手すり設置の住宅改修|介護保険20万円給付・場所別の施工事例と申請手順
ご家族・ご利用者向け

手すり設置の住宅改修|介護保険20万円給付・場所別の施工事例と申請手順

手すり設置を介護保険の住宅改修費(上限20万円)で行う方法を解説。玄関・トイレ・浴室の場所別ポイント、横/縦/L字の選び方、施工事例と費用、事前申請の手順、償還払いと受領委任払いの違いまで網羅。

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手すり設置の住宅改修と20万円給付の要点

手すりの取り付けは、介護保険の住宅改修費(上限20万円)の対象工事のひとつです。要支援1〜要介護5の認定を受けていれば、自己負担1〜3割で玄関・トイレ・浴室などに手すりを設置できます。利用には工事前の事前申請(ケアマネジャー作成の理由書を含む)が必須で、自治体への申請なしに着工すると給付を受けられません。支払い方法は、いったん全額を立て替える「償還払い」と、自己負担分のみ事業者に支払う「受領委任払い」の2種類があります。20万円の上限は原則一生に1回ですが、要介護度が3段階以上重くなった場合(3段階リセット)転居した場合は再度20万円まで利用できます。

目次

なぜ手すり設置こそ住宅改修の最優先か

「親が玄関の段差でつまずいた」「浴槽から立ち上がれず、家族が支えるのがつらくなってきた」――在宅介護を続けるうえで、最初に検討すべき住環境の対策が手すりの設置です。手すりは、立ち上がり・歩行・段差越え・浴槽の出入りといった日常動作の安全性を一気に底上げできるうえ、福祉用具のレンタルや家事サービスに比べて月額コストがかからない一度きりの投資で済むのが大きな特徴です。

幸い、介護保険には「居宅介護住宅改修費」という仕組みがあり、要支援・要介護認定を受けていれば、20万円までの工事費の7〜9割が給付されます。ただし、この制度は「工事前にケアマネジャーが理由書を作って自治体に申請する」「指定された6種類の工事しか対象にならない」「業者選びによっては立て替え払いが必要」など、知らないと損をするポイントが多くあります。

この記事では、家族介護者の視点で、手すり設置を介護保険の住宅改修で行うための実務を体系的に整理します。20万円給付の仕組み、対象6工事の全体像、玄関・トイレ・浴室それぞれで選ぶべき手すりのタイプ、申請手順、施工事例と費用試算、受領委任払いの活用法、そして20万円を使い切った後の選択肢まで、一次資料に基づいて解説します。

介護保険の住宅改修:20万円給付の概要

厚生労働省の制度上、介護保険の「居宅介護住宅改修費」は、在宅介護を続ける高齢者の自立支援と転倒予防を目的に、自宅で行う小規模な改修工事の費用を給付する仕組みです。手すりの取り付けはこの制度の最も代表的な対象工事で、工事費のうち20万円までを保険対象とし、要介護者の所得に応じて7〜9割が給付されます(残りの1〜3割が自己負担)。

給付の基本ルール

  • 支給限度基準額:20万円(工事費の総額に対して適用)
  • 給付率:自己負担割合に応じて7割・8割・9割(負担割合証で確認)
  • 給付方式:償還払い(事後精算)または受領委任払い(事前に自己負担分のみ支払い)
  • 対象者:要支援1〜要介護5の認定を受けた被保険者(要介護認定の申請中は給付不可)
  • 住居要件:被保険者証に記載された住所の住宅(賃貸の場合は所有者の承諾書が必要)

「20万円」の正確な意味を誤解しないために

「20万円もらえる」と誤解されがちですが、正しくは「20万円までの工事費に対して給付率を掛けた金額が支給される」という意味です。たとえば自己負担1割の方が20万円ちょうどの工事を行った場合、給付額は18万円で、本人負担は2万円です。逆に工事費が25万円かかった場合は、20万円分のみが対象となり、超過した5万円は全額自費になります。

