(1)季節別の脱水リスク、(2)家庭で見極めるサインと隠れた脱水、(3)経口補水液(OS-1)の正しい使い方と心・腎疾患患者の注意、(4)嚥下障害・認知症の方への水分提供の工夫、(5)受診すべき重症サインと訪問看護による評価まで、ご家族が今日から実践できる情報を体系的に解説します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。基礎疾患をお持ちの方の水分・塩分摂取量や薬の調整は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。重症が疑われる場合は迷わず119番をしてください。

なぜ高齢者は通年で脱水になりやすいのか|5つの体質要因

高齢者の脱水は、夏の発汗だけでなく体質的な要因が複合する慢性リスクです。健康長寿ネット・大塚製薬工場・日本老年医学会の解説をもとに、家庭で押さえておきたい5つの要因を整理します。

1. 体内の水分量が成人より約10%少ない

若年成人の体水分は体重の約60%ですが、高齢者は加齢で約50〜55%まで低下します(健康長寿ネット)。同じ量の汗・尿でも脱水率が高くなるため、もともと「脱水耐性」が低い状態で日常を送っていると考えてください。

2. 口渇中枢の感受性低下で「のどが渇かない」

脳の口渇中枢が加齢で鈍くなり、体が水分不足でも本人は「水を飲みたい」と感じにくくなります。「水分を勧めても要らないと言う」のは意思ではなく生理的な感覚低下であり、家族や介護者からの定期的な声かけが必要です。

3. 腎機能低下で尿を濃縮できない

高齢者は腎臓のネフロン数が減少し、尿を濃縮する機能が低下します。同じ水分摂取量でも尿として失う水分が増えるため、健康な若年者より多めの水分が必要になります。

4. 薬剤性脱水(利尿剤・降圧剤・下剤)

心不全・高血圧・浮腫に対して処方される利尿剤(ループ利尿薬・サイアザイド系)は、意図的に尿量を増やす薬です。便秘に対する下剤(マグネシウム製剤・センノシド)も水分喪失を招きます。「薬を増やした後に元気がなくなった」場合は薬剤性脱水を疑い、自己判断で中止せず主治医・薬剤師へ相談してください。

5. 嚥下障害・トイレ回避による水分摂取量の減少

むせる・飲み込みにくいといった嚥下障害があると水分摂取そのものが負担になり、本人が無意識に水分を避けます。また「夜中にトイレに起きたくない」「失禁が心配」という理由で、夕方以降の水分を制限する高齢者は少なくありません。これらの行動的な水分制限が慢性脱水の温床になります。

季節別に変わる脱水リスク|冬・春秋にも要注意

「脱水=夏」のイメージを更新しましょう。原因が変わるだけで、リスクは1年中存在します。

夏(6〜9月):熱中症を伴う急性脱水

気温・湿度の上昇による発汗で水分と塩分が同時に失われるタイプ。冷房を我慢する、外出・庭仕事などのリスク行動も重なります。本記事と高齢者の脱水・熱中症を防ぐを併読してください。

冬(12〜2月):低湿度・暖房による「かくれ脱水」

冬の脱水は「気づかないうちに進む」点で夏より厄介です。原因は3つあります:

  • 低湿度:冬の外気は乾燥し、暖房を使うと室内湿度が20〜30%まで低下。皮膚・呼気から「不感蒸泄」として水分が抜け続けます
  • 暖房による発汗:本人の自覚なく汗をかきます(特に厚着で布団に入った状態)
  • 水分摂取量の自然減:「寒いから水を飲みたくない」「夜中のトイレが嫌」で摂取量が低下

DSセルリア株式会社の高齢者向け解説でも、冬は「かくれ脱水」のピーク期の一つと位置づけられています。室内湿度は50〜60%を目標に、加湿器・濡れタオル・観葉植物などで湿度を保ちましょう。

春・秋(3〜5月、10〜11月):体調不良に伴う隠れ脱水

季節の変わり目は気温差による食欲低下・風邪・胃腸炎が増え、嘔吐・下痢・発熱・食事量低下による脱水が起こります。「ここ数日食事が半分しか進んでいない」状態が3日続いたら、食事から摂れる水分(700〜800mL/日)が半分になるので脱水を強く疑ってください。

通年:薬剤・嚥下障害・認知症による慢性脱水

利尿剤を服用している方、嚥下障害でとろみが必要な方、認知症で水分摂取を忘れる方は、季節に関係なく毎日の脱水リスクが続きます。家族が日々の摂取量を見える化することが最大の予防策です。

