疥癬(かいせん)とは

疥癬(かいせん)とは

疥癬は皮膚にヒゼンダニが寄生して激しいかゆみを起こす感染症。介護施設で集団発生しやすく、通常疥癬と角化型疥癬で感染力・治療が大きく異なる。介護現場での見分け方・隔離・リネン管理を整理。

ポイント

この記事のポイント

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(ヒトヒゼンダニ)というダニが皮膚の角質層に寄生し、激しいかゆみを起こす感染症です。介護施設や病院など集団生活の場で広がりやすく、ダニ数が数十匹以下の通常疥癬と、100万~200万匹に達して感染力が極めて強い角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の2型があります。

目次

疥癬の原因と感染経路

疥癬の原因は、体長約0.4mmのヒトヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis)が皮膚の角質層にトンネルを掘って寄生することです。ダニは皮膚から離れると2〜3時間で死滅するため、空気感染や飛沫感染はせず、人から人への直接接触で広がります。間接接触(共用の寝具・タオル・衣類)でも感染しますが、通常疥癬では稀です。

感染経路の主軸は「長時間の密接接触」です。介護施設では、入浴介助・更衣介助・体位交換など皮膚に直接触れる場面が多く、職員と利用者、利用者同士で広がります。家族間でも布団を共有する高齢夫婦、孫を抱く祖父母などで感染が起こります。

潜伏期間は通常疥癬で約4〜6週間です。初感染ではこの長い潜伏期に気づかれず、症状が出た時には既に他者へ広がっているケースが多発します。一方、角化型疥癬の感染源に接触した場合は4〜5日と極端に短く、爆発的な集団発生の引き金になります。

法律上の位置づけとしては、感染症法で5類感染症に分類され、施設での集団発生は保健所への報告対象になります。介護施設等における感染対策の手引き(厚生労働省)でも、疥癬は「個別対応が必要な感染症」として重点項目に挙げられています。

通常疥癬と角化型疥癬の違い

疥癬には2つの病型があり、感染力と治療方針が大きく異なります。介護現場での対応もこの分類に沿って変える必要があります。

項目通常疥癬角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
寄生するダニ数数十匹以下100万〜200万匹
感染力弱い(長時間接触で感染)極めて強い(短時間接触で感染)
潜伏期間約4〜6週間4〜5日(短縮)
かゆみ夜間に激しい不定(弱いか感じない場合も)
主な症状赤い丘疹、疥癬トンネル、結節厚い灰色〜黄白色の角質増殖、痂皮、亀裂
好発部位手指間、手首、腋、陰部、臀部全身(頭部・顔面にも)
個室隔離原則不要(手袋着用で対応可)必須(短期間でも個室管理)
免疫状態通常の宿主免疫低下、高齢者、長期臥床者に多い

角化型疥癬は、剥がれ落ちた角質片1g中に1,000匹以上のダニが含まれることがあり、ベッド・床・衣類・タオルを介して短時間で広範囲に感染を拡大させます。「重症の疥癬」ではなく、まったく別の感染対策が必要な疾患と理解することが現場での集団発生防止の出発点です。

現場で気づくサインと診断の流れ

介護職員が「疥癬かもしれない」と気づくきっかけとなる5つの現場サインです。

  1. 夜間に強くなるかゆみ:日中は我慢できても、就寝時に激しく掻きむしる利用者を見たら疥癬を疑います。アトピーや皮脂欠乏症と区別する重要な手がかり。
  2. 疥癬トンネル:手首・指の間・手のひらの側面に、わずかに盛り上がった線状の皮疹(5〜10mm)が見られます。ヒゼンダニが角質層を掘った跡で、診断的価値が最も高い所見です。
  3. 陰部・臀部の結節:男性の陰嚢、女性の外陰部、臀部に5〜10mmの硬い結節(疥癬結節)が出現します。
  4. 同じ部屋・同じ職員のかゆみ:複数の利用者・職員が同時期にかゆみを訴え始めたら、感染拡大の可能性が高い段階です。
  5. 痂皮や角質増殖(角化型疑い):手足や臀部に灰色〜黄白色の厚い角質が付着している場合、角化型疥癬の可能性があり、緊急で皮膚科受診が必要です。

確定診断は皮膚科での顕微鏡検査で行います。疥癬トンネル部分の角質を採取し、ヒゼンダニ・卵・糞便の存在を確認します。ダーモスコピーでもダニの形態(三角形の頭部「デルタウィングサイン」)が観察可能です。検出感度を上げるため、複数部位から検体採取するのが原則です。

施設で疥癬が発生したときの対応フロー

厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き」と日本皮膚科学会「疥癬診療ガイドライン(第3版)」を踏まえた現場対応の流れです。

