
認知症の徘徊:家庭でできる備え
認知症の徘徊(一人歩き)は家族の不安が大きい行動症状。GPS見守り端末・自治体のSOSネットワーク・近隣との顔覚え依頼など、家庭でできる予防的な備えを家族目線で解説。
お近くの介護施設を探す
地域ごとの施設数や施設タイプを確認しながら、候補を絞り込めます。
この記事のポイント
認知症の徘徊(一人歩き)対策は、①家庭内環境の工夫(玄関センサー・施錠の見直し)②GPS見守り端末の導入(カード型・端末型・靴一体型)③自治体のSOSネットワークへの登録 ④近隣住民への顔覚え依頼 ⑤警察への事前情報共有 の5本柱で進めるのが基本です。早期発見の鍵は「いなくなって30分以内の通報」で、近隣・警察・包括の連携体制を平時から作っておくことが、本人の安全と家族の安心につながります。家族だけで抱え込まず地域資源を活用しましょう。
目次
「夜中に家を出てしまい、警察に保護された」「買い物に出たまま帰ってこなかった」——認知症の進行に伴う徘徊(最近は「一人歩き」と呼び替える運動もあります)は、家族の不安が最も大きい行動症状の一つです。徘徊中の事故・行方不明・冬季の凍死など、命に関わる事案も毎年報告されており、警察庁の統計では認知症が原因と思われる行方不明者は年間1万9千件を超える状況が続いています。
一方、家族・近隣・自治体・警察が連携した見守り体制が整えば、徘徊そのものを完全に防げなくても、早期発見・無事保護の可能性は大きく高まります。GPS見守り端末の普及、自治体のSOSネットワーク、地域包括支援センターの相談機能など、利用できる仕組みは年々充実してきました。
本記事では、徘徊が起きる背景の理解から、家庭でできる5本柱の備え、GPS端末選びのポイント、警察・近隣との連携の作り方、そして「在宅介護の限界」をどう見極めるかまで、家族目線で実践的に整理します。一人で抱え込まず、地域全体の見守り資源を活用することが、長い在宅介護生活を持続可能にする鍵になります。
大切な視点は「徘徊は本人の意思や尊厳を持った行動である」という認識。家族が本人を「監視する対象」と見るのではなく、「安全に外出を続けられる環境を地域と一緒に整える対象」と捉え直すことで、家族の心理的負担も和らぎます。本記事を通じて、本人の自由と家族の安心の両立を目指す現実的な方法を一緒に考えていきましょう。
徘徊が起きる背景の理解
認知症の徘徊は「目的のない歩き回り」と思われがちですが、本人にとっては多くの場合に何らかの目的や意味があります。家族が背景を理解することで、対応の精度が上がります。
1. 見当識障害
時間・場所・人物が認識できなくなる症状。「ここは自分の家ではない」「会社に行かなければ」「子どもを迎えに行く」など、本人の中で過去の記憶と現在の生活が混ざり合い、行動を起こします。
2. 記憶障害
外出した目的を忘れて道に迷う、自宅の方向がわからなくなるパターン。買い物・散歩・通院など日常行動から派生して徘徊が始まるケースが多いです。
3. 不安・焦燥
「何かしなければ」という焦燥感や、「居場所がない」という不安から、じっとしていられず歩き回るパターン。BPSD(行動・心理症状)の一形態として知られています。
4. 身体感覚の変化
排泄欲求・痛み・空腹などを言語化できず、その不快感から動き回るケース。トイレを探していたが場所がわからず外に出てしまう、という例もよくあります。本人がトイレと感じても部屋を出てそのまま外に向かってしまうことも。
5. 認知症の用語呼び替えの動き
2020年代以降、「徘徊」という言葉が本人の意思や尊厳を軽視するとの指摘から、「一人歩き」「ひとり歩き」と呼び替える自治体・団体が増えています。本記事では検索性を考慮し「徘徊」を使いますが、本人と接するときは「お父さん、どこ行きたかったの?」と尊重の姿勢で関わる視点が大切です。家族が本人の行動の背景を理解しようとする姿勢が、結果として本人の安心感を高め、徘徊頻度の低下にもつながります。
家庭でできる備え5本柱
1. 家庭内環境の工夫
- 玄関のドアに人感センサー付きアラーム(数千円〜1万円)を設置
- 夜間は玄関を施錠(ただし火災時の避難経路を確保)
- 本人が「外に出たくなる」きっかけを減らす(テレビで旅行番組を見せ続けない等)
2. GPS見守り端末の導入
- カード型:財布・お守りケースに入れて持たせる
- 端末型:首から下げる・ポケットに入れる
- 靴一体型:靴底に内蔵されており本人が気付かず携帯できる
- 月額料金:500〜2,000円程度(端末本体は5,000〜15,000円)