原則「一生に1回」のルールと例外

20万円の上限は、原則として被保険者1人につき生涯1回の枠です。ただし、後述する「3段階リセット」と「転居リセット」の2つの例外があり、条件を満たすと再び20万円まで利用できます。一度の工事で使い切る必要はなく、残額がある限り複数回に分けて利用できるため、まず緊急度の高い場所(浴室・トイレなど)から先に手すりを設置し、必要が出てから玄関に追加する、といった使い方も可能です。

福祉用具の「手すり」とは何が違うか

「手すり」と聞くと、介護保険の福祉用具レンタル(特定福祉用具)でも借りられそうに思いますが、住宅改修と福祉用具レンタルでは対象が明確に分かれています。住宅改修壁や床にビスで固定する「工事を伴う手すり」が対象で、福祉用具レンタル突っ張り棒タイプや床置き型の「工事を伴わない手すり」が対象です。賃貸住宅で壁に穴を空けられない場合や、要介護度の変化に応じて位置を変えたい場合は、レンタルの置き型手すりを検討するのが現実的です。

対象6種類:手すり以外の工事も合わせて使える

介護保険の住宅改修費の給付対象は、厚生労働省告示によって以下の6種類に限定されています。手すり設置だけでなく、関連する工事も同じ20万円の枠内で組み合わせ可能なので、せっかく業者を呼ぶなら家全体のリスクを一度に減らす設計を検討する価値があります。

1. 手すりの取付け

廊下、便所、浴室、玄関、玄関から道路までの通路などに、転倒予防・移動補助のために取り付ける手すりです。壁にビスで固定する横手すり・縦手すり・L字手すりが対象で、工事不要の床置き型は対象外(福祉用具レンタル扱い)です。

2. 段差の解消

玄関の上がり框、廊下と居室の敷居、浴室の出入口、勝手口の段差などを、すりつけ板・小スロープ・式台などで解消する工事です。屋外の通路の段差解消も対象になります。なお、昇降機・リフト・段差解消機など動力を使うものは対象外で、福祉用具購入の枠で扱われます。

3. 滑り防止・移動円滑化のための床材・通路面の材料変更

畳から滑りにくい床材(フローリング・ノンスリップシート)への変更、浴室の床を滑りにくいタイルに張り替える工事、屋外通路を土から固形舗装に変更する工事などが対象です。手すりだけでは防ぎきれない「足元の滑り」を根本的に解消できます。

4. 引き戸等への扉の取替え

開き戸を引き戸・折り戸・アコーディオンカーテンに取り替える工事です。車いす利用者や、ドアノブを握る力が弱まった高齢者に有効です。扉の撤去や、ドアノブを引きやすいレバーハンドルへ取り替えるだけの工事も対象になります。

5. 洋式便器等への便器の取替え

和式便器を洋式便器に取り替える工事です。便器の高さを変える、暖房便座や洗浄機能をつけるなど、立ち座りの負担軽減のための工事も含まれます(ただし水洗化のための工事は対象外)。

6. 前各号に付帯して必要となる住宅改修

1〜5の工事を行う際に必要となる下地補強・壁の補修・給排水設備工事などです。たとえば「浴室に手すりを付ける際、壁の強度が不足していたので下地を入れ直した」「便器交換に伴い床の張り替えが必要だった」といったケースが該当します。手すり設置で意外と費用がかさみやすいのが、この下地補強の付帯工事です。

組み合わせの実例

20万円の枠の中で、たとえば「玄関に手すり(5万円)+玄関の段差解消すりつけ板(3万円)+トイレ手すり(4万円)+浴室の床材を滑りにくいものへ変更(6万円)=合計18万円」のように、複数工事を一度に申請するのが一般的です。ケアマネジャーや福祉用具専門相談員の現地アセスメントを受けたうえで、優先順位の高い箇所から組み合わせる設計が王道です。