  1. 早期発見と皮膚科受診:疑い段階で必ず皮膚科を受診し、確定診断を得ます。介護職員が「疥癬と思ったが乾燥肌だった」「アレルギーと思ったが疥癬だった」のような誤判断を避けるため、自己判断での治療開始は禁忌です。
  2. 病型判定と隔離方針の決定:通常疥癬であれば手袋・予防衣の着用で通常居室での療養可。角化型疥癬では原則1〜2週間の個室管理とし、専用のリネン・タオル・寝衣を使用します。
  3. 治療開始:イベルメクチン内服(200μg/kg、空腹時1回、1週間後に2回目)が第一選択。フェノトリンローション(5%)外用や安息香酸ベンジル外用を併用するケースもあります。角化型では角質除去(サリチル酸ワセリンなど)を併用。
  4. 接触者の調査と予防投与:患者と濃厚接触した職員・利用者・面会家族をリストアップ。角化型では症状の有無にかかわらずイベルメクチン予防投与を行うのが標準的です。
  5. 環境整備とリネン管理:寝具・衣類・タオルを50℃以上のお湯で10分以上浸漬するか、乾燥機で20〜30分処理。掃除機で床・ベッド周辺を念入りに清掃し、布製ソファ等は粘着クリーナーで処理。
  6. 経過観察と治癒判定:治療後も2〜4週間はかゆみが続くことがあるため、皮疹の消失と顕微鏡検査の陰性化で治癒を判定します。集団発生時は最終症例から4〜6週間の観察を継続。
  7. 記録と保健所連携:施設内で複数発生した場合は保健所へ連絡し、感染管理委員会で対応記録を残します。介護施設等における感染対策の手引きの様式に沿って記録すれば監査対応にもなります。

介護職員が自分を守るための実務ポイント

疥癬は職員から職員へ、職員の家庭へと広がるリスクのある感染症です。日々のケアで意識したいポイントです。

  • 長袖の予防衣・ディスポ手袋を徹底:角化型疥癬の患者ケアでは、肘上まで覆える長袖ガウンと使い捨て手袋を必須とし、退室時には必ず廃棄します。
  • 入浴介助は最後のシフトで:通常疥癬の利用者の入浴は他の利用者の後に行い、介助後の浴槽・脱衣所を清掃。バスタオルは患者専用に分けます。
  • 家族へ持ち込まない工夫:勤務終了後、施設内のシャワーを利用するか、帰宅後すぐにシャワー・着替えを行います。職員から家族(特に子ども)への感染事例は実際に報告されています。
  • かゆみが出たら早期受診:「数週間以上続くかゆみ」「家族にもかゆみが出始めた」と感じたら、皮膚科で疥癬の鑑別を依頼します。職員の感染を放置すると、施設内で再流行の起点になります。
  • 申し送りでの病型明示:「疥癬」とだけ伝えるのではなく、「通常疥癬」「角化型疥癬」と必ず病型を明記します。隔離・予防衣・予防投与の必要性が病型で大きく変わるためです。

看護師が常駐する施設では、感染管理担当者(ICN・ICT)が中心となって、疥癬対応マニュアルを年1回見直し、職員研修を実施することが望まれます。

よくある質問

Q1. 疥癬は完治しますか?

適切な治療を行えば完治する感染症です。イベルメクチンの内服とフェノトリン外用で、通常疥癬は2〜4週間、角化型疥癬でも1〜2か月で治癒に至るのが一般的です。ただし治療後もかゆみが2〜4週間続くことがあり、これは死んだダニや卵に対するアレルギー反応で、再感染ではありません。

Q2. 一度感染したら免疫はつきますか?

つきません。再感染の可能性があり、施設で集団発生があった場合は何度でも感染します。継続的な感染対策が重要です。

Q3. ペット(犬・猫)から感染しますか?

動物のヒゼンダニ(イヌヒゼンダニなど)はヒトに感染しても短期間で死滅し、定着しません。一過性の発疹を起こすことはありますが、ヒトのダニとは別種で、ヒト同士のような長期感染は起こりません。

Q4. 入浴で他の利用者にうつりますか?

通常疥癬では浴槽の湯を介した感染リスクは極めて低いです。ただし、脱衣所での衣類接触、共用バスタオル、長時間の同浴では感染しうるため、専用タオルの使用と最後の入浴順を徹底します。角化型疥癬では浴槽自体は問題なくても落屑による接触感染リスクがあるため、専用浴室・専用浴槽が原則です。

Q5. かゆみ止めを塗ってから皮膚科に行ってよいですか?

ステロイド外用薬を塗ると症状が一時的に軽くなり、診断が困難になります。「疥癬かもしれない」と思ったら、市販薬や処方薬を塗らずに皮膚科を受診してください。

参考資料

まとめ

疥癬は介護施設で集団発生しやすい代表的な皮膚感染症です。通常疥癬と角化型疥癬は感染力・隔離・治療がまったく異なるため、現場での申し送りでも病型を明確にすることが第一歩です。夜間に強くなるかゆみ、手指・手首の疥癬トンネル、複数同時発症のサインを見逃さず、疑い段階で必ず皮膚科受診につなげてください。イベルメクチン内服と50℃以上のリネン処理を組み合わせれば、適切に管理できる感染症です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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