
喀痰吸引等研修を読む|第1号・第2号・第3号研修の違いと取得方法
喀痰吸引等研修の制度・カリキュラム・受講資格・費用・1〜3号の違いを厚労省資料ベースで解説。認定特定行為業務従事者の登録手続きから介護福祉士国家試験「医療的ケア」との関係まで、医療的ケアができる介護職を目指す方の出発点となる総合ガイド。
この記事のポイント
喀痰吸引等研修とは、社会福祉士及び介護福祉士法の改正(平成24年4月施行)にもとづき、介護職員が医師の指示と看護職員との連携のもとで「たんの吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)」と「経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養)」を実施できるようにするための、都道府県知事登録の研修制度です。対象者の範囲と実施できる行為によって第1号(不特定多数・全行為)/第2号(不特定多数・必要な行為のみ)/第3号(特定の者)の3類型に分かれ、修了後は都道府県へ「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を申請することで現場での実施が可能になります。
目次
「介護職として医療的ケアに関われるようになりたい」「いま勤めている施設で喀痰吸引が必要な利用者が増えてきた」――そう考える介護職員が、最初に検討すべき資格が喀痰吸引等研修です。
もともと、たんの吸引や経管栄養は医師法第17条で定められた「医行為」にあたり、医師や看護師しか行えませんでした。しかし、特別養護老人ホーム・障害者支援施設・在宅などの現場で、看護職員が常時いない時間帯にも安全な医療的ケアの提供が必要だという声が高まり、2011年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正で、一定の研修を修了した介護職員等が医師の指示・看護職との連携のもとに行えるようになりました(厚生労働省「喀痰吸引等の制度」)。
この記事では、配下の解説記事と一緒に読むためのピラー(出発点)として、制度の全体像/第1〜第3号研修の違い/受講資格/カリキュラム/認定証の交付手続き/介護福祉士国家試験との関係までを、厚生労働省資料を一次ソースに整理します。具体的な「研修の取り方・スクール選び」「医療的ケア教員講習会の最新動向」は、それぞれ以下の解説記事で深掘りしていますので、本記事の関連セクションから合わせて読んでください。
喀痰吸引等研修とは|介護職が医療的ケアを行うための公的研修制度
喀痰吸引等研修は、介護職員等(介護福祉士を除く者)が、医師の指示・看護職員との連携のもとで喀痰吸引と経管栄養を行えるようにするための、都道府県知事登録の研修制度です。社会福祉士及び介護福祉士法附則第3条に定める「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けるための前提条件となります(厚生労働省「介護職による喀痰吸引等の研修カリキュラムについて(総論)」)。
制度ができた背景
たんの吸引・経管栄養は、本来は医師法第17条が定める医行為です。しかし、施設や在宅の現場で看護師が24時間配置されていない場面において、利用者の生命を守るために介護職員が事実上対応せざるを得ないケースが続いてきました。とくに筋萎縮性側索硬化症(ALS)や重症心身障害児・者などのケースでは、平成15〜17年に厚生労働省医政局長通知(医政発0717001号、医政発1020008号、医政発0324006号)で例外的にヘルパー等による吸引が許容され、これが制度化の出発点になりました。
2011年の社会福祉士及び介護福祉士法改正で、平成24年4月から正式に介護職員等が一定の条件下で実施できるようになり、厚生労働省令で第1号・第2号・第3号の3類型と研修カリキュラムが規定されました。
制度に関わる4つの主体
喀痰吸引等の制度は、以下の4つの主体が連動して動いています(厚生労働省「喀痰吸引等の制度(全体像)」)。