家庭で見極める脱水のサイン|典型サインと隠れたサイン

脱水のサインは「のどが渇いた」と言ってもらえない以上、家族が観察する必要があります。健康長寿ネット・大塚製薬工場・訪問看護師向け資料を参考に、家庭でチェックできる項目をまとめました。

典型的なサイン(一見してわかる)

  • 口腔粘膜・舌の乾燥:口を開けてもらい、舌の表面に光沢がない/溝が深く見える/唾液で湿っていない
  • 皮膚ツルゴール(緊張度)の低下:手の甲の皮膚をつまんで離した時、テントのように3秒以上戻らないと脱水を疑う
  • 爪床リフィル時間:爪を5秒押して離し、ピンク色に戻るまで3秒以上かかる
  • 尿量減少・尿色濃化:1日のトイレ回数が普段より明らかに少ない/尿が濃い黄色〜茶色に近い
  • 血圧低下・頻脈:起立時にふらつく(起立性低血圧)、安静時の脈が普段より早い
  • 体重減少:1〜2日で体重の3%以上減ったら脱水を強く疑う(50kgなら1.5kg減)

高齢者特有の隠れたサイン(見落としやすい)

高齢者の脱水は派手な症状より、日常の「いつもと違う」として現れることが多いです。

  • 傾眠・反応の鈍さ:日中うとうとしている時間が増えた/呼びかけへの反応が遅い
  • せん妄(意識混濁):時間や場所がわからない、つじつまの合わない発言が増えた
  • 食欲低下・倦怠感:「食べたくない」「だるい」が続く
  • 転倒の増加:起立性低血圧によりふらつきが増え、転倒事故が頻発
  • 意欲低下:テレビを見ない、会話に乗らない、趣味活動を嫌がる
  • 痰がからんだ咳の繰り返し:唾液・気道分泌が減って痰が固くなり、出しにくくなる
  • 脇の下に汗をかかない:脇の下が乾燥している(健康な状態ならわずかに湿っている)

これらが「数日で複数同時に出現」したら、脱水を強く疑って水分摂取量を確認・対応してください。

高齢者の水分摂取量の目安と日々の与え方

「1日にどれくらい飲ませればいいですか」は最も多い質問です。一般的な目安と、心・腎疾患がある場合の調整方針を解説します。

標準的な目安:体重1kgあたり30mL/食事込みで1.0〜1.5L

健康長寿ネットや訪問看護師向け教材では、高齢者に必要な総水分量を体重1kgあたり約30〜40mL、1日合計で約2,400〜2,800mLとしています。ただしこの総水分量には次の3つが含まれます:

  • 食事から摂る水分:約700〜800mL(汁物・ご飯・果物・野菜など)
  • 代謝水:約200〜300mL(体内で栄養素が分解される際に発生する水)
  • 飲み物として摂る水分:約1,200〜1,500mL(コップ6〜8杯分)

体重50kgの方なら飲水で1日1.0〜1.5Lがひとつの目安。食事量が落ちている時は、その分を飲水で補う必要があります。

1回の量と回数のコツ:少量を頻回に

一度に300mL以上を飲ませると、胃で吸収しきれず誤嚥や腹部膨満感を招きます。コップ1杯(150〜200mL)を1〜2時間おきに分けるのが理想です。具体的なタイミング例:

  1. 起床時(夜間の不感蒸泄を補う)
  2. 朝食時
  3. 10時のおやつ時
  4. 昼食時
  5. 15時のおやつ時
  6. 夕食時
  7. 入浴前後(発汗で失われる分を補う)
  8. 就寝前(一気に飲まずコップ半分でも)

夜間頻尿が心配な場合は、夕方以降は湯のみ半分に減らし、日中の摂取を増やしましょう。

飲み物の選び方:水・お茶・スープを基本に

普段の水分は水・麦茶・ほうじ茶・薄めの番茶が基本です。緑茶・コーヒー・紅茶・玉露はカフェインによる利尿作用があるため、夕方以降や脱水傾向時は控えめに。アルコール(ビール・日本酒)も利尿作用が強く、飲んだ分以上に脱水を進めるため水分補給の代わりにはなりません。