3. 自治体のSOSネットワーク登録
多くの市区町村が「徘徊高齢者見守り・SOSネットワーク」を運用。事前に本人の写真・身体的特徴・連絡先を登録しておけば、行方不明時に警察・タクシー会社・コンビニ・郵便配達員等に一斉連絡される仕組み。登録は無料で、地域包括支援センターで申込可能。
4. 近隣住民への顔覚え依頼
マンション・町内会の場合、「父が認知症で時々一人で外出することがあります。見かけたら声をかけてください」と挨拶しておく。近隣の理解を得ることは最強の見守り体制になります。
5. 警察への事前情報共有
所轄の警察署・交番に「認知症の家族がいる」ことを事前に伝え、写真と連絡先を渡しておく。行方不明届を出した時の対応が格段に早くなります。
GPS見守り端末の比較ポイント
| タイプ | 携帯のしやすさ | 本体価格 | 月額料金 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| カード型 | ◎ 財布に入れられる | 5,000〜10,000円 | 500〜1,500円 | 本人が財布を持たないと意味なし |
| 端末型(ペンダント) | ○ 首から下げる | 8,000〜15,000円 | 800〜2,000円 | 本人が外してしまうリスク |
| 端末型(ポケット) | ○ 持たせれば便利 | 5,000〜12,000円 | 500〜1,500円 | 充電を忘れるとアウト |
| 靴一体型 | ◎ 本人が気付かない | 10,000〜20,000円 | 1,000〜2,000円 | 他の靴を履かれると無効 |
| キーホルダー型 | △ 鍵を持つ習慣が必要 | 5,000〜10,000円 | 500〜1,500円 | 本人が鍵を持たない場合は不向き |
選び方のコツは「本人の生活パターンに合わせる」こと。靴を1〜2足しか持っていない男性なら靴一体型、財布を常に持ち歩く女性ならカード型が現実的です。家族の中で「誰がGPS位置を確認するか」も決めておきましょう。
行方不明発生時の対応手順
ステップ1:気づいた瞬間〜30分
「いない」と気づいたら、すぐ自宅周辺を徒歩で探索。本人が向かう傾向のある場所(実家・職場・お墓・思い出の場所)を最優先で確認。家族で手分けして探します。
ステップ2:30分経過時
警察への110番通報。「認知症の◯◯歳の父(母)が30分前から行方不明」と伝え、行方不明者届を出します。写真・服装・身体的特徴を伝えると効率的。GPS端末を持たせていればその位置情報も共有。
ステップ3:地域への発信
事前にSOSネットワーク登録していれば、市区町村の防災無線・タクシー会社・郵便配達などに自動配信されます。未登録の場合は、近隣住民・町内会・本人がよく行く店(スーパー・コンビニ)に直接連絡。SNSでの発信は本人のプライバシー保護の観点から慎重に。
ステップ4:保護後の対応
本人が保護されたら、まず体調確認(脱水・低体温・けが)を行い、必要なら受診。今回の徘徊の原因を振り返り、ケアマネジャー・主治医と共有して再発防止策を講じます。本人を責めないことが何より大切です。
長期化した場合
24時間以上発見されない場合、家族の精神的負担も大きくなります。地域包括支援センターと連携し、メディア発信(新聞・テレビ)の可能性も検討します。最近は警察と連動した地域防災メールの活用例も増えています。
徘徊と家族の限界判断
徘徊が頻発するようになると、家族の心身負担は急速に増大します。「在宅介護を続けるか・施設入所を検討するか」の判断軸を持っておくことは、家族と本人の双方を守る視点で大切です。
限界判断の5指標
- 夜間の徘徊頻度:週3回以上で家族の睡眠時間が4時間を切る状態が続くなら要再考
- 転倒・けが・行方不明事案:月1回以上の発生
- 家族の就労制限:本人を一人にできず仕事を辞めざるを得ない状況
- 主介護者の健康悪化:腰痛・うつ・体重減少などの身体症状
- 本人の安全感:本人自身が「家にいるのが怖い」と訴える
限界に近づいた時の選択肢
- ショートステイの計画的利用(月3〜7日でも家族の休息になる)
- 認知症対応型グループホームへの入居検討
- 特別養護老人ホームの申込開始(待機期間を考慮し早めに)
- 小規模多機能型居宅介護(通い・訪問・宿泊を柔軟に組合せ)
「家で看取りたい」気持ちと「家族が倒れたら本人も支えられない」現実のバランスを、ケアマネジャー・地域包括と一緒に整理する時期です。施設入所は家族の敗北ではなく、本人の安全と尊厳を守る積極的な選択肢です。