- 介護職員等:登録研修機関で研修を受け、都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けることで、特定行為を実施できる
- 登録研修機関:都道府県知事の登録を受け、講義・演習・実地研修を実施。修了証明書を交付する
- 登録特定行為事業者・登録喀痰吸引等事業者:自らの事業所として喀痰吸引等を実施するため都道府県知事の登録を受けた事業者。施設・訪問介護事業所など
- 都道府県:研修機関と事業者の登録・指導監督、認定証の交付、研修事業の実施を担う
つまり「介護職員が研修を修了して認定証を持っているだけ」では現場で実施できず、勤務先も登録特定行為事業者として登録している必要があります。研修受講を考える際は、就業先が事業者登録を受けているか(あるいは受ける見込みか)も合わせて確認しておきましょう。
介護福祉士の場合は別ルート
2015年(平成28年度試験合格者)以降に介護福祉士になる人は、養成課程または実務者研修の中で「医療的ケア」科目(講義50時間+演習)を履修するため、別途の喀痰吸引等研修は不要です。ただし、就業後に登録喀痰吸引等事業者で実地研修を修了するまでは、現場で実施することはできません。介護福祉士国家資格と医療的ケアの関係は、本記事の後半で改めて整理します。
第1号・第2号・第3号研修の違い|対象者・実施できる行為・研修時間
喀痰吸引等研修は、対象とする利用者と実施できる行為の範囲によって3類型に分かれます。社会福祉士及び介護福祉士法施行規則別表第1号(第1号研修)/別表第2号(第2号研修)/別表第3号(第3号研修)に対応します。
| 区分 | 対象者 | 実施できる行為 | 基本研修 | 実地研修 | 主な就業先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1号研修 | 不特定多数の利用者 | 喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)+経管栄養(胃ろう/腸ろう・経鼻)すべて | 講義50時間+演習 | 5行為すべて(口腔内吸引10回以上、他は20回以上) | 特養・老健・有料老人ホーム・グループホーム・訪問介護等 |
| 第2号研修 | 不特定多数の利用者 | 喀痰吸引(口腔内・鼻腔内)+経管栄養(胃ろう/腸ろう)など必要な行為のみ選択 | 講義50時間+演習(第1号と同じ) | 選択した行為のみ(口腔内吸引10回以上、他は20回以上) | 第1号と同じだが、気管カニューレ内吸引や経鼻経管栄養は実施しない事業所 |
| 第3号研修 | 特定の利用者(ALS、筋ジストロフィー、高位頸髄損傷、遷延性意識障害、重症心身障害等) | その利用者に必要な特定行為のみ | 講義8時間+演習1時間程度(合計9時間) | その特定の利用者に対する必要行為のみ(回数指定なし、安全確実にできるまで) | 障害者(児)サービス事業所、特別支援学校、訪問系 |
※出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則別表第1〜3号。
第1号と第2号は何が違うのか
第1号研修と第2号研修は基本研修(講義50時間+演習)が同一です。違いは「実地研修で全行為を行うか/必要な行為だけを選択して行うか」という点に集約されます。第2号で気管カニューレ内吸引や経鼻経管栄養の実地研修を行わなかった場合、その行為は現場で実施できません(あとから追加で実地研修を受けて認定証に追加することは可能)。
第3号研修だけが特殊な理由
第3号研修は「特定の利用者×特定の行為」を前提に設計されているため、講義時間が9時間と大幅に短く、実地研修の回数も決められていません。その代わり、利用者が変わるたびに、その利用者に対する実地研修を改めて受ける必要があります(厚生労働省「特定の者対象研修の実施要綱」)。在宅で1人のALS利用者を担当する重度訪問介護のヘルパーなどに適した制度設計です。