水分量が多い食事の活用

飲水だけで1.5L取るのは負担なので、水分を多く含む食事を組み合わせます。

  • みそ汁・お吸い物(1杯約150mL)
  • うどん・そば・素麺・雑炊(1人前約400〜500mL相当)
  • 果物:すいか・梨・みかん・りんご(1個約100〜200mL)
  • 野菜:きゅうり・トマト・大根(95%が水分)
  • ヨーグルト・ゼリー・プリン(1個約100mL)

心不全・腎不全・透析中の方の水分制限

心不全(うっ血)・腎不全・人工透析を受けている方は、主治医から水分・塩分制限が指示されている場合があります。標準的な目安を当てはめると体液貯留(浮腫・呼吸困難)・電解質異常を悪化させる危険があるため、必ず主治医・管理栄養士の指示量を守ってください。脱水と過剰摂取はどちらも危険で、自己判断での増減は禁物です。

経口補水液(OS-1)の正しい使い方と心・腎疾患の注意

経口補水液は軽度〜中等度の脱水に対する家庭での第一選択です。ただし「健康な人がスポーツドリンク代わりに毎日飲む」「水分制限のある方が制限なく飲む」のは誤った使い方で、健康被害を招きます。

経口補水液(OS-1)とスポーツドリンクの違い

項目OS-1 (大塚製薬工場)スポーツドリンク水・お茶
ナトリウム濃度50 mEq/L20〜21 mEq/Lほぼ0
カリウム濃度20 mEq/L5 mEq/L程度ほぼ0
糖質濃度1.8%(低め)6〜8%0%
用途脱水時の補水運動時の水分・糖補給日常水分補給

OS-1は塩分(ナトリウム)が高く、糖分は低めに設計されています。これはWHOの経口補水療法(ORT)の考え方に基づき、腸からの水・電解質吸収を最大化するための比率です。

OS-1の摂取量目安と飲み方

大塚製薬工場の製品表示では、学童〜成人(高齢者を含む):500〜1,000mL/日が目安。ただし1回に多量を飲ませず、コップに少量(50〜100mL)ずつ、10〜15分おきにゆっくり飲ませます。嘔気があるときは大さじ1杯(15mL)から5分おきに口を湿らせる形でスタートしてください。

飲んではいけない・注意すべき方

OS-1は塩分とカリウムが多いため、以下の方は自己判断で飲ませず、必ず主治医・薬剤師に確認してください。

  • 心不全(うっ血性):ナトリウム摂取が浮腫・呼吸困難を悪化させる可能性
  • 腎不全・人工透析中:ナトリウム・カリウムの排泄ができず高カリウム血症で不整脈を起こす危険
  • 糖尿病で血糖コントロール不良:糖分摂取で血糖が乱高下する可能性
  • 高血圧で塩分制限中:日常的な摂取は血圧悪化要因に
  • 降圧薬・利尿剤を服用中:薬の効果に影響する場合あり

嚥下障害がある方への対応:ゼリー・とろみ製品

むせる方には、OS-1ゼリー(大塚製薬工場)や、増粘剤を加えてとろみをつけた経口補水液が安全です。とろみの濃度は介護食学会分類2021に基づき、薄いとろみ(50〜150mPa·s)から中間のとろみ(150〜300mPa·s)が一般的。歯科医・言語聴覚士・訪問看護師に評価してもらい、本人に合った濃度を決めてください。

家庭での代用:薄めスポーツドリンクと自家製経口補水液

OS-1が手元にない場合は、スポーツドリンクを水で半分に薄めることで糖分・塩分濃度がほぼ目安に近づきます。自家製の場合は水1L+砂糖大さじ2と1/3(20〜25g)+食塩小さじ1/2(3g)+レモン汁少々が目安ですが、計量誤差で電解質バランスが崩れるリスクがあるため、可能な限り市販品を使うのが安全です。

認知症・嚥下障害の方へ|水分を「飲んでもらう」工夫

認知症や嚥下障害のある方は「水分を取ってください」と促しても、本人にとっては理由がわからない・飲み込めない・忘れてしまう状況です。家族・介護者の側で飲みやすい仕掛けを作る発想に切り替えましょう。

