在宅高齢者の転倒を防ぐ住環境改修|介護保険20万円給付の使い方と費用相場
ご家族・ご利用者向け

在宅高齢者の転倒を防ぐ住環境改修|介護保険20万円給付の使い方と費用相場

在宅高齢者の転倒の約7割は居室・玄関・浴室で発生。介護保険の住宅改修費20万円給付の対象6種目を転倒予防効果と費用相場で整理し、危険箇所セルフチェックから事業者選定・申請までを家族視点で解説。

ポイント

この記事のポイント

在宅高齢者の転倒は居室・玄関・浴室の3か所だけで全体の約7割を占め、住環境改修で予防可能です(東京消防庁・長寿科学振興財団データ)。介護保険の住宅改修費(生涯20万円・自己負担1〜3割)は手すり設置・段差解消・滑り止め床材・引き戸交換・洋式便器化・付帯工事の6種目が対象。ケアマネに相談→事前申請→着工が必須で、危険箇所セルフチェックから事業者選定・優先順位付けまでを家族視点でまとめます。

目次

「親が家のなかでつまずいた」「夜トイレに行く途中でヒヤッとした」――そんな小さなサインを軽く受け止めてしまうと、大腿骨頸部骨折や寝たきりという取り返しのつかない結果につながりかねません。厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」によれば、要介護になった原因の13.9%は「骨折・転倒」で、認知症・脳卒中に次ぐ第3位を占めています。

そして転倒の大多数は外出先ではなく自宅で起きます。東京消防庁の救急搬送データでは、住居等居住場所での「ころぶ」事故の9割以上が屋内で発生し、消費者庁の調査でも自宅でケガをした高齢者の経験場所として「階段」「浴室・脱衣所・洗面所・トイレ」が上位を占めています。つまり、転倒予防の最大のレバーは「住み慣れたわが家の環境を整えること」にあります。

この記事は、介護を担うご家族が「どこから改修すべきか」「介護保険の20万円給付をどう使うか」「いくらかかるか」「失敗を避けるには」を一気通貫で判断できるよう、厚生労働省・東京消防庁・消費者庁・長寿科学振興財団・日本転倒予防学会の公的データに基づき構成しました。既存の「転倒予防の3本柱(住環境・運動・薬剤)」記事や「住宅改修申請手順」記事と異なり、本記事は「転倒予防の視点から住宅改修を逆算する」ことに焦点を絞っています。

在宅高齢者の転倒はどこで起きているか|居室・玄関・浴室で全体の約7割

住宅改修の優先順位を決めるには、まず「どこで事故が起きているのか」をデータで把握する必要があります。家族の主観的な「危なそうな場所」と、統計的に転倒が多発している場所は一致しないことが多いからです。

住宅内事故発生場所の統計(長寿科学振興財団・国民生活センター調べ)

長寿科学振興財団「健康長寿ネット」が国民生活センター調査をもとにまとめた65歳以上の住宅内事故発生場所は次のとおりです。

  • 居室:45.0%
  • 階段:18.7%
  • 台所・食堂:17.0%
  • 玄関:5.2%
  • 洗面所:2.9%
  • 風呂場:2.5%
  • 廊下:2.2%
  • トイレ:1.5%
  • その他:4.4%

居室・階段・玄関の上位3か所で約69%、ここに台所を加えると86%を占めます。一方、東京消防庁の救急搬送データでは「ころぶ」事故の発生場所として居室・寝室が最多、次いで玄関・勝手口、廊下・縁側、トイレ・洗面所、台所の順とされており、調査ソースによって順位は若干異なるものの「居室と玄関が2大ホットスポット」という結論は共通しています。

「軽症だから大丈夫」が一番危ない

消費者庁の「住環境における高齢者の安全等に関する調査」では、けがの種類として「打撲」「擦り傷」が最多ですが、転倒はたとえ軽症でも「次の転倒」と「転倒恐怖症」を呼び込むのが本当の怖さです。日本転倒予防学会の解説によれば、転倒後に「また転ぶのが怖い」という不安(post-fall syndrome)から外出や歩行を避けるようになり、筋力・バランスがさらに衰え、結果としてフレイル進行と次の転倒リスク上昇という負のスパイラルに陥ります。