なお、社会福祉振興・試験センターの「実地研修を修了した喀痰吸引等行為の届出」では、介護福祉士登録に喀痰吸引等行為を付記できるのは第1号・第2号研修修了者のみで、第3号のみの修了者は付記申請ができないと明記されています。介護福祉士としてのキャリアパスを考える場合は、第1号または第2号研修を選ぶのが基本です。
認定後に実施できる5つの医療的ケア
第1号研修を修了し認定特定行為業務従事者認定証を取得した介護職員は、医師の指示書と看護職員との連携体制のもとで、以下の5つの行為を実施できます。第2号は実地研修で選択した行為のみ、第3号は特定の利用者に対する必要行為のみ実施できます(厚生労働省「研修カリキュラムについて(総論)」)。
1. 口腔内の喀痰吸引
カテーテルを口の中(咽頭の手前まで)に入れて、自力で出せない痰を吸引装置で取り除く行為。誤嚥や窒息の予防、肺炎の重症化防止に直結します。介護現場で最も実施頻度の高い行為で、第1号・第2号いずれでも対象。
2. 鼻腔内の喀痰吸引
鼻からカテーテルを挿入して、咽頭手前までの痰を吸引する行為。鼻腔は粘膜が薄く出血しやすいため、挿入の角度や圧力管理など慎重な技術が求められます。
3. 気管カニューレ内部の喀痰吸引
気管切開をして気管カニューレを挿入している利用者に対して、カニューレ内部に溜まった痰を吸引する行為。気管粘膜の損傷や低酸素血症のリスクが高いため、第2号研修ではこの行為のみ実地研修対象外とすることもあります。
4. 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
腹部に造設したろう孔(胃ろう・腸ろう)を通じて、栄養剤を注入する行為。注入前のチューブ位置確認、注入速度の管理、注入後の観察が研修で重点的に扱われます。
5. 経鼻経管栄養
鼻から胃まで挿入されたチューブを通じて栄養剤を注入する行為。チューブの位置確認は介護職員には認められず、看護職員が行った後で介護職員が注入を実施します。
これら5つの行為は、いずれも医師による文書での指示と、看護職員による事前確認・対象者の体調変化への対応を前提に実施されます。研修では「自分一人で完結する行為」ではなく、医療チームの一員として担う行為であることが繰り返し強調されます。
受講資格と申込ルート|介護福祉士の有無で変わる
喀痰吸引等研修の受講資格は、原則として「介護の業務に従事する者」であれば学歴・経験を問わず申し込めます。ただし、目指すキャリアによって最適な経路が変わります。
ケース1:これから介護福祉士を目指す人
介護福祉士の資格を目指す場合は、養成施設または実務者研修の中で「医療的ケア」科目(講義50時間+演習)を履修することが推奨されます。この科目は喀痰吸引等研修の第1号・第2号研修の基本研修と内容が共通しているため、別途受講する必要はありません。
そのうえで、就業後に登録喀痰吸引等事業者で実地研修を受けることで、現場での実施が可能になります。実務者研修の費用相場や受講ルートは実務者研修の費用相場で解説しています。
ケース2:介護福祉士の資格取得を目指さない人
介護福祉士を目指さず、現職の介護職員として早期に医療的ケアを実施したい場合は、登録研修機関で第1号研修または第2号研修を受講するのが最短ルートです。基本研修と実地研修をワンセットで提供しているスクールが多く、最短1〜4か月で修了できます(具体的なスクール選びは喀痰吸引等研修とは?資格の取り方・費用・1号2号3号の違いを参照)。
ケース3:在宅でALS等の特定利用者を担当する人
重度訪問介護で特定の利用者に対する喀痰吸引等を実施したい場合は、第3号研修を選びます。基本研修9時間と最短2日程度の実地研修で取得でき、費用も2〜5万円程度に抑えられます。ただし利用者が変わると改めて実地研修が必要なため、汎用性は低い点に注意が必要です。
申込ルート(共通)
- 登録研修機関を探す:勤務先の都道府県のウェブサイトに「登録研修機関一覧」が掲載されている。三幸福祉カレッジ、ニチイ学館、土屋ケアカレッジ等の全国規模スクールから、地域の福祉法人・医療法人運営のスクールまで多様
- 申込書類を提出:受講申込書、勤務証明書(勤務先がある場合)、本人確認書類など