認知症の方への水分摂取アプローチ

  • 本人の好きな飲み物を常備:本人が若い頃よく飲んでいたコーヒー牛乳・カルピス・甘酒など、好みのある飲み物の方が摂取量は確実に増えます(糖尿病の方は主治医に相談)
  • 「飲んで」ではなく「一緒に飲もう」:家族が同じ飲み物を持って隣に座ると、本人もつられて飲むことが多い(ミラーリング効果)
  • 視界に置く:手の届く場所、本人がよく座る椅子の前のテーブルに常時コップを置く
  • こまめな声かけタイミングを決める:食前・食後・薬の前後・テレビ番組の合間など、生活リズムに組み込む
  • 水分の多いおやつ:プリン・水羊羹・ゼリー・フルーツポンチなど「飲む」より「食べる」感覚で水分が取れるおやつを活用
  • 1日の水分摂取量を見える化:朝コップに1日分の水を入れたボトルを用意し、減り方を本人にも見せる

嚥下障害の方への対応

むせる・咳き込む・食事中に疲れる方は嚥下機能評価を受けてください。かかりつけ医・歯科医・耳鼻咽喉科・言語聴覚士に相談すると、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)で評価してくれます。家庭での工夫としては:

  • とろみ調整食品:「とろみエール」「ネオハイトロミールⅢ」「つるりんこ」など市販品を活用。商品ごとに目安量があるので必ず計量する
  • ゼリータイプの水分:OS-1ゼリー、お茶ゼリー、フルーツゼリーで誤嚥リスクを下げる
  • 姿勢の調整:飲水時は背筋を伸ばし、顎を引いた姿勢(顎を上げて飲むと誤嚥しやすい)
  • 一口量を少なく:ティースプーン1杯ずつ、飲み込んでから次の一口
  • 飲んだ後の咳・むせをチェック:直後だけでなく食後30分以内の発熱・痰増加は誤嚥性肺炎のサイン

水分摂取の記録(介護家族の必須ツール)

「今日どれくらい飲んだか」を記録すると、脱水の予防と早期発見が格段に楽になります。記録項目は以下の4つで十分です:

  1. 時間(7時、10時、12時…)
  2. 飲んだ量(コップ何杯、200mL、半分など)
  3. 飲んだ物(水、お茶、味噌汁、OS-1など)
  4. その他(残した量、むせの有無、トイレ回数・尿色)

市販の介護記録ノート・スマホアプリ(らくらく連絡網・MyHeart等)・無料テンプレートのいずれでも構いません。訪問看護師・ケアマネジャーと共有することで、医療的な評価につながります。

受診すべきタイミング|119番が必要な重症サイン

脱水は軽度→中等度→重度と段階的に進行します。家庭での対応で済むレベルと、医療介入が必要なレベルを区別できることが、ご家族の最重要スキルです。

家庭で経過観察できる:軽度脱水(体液喪失1〜2%)

以下のサインのみで、本人の意識は清明・水分が口から取れる状態:

  • 口渇感あり、軽い倦怠感
  • 尿色がやや濃い、回数が普段より少ない
  • 軽い立ちくらみ

対応:OS-1または水を少量ずつこまめに飲ませる。半日〜1日で改善するか観察。水分制限のある方は飲水量を主治医に相談。

当日中に受診を:中等度脱水(体液喪失3〜6%)

家庭での経口補水で改善しない、または以下の症状がある:

  • 水分を勧めても拒否する/吐き気で飲めない
  • 皮膚ツルゴール3秒以上戻らない、爪のリフィル3秒以上
  • 頻脈(脈拍100/分以上)、起立性低血圧でふらつき強い
  • 体重3%以上の減少(50kgの方なら1.5kg)
  • 体温37.5℃以上
  • 痙攣・震え、頭痛、ぼんやりして反応が鈍い

対応:かかりつけ医・地域包括支援センター・訪問看護ステーションへ連絡。当日中に外来受診または訪問看護師に来てもらう。点滴による補水が必要なケースが多い。

ためらわず119番を:重度脱水(体液喪失7%以上)

以下のいずれか1つでも該当したらすぐに救急要請(119番)してください。判断に迷ったら救急安心センター(#7119)に電話で相談できます(対応地域は厚労省サイトで要確認)。

  • 意識障害:呼びかけに反応しない、目を開けない、つじつまの合わない会話が続く
  • 痙攣:手足が硬直する、けいれん発作を起こす
  • 呼吸の異常:呼吸が浅く速い、または息苦しそう
  • 血圧著低:上の血圧が90mmHg未満、ぐったりして立てない
  • 尿が半日(6時間以上)出ない:腎不全リスク
  • 皮膚が冷たく蒼白、唇が紫色(チアノーゼ)
  • 嘔吐・下痢が止まらない:水分が体内に保持できない状態
  • 体温40℃以上または35℃未満