大腿骨近位部骨折は寝たきりへの最短ルート

転倒で最も恐れられているのが大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折)です。日本整形外科学会のガイドラインによれば、年間新規患者数は2030年には29万人に達すると推計され、国際的なメタ解析(CHANCES project)では骨折後1年以内の死亡ハザード比は約2.78倍に上昇します。骨折そのものよりも、術後の深部静脈血栓・肺塞栓・誤嚥性肺炎・心不全といった合併症と、長期臥床による全身機能低下が原因です。

つまり「居室・玄関・浴室の改修で1回の転倒を防ぐ」ことが、寝たきりを防ぎ要介護度の進行を遅らせる最も費用対効果の高い投資になります。

家のなかの危険箇所セルフチェック|場所別26項目で「次の改修」を見つける

住宅改修事業者やケアマネに相談する前に、家族で自宅を一巡してチェックすると、優先順位の判断材料が揃います。日本転倒予防学会・消費者庁・東京消防庁・国立長寿医療研究センターの注意喚起資料を統合し、場所別に転倒リスクの高い項目をまとめました。1つでも該当すれば改修・環境調整の検討対象と考えてください。

居室・寝室(最多発生場所)

  • カーペット・ラグマット・電気コードが床に出ている
  • ベッドから立ち上がる位置に手すりがない
  • 夜間トイレに行く動線の足元が暗い(足元灯がない)
  • 家具の角や脚が動線に出っ張っている
  • 布団・畳の生活で立ち座り時にバランスを崩す

玄関・上がり框

  • 上がり框の段差が15cm以上ある
  • 靴の脱ぎ履きで座る場所(玄関ベンチ)がない
  • 上がり框の前後に手すり・縦手すりがない
  • 玄関タイルが濡れると滑る素材
  • 玄関マットが段差の真上にずれて敷かれている

浴室・脱衣所

  • 浴槽のまたぎ高が40cm以上ある
  • 洗い場の床が濡れると滑る
  • 浴室入口にまたぎ段差がある
  • 浴槽縁・洗い場入口・立ち上がり位置に手すりがない
  • 脱衣所と浴室の温度差が大きい(冬季ヒートショックリスク)

トイレ・廊下

  • トイレが和式または高さの低い洋式
  • 便座から立ち上がる位置に縦手すりがない
  • トイレドアが内開き(中で倒れた場合に開けられない)
  • 廊下に長い手すりがない
  • 廊下の床が滑りやすい(フローリングにワックスのみ)

階段

  • 階段の片側または両側に手すりがない
  • 段鼻(段差の縁)が見分けにくい同色
  • 階段灯が暗いまたは足元に影をつくる位置にある
  • 滑り止め(ノンスリップ材)が貼られていない

共通項目

  • 夜間の照明が天井灯のみで足元灯がない
  • 戸が重い開き戸で開閉時にバランスを崩しやすい

このセルフチェックの結果をスマホで写真撮影しておき、ケアマネ・住宅改修事業者・理学療法士/作業療法士(PT/OT)に共有すると、後述の「住宅改修が必要な理由書」の作成がスムーズになります。

介護保険「住宅改修費」対象6種目を転倒予防効果と費用相場で比較

介護保険の住宅改修費(生涯20万円・自己負担1〜3割)の対象工事は、平成11年厚生省告示第95号「厚生労働大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類」で次の6種目に限定されています。それぞれを「転倒予防効果」と「費用相場」で整理すると、20万円という限られた給付枠をどう配分するかの判断材料になります。

① 手すりの取付け|転倒予防効果:★★★★★

廊下・便所・浴室・玄関・玄関から道路までの通路などに、転倒予防または移動・移乗動作を補助する目的で設置するもの。下地補強の付帯工事も給付対象です。

費用相場:1か所2万〜6万円、L字型・縦/横の組み合わせで3万〜10万円。玄関・トイレ・浴室・階段の4か所一括施工で15万〜25万円程度。「玄関アプローチ+上がり框+廊下+トイレ+浴室」を計画的に組むと20万円枠でほぼ網羅できます(複数業者見積もりが前提)。

