
介護過程とは
介護過程はアセスメント→計画→実施→評価の4ステップで構成される介護職の専門技術です。ケアプランとの違い、ICFの活用、個別介護計画書の書き方、介護福祉士国家試験での出題傾向まで解説。
この記事のポイント
介護過程とは、利用者一人ひとりが「その人らしい生活」を送れるよう、アセスメント(情報収集・分析)→計画立案→実施→評価の4ステップを循環させる介護職の専門技術です。介護福祉士養成課程で必修化されており、根拠に基づいたケア(EBC)を実現するための思考プロセスとして位置づけられています。ケアマネジャーが作る「ケアプラン」が事業所横断の方針なら、介護過程は現場の介護職が個別介護計画書として落とし込む実践レベルのサイクルです。
目次
介護過程の定義と位置づけ
介護過程は、利用者の自立支援とQOL(生活の質)向上を目的とした意図的・継続的な介護実践のプロセスです。「なぜそのケアを行うのか」という根拠(エビデンス)を明確にするために、介護職が体系的な思考の枠組みとして用います。
介護福祉士養成課程での位置づけ
厚生労働省が定める介護福祉士養成カリキュラムでは、「介護」領域の中核科目として「介護過程」が独立した科目群(介護過程I・II・III)として配置されています。実務者研修(450時間カリキュラム)でも、介護過程IIIは通学による演習が必須(最低45時間)とされ、ペーパーテストでは測れない実践的思考力を養います。
看護過程との比較
看護領域に存在する「看護過程」と構造は似ていますが、介護過程は「医学モデル」ではなく「生活モデル」に立脚する点が特徴です。疾患の治癒ではなく「その人らしい生活の継続」を目標に据えるため、ICF(国際生活機能分類)の視点で本人の強み(ストレングス)を活かす計画立案が重視されます。
なぜ介護過程が必要か
業務委託のように「言われた通りに動く介護」では、利用者ごとに異なる課題に対応できず、ケアの質も標準化されません。介護過程を踏むことで、(1) ケアの根拠を職員間で共有でき、(2) 経験の浅い職員にも判断基準が伝わり、(3) 評価を通じて改善サイクルが回るという3つの効果が得られます。これは介護現場における「PDCAサイクル」そのものといえます。
介護過程の4ステップ
介護過程は次の4ステップを循環的(ループ)に繰り返します。一度回して終わりではなく、評価結果を次のアセスメントに反映させる「らせん階段」のように上昇していくのが本質です。
ステップ1:アセスメント(情報収集・分析)
利用者本人・家族・他職種から幅広く情報を集め、生活上の課題(ニーズ)を明確化します。情報源は次の3層に整理されます。
- 主観的情報(S情報):本人・家族の語り、訴え、希望
- 客観的情報(O情報):観察、バイタル、ADL/IADL評価、認知機能評価
- 環境情報:住環境、家族関係、経済状況、地域資源
分析ではICFの6要素(健康状態・心身機能/身体構造・活動・参加・環境因子・個人因子)を用い、本人の「できること(ストレングス)」と「困っていること」を構造化します。
ステップ2:計画立案(個別介護計画書の作成)
アセスメントで明らかになった課題を、長期目標→短期目標→具体的な支援内容に落とし込みます。SMARTの法則(Specific:具体的・Measurable:測定可能・Achievable:達成可能・Relevant:関連性・Time-bound:期限付き)を意識すると、評価可能な計画になります。
個別介護計画書には次の項目を記載します。
- 利用者基本情報(氏名・要介護度・主治医・主病名)
- 長期目標(6ヶ月〜1年)と短期目標(1〜3ヶ月)
- 具体的な支援内容(誰が・何を・いつ・どのように)
- 留意事項・リスク管理(転倒・誤嚥・与薬等)
- 評価日・評価者
ステップ3:実施(計画に基づくケアの実践)
計画書に基づき、現場でケアを実践します。重要なのは「言われた通りに動く」のではなく「なぜこのケアを行うのか」を全職員が説明できる状態を作ることです。日々の介護記録(経過記録・SOAP記録)を通じて、本人の反応や変化を細かく観察し、次の評価につなげます。
ステップ4:評価とフィードバック