手すり設置の3つの場所:玄関・トイレ・浴室の選び方

手すりは「どこに」「どの形状で」「どの高さで」取り付けるかで効果が大きく変わります。場所ごとに動作の特性が異なるため、横手すり・縦手すり・L字手すりを使い分けるのが基本です。ここでは家族介護で需要が最も多い玄関・トイレ・浴室の3か所について、選び方のポイントを整理します。

玄関:縦手すり+上がり框の段差対応

玄関は履物の着脱と段差越えという2つの動作が組み合わさる、転倒リスクが高い場所です。基本構成は次のとおりです。

  • 三和土(たたき)部分に縦手すり:靴の着脱時に体を支える。腰の高さから天井まで届くロングタイプが安心。
  • 上がり框の上に横手すり、または框をまたぐL字手すり:段差を上り下りする際に体重を移しやすい。
  • 屋外(門扉から玄関まで)の連続手すり:杖や歩行器を使う方の自立移動を支援。

玄関手すりは足腰の弱った段階で最も早く効果が出る場所で、ケアマネジャーからも優先順位の高い工事として勧められることが多いです。なお、上がり框の段差が大きい(20cm以上)場合は、手すりだけでなく式台や踏み台の設置(段差解消の対象工事)を組み合わせると、足腰への負担が大きく減ります。

トイレ:L字手すりが基本形

トイレでは「便器への着座」と「便器からの立ち上がり」の2動作を1本でカバーできるL字手すりが標準仕様です。便器の側面、利き手側の壁に取り付け、横棒は座位時に体重を預ける位置、縦棒は立ち上がる時に握る位置に合わせます。

  • L字手すり:横棒は便座から20〜25cm上、縦棒は便器先端より10〜20cm前方を目安に。
  • 両側に手すりが必要な場合は、片側を可動式(跳ね上げ式)にすると介助スペースを確保しやすい。
  • 狭いトイレでドアが内開きの場合は、扉を引き戸に替える工事を同時に申請するケースも多い。

夜間頻尿で頻繁にトイレに立つ高齢者の場合、寝室からトイレまでの廊下にも横手すりを連続して設置すると、夜間転倒を大きく減らせます。

浴室:縦手すり+L字手すり+浴槽またぎ用

浴室は家庭内事故が最も多い場所で、手すりの設置効果が大きい部位です。動作ごとに必要な手すりが異なるため、複数本を組み合わせます。

  • 出入口の縦手すり:浴室の出入りで段差をまたぐ際の支え。脱衣所側と浴室側の両方に設置する場合も。
  • 洗い場の縦手すりまたはL字手すり:シャワーチェアからの立ち上がりや、立位での洗体を支える。
  • 浴槽縁の横手すり、または浴槽またぎ用の縦手すり:浴槽への出入り時に、湯気で滑りやすい床の上で体重を支える。

浴室はタイル壁や在来工法の壁が多く、下地補強(付帯工事)が必須になるケースがほとんどです。同時にユニットバスへの全面改修を希望される方もいますが、ユニットバス本体の交換は住宅改修費の対象外なので注意してください(対象は手すり・床材・出入口段差解消などに限られます)。

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申請手順:事前申請なしの着工はNG

介護保険の住宅改修費は、必ず工事の着工前に事前申請を行い、自治体(保険者)から内諾を得てから工事を始める必要があります。これに違反して工事を済ませてから申請しても給付は受けられず、全額自己負担になります。家族介護者にとって最も注意すべきポイントです。