認知症徘徊対策のよくある質問
Q. GPSを本人が嫌がる場合は?
A. 靴一体型・キーホルダー型など「本人が意識しない」形態を選ぶのが現実的です。「お守り」と説明したり、家族の誰かが普段持っている小物の中に入れる工夫も。本人の尊厳を守りつつ安全を確保する折衷案を、家族で考えましょう。
Q. 介護保険で使える徘徊対策はありますか?
A. 直接的にGPS端末をレンタルできる介護保険サービスはありませんが、自治体独自の助成(GPS端末利用料の補助、月500〜1,500円)を持つ市区町村が増えています。地域包括に「徘徊対策の助成制度」を確認しましょう。福祉用具では「人感センサー付き離床マット」が貸与対象になる場合があります。
Q. 警察への事前登録は法的にどんな効果がありますか?
A. 法的義務ではなく任意の情報共有ですが、行方不明時の対応スピードが格段に変わります。所轄警察署の生活安全課が窓口で、写真・身体的特徴・連絡先・行動傾向を記録してもらえます。プライバシーは厳重に管理されるので安心です。
Q. 認知症徘徊で事故が起きたら家族の責任は?
A. 2016年の最高裁判決(JR東海事件)で、家族の監督責任は限定的との判断が出ており、家族が常時見守りすべきとの法的義務はありません。ただし、保険商品(個人賠償責任保険、自治体の徘徊高齢者賠償責任保険)に事前加入しておくと、万一の経済的リスクを大幅に軽減できます。多くの自治体が無料または低額で加入できる賠償責任保険を用意しています。
徘徊高齢者の現状データと地域連携の実態
警察庁の「行方不明者の状況」(2023年)によれば、認知症が原因と思われる行方不明者の届出数は19,039人で過去最多を更新。10年前(2013年)の10,322人から1.8倍に増加しています。
発見までの時間と生存率
- 24時間以内発見:約84% 生存率99%以上
- 1〜7日後発見:約14% 生存率90%程度
- 1週間以上:約2% 生存率は急速に低下
「24時間以内に発見できれば、ほぼ全員が無事」という事実は、早期通報の重要性を物語っています。家族が「もう少し様子を見よう」と躊躇する時間が、本人の安全を大きく左右します。
SOSネットワーク導入自治体の効果
名古屋市・福岡市など先進自治体のSOSネットワーク導入後、行方不明者の平均発見時間は約3時間短縮されたとの報告があります。家族からの届出を受けて自治体・警察・タクシー・コンビニ・郵便配達等が同時に動く仕組みの効果が証明されています。
家族の経済的負担
個人賠償責任保険(年額1,500〜3,500円)に加入していれば、徘徊中の事故(線路立入による電車遅延・他者への損害など)の賠償リスクをほぼカバーできます。自治体によっては高齢者見守り賠償責任保険を無料で提供しているところもあるので、お住まいの市区町村に確認しましょう。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
まとめ
認知症の徘徊対策は「絶対防止」より「早期発見・無事保護」を目指す方が現実的です。家庭の工夫・GPS見守り端末・SOSネットワーク・近隣連携・警察事前共有の5本柱を組み合わせれば、本人の自由をある程度尊重しながら安全を守れる体制を作れます。
家族だけで抱え込まず、地域包括支援センター・ケアマネジャー・近隣住民・警察を巻き込んだ「面の見守り」を意識してください。徘徊頻度が増えて家族の生活が破綻しそうな段階では、グループホーム・特養への入居を「次のケアの選択肢」として前向きに検討する時期です。本人の生活の質と家族の持続可能性、その両方を守るための判断を、専門職と一緒に支えてもらいましょう。
徘徊は本人にとって苦しい体験でもあります。「何かしなければ」「家に帰らなければ」と動き回る本人の心は、不安と焦燥に満ちています。家族が本人の世界観に寄り添い、外出から戻った本人を笑顔で迎える日々の積み重ねが、結果として徘徊頻度の低下にもつながることが多いです。完璧を目指さず、できる範囲で見守る——その姿勢こそが、本人にも家族にも長く続く介護の支えになります。
監修者
介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム
医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)
訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。
続けて読む