- 受講料を納入:第1号10〜20万円、第2号10〜18万円、第3号2〜5万円が目安
- 基本研修(講義+演習)→ 実地研修 → 修了評価
- 修了証明書の交付:登録研修機関または都道府県知事から交付される
注意したいのは、修了証明書を受け取っただけでは現場で実施できないことです。次の章で解説する「認定特定行為業務従事者認定証」の交付申請を都道府県に対して行い、勤務先も登録特定行為事業者として登録されている必要があります。
カリキュラム・期間・費用の目安
厚生労働省令で定められた基本研修のカリキュラムは、第1号・第2号で共通の講義50時間と、各行為の演習で構成されます。第3号は講義8時間+演習1時間程度に圧縮されています。
基本研修【講義】カリキュラム(第1号・第2号共通)
| 講義項目 | 時間数 |
|---|---|
| 人間と社会 | 1.5時間 |
| 保健医療制度とチーム医療 | 2時間 |
| 安全な療養生活 | 4時間 |
| 清潔保持と感染予防 | 2.5時間 |
| 健康状態の把握 | 3時間 |
| 高齢者及び障害児・者の喀痰吸引概論 | 11時間 |
| 高齢者及び障害児・者の喀痰吸引実施手順解説 | 8時間 |
| 高齢者及び障害児・者の経管栄養概論 | 10時間 |
| 高齢者及び障害児・者の経管栄養実施手順解説 | 8時間 |
| 筆記試験 | 1時間 |
| 合計 | 50時間 |
基本研修【演習】の回数(第1号・第2号共通)
- 口腔内の喀痰吸引:5回以上
- 鼻腔内の喀痰吸引:5回以上
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引:5回以上
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養:5回以上
- 経鼻経管栄養:5回以上
- 救急蘇生法:1回以上
シミュレーター(吸引訓練モデル、経管栄養訓練モデル、心肺蘇生訓練用器材)を使い、評価票の全項目を「手順どおりに実施できている」と評価されるまで行います。1回の合格ではなく、5回連続で安定して実施できることが重要です。
実地研修の回数
- 口腔内の喀痰吸引:10回以上
- 鼻腔内の喀痰吸引:20回以上
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引:20回以上
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養:20回以上
- 経鼻経管栄養:20回以上
第3号研修については、特定の利用者に対して必要な行為を「安全・確実に実施できると評価されるまで」反復する設計で、回数は固定されていません。
受講料の目安
| 研修種別 | 受講料相場 | 標準受講期間 |
|---|---|---|
| 第1号研修 | 13万〜23万円程度 | 1〜4か月 |
| 第2号研修 | 10万〜18万円程度 | 1〜3か月 |
| 第3号研修(基本研修+実地) | 2万〜5万円程度 | 最短2日〜1週間 |
※都道府県・登録研修機関により幅があります。三幸福祉カレッジ第1号23万6,500円(税込)、土屋ケアカレッジ第3号基本2万2,000円+実地1万1,000円(税込)など。
費用負担を軽減する制度
- 勤務先による全額・一部負担:医療的ケアができる介護職員を確保したい施設では、受講料・実地研修先の確保まで法人が負担するケースが多い
- 都道府県の補助事業:都道府県によっては「介護職員等によるたんの吸引等の研修事業」として、登録研修機関への委託や受講料補助を行っている
- 教育訓練給付制度:第1号・第2号研修を厚生労働大臣指定講座として認定しているスクールでは、雇用保険の一般教育訓練給付(受講料の20%、上限10万円)の対象になる場合がある
認定特定行為業務従事者認定証の交付申請フロー