② 段差の解消|転倒予防効果:★★★★★

居室・廊下・玄関・浴室・トイレ間の段差をスロープ設置や床のかさ上げで解消する工事。スロープ設置に伴う転落防止柵・立ち上がりの設置も付帯対象です。

費用相場:室内段差解消(敷居撤去・スロープ設置)2万〜15万円、浴室入口段差解消(床かさ上げ+給排水工事)15万〜30万円、玄関外スロープ15万〜35万円。注意:広い部屋の床を全面嵩上げするような大規模工事は「個人の資産形成」に該当し、自治体によっては不支給と判断されます。

③ 滑りの防止・床材変更|転倒予防効果:★★★★☆

浴室の床を滑りにくい床材へ変更、廊下のフローリングを滑りにくい床材へ張替え、屋外通路の砂利からコンクリート・タイルへの変更などが対象。

費用相場:浴室床材変更5万〜10万円、廊下床張替え(10畳程度)15万〜25万円、玄関タイル張替え5万〜15万円。

④ 引き戸等への扉の取替え|転倒予防効果:★★★☆☆

開き戸を引き戸・折戸・アコーディオンカーテンに取り替える工事。扉の撤去や、ドアノブを使いやすいレバーハンドルに変更する付帯工事も対象。

費用相場:室内開き戸→引き戸交換8万〜20万円、トイレドアを引き戸に変更10万〜20万円、玄関扉の引き戸化20万〜40万円(玄関は給付枠を超えやすい)。

⑤ 洋式便器等への便器の取替え|転倒予防効果:★★★☆☆

和式便器を洋式便器に取り替える工事。便器の取替えに伴う給排水設備工事(水洗化・簡易水洗化を除く)・床材変更も付帯対象。注意:すでに洋式の便器を温水洗浄便座付きに替えるだけの工事は対象外、補高便座の設置のみも対象外(福祉用具購入で対応)。

費用相場:和式→洋式変更(給排水・床材含む)18万〜35万円。

⑥ その他付帯工事|転倒予防効果:上記に準ずる

①〜⑤に付帯して必要となる工事。手すり下地補強、段差解消のための給排水工事、扉交換のための壁・柱改修、便器交換時の床材変更などが該当します。

転倒予防の優先順位(編集部の独自整理)

20万円という限られた給付枠で最大の転倒予防効果を得るには、次の順序で改修を検討するのが合理的です。

  1. 手すり(特に玄関上がり框・浴室入口・トイレ縦手すり・階段):費用対効果が最も高い。1か所2〜6万円で済むため、複数箇所を組み合わせやすい
  2. 段差解消(玄関・浴室入口):転倒の物理的原因を取り除く
  3. 滑り防止(浴室床材・廊下):ヒートショック対策と組み合わせて優先
  4. 引き戸化(トイレ・浴室):握力低下・車椅子化を見越して
  5. 洋式便器化:和式が残っている場合のみ

申請から施工までの流れ|ケアマネ相談→事前申請→着工→償還払い/受領委任払い

介護保険の住宅改修費は「事前申請」が絶対要件で、着工後に申請しても給付は受けられません(八王子市・薩摩川内市・恵庭市など全国共通)。標準的な流れは次のとおりです。

Step 1:ケアマネジャーに相談(所要1〜2週間)

担当ケアマネジャーまたは地域包括支援センターの主任ケアマネに、転倒のヒヤリ・ハット事例と前述のセルフチェック結果を伝えます。要支援1以上の認定を受けていれば対象(要介護認定の申請からの場合は認定結果が出るまで2〜3週間)。

Step 2:理由書の作成(所要1週間)

「住宅改修が必要な理由書」を担当ケアマネが作成します。これは保険者(市区町村)が必要性を判断する最重要書類で、対象者の心身の状況、日常生活上の動線、住宅の状況、福祉用具の導入状況を具体的に記載します。家族でセルフチェック写真を共有しておくと、理由書の精度が上がります。

Step 3:複数業者から見積もり取得(所要2週間)

住宅改修事業者に現地調査を依頼し、見積書・図面・改修前写真を作成してもらいます。最低2〜3社の相見積もりを推奨します。介護リフォーム専門業者、地元工務店、福祉用具貸与事業所兼業の事業者、ハウスメーカーのリフォーム部門など、業者ごとに見積もりの精度と提案内容が大きく異なります。

Step 4:事前申請(保険者の審査:2〜4週間)