設定した目標に対する達成度を判定します。評価は「達成/一部達成/未達成」の3段階だけでなく、達成できなかった理由(計画が不適切だったのか、実施が不十分だったのか、利用者の状態変化があったのか)まで掘り下げます。評価結果は次のアセスメントの起点となり、サイクルが再び回り始めます。
介護過程とケアプランの違い
「介護過程」と「ケアプラン(居宅サービス計画)」は混同されがちですが、レイヤー(階層)が異なります。次の表で整理します。
| 項目 | ケアプラン(居宅サービス計画) | 介護過程(個別介護計画書) |
|---|---|---|
| 作成者 | ケアマネジャー(介護支援専門員) | 介護職員(サービス提供責任者・現場リーダー等) |
| レイヤー | 事業所横断・サービス全体の方針 | 事業所内・個別ケアの実践 |
| 目的 | 本人の希望に沿ったサービス組み合わせの設計 | 具体的な介護技術の根拠と手順の明確化 |
| 主な様式 | 第1表〜第7表(標準様式) | 個別介護計画書(事業所により様式は異なる) |
| 更新頻度 | 原則6ヶ月ごと(状態変化時) | 3ヶ月ごとが目安(事業所ルールに準拠) |
包含関係として整理すると、ケアプランで定められた目標・サービス内容を起点に、各事業所の介護職員が介護過程を回して個別介護計画書を作成します。ケアプランは「設計図」、介護過程は「現場の施工プロセス」とイメージすると理解しやすいでしょう。
ICFの視点を取り入れた介護過程
WHOが2001年に採択したICF(国際生活機能分類)は、人間の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つと、それらに影響する「環境因子」「個人因子」で捉えるモデルです。介護過程のアセスメント段階でICFを使うと、課題(マイナス面)だけでなく強み(プラス面)にも目が向き、自立支援につながる計画が立てられます。
ICFを使ったアセスメント例
例:脳梗塞後遺症で右片麻痺のある利用者(80歳・女性)の場合
- 心身機能・身体構造:右上下肢の麻痺(マイナス)/嚥下機能は保たれている(プラス)
- 活動:移乗に介助が必要(マイナス)/左手で食事摂取は自立(プラス)
- 参加:外出機会が減少(マイナス)/週1回の俳句サークル参加を継続中(プラス)
- 環境因子:自宅は段差あり(マイナス)/同居家族のサポート体制良好(プラス)
- 個人因子:「自分で歩きたい」という意欲(プラス)
マイナス情報の羅列ではなく、プラス要素(できること・続けたいこと)を計画立案の起点にするのがICF活用の本質です。「俳句サークルに通い続けるために左手での杖歩行を獲得する」といった本人にとって意味のある目標が設定できるようになります。
事例検討会・カンファレンスでの活用
介護過程は個人作業ではなくチームでの協働プロセスです。月1回程度の事例検討会で、複数職種(看護師・PT/OT・栄養士・ケアマネ)と共に1事例を深掘りすると、自分一人では気づけなかった視点が獲得できます。新人職員の育成にも有効で、「アセスメントの分析力」「計画立案の根拠提示力」が短期間で向上します。
介護福祉士国家試験での出題傾向
介護福祉士国家試験では「介護過程」が独立した科目として出題されます。筆記試験(午後の部)で例年8問前後(全125問中)が出題され、合格点に届くためには確実に得点したい領域です。
- 事例問題の比重が大きい:単独の知識問題よりも、利用者の事例を読んで「次に行うべきアセスメント」「適切な短期目標」を選ぶ問題が中心
- 4ステップの順序を問う問題:「アセスメント→計画→実施→評価」の各ステップで何を行うか、次のステップに移る判断基準が頻出
- ICFと結びつけた出題:心身機能・活動・参加の3レベルでの目標設定、環境因子・個人因子の捉え方
- 多職種連携の文脈:医師・看護師・PT/OT・ケアマネ等との情報共有のあり方
- 記録・報告に関する出題:客観的記述、5W1H、SOAP記録の活用
試験対策としては、過去問の事例問題を繰り返し解き、選択肢ごとの正誤理由を言語化するのが効果的です。実務者研修の介護過程III(45時間以上)で習得した思考法がそのまま試験で問われるため、研修中の演習を疎かにしないことが合格への近道です。
よくある質問
Q1. 介護過程は介護職員初任者研修でも学びますか?