登録研修機関で研修を修了しても、それだけでは現場で喀痰吸引等を行うことはできません。修了者は住民票のある都道府県に対して「認定特定行為業務従事者認定証」の交付申請を行い、認定証の交付を受けてはじめて、登録特定行為事業者で実施できるようになります(社会福祉士及び介護福祉士法附則第4条)。各都道府県のウェブサイト(例:千葉県「介護職員等の喀痰吸引等の実施に伴う認定特定行為業務従事者認定証の発行について」、福岡県「介護職員が喀痰吸引等を実施するためには」)に申請様式と提出先が掲載されています。
申請から認定証交付までの5ステップ
- 研修修了証明書の受領:登録研修機関から「喀痰吸引等研修修了証明書」が交付される(基本研修と実地研修の両方が修了していること)
- 申請書類の準備:認定特定行為業務従事者認定証交付申請書、住民票の写し(本籍地記載・住所地以外の都道府県に申請する場合は不要のところもある)、社会福祉士及び介護福祉士法附則第4条第3項の欠格事由に該当しない旨の誓約書、研修修了証明書の写し、本人確認書類の写し
- 申請先都道府県へ郵送・持参:申請者の住民票記載の住所地を管轄する都道府県の高齢者福祉課・障害福祉課(自治体によって所管が異なる)へ提出。手数料は無料の自治体が大半
- 都道府県による審査:申請受領から交付まで概ね1か月程度。書類不備があると差戻しで延びるため、欠格事由誓約書の押印漏れ等に注意
- 認定証の交付:認定特定行為業務従事者認定証(A4サイズ程度)が郵送されてくる。実施できる行為が認定証に明記されており、第2号で実地研修を受けていない行為は記載されない
認定証取得後に必要な勤務先側の手続き
認定証を取得しても、勤務先の事業所が「登録特定行為事業者」または「登録喀痰吸引等事業者」として都道府県に登録されていなければ、現場で実施することはできません。事業者登録には看護師による指導体制、医師の文書指示の整備、ヒヤリハット報告の仕組みなどが要件になります。施設側で登録手続が未完了の場合は、人事・看護部門と連携して登録申請を進めてもらいましょう。
転居・追加行為・氏名変更時の手続き
- 都道府県をまたいで転居:転入先の都道府県へ「住所変更届」または再発行申請を行う(住民票記載地が認定証の管理権限を持つため)
- 第2号で実施行為を追加したい場合:未取得の行為について追加で実地研修を受け、修了証明書を添えて「変更交付申請」を行う
- 結婚等で氏名が変わった場合:認定証の書換交付申請(戸籍抄本添付)を行う
都道府県によって様式・添付書類の細部が異なる(例:埼玉県、愛知県)ため、必ず申請する都道府県の最新の案内を確認してください。
介護福祉士国家試験「医療的ケア」科目との関係
「介護福祉士の資格を取れば、自動的に喀痰吸引もできるのでは?」という質問を受けることがありますが、答えは「半分Yes、半分No」です。介護福祉士養成課程・実務者研修の中で履修する「医療的ケア」科目は、喀痰吸引等研修の基本研修部分に相当しますが、実地研修は別途必要だからです。
介護福祉士養成課程と喀痰吸引等研修の関係
| 区分 | 基本研修(講義・演習) | 実地研修 | 認定証 |
|---|---|---|---|
| 介護福祉士養成課程/実務者研修の「医療的ケア」科目 | 講義50時間+演習で履修済み | 含まれない(就業後に登録喀痰吸引等事業者で実施) | 不要(介護福祉士登録への「付記」で代替) |
| 第1号研修・第2号研修 | 講義50時間+演習 | 研修機関または提携施設で実施 | 都道府県知事から交付 |
| 第3号研修 | 講義8時間+演習1時間 | 特定の利用者に対して実施 | 都道府県知事から交付 |
介護福祉士登録への「付記」制度
2015年(平成28年度)以降に介護福祉士になった人は、就業先の登録喀痰吸引等事業者で実地研修を修了したあと、公益財団法人 社会福祉振興・試験センターに「実地研修を修了した喀痰吸引等行為の届出」を行うことで、介護福祉士登録証に喀痰吸引等行為が付記されます(社会福祉振興・試験センター「実地研修を修了した喀痰吸引等行為の届出」)。
この付記制度の重要なポイントは、介護福祉士の場合は都道府県の認定特定行為業務従事者認定証ではなく、登録証への「付記」で実施資格を証明すること。転職時には介護福祉士登録証のコピーで実施可能行為を確認できるため、自治体をまたぐ転職でも追加手続きが軽くなります。