2026/5/13
見守りサービスの比較|センサー型・通報型・GPS型・宅配連携型の選び方と料金相場
高齢者向け見守りサービスをセンサー型・通報型・GPS型・宅配連携型の4類型で比較。各タイプの仕組み・月額料金・適した利用者像と、自治体助成・介護保険外サービス活用のポイントを公的資料を元に整理。

2026/5/13
介護保険外サービスの選び方(拡張版)|自費・自治体助成・混合介護の使い分けと費用相場
介護保険外サービスを自費・自治体助成・混合介護・民間保険付帯の4類型で分類し、訪問・配食・移送の費用相場と要支援/要介護2/要介護5別の家計シミュレーションを厚労省通知に基づき解説。

2026/5/13
歩行器とシルバーカーの違い|医療機器と雑貨の境界・介護保険対象の見分け方と要介護度別の使い分け
歩行器とシルバーカーの違いを、医療機器(一般医療機器クラス1)か雑貨かという法的区分、介護保険の福祉用具貸与対象/対象外の見分け方、要介護度別の選び方まで公的資料で整理。固定型・交互型・四輪型・電動アシスト型と、軽量・買い物カート型・椅子付きシルバーカーを使い分け、費用相場と相談先までわかります。
このテーマを深掘り
関連トピック

見守りサービスの比較|センサー型・通報型・GPS型・宅配連携型の選び方と料金相場

介護保険外サービスの選び方(拡張版)|自費・自治体助成・混合介護の使い分けと費用相場

歩行器とシルバーカーの違い|医療機器と雑貨の境界・介護保険対象の見分け方と要介護度別の使い分け

認知症の暴言・暴力にどう対応するか|BPSDの引き金を減らすケアと家族のメンタル防衛

訪問診療を家族が依頼する方法|在宅医療の始め方・主治医との連携・看取り対応まで

デイサービスとデイケアの違いと使い分け|要介護度別の選び方・費用・送迎範囲を完全比較

ショートステイの利用方法|申込から退所までの流れ・連続30日ルール・緊急時の使い方

小規模多機能型居宅介護(小多機)の利用方法|通い・訪問・宿泊を1事業所で組合せる仕組み・費用

介護疲れ・共倒れを防ぐ|レスパイトケアの活用法と家族のセルフケア

介護離職を避ける働き方|介護休業93日・短時間勤務・両立支援助成金の活用ガイド

在宅介護にかかる費用|要介護度別の月額シミュレーションと公的支援活用法
介護の現場・介護職の視点
同じテーマを介護の現場で働く方の視点から書いた記事。専門家の見方も知っておきたい時に。