標準的な7ステップ

  1. ケアマネジャーに相談:要支援・要介護認定を受けている場合は担当ケアマネに、認定だけ受けてケアマネが付いていない場合は地域包括支援センターに連絡し、住宅改修の意向を伝えます。
  2. 現地アセスメント:ケアマネ・福祉用具専門相談員・施工業者の3者立ち会いで自宅を確認し、必要な手すりの位置・形状を決めます。
  3. 業者選定と見積もり取得:受領委任払いを使う場合は、自治体に登録された業者を選ぶ必要があります。複数業者から相見積もりを取るのが理想です。
  4. 事前申請書類の作成・提出:自治体の介護保険担当課に、住宅改修費支給申請書、見積書、改修前の写真(撮影日入り)、住宅の間取図、改修箇所図面、所有者承諾書(賃貸の場合)、そしてケアマネジャー作成の「住宅改修が必要な理由書」を提出します。
  5. 自治体による事前審査:通常2週間〜1か月程度かかります。審査結果が出るまで着工は禁止です。
  6. 着工・完工:内諾後に工事を実施します。完工後は改修後の写真を必ず撮影してもらいます。
  7. 事後申請・給付:領収書、改修後写真、工事費内訳書を添えて支給申請を提出。償還払いの場合は約1〜2か月後に給付額が振り込まれます。

「住宅改修が必要な理由書」の重要性

申請書類のなかでも特に重要なのが、ケアマネジャーが作成する「住宅改修が必要な理由書」です。この書類には、利用者の身体状況・生活動線・改修によって期待される自立支援効果が記述されます。理由書の説得力が弱いと自治体から差し戻されることがあるため、ケアマネには現在の生活で困っている動作を具体的なエピソードとして伝えることが大切です。「夜中にトイレに立ったとき廊下で2回転んだ」「浴槽に入る際に毎回家族の介助が必要で、家族の腰痛が悪化している」などの具体例があると、自治体担当者も判断しやすくなります。

ケアマネが付いていない場合の対応

要支援認定のみで地域包括支援センターの担当者が付いている場合、または要介護認定だけ受けて居宅介護支援事業所と契約していない場合は、まずは地域包括支援センターに相談してください。ケアマネ不在の状態でも、地域包括や福祉用具専門相談員が理由書を作成できる仕組みになっています(自治体により対応は異なります)。

施工事例3パターン:費用と給付額の試算

実際にいくらかかり、給付後の自己負担はどの程度になるのか――家族にとって最も気になるところを、典型的な3パターンの施工事例で試算します。なお、ここで示す金額は業界の平均的な相場(消費税込み)であり、地域・業者・壁の状態によって変動します。正確な金額は必ず複数社の見積もりで確認してください。

事例A:軽度(要支援2)/トイレと玄関に最小構成

状況:要支援2の70代女性。普段の歩行は自立だが、トイレでの立ち上がりに不安があり、玄関の上がり框で2度ほどよろけた経験あり。

  • トイレL字手すり 1本:35,000円
  • 玄関縦手すり 1本:25,000円
  • 上がり框横手すり 1本:20,000円
  • 合計:80,000円

自己負担1割の場合:給付額72,000円、自己負担8,000円。20万円の枠の残額:120,000円(次回工事に使用可能)。

事例B:中度(要介護2)/浴室・トイレ・玄関のフルセット

状況:要介護2の80代男性。脳梗塞後の片麻痺で、入浴・排泄・移動すべてで介助が必要。家族の介護負担も大きく、自立度を上げたい。

  • 浴室出入口縦手すり 1本+壁面下地補強:45,000円
  • 浴室洗い場L字手すり:40,000円
  • 浴槽またぎ用縦手すり:35,000円
  • トイレL字手すり+下地補強:50,000円
  • 玄関縦手すり+上がり框L字手すり:55,000円
  • 合計:225,000円

自己負担1割の場合:保険対象は20万円のみで、給付額180,000円、自己負担20,000円+超過分25,000円=45,000円。20万円の枠を使い切り、残額0円。

事例C:重度(要介護4)/手すり+床材変更+扉交換の複合工事

状況:要介護4の80代女性。日中はベッド上で過ごし、車いすで室内を移動。家族介護中心で、安全な移動経路の確保が急務。

  • 居室と廊下の段差解消(すりつけ板):30,000円
  • 居室の床材を滑りにくいフローリングへ変更:60,000円
  • 居室の開き戸を引き戸に交換:70,000円
  • トイレ手すり+下地補強:40,000円
  • 合計:200,000円