第1号・第2号研修修了者と介護福祉士の違い
- 第1号・第2号研修修了者:認定特定行為業務従事者認定証で実施。介護福祉士登録に付記したい場合は、社会福祉振興・試験センターに「修了証明書の写し」を添えて届出可能
- 介護福祉士(医療的ケア科目履修者):別途研修不要だが、就業後に実地研修を修了するまで現場では実施できない。実地研修修了後に登録証に付記
- 第3号研修のみ修了者:認定証は交付されるが、社会福祉振興・試験センターによれば介護福祉士登録への付記はできない。介護福祉士としてのキャリアパスを描く場合は第1号または第2号を推奨
これから介護福祉士を目指す人で、医療的ケアにも早く関わりたい場合は「実務者研修で基本研修を済ませる→介護福祉士国家試験を受験→就業後に実地研修」というルートが最も効率的です。実務者研修の費用相場は介護福祉士実務者研修の費用相場で詳しく整理しています。
取得後のキャリアアップと年収への影響
喀痰吸引等研修は、初任者研修・実務者研修・介護福祉士のような「介護の標準キャリアパス」上の資格ではありませんが、現場で「医療的ケアができる介護職」という希少なポジションを得られるため、職域・配置・処遇の三方向で実利が出やすい資格です。
1. 配置可能な現場と職域の拡大
喀痰吸引等研修修了者は、特養・老健・有料老人ホーム・グループホームの夜勤帯のように看護職員が手薄になる時間帯にも対応できる人材として位置付けられます。とくに看護配置基準が低い施設では「研修修了者がいないと夜勤シフトを組めない」という構造的なニーズがあり、人事評価・昇格要件に組み込まれているケースもあります。
また、重度訪問介護でALS・筋ジストロフィー利用者を担当するヘルパーは第3号研修必須、特別支援学校での医療的ケア児支援員も第3号研修修了者が中心です。介護施設以外の領域へキャリアを広げる起点としても機能します。
2. 資格手当と給与への反映
厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果」によれば、実務者研修修了者の介護職員(常勤)の平均月給は約32万7,260円で、初任者研修修了者と比べて1〜2万円程度高い水準です。喀痰吸引等研修単独の集計はありませんが、求人媒体の調査では喀痰吸引対応可の介護職員に対して月額3,000〜10,000円程度の資格手当を支給する事業所が多く見られます。
また、処遇改善加算・特定処遇改善加算の配分ルールにおいて「経験・技能のある介護職員」の判定材料として喀痰吸引等研修修了が用いられる事業所では、加算原資の手厚い配分対象になりやすい傾向があります。
3. 転職市場での評価
看護小規模多機能型居宅介護(看多機)、有料老人ホームの介護専門職、医療対応型グループホーム、児童発達支援センターなど、医療的ケア提供を売りにする事業所は採用条件として喀痰吸引等研修修了を歓迎または必須としています。実務者研修・介護福祉士に喀痰吸引対応をプラスした「医療的ケアができる介護福祉士」は、求人票で年収レンジが20〜50万円ほど上振れる例も見られます。
4. 介護福祉士・ケアマネ・サービス提供責任者へのステップ
- 介護福祉士:実地研修済みであれば登録証への付記が可能。登録に付記があると、訪問介護のサービス提供責任者として喀痰吸引等を含むケアプラン設計・指導が可能
- サービス提供責任者・主任介護員:医療的ケアの指導役として配置されやすい。事業所が登録特定行為事業者になる際の指導員候補にも
- ケアマネジャー:医療的ケアが必要な利用者のケアプラン作成では、喀痰吸引の現場感覚があるケアマネが信頼されやすい
- 医療的ケア教員講習会:将来的に登録研修機関の指導者として登録されるルート(詳細は医療的ケア教員講習会2026年3月修了生誕生)
5. 注意したい「研修修了≠手当上乗せ」のケース
すべての事業所が資格手当を出すわけではありません。とくに以下のケースでは要注意です。