「迷ったら119」が原則です。救急車の出動は無料で、必要なかった場合の罰則もありません。重度脱水は命に関わる救急疾患であり、迷う時間が予後を悪化させます。

受診時に医療スタッフへ伝える情報

  • いつから症状が出たか、変化のスピード
  • 飲水量・食事量・尿量・排便の記録(介護記録があれば持参)
  • 服用中の薬(お薬手帳)、特に利尿剤・降圧剤・下剤
  • 既往歴(心不全・腎不全・糖尿病・透析の有無)
  • 普段のADL・認知機能のレベル

訪問看護・訪問介護による脱水評価とサポート

家族だけで毎日の脱水評価を続けるのは負担が大きく、また医学的な判断には限界があります。介護保険のサービスを活用すると、専門職による定期的な評価と早期介入が可能になります。

訪問看護による脱水アセスメント

訪問看護師は医療職として、家族が見逃しやすい脱水サインを系統的に評価します。具体的には:

  • バイタルサイン測定:体温・血圧・脈拍・SpO2(酸素飽和度)を毎回測定し、変化の傾向を把握
  • 口腔・皮膚の観察:舌の乾燥・口腔粘膜・皮膚ツルゴール・爪リフィルを定期評価
  • 排泄の確認:尿色・尿量・排便状態を記録、便秘も脱水のサイン
  • 水分摂取量の評価:家族の記録を確認、不足があれば摂取改善を指導
  • 薬剤との関連評価:利尿剤の効きすぎ・下剤による脱水を発見
  • 必要時の医療連携:脱水が疑われたら主治医に報告、訪問診療や外来受診を調整

訪問看護は医師の指示書があれば介護保険または医療保険で利用できます。週1〜3回程度の定期訪問で、家族の不安感は大きく軽減されます。

訪問介護(ヘルパー)による水分提供の確認

訪問介護では「身体介護」の一環として、本人と相談しながら水分摂取のサポートができます。

  • 訪問時に飲水を促し、目の前で200mL程度を確実に飲んでもらう
  • 冷蔵庫の飲み物の在庫管理(賞味期限・本数チェック)
  • 水筒・コップを本人の手の届く場所に配置
  • ケア記録に「飲水量」を残し、家族と共有

ケアマネジャーに「脱水予防のため水分摂取確認を入れたい」と相談すれば、ケアプランに位置づけられます。

地域包括支援センター・ケアマネジャーへの相談

「親が水を飲まない」「夏も冬も心配」という段階で、地域包括支援センターまたは担当ケアマネジャーに相談してください。介護保険サービスの調整、訪問看護の導入、福祉用具(自動水分摂取確認機器など)の検討まで、横断的に支援してくれます。地域包括支援センターの活用法もあわせてご覧ください。

本人を支える家族向けサービス

介護家族自身が疲弊しないために、以下のサービスも検討してください:

  • ショートステイ(短期入所生活介護):家族が休む間、施設で水分・食事管理
  • デイサービス:日中の水分摂取を施設が管理、入浴後の水分補給も
  • 配食サービス:水分の多い食事を業者が配達(配食サービスの選び方参照)

よくある質問(FAQ)

Q1. 親が水を飲んでくれません。どう促せばいいですか?

「水を飲んで」と指示形式で促しても、口渇感が乏しい高齢者には響きません。(1)本人の好きな飲み物を選ぶ、(2)家族が同じ飲み物を持って一緒に飲む、(3)生活の節目(起床・食前・薬の時)に習慣化、(4)水分の多いおやつ(プリン・ゼリー・水羊羹)を活用、の4つを組み合わせるのが有効です。「飲ませる」ではなく「飲める環境を作る」発想に切り替えましょう。

Q2. 水分摂取量を計算するのが大変です。簡単な目安はありますか?

体重×30mL(50kgなら1,500mL)を「総水分量」の目安にしてください。そのうち食事と代謝で約1,000mL賄えるため、飲水で1日コップ6〜8杯(1杯200mL換算)を目標にすると覚えやすいです。マグカップやペットボトルを使い、朝に1日分を用意して減り方を確認する方法もシンプルでおすすめです。

Q3. お茶やコーヒーは水分補給になりますか?

