厚労省、令和9年度改定で個別サービス議論を開始|小多機・認知症GHの赤字3〜4割に「基本報酬の底上げを」
介護職向け

厚労省、令和9年度改定で個別サービス議論を開始|小多機・認知症GHの赤字3〜4割に「基本報酬の底上げを」

2026年5月25日の第257回介護給付費分科会で、令和9年度介護報酬改定に向けた個別サービスの議論が始動。小多機・看多機・認知症GHが俎上に載り、赤字事業所が3〜4割という厳しい経営環境に委員から危機感が相次いだ。介護職の処遇やキャリアへの影響を読み解く。

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2026年5月25日、厚生労働省は第257回社会保障審議会・介護給付費分科会を開き、令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けた個別サービスごとの議論を開始した。まず俎上に載ったのは小規模多機能型居宅介護(小多機)、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)、認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム=GH)の地域密着型3サービス。赤字事業所が小多機40.6%、看多機34.4%、認知症GH30.7%にのぼる厳しい経営環境を背景に、委員からは基本報酬の底上げを求める声が相次いだ。現場の介護職にとっては、人員配置基準の弾力化や賃上げ財源の行方が今後の働き方を左右する重要な分岐点となる。

目次

解説動画

「来年度の介護報酬で、自分が働く事業所はどう変わるのか」――2026年6月に施行される臨時改定(処遇改善加算の対象拡大)が一段落したいま、その先に控える 令和9年度(2027年度)の本改定 に向けた議論が、サービスごとの具体論へと踏み込み始めた。

2026年5月25日、厚生労働省は第257回社会保障審議会・介護給付費分科会をWeb会議形式で開催した。前回(4月27日)の分野横断的なテーマ設定に続く第2段として、今回は小多機・看多機・認知症GHという地域密着型サービスの現状と課題が初めて個別に検討された。提示されたのは、赤字事業所が3〜4割にのぼり、人材確保が追いつかず、登録枠に空きが出るという「岐路に立つ」生々しい実態だった。

これらのサービスは、利用者が住み慣れた地域・自宅で暮らし続けることを支える、地域包括ケアの最前線である。その担い手が経営難で疲弊すれば、影響は事業者だけでなく、そこで働く介護職の待遇、そして地域で暮らす高齢者の選択肢にまで及ぶ。本記事では、分科会で示された経営指標と論点を一次資料で確認したうえで、この議論が現場で働く介護職の処遇・人員配置・キャリア選択にどう跳ね返ってくるのかを読み解く。

厚労省が示した3サービスの経営難と「基本報酬底上げ」要求

俎上に載った地域密着型3サービス

第257回分科会で個別議論の対象となったのは、いずれも住み慣れた地域での生活を支える「地域密着型サービス」の中核を担う3類型である。小規模多機能型居宅介護(小多機)は、1つの事業所で「通い」「泊まり」「訪問」を柔軟に組み合わせて提供するサービスで、登録定員は29人以下と定められている。看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、小多機の機能に訪問看護を加え、医療ニーズの高い在宅利用者を支える類型だ。認知症対応型共同生活介護(認知症GH)は、認知症の高齢者が少人数のユニットで共同生活を送る住まい型のサービスである。

厚労省は今回、これら3サービスについて「深刻な人材難への対応」「サービス提供体制の確保」「求められる役割・機能の発揮」を共通の検討軸として提示した。いずれも、夜間を含めた24時間365日の体制維持が前提となるため、人手不足の影響を最も受けやすいサービス群でもある。この3サービスが個別議論の口火を切った背景には、地域包括ケアの「在宅・住まい」を支える要でありながら、最も経営が揺らいでいるという問題意識がある。

厚労省が示した経営指標

分科会資料では、各サービスの収支差率(介護サービスの収入に対する利益の割合)が具体的に示された。令和5年度介護事業経営実態調査をベースにすると、小多機の収支差率は2.3%、看多機は5.0%、認知症GHは2.2%である。全サービス平均の収支差率が4.7%前後であることを踏まえると、小多機と認知症GHはいずれも平均を大きく下回る水準だ。

さらに深刻なのが赤字事業所の割合である。令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算ベース)によると、赤字経営に陥っている事業所の割合は小多機で40.6%、看多機で34.4%、認知症GHで30.7%にのぼった。3〜4割の事業所が赤字という数字は、これらのサービスが「経営体力の限界」に近づいていることを物語っている。

全産業的な物価高・人件費上昇という逆風

これらの数字は、3サービス固有の問題というより、介護業界全体が直面する逆風の縮図でもある。同じ令和7年度経営概況調査では全サービス平均の収支差率が前年比横ばいで頭打ちとなり、収入に占める給与費の割合がじわじわと上昇している実態が示された。光熱費や食材費といった物価高に加え、人材獲得競争の激化で人件費を上げざるを得ない一方、介護報酬は公定価格のため事業所が価格転嫁できない。収支差率の薄い小多機・認知症GHは、この「コスト増を売上に反映できない」構造の影響を真っ先に受けるため、わずかな環境悪化でも赤字に転落しやすい。委員の危機感の根にあるのは、こうした構造的なコスト圧迫である。

「基本報酬の底上げを」という現場の声

こうしたデータを受け、分科会では基本報酬の引き上げを求める意見が目立った。厚労省が論点に掲げた「小多機のさらなる普及」という記載に対しては、委員から「単純に〝普及を目指す〟でいいのか。場合によっては類型の多機能化を図って、サービスとマンパワーを集中させることも検討すべきだ」「半数近くの事業所が赤字という現状で、全国的な整備推進は難しい」といった意見が上がり、まず足元の経営を立て直す基本報酬の見直しを優先すべきとの主張が示された。

利用者・家族側の視点からは、認知症の人と家族の会の和田誠代表理事が「本人や家族のニーズが減ったわけではなく、利用したくてもできない壁があるのではないか」と述べ、入所に伴うケアマネジャーの変更といった利用の障壁となる仕組みの見直しを求めた。また日本看護協会の田母神裕美常任理事は、看多機のない市町村が7割以上にのぼる現状を踏まえ「区域外利用も一つの方策」としたうえで、区域外利用に伴う事務負担の軽減など、利用しやすい仕組みづくりを要望した。

データが映す「岐路」――3サービスそれぞれの現状と課題

小多機:空く登録枠と「2021年度ピーク」からの減少

小多機の登録者数は緩やかな増加傾向にあるものの、1事業所あたりの平均登録者数は22.6人にとどまる。登録定員が29人であることを踏まえると、充足率は約78%で、登録枠に空きが続いている状態だ。さらに、小多機の請求事業所数は2021年度をピークに減少傾向に転じている。利用者の確保と職員の確保がともに難航し、「通い・泊まり・訪問」を一体で回すという小多機本来の強みを発揮しきれていない構図が浮かぶ。

小多機は1事業所あたりの定員が小さいため、登録枠が数人空くだけで収入が大きく目減りする。一方で職員は通い・泊まり・訪問のすべてに対応できる体制を常に維持しなければならず、固定的な人件費は下げにくい。この「収入は変動しやすく、コストは固定的」という非対称が、充足率の低下を即座に赤字へ結びつけてしまう。分科会では、この打開策として「柔軟な人員配置や人材の有効活用」のあり方が論点に挙げられた。限られた職員で通い・泊まり・訪問を成立させるには、時間帯や利用状況に応じた弾力的な配置が不可欠だが、現行基準ではその柔軟性に限界があるとの指摘である。

看多機:伸びる需要と偏る整備

看多機は事業所数・登録者数・利用者数のいずれも着実に伸びており、収支差率5.0%と3サービスの中では相対的に堅調だ。要介護4・5の重度者や、医療保険の訪問看護を併用するような医療ニーズの高い利用者を多く受け入れている実態がデータで示された。在宅での看取りや医療的ケアを地域で支える拠点として、その役割は年々重みを増している。

一方で、看多機が整備されていない市町村が7割以上にのぼり、地域間の普及格差が大きいことが課題とされた。整備が進まない地域への対応や、地域の医療機関・訪問看護ステーションとの連携強化、限られた医療・介護人材をどう配置するかが論点として整理された。看多機は看護師と介護職の双方を確保しなければ成り立たないため、医療人材の採用難がそのまま開設のハードルになる。需要が確実にありながら供給が追いつかないこの構造をどう崩すかが、改定の焦点の一つになる。

認知症GH:重度化と夜間配置のジレンマ

認知症GHは収支差率2.2%と低水準にとどまる一方、利用者の平均要介護度は2.74(令和5年)と年々上昇し、重度化が進んでいる。ユニット数(1〜3ユニット)や事業所規模によって収支差率にばらつきがあることも示された。小規模な事業所ほど固定費を吸収しにくく、経営が苦しくなりやすい構造だ。

重度化に伴い、認知症の行動・心理症状(BPSD)への対応や看取り期の医療連携の強化が急務とされた。とりわけ大きな論点となったのが夜間体制である。夜間の適切なケアの確保と職員の負担軽減を両立させるため、「夜間配置基準の見直しや、見守り機器・インカムといったテクノロジーの活用」が明確に俎上に載せられた。利用者が重度化するほど夜間の見守り・対応の負担は増すが、収支差率の薄さゆえに人員を厚くする余裕はない――この板挟みが、認知症GHの経営難の核心にある。

【考察】経営難は介護職に何をもたらすか――処遇・人員・職場選びへの示唆

「赤字3〜4割」は処遇のしわ寄せとして現場に届く

ここからは、この議論が現場で働く介護職にとって何を意味するのかを掘り下げたい。収支差率2%台、赤字事業所3〜4割という数字は、経営者だけの問題ではない。事業所の利益が薄ければ、まず削られるのは賞与の原資や昇給の幅であり、欠員が出ても補充採用に踏み切れず、結果として一人あたりの夜勤回数や日中の担当利用者数が増える。小多機や認知症GHは「通い・泊まり・訪問の一体運営」や「24時間のユニットケア」という構造上、職員の頭数が減るとサービスそのものが回らなくなる。つまり赤字経営は、賃金の伸び悩みと業務負担の増大という二重のしわ寄せとなって、現場の職員に届きやすいサービスなのだ。

逆に言えば、令和9年度改定で基本報酬が底上げされれば、その効果が比較的ダイレクトに人件費へ向かいやすいサービスでもある。処遇改善加算が「上乗せ」の賃金原資であるのに対し、基本報酬は事業所の屋台骨そのものを支える。委員が口を揃えて「加算ではなく基本報酬の底上げを」と求めたのは、加算頼みの賃上げには限界があり、経営の土台が崩れれば加算を取りに行く余力すら失われる、という現場感覚の裏返しだと読める。

「夜間配置基準の見直し」は諸刃の剣

もう一つ、介護職が注視すべき論点が夜間配置基準の弾力化だ。見守り機器やインカム、介護DXの導入を前提に配置基準を緩和する方向性は、職員一人あたりの心理的負担を機器で補い、少ない人数でも安全を保とうとする試みである。テクノロジーが正しく機能すれば、深夜の巡回負担やナースコール対応のストレスは確かに軽くなりうる。

ただし、配置基準の緩和は「少人数でも回せる」という前提が独り歩きすると、人員削減の口実になりかねない危うさをはらむ。機器の導入コストや習熟負担、夜間に急変が起きたときの一人体制の不安――こうした現場の実情を伴わない緩和は、かえって職員の離職を招く。今後秋以降の本格議論では、激変緩和措置や安全担保の条件をどこまで具体的に設計できるかが、現場にとっての分かれ目になる。働き手の側も、求人票の「夜間配置」や「導入済みの介護機器」を、職場選びの実質的な判断材料として見る視点が一層重要になるだろう。

いま現場の介護職ができる備え

改定の中身が固まるのは年末以降だが、現場で働く側にも「待つ」以外にできることがある。第一に、自分の事業所がどのサービス類型で、収支構造のどこが弱いのかを大まかにでも把握しておくことだ。小多機なら登録者数の充足率、認知症GNなら利用者の重度化と夜間体制――自分の職場の「経営の弱点」を知っていれば、改定で何が変わると待遇に効くのかを自分ごととして読めるようになる。

第二に、見守り機器や記録の電子化といった生産性向上の取り組みに前向きに関わっておくことは、今後の配置基準議論の中で「テクノロジーを使いこなせる人材」としての価値を高める。そして第三に、もし現職の経営が長く赤字で改善の見込みが薄いなら、改定を待たずに地域密着型の専門性を評価してくれる職場へ移ることも、キャリアを守る現実的な選択肢だ。制度の行方を見据えつつ、自分の市場価値を能動的に高める姿勢が、改定の波を追い風に変える鍵になる。

処遇改善の議論との二重構造を理解する

もう一点、混同しやすいので整理しておきたいのが、2026年6月の臨時改定(処遇改善加算の対象拡大)と、今回始まった令和9年度本改定の関係である。前者はすでに決まった「上乗せの賃金原資」を広げる施策であり、後者はサービスごとの基本報酬や人員基準そのものを見直す本格改定だ。臨時改定で加算が手厚くなっても、基本報酬が薄いままでは事業所の体力は回復せず、結局は加算分が経営の穴埋めに回って職員の手取りに十分届かない、という事態も起こりうる。だからこそ現場団体は「加算ではなく基本報酬を」と繰り返している。介護職としては、自分の給料がどこから出ているのか――基本報酬部分なのか加算部分なのか――という二重構造を理解しておくと、改定ニュースを自分の待遇と結びつけて読めるようになる。

今後のスケジュールと業界・地域への波及

個別サービス議論はこの先どう進むか

今回の第257回分科会は、令和9年度改定に向けた「個別サービスの第1ラウンド」の入口に過ぎない。地域密着型3サービスに続き、訪問・通所・施設系の各サービスについても順次、現状と課題が議論されていく見通しだ。例年の改定スケジュールに照らせば、夏にかけて各サービスの論点出しと事業者団体ヒアリングが進み、秋(10月以降)に単位数や基準を含む第2ラウンドの本格議論へ移行する。年末には改定率(プラス何%か)が予算編成の中で決まり、令和9年(2027年)1月ごろに改定案が諮問・答申され、同年4月施行という流れになる。

つまり、いま示された「赤字3〜4割」「登録枠の空き」「夜間配置の限界」といった論点が、実際の単位数や加算の形になって現れるのは年末以降だ。今回の議論はその「初期設定」であり、ここで現場の危機感がどれだけ強く記録されるかが、後半戦の改定幅を左右する。逆に言えば、5月時点でこれだけ赤字割合の高さが資料に明記されたことは、基本報酬の底上げを正当化する材料として残る。

改定率と財源をめぐる綱引き

もっとも、現場が望む「基本報酬の大胆な底上げ」が実現するかは、最終的に改定率と財源の問題に行き着く。介護報酬の財源は、40歳以上が納める介護保険料と、国・自治体が負担する税金、そして利用者の自己負担で賄われている。基本報酬を上げれば、その分だけ保険料や公費の負担、利用者の自己負担も増える。すでに制度創設時から保険料は大きく上昇しており、現役世代やシニア層の負担増には限界があるとの声も根強い。

このため、改定の議論は常に「現場の経営・処遇を守るための増額」と「制度の持続可能性を保つための抑制」のあいだの綱引きになる。地域密着型3サービスの赤字割合の高さは増額を後押しする材料だが、財政当局からは効率化や報酬の「メリハリ付け」を求める圧力も強い。年末の改定率がプラスでまとまるか、どの程度の幅になるかは、介護職の賃上げ余地を直接左右する最大の変数だ。

人材確保政策・地域包括ケアとの接続

3サービスの議論は、単独の報酬問題ではなく、人口減少下の地域包括ケアをどう維持するかという大きな政策文脈の上にある。小多機・看多機・認知症GHはいずれも「住み慣れた地域で暮らし続ける」ことを支える在宅・住まいの拠点であり、これらが赤字で撤退すれば、その地域の在宅介護の選択肢そのものが細る。とりわけ看多機が未整備の市町村が7割という偏在は、医療ニーズを抱える高齢者の在宅生活を地域格差にさらす。

介護職のキャリアという観点では、こうした地域密着型サービスは「認知症ケアの専門性」「多機能な対応力」「医療連携のスキル」を磨ける現場でもある。報酬の底上げと配置の合理化が適切に進めば、これらは負担の重さに見合った専門性を評価される職場になりうる。逆に改定が中途半端に終われば、人材流出が加速し、サービス縮小が地域から始まる。令和9年度改定は、地域密着型サービスで働く人にとって、待遇と働きやすさの両面を左右する重要な節目になる。

介護職一人ひとりにとっては、こうしたマクロな財源論が、最終的に毎月の給与明細や夜勤手当という形で跳ね返ってくる。改定率の数字を「自分の年収にいくら効くか」という視点で追う習慣をつけておきたい。

まとめ

2026年5月25日の第257回介護給付費分科会は、令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けた個別サービス議論の幕開けとなった。最初に俎上に載った小多機・看多機・認知症GHは、いずれも地域包括ケアの中核を担いながら、収支差率2〜5%台、赤字事業所3〜4割という厳しい経営環境に置かれている。委員からは加算頼みではなく基本報酬そのものの底上げを求める声が相次ぎ、同時に夜間配置基準の見直しやテクノロジー活用といった人員配置の合理化も論点に挙がった。

現場で働く介護職にとって、この議論は他人事ではない。経営の苦しさは賃金の伸び悩みと業務負担の増大として届きやすく、逆に基本報酬が底上げされればその効果は人件費へ向かいやすい。秋以降の本格議論で、配置基準の緩和が「安全と待遇を伴う合理化」になるか「人員削減の口実」になるかは、いまから注視する価値がある。改定率と財源の綱引きという最大の変数を横目に見ながら、地域密着型サービスで培える専門性を待遇に見合うキャリアへとつなげられるかどうかが問われている。自分の職場の経営構造を理解し、生産性向上の取り組みに関わり、必要なら専門性を評価する職場を選び直す――そうした能動的な備えこそが、改定の波を追い風に変える第一歩になるだろう。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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