初任者研修(130時間)では介護過程の基礎概念に触れる程度で、本格的な演習は実務者研修(450時間)の「介護過程III」(45時間以上の通学演習)で行います。さらに介護福祉士養成校では「介護過程I・II・III」として体系的に学習します。
Q2. 個別介護計画書の様式は決まっていますか?
厚生労働省が定めた全国統一の様式はありません。事業所ごとに様式を定めて運用します。ただし、ケアプラン(居宅サービス計画書 第1表〜第7表)の内容と整合する必要があるため、長期目標・短期目標・具体的支援内容・評価日の4項目は最低限記載するのが一般的です。
Q3. 介護過程の評価はどのくらいの頻度で行いますか?
3ヶ月ごとが目安です。ただし、利用者の状態が大きく変化した場合(入院・退院、ADL急変、認知機能低下等)は随時評価を行い、計画を見直します。年に1回しか評価していない事業所は介護過程が形骸化している恐れがあります。
Q4. アセスメントとケアマネのアセスメントは同じですか?
目的とレイヤーが異なります。ケアマネのアセスメントは「課題分析標準項目(23項目)」に沿って生活全体を俯瞰しサービス全体の方針を決めるためのもの。介護職のアセスメントは自事業所が提供するサービス範囲内で本人の状態を詳細に把握するものです。両者は補完関係にあります。
Q5. 介護過程の力を高めるにはどうすればよいですか?
(1) 月1回の事例検討会に積極参加する、(2) 自分が担当する利用者のアセスメントを定期的に文章化する、(3) 他職種カンファレンスで医師・PT/OT・ケアマネ等の視点を学ぶ、(4) 介護福祉士国家試験の事例問題を解いて思考のフレームを鍛える、の4つが効果的です。
まとめ
介護過程は、「アセスメント→計画→実施→評価」の4ステップを循環させることで、介護職が根拠に基づいた個別ケアを実現するための専門技術です。介護福祉士養成課程の必修科目として位置づけられ、国家試験でも事例問題を中心に多く出題されます。
ケアマネジャーが作るケアプラン(事業所横断の方針)と、介護職が作る個別介護計画書(現場の実践)は補完関係にあり、両者を理解することで介護現場全体の流れが見えるようになります。ICFの視点を取り入れることで、本人の強みを活かした自立支援につながる計画立案が可能になります。
日々の業務を「言われた通りに動くだけ」で終わらせず、介護過程を意識した思考と記録を積み重ねることが、介護職としての専門性を高める最短ルートです。
この用語に関連する記事

厚労省、保険外サービス活用の手引き公表|情報提供のポイント・ケアマネの役割を解説
厚生労働省は2026年5月11日、介護保険最新情報Vol.1503で保険外サービス活用の手引き・ポイント集を周知。生活支援・配食・移動支援・訪問理美容の4分野を整理し、ケアマネジャーによる情報提供のポイントを示した。背景にある1人暮らし高齢者・ビジネスケアラー増加とともに、家族・利用者側の活用視点も解説する。

全労連、ケア労働者の5/31労働相談ホットライン|介護・看護・保育の賃上げ機運を集約
全国労働組合総連合は2026年5月31日、ケア労働者向けの一斉労働相談ホットライン(0120-378-060)を開催。介護報酬改定6月施行前日に合わせ、賃上げ・労働条件への声を集め高市首相・厚労省へ届ける。

在宅医療充実体制加算、重度認知症の診療で要件緩和|厚労省5月1日通知訂正・2026年度診療報酬改定
厚労省は2026年5月1日付で在宅医療充実体制加算の施設基準を訂正。重度認知症患者の延べ診療月数割合が8分以上などの条件をクリアすれば、重症患者割合の基準が2割から1割5分に緩和される。在宅で認知症患者を支える体制づくりに新たな選択肢が生まれた。

認知症の人と家族の会、介護保険改正案に緊急要望書|「人員配置基準の緩和は制度空洞化を招く」
認知症の人と家族の会は2026年5月12日、介護保険法等改正案について緊急要望書を発出。中山間地で人員配置基準を緩和する「特定地域サービス」創設に反発し、「制度の根幹揺るがす」と国会議員に再考を訴えた。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。