自己負担2割の場合:給付額160,000円、自己負担40,000円。20万円の枠を全額使用。手すりだけでなく、床材変更・扉交換を組み合わせることで、移動経路全体の安全性を確保した例。

費用試算で押さえるべき3つのポイント

  1. 下地補強の有無で費用が大きく変わる:壁の構造(軽量鉄骨・木造・タイル)によって付帯工事費が変動します。事前アセスメントで必ず確認を。
  2. 同時施工で1回あたりの諸経費を圧縮できる:業者の出張費・廃材処分費などは工事を分けるたびに発生します。複数箇所をまとめて施工する方が割安です。
  3. 20万円を一度に使い切る必要はない:将来の身体状況の変化を見越して、緊急度の高い箇所から段階的に使うのも有効な戦略です。

受領委任払いと償還払いの違い:どちらを選ぶべきか

住宅改修費の支払い方式には、「償還払い」と「受領委任払い」の2種類があります。どちらを使うかで家族の立て替え負担と業者選びの自由度が大きく変わるため、申請前に必ず比較してください。

償還払い:原則の方式

償還払いは、利用者が工事費の全額を業者に支払い、後日自治体から給付分(7〜9割)の払い戻しを受ける方式です。介護保険法上の原則的な給付方法で、全国どの自治体でも利用できます。

  • メリット:業者選びに制限がない。自治体への登録がない業者でも依頼できる。
  • デメリット:最大20万円超の工事費を一時的に立て替える必要があり、家計への負担が大きい。給付額が振り込まれるまで1〜2か月かかる。

受領委任払い:自己負担分のみで済む方式

受領委任払いは、利用者は自己負担分(1〜3割)だけを業者に支払い、給付分は自治体から業者に直接振り込まれる方式です。利用者の一時的な立て替え負担が大幅に軽くなります。

  • メリット:最初から自己負担額だけで済むため、家計を圧迫しない。年金生活者には特にメリットが大きい。
  • デメリット自治体に登録された事業者でのみ利用可能。すべての自治体が制度を導入しているわけではなく、未導入の自治体もある。

どちらを選ぶかの判断軸

判断軸受領委任払いが向くケース償還払いが向くケース
家計の余裕立て替え余力が乏しい年金生活一時立て替えに対応できる
業者の希望登録業者で十分付き合いのある工務店に依頼したい
自治体の制度受領委任払い制度あり制度未導入の自治体
工事の規模20万円近い大きな工事数万円程度の小規模工事

受領委任払い利用時の注意点

  1. 自治体ホームページで登録事業者リストを確認:「(自治体名)住宅改修 受領委任払い 登録事業者」で検索すると、自治体公式の一覧が見つかります。
  2. 事前申請時に「受領委任払い希望」と明記:申請書の様式が異なる自治体もあるため、相談窓口で確認を。
  3. 業者と利用者の双方で委任に関する確認書類を取り交わす:自治体によっては「受領委任承認書」などの追加書類が必要です。
  4. 制度を導入していない自治体もある:その場合は償還払い一択になります。

20万円を使い切った後の選択肢:再申請・自費・福祉用具の組み合わせ

「もう20万円の枠を使い切ってしまったけれど、新たに手すりを増やしたい」「親の体力が一段と落ちて、当初の改修だけでは追いつかない」――こうした相談は少なくありません。20万円の上限を使い切った後に検討できる選択肢は、大きく分けて4つあります。

選択肢1:3段階リセットの活用

初めて住宅改修費を申請したときの要介護度から、3段階以上重くなった場合には、再度20万円の給付枠が復活します。これを「3段階リセット」と呼びます。要介護度の段階は要支援1 → 要支援2 → 要介護1 → 要介護2 → 要介護3 → 要介護4 → 要介護5の7段階で数え、たとえば要支援2のときに住宅改修費を使い、その後要介護3になった場合は、3段階の上昇に該当し再申請が可能です。

ただし、3段階リセットの適用は原則として1人につき生涯1回までです。2回目以降のリセットは認められないため、リセット時に20万円の枠をどの工事に充てるか、慎重に計画を立てる必要があります。

