
大腿骨頸部骨折とは
大腿骨頸部骨折は高齢者の寝たきり原因の上位を占める疾患。原因・症状・治療(骨接合術・人工骨頭置換術)・術後リハビリ・介護現場での予防対策を看護師・介護職向けに解説します。
この記事のポイント
大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)とは、太ももの付け根にある「股関節の頸部」が折れる骨折です。骨粗しょう症で骨が脆くなった高齢者が転倒した際に発生しやすく、要介護状態になる原因の上位を占めます。日本では年間約9万件以上が発生し、寝たきり予防のため早期手術と早期リハビリが標準治療となっています。
目次
大腿骨頸部骨折とは
大腿骨頸部骨折は、太ももの骨(大腿骨)の上端にある「頸部」と呼ばれる細くなった部分の骨折です。股関節は球関節と呼ばれ、丸い骨頭(こっとう)と寛骨臼(かんこつきゅう)が組み合わさって体重を支えていますが、その骨頭を支える首の部分が折れるため、立つ・歩くことができなくなります。
「頸部骨折」と「転子部骨折」の区別
大腿骨近位部骨折は、関節包の内側で折れる「頸部骨折(内側骨折)」と、関節包の外側で折れる「転子部骨折(外側骨折)」に分類されます。頸部骨折は血流が乏しいため骨がつきにくく、人工骨頭置換術が選択されることが多いのに対し、転子部骨折は骨接合術で対応されることが一般的です。介護現場でケア計画を立てる際は、どちらのタイプかを把握すると術後の禁忌肢位や離床スケジュールが理解しやすくなります。
高齢者に多い理由
骨粗しょう症で骨密度が低下した状態では、ベッドからの立ち上がりや屋内のわずかな段差でも骨折が起こります。日本整形外科学会の調査では、患者の約8割が女性で、85歳以上で発症率が急増します。高齢者では「立ち上がろうとして転倒」「方向転換時にバランスを崩す」「ベッドから足を踏み外す」など、軽微な外力でも受傷します。
発生件数と寝たきりリスク
日本整形外科学会・骨粗鬆症委員会の全国調査では、大腿骨近位部骨折の年間発生件数は1998年の約3万5千件から2015年には約9万2千件まで急増し、現在も増加傾向にあります。2030年には現在の2倍以上に達するとの予測もあります(厚生労働科学研究データベース)。
- 男女比:女性が男性の約3〜4倍。閉経後の骨粗しょう症が背景
- 好発年齢:80〜89歳が全体の約46%を占める
- 受傷機転:屋内での転倒が約7割(ベッドサイド・トイレ・廊下が多い)
- 1年後死亡率:海外の報告では約10〜30%(合併症や寝たきりによる)
- 歩行能力の回復率:受傷前と同レベルまで回復できるのは約半数とされる
厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」では、要介護状態となった原因のうち「骨折・転倒」は第3位(13.9%)を占め、その中心が大腿骨近位部骨折です。看護・介護現場では、入院・手術自体よりも「骨折を起点に寝たきり・廃用症候群へ進行する」流れを断ち切ることが最大のテーマになります。
頸部骨折と転子部骨折の違い
| 項目 | 大腿骨頸部骨折(内側) | 大腿骨転子部骨折(外側) |
|---|---|---|
| 骨折部位 | 関節包の内側(頸部) | 関節包の外側(転子部) |
| 血流 | 骨頭への血流が途絶しやすい | 血流豊富で癒合しやすい |
| 主な手術 | 人工骨頭置換術(BHA) | 骨接合術(ガンマネイル等) |
| 術後合併症 | 骨頭壊死・脱臼 | 