市区町村の介護保険担当窓口に以下の書類を提出します。

  • 住宅改修費 事前申請書
  • 住宅改修が必要な理由書(ケアマネ作成)
  • 工事費見積書・内訳書
  • 改修前写真(撮影日入り、A4台紙にL判で2〜3枚)
  • 図面(平面図、動線が分かるもの)
  • 住宅所有者の承諾書(本人所有でない場合)

保険者が「事前確認結果通知」を発行するまでは絶対に着工しないこと。口頭・電話のみの「事前相談」では正式申請にあたらない自治体が多いため、必ず書面で承認を受けます。

Step 5:施工(所要数時間〜2週間)

承認後に着工。手すり1〜2か所なら半日、浴室・トイレ全面改修なら1〜2週間が目安です。施工中の写真も撮影してもらいます。

Step 6:支給申請(着工後1〜2か月)

工事完了後、領収書・工事費内訳書・改修後写真を添えて支給申請を行います。支払い方法は2種類:

  • 償還払い:利用者が業者に全額を支払い→市区町村から後日9〜7割が払い戻される(一時的に20万円を立て替える必要あり)
  • 受領委任払い:利用者は自己負担分(1〜3割)のみを業者に支払い、保険給付分は市区町村から業者に直接支払われる(立て替え不要)

受領委任払いを使うには、事前に市区町村と契約している事業者であること、利用者からの届出(受領委任払い届出書)が必要です。家計負担を抑えたい場合は受領委任払いが安心ですが、対応可能な事業者がエリアによっては限られる点に注意してください。

ケアマネ・住宅改修事業者選びのコツとよくある失敗

住宅改修で家族が後悔するパターンは「業者まかせで本人の動線を確認しなかった」「相見積もりを取らずに高い見積もりを呑んだ」「PT/OTの助言を受けなかった」の3つに集約されます。回避策をまとめます。

ケアマネジャー・地域包括支援センターを「最初の窓口」に

住宅改修は介護保険サービスの一環なので、必ず担当ケアマネ(介護予防の場合は地域包括支援センター)が最初の相談窓口になります。ケアマネは「住宅改修が必要な理由書」を作成するだけでなく、地域に詳しい住宅改修事業者のリスト提供、福祉用具貸与・購入との組み合わせ提案、複数業者の見積もり比較のアドバイスまで担います。「業者を1社しか紹介しない」「特定業者を強く推す」ケアマネに違和感を持ったら、地域包括支援センターに別案を相談しましょう(ケアマネと特定業者のキックバック関係が問題化した事例が過去に複数あります)。

理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の同行アセスメントを依頼する

本人の実際の歩行・立ち座り・浴槽またぎ動作を専門家が観察すると、家族や業者だけでは気づかない「手すりの正しい位置と高さ」が見えてきます。訪問リハビリ・通所リハビリを利用中ならその担当PT/OTに、未利用ならケアマネ経由で住宅改修同行を依頼します。手すりの太さは32〜35mm、高さは大腿骨大転子(足の付け根の出っ張り)の位置が目安ですが、本人の身長・姿勢・麻痺の有無・握力によって最適値が変わります。

必ず2〜3社の相見積もりを取る

同じ「手すり3か所+玄関段差解消」でも、業者によって見積もりが10万〜20万円と倍近く違うことがあります。「材工一式」表記の見積もりは避け、品番・寸法・数量が明示されているかを確認します(薩摩川内市など多くの自治体ガイドラインで「一式表記は原則不可」と明記)。

市区町村の独自助成制度も併用する

介護保険給付の20万円に加えて、自治体独自の上乗せ助成があるケースが多くあります。例:足立区「住宅改良助成制度」は最大30万円、福岡県「高齢者等在宅生活支援(住みよか)事業」は介護保険給付の不足分を最大30万円補助、新潟県三条市「高齢者住宅整備補助事業」は世帯所得に応じて最大30万円(補助率50〜100%)。市区町村のホームページか窓口で「介護保険外の住宅改修助成」を必ず確認してください。

失敗例から学ぶ「やってはいけない改修」

  • 手すりの高さ・太さミスマッチ:標準的な施工をして本人が使えなかった例。事前にPT/OTの同行アセスメントで実測する
  • 過剰な手すり設置:トイレで両側に大きすぎる手すりを付けて狭くなり不便になった例。必要最小限の本数に
  • 段差解消の中途半端:スロープの勾配が急で逆に転倒リスクが上がった例。1/12以下の勾配が目安
  • 本人の状態変化を考慮しない:歩行可能な段階で完璧なバリアフリーにし、車椅子化時に再改修が必要になった例。3〜5年スパンで状態変化を予測する
  • DIY・知り合い業者への発注:事前申請なしで施工→給付対象外と判定された例。必ず事前申請後に着工