- 受講料を法人が全額負担した場合は「お礼奉公」として一定期間退職時に返還を求める規定がある
- 事業所が登録特定行為事業者になっていないと、認定証を持っていても現場で実施できず手当の根拠がない
- 処遇改善加算の配分ルールが「介護福祉士+勤続10年以上」を基準にしている事業所では、研修修了だけでは加算原資の配分対象にならない
転職や受講判断の際は、就業先の事業者登録の有無と資格手当の支給規程を必ず確認しておきましょう。
まとめ|介護職が医療的ケアと向き合う出発点として
喀痰吸引等研修は、社会福祉士及び介護福祉士法の改正で生まれた、介護職員等が医療的ケアの一部を担うための公的研修制度です。本記事のポイントを整理しておきます。
- 3類型:第1号は不特定多数×全行為、第2号は不特定多数×選択行為、第3号は特定の利用者×必要行為
- 基本研修は第1号・第2号で講義50時間+演習が共通、第3号は9時間に圧縮
- 実地研修は第1号・第2号で各行為10〜20回以上、第3号は安全に実施できると評価されるまで
- 認定証は住民票記載の都道府県へ申請、交付までおおむね1か月
- 勤務先の事業者登録がなければ認定証があっても実施不可
- 介護福祉士は別ルート(医療的ケア科目+実地研修+登録への付記)で対応
- キャリア・年収は手当数千円〜1万円、夜勤配置・サ責・主任介護員への昇格要件として作用
「研修を受ける/受けない」を判断する際は、就業先の事業者登録状況、第1号・第2号・第3号のどれが業務に合うか、費用負担の方法(自己負担/法人負担/教育訓練給付)の3つを必ず確認してください。具体的なスクール選び・最短ルートは喀痰吸引等研修とは?資格の取り方・費用・1号2号3号の違い、指導者育成側の最新動向は医療的ケア教員講習会2026年3月修了生誕生で深掘りしているので、本記事と合わせて読み進めてください。
医療的ケアは「介護職の領域が広がった」と同時に、利用者の生命に直接関わる行為を担う重い責任でもあります。研修制度の趣旨である「医師・看護師との連携を前提に、安全な医療的ケアを安定供給する」という出発点を忘れずに、自分のキャリアと利用者の安全のバランスを取りながらステップを踏んでいきましょう。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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喀痰吸引等研修の資格取得方法を詳しく解説。第1号・第2号・第3号の違い、研修内容、費用10〜20万円、期間8〜10日間、合格率90%以上。介護福祉士の免除制度や認定証取得の流れまで網羅。医療的ケアができる介護職を目指す方必見。

2026/4/14
医療的ケア教員講習会2026年3月修了生誕生|喀痰吸引等研修の指導者育成と介護カリキュラム連動の最新動向
2026年3月に医療的ケア教員講習会(厚生労働省指定講習会)の修了生が誕生。喀痰吸引等研修の指導者育成の現状、介護福祉士養成カリキュラムとの連動課題、指導看護師になるための要件を公的出典に基づき解説します。

2026/1/5
実務者研修の医療的ケアとは?喀痰吸引・経管栄養の演習内容を解説
実務者研修で学ぶ医療的ケア(喀痰吸引・経管栄養)の内容を徹底解説。50時間のカリキュラム構成、シミュレーター演習の流れと評価基準、修了後に必要な実地研修の手続き、認定特定行為業務従事者の登録方法まで紹介します。

2026/1/5
認定介護福祉士とは?資格の取り方・費用・研修内容を徹底解説
認定介護福祉士の資格取得方法を詳しく解説。介護福祉士との違い、養成研修Ⅰ類・Ⅱ類の内容、費用30~60万円の内訳、取得のメリット・キャリアパスまで網羅。5年以上の実務経験者必見の完全ガイド。

2026/1/5
認知症ケア専門士とは?資格の取り方・試験・合格率を徹底解説
認知症ケア専門士の資格取得方法を詳しく解説。2025年度試験日程、受験資格、合格率約50%の対策法、費用約2万円の内訳、勉強方法まで網羅。認知症ケアの専門性を高めたい介護職必見のガイド。