麦茶・ほうじ茶・薄い番茶はカフェインがほぼないため水分補給になります。緑茶・コーヒー・紅茶・玉露はカフェインによる軽い利尿作用があるため、夕方以降や脱水時には控えめに。ただし常識的な量(コップ1〜2杯)であれば、飲んだ分の方が利尿で失う量より多いため、完全に避ける必要はありません。アルコールは利尿作用が強く水分補給にはなりません。

Q4. 心不全で水分制限を言われています。OS-1は飲んでも大丈夫ですか?

心不全(うっ血性)で水分・塩分制限が指示されている方は、OS-1の自己判断使用は禁止と考えてください。OS-1には500mLあたり約1.5gの食塩相当量が含まれ、塩分制限を破ることで浮腫・呼吸困難を悪化させる危険があります。脱水が疑われる場合は、OS-1を飲ませる前に主治医に電話で指示を仰いでください。腎不全・透析中の方も同様です。

Q5. 冬は本当に水を飲まなくても大丈夫ですか?

大丈夫ではありません。冬は気温が低く発汗が少ないためのどの渇きを感じにくいのですが、暖房による低湿度で皮膚・呼気から水分は失われ続けます(不感蒸泄)。実際、冬季の救急外来でも脱水による搬送は珍しくありません。室内湿度50〜60%を保ち、夏と同じ水準の水分摂取(1日1.0〜1.5L)を続けてください。

Q6. 脱水の検査はどこでできますか?費用は?

かかりつけ医・内科クリニックで採血・尿検査により評価できます。具体的には尿素窒素(BUN)/クレアチニン比、ヘマトクリット、ナトリウム、尿比重など。健康長寿ネットによると尿素窒素/クレアチニン比が25以上、尿酸値7mg/dL以上で脱水を示唆します。費用は保険3割負担で2,000〜4,000円程度。重度脱水で点滴が必要な場合は5,000〜10,000円程度です。

Q7. 嘔吐や下痢で水分が取れないときはどうすればいいですか?

大さじ1杯(15mL)のOS-1を5〜10分おきにスプーンで口に入れる方法から始めてください。1時間で約100mL取れれば家庭での対応継続が可能。それでも嘔吐が止まらない、6時間以上水分が取れない、ぐったりしているなら当日中に外来受診または救急要請。点滴による補水が必要な状態です。脱水と感染症が併発していることが多く、医師の診断が必要です。

Q8. 介護記録アプリでおすすめはありますか?

無料で使いやすいのは「ケアレポ」「介護記録 簡単」「らくらく介護日記」など。スマホで時間・量・種類を1タップで記録でき、家族間で共有できます。手書き派には市販の「水分摂取記録表」(100均文具売場でも入手可)で十分。重要なのはツールではなく毎日同じ場所に同じ形式で残すこと。訪問看護師・ケアマネに見せると、専門的なアセスメントにつながります。

参考文献・出典

まとめ|脱水は通年の在宅介護リスク。記録と専門職活用で予防できる

高齢者の脱水は熱中症の夏だけでなく、低湿度の冬・食欲が落ちる春秋・薬剤や嚥下障害がある日常まで通年で起こります。本人は口の渇きを感じにくいため「気づいたら重症」のリスクが常に存在します。家族ができる対策の柱は以下の4つです:

  1. 毎日の見える化:水分摂取量(食事込みで体重×30mL、飲水1.0〜1.5L)・尿量・体重・舌の状態を簡単に記録
  2. サインの早期発見:口腔粘膜の乾燥・皮膚ツルゴール・尿色濃化・傾眠・転倒増加など「いつもと違う」を逃さない
  3. 適切な補水と緊急判断:軽度はOS-1で家庭対応、中等度は当日受診、意識障害・痙攣・尿出ずは119番。心・腎疾患の方はOS-1使用前に主治医確認
  4. 専門職の活用:訪問看護による定期評価、訪問介護による水分提供確認、ケアマネ・地域包括への相談

「水を飲まないのは性格や好みの問題」と捉えず、加齢に伴う生理的変化として家族が能動的にサポートする視点が、在宅介護で最も大切な脱水予防です。今日から記録ノートを1冊用意し、まずは1週間「飲んだ量と尿の状態」を書き留めるところから始めてみてください。

関連記事として、高齢者の脱水・熱中症を防ぐ|サインの見極めと家庭でできる予防策(夏の熱中症含む)、地域包括支援センターの活用法高齢者の誤嚥性肺炎を予防するもあわせてご覧ください。

監修者

介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム

医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)

看護師介護福祉士ケアマネジャー

訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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