賃貸住宅・公営住宅の場合の注意点

賃貸物件は事前に大家・管理会社の承諾書が必要です。公営住宅(都営住宅・市営住宅・UR)は自治体が交付する承諾書が別途必要で、退去時の原状回復義務についても確認しておくべきです。マンションの共用部(廊下・エレベーター前)の改修は管理組合の承認が必要となります。

20万円給付の「リセット条件」と複数回利用の戦略

住宅改修費20万円の支給限度額は「一人生涯あたり」が原則ですが、2つのリセット条件と「複数回分割利用」の運用ルールを知っておくと、長期の介護期間で給付を効率よく使えます。

リセット条件①:要介護状態区分が3段階以上アップ

1回目の住宅改修時の要介護度から、「介護の必要の程度」が3段階以上上がった場合、再び20万円までの給付が受けられます。介護の必要の程度は要支援1〜要介護5を6段階に分類した区分で、たとえば「要支援1→要介護2」「要介護1→要介護4」のように3段階アップした場合に該当します。

1回目の改修時点で要介護度が高いほど、リセット条件を満たしにくくなるため、軽度のうちに「最小限の必要な改修」をして20万円を温存しておくのが家族にとって合理的な戦略です。

リセット条件②:転居

転居して住所が変わった場合は、過去に住宅改修費の支給を受けていても、新しい住所地で再び20万円までの給付を受けられます。施設入所→在宅復帰や、子世帯への同居などのライフイベントでも適用されます。ただし、同一住所内での建て替え・大規模リフォームは「転居」とみなされない自治体が多い点に注意。

20万円を「複数回分割」で使う基本ルール

20万円の支給限度額は同一住宅であれば複数回に分けて使えます。たとえば「初回:手すり3か所5万円→1年後:玄関段差解消10万円→2年後:浴室手すり5万円」というように、本人の状態変化やヒヤリ・ハットの増加に合わせて段階的に改修することが可能です。各回ごとに事前申請が必要です。

給付額シミュレーション(自己負担割合別)

支給限度額20万円をフル活用した場合の自己負担額は次のとおりです。

  • 自己負担1割:給付18万円/自己負担2万円
  • 自己負担2割:給付16万円/自己負担4万円
  • 自己負担3割:給付14万円/自己負担6万円

負担割合は介護保険負担割合証に記載されており、本人の所得(前年の合計所得金額)と世帯員の所得に応じて毎年判定されます。20万円を超える工事費は全額自己負担です。

福祉用具との組み合わせも検討する

介護保険には住宅改修と別枠で「福祉用具貸与」「福祉用具購入」の給付があります。レンタルできるもの(介護用ベッド・車椅子・歩行器・歩行補助つえ・スロープ・手すり[工事不要型]など)と購入できるもの(腰掛便座・入浴補助用具・移動用リフトの吊り具など、年間10万円まで)は住宅改修と組み合わせて使うと、自己負担を抑えながら転倒予防の効果を高められます。たとえば「玄関の常設手すりは住宅改修+廊下の置き型手すりは福祉用具貸与」「浴室は手すりを住宅改修で設置+シャワーチェア・浴槽手すりは福祉用具購入」といった役割分担です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 賃貸住宅でも介護保険の住宅改修費は使えますか?

はい、使えます。ただし大家・管理会社の承諾書が事前申請時に必要です。退去時の原状回復義務(手すりを外す・段差を元に戻すなど)の負担について、契約前に大家と書面で取り決めておくと安心です。公営住宅(都営・市営・UR)の場合は、自治体が交付する別途承諾書が必要になります。

Q2. 要介護認定を受けていない場合はどうすればよいですか?

住宅改修費の給付は要支援1以上の認定が必要です。未認定の場合は、市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターで要介護認定の申請(無料)を行ってください。申請から認定結果まで通常2〜3週間、結果が出るまでは「暫定ケアプラン」で介護サービスを使い始めることもできます。なお、要介護認定の対象外でも、自治体独自の高齢者住宅改修助成(65歳以上の所得要件など)が利用できるケースがあります。

Q3. 玄関アプローチ(屋外の門から玄関まで)の改修も対象ですか?