選択肢2:転居リセット

利用者が転居した場合、転居後の新しい住宅に対して再び20万円の枠が利用できます。この「転居リセット」は回数制限がなく、複数回の転居でも各住居で20万円の枠が新しく付与されます。施設に入所した後に在宅復帰する場合や、子世帯と同居するため引っ越す場合などに活用できます。

選択肢3:福祉用具レンタル・購入で代替する

住宅改修ではなく、福祉用具レンタル(特定福祉用具貸与)を組み合わせる方法もあります。工事を伴わない突っ張り型手すり・床置き型手すりはレンタル対象で、月額数百円〜数千円で利用できます。要介護度に応じて月単位の支給限度額(区分支給限度基準額)の範囲内で利用できるため、住宅改修の枠とは別に活用可能です。

また、ポータブルトイレ・入浴補助用具(シャワーチェア・浴槽内いす・浴室内手すりなど)は「特定福祉用具販売」の対象で、年間10万円までの購入費が給付されます。これも住宅改修費の20万円枠とは独立した制度です。

選択肢4:自治体独自の助成制度を併用

多くの自治体では、介護保険の住宅改修費とは別に、自治体独自の住宅改修助成・バリアフリー改修助成を実施しています。たとえば「介護保険で対象外の浴槽交換に対し上限10万円を補助」「高齢者住宅改造費補助制度として20万円〜100万円を支給」など、自治体ごとに内容と金額は大きく異なります。役所の高齢福祉課や地域包括支援センターに「介護保険以外の住宅改修助成はありませんか」と問い合わせるのが効率的です。

選択肢5:自費工事+医療費控除

給付枠を超えた工事を自費で行う場合、医療費控除の対象になる工事もあります。要介護者の自宅における手すり設置や段差解消、滑り防止のための床材変更などは、医師の指示書があれば医療費控除に含められるケースがあります。確定申告で還付を受けられる可能性があるため、領収書は必ず保管してください。

まとめ:手すり1本から始める在宅介護の安全設計

介護保険の住宅改修費は、家族介護を続ける家庭にとってもっとも費用対効果の高い公的支援のひとつです。20万円という金額は決して大きいとは言えませんが、玄関・トイレ・浴室の3か所に手すりを設置するだけでも、転倒事故・夜間の徘徊・浴室での溺水といった重大インシデントを大幅に減らせます。

家族が押さえるべき5つの実務ポイント

  1. 必ず工事前に事前申請:着工後の申請では給付されません。ケアマネジャーへの相談を起点に動き始めましょう。
  2. 20万円は一度に使い切らない発想も:身体状況の変化に応じて段階的に使うのも有効。残額は次回に持ち越せます。
  3. 手すりだけでなく床材・扉も視野に:6種類の対象工事を組み合わせて、生活動線全体を整える設計が王道です。
  4. 受領委任払いを活用して立て替え負担を軽減:自治体登録業者が利用可能な地域では積極的に検討してください。
  5. 20万円超過分は自治体助成・福祉用具で補う:自治体独自のバリアフリー助成や、福祉用具レンタル・購入の枠と組み合わせれば、家計の負担を抑えながら住環境を整えられます。

最初の一歩は「ケアマネへの一本の電話」から

「うちの親もそろそろ手すりが必要かも」と感じたら、まずは担当ケアマネジャーに電話するか、要介護認定をまだ受けていない場合は地域包括支援センターに相談してください。住宅改修のアセスメントは無料で行ってもらえますし、ケアマネが提案する内容に「うちの家ではこういう場面で困っている」と具体的に伝えるほど、本人と家族の生活に合った設計に近づきます。

手すり1本の設置は、本人の自立支援だけでなく、家族介護者の身体的・精神的な負担を減らす投資でもあります。介護保険の20万円の枠を上手に使い、安全で長く続けられる在宅介護の基盤を整えていきましょう。

監修者

介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム

医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)

看護師介護福祉士ケアマネジャー

訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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