はい、対象です。手すりについては「玄関から道路までの通路など」も明示的に給付対象に含まれます(厚生省告示第95号)。段差解消(門のスロープ化など)、滑り防止(タイル張替え)も対象工事に該当します。マンションの場合、共用部分の改修は管理組合の承認が必要です。

Q4. 親が施設に入所している場合、自宅の改修に介護保険は使えますか?

原則として使えません。住宅改修費は「対象者が現に居住する住宅」に対する給付なので、特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設などに入所中の方は対象外です(住民票が施設にあるかが基準)。在宅復帰を予定して短期入所中の場合は、退所後の住宅を「居住予定」として認める自治体もあるため、市区町村窓口で確認してください。

Q5. 工事を始めてから申請してもよいですか?

いいえ、事前申請が絶対要件です。着工後に申請しても給付対象外と判定されます(八王子市・薩摩川内市・恵庭市など全国共通の運用)。緊急性が高い場合(退院日が迫っているなど)は、ケアマネ経由で市区町村に「事前申請の簡略化・優先審査」を相談できる場合があります。口頭・電話のみの「相談」は事前申請ではないので、必ず書面の事前確認通知を受領してから着工してください。

Q6. 同居の家族のために改修した場合も対象ですか?

対象になりません。住宅改修費は要支援・要介護認定を受けた本人のために必要な改修が対象です。本人と同居家族(例:高齢の父が要介護、母が元気)の両方に手すりが必要なケースでも、給付対象として申請できるのは「要介護認定を受けた本人の動線・身体状況に基づく必要性」が認められる範囲に限られます。

Q7. 介護保険の20万円を超える工事はどうすればよいですか?

超過分は全額自己負担となりますが、自治体独自の上乗せ助成を併用すれば負担を軽減できます。例:足立区「住宅改良助成制度」最大30万円、福岡県「住みよか事業」介護保険給付の不足分最大30万円。市区町村のホームページか窓口で「介護保険外の住宅改修助成」「高齢者住宅改造助成」を必ず確認してください。また、長期優良住宅化リフォーム推進事業(国土交通省)など、介護保険外の国の補助制度との併用が可能なケースもあります。

参考文献・出典

まとめ|転倒1回を防ぐことが、寝たきりを防ぐ最大の投資

在宅高齢者の転倒の大半は居室・玄関・浴室の3か所で起きており、住宅改修はその物理的原因を取り除く最も即効性のある対策です。介護保険の住宅改修費は生涯20万円・自己負担1〜3割という限られた枠ですが、転倒予防効果と費用相場で6種目を優先順位付けすれば、家族の判断で十分に活用できます。

家族が今日から取れる具体的アクションは次の3つです。

  1. 家のなかを一巡してセルフチェック(居室・玄関・浴室・トイレ・階段の26項目)。スマホで写真撮影しておく
  2. 担当ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談。理由書の作成と事業者リストの提供を依頼する
  3. 2〜3社の相見積もりを取り、事前申請後に着工。可能ならPT/OTの同行アセスメントを受ける

「まだそこまで弱っていないから」と先延ばしせず、軽度のうちに最小限の改修をしておくことが、20万円給付の「3段階アップ・転居リセット条件」を将来温存することにもつながります。1回の大腿骨頸部骨折で寝たきりリスクが約20%上がる現実を踏まえれば、「転倒1回を防ぐ住宅改修」こそが、要介護度の進行を遅らせる最も費用対効果の高い投資です。

転倒予防は住環境の整備だけでなく、運動・薬剤の見直しも組み合わせた多角的アプローチが効果的です。在宅介護の基本的な流れや、要介護認定の申請手順、ケアマネジャーとの上手な付き合い方など、関連トピックは在宅介護のはじめ方家庭でできる高齢者の転倒予防もあわせてご確認ください。介護保険の住宅改修費制度そのものの詳細は介護保険の住宅改修費 申請手順、手すりに絞った場所別解説は手すり設置の住宅改修を参照してください。

監修者

介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム

医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)

看護師介護福祉士ケアマネジャー

訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

介護の現場・介護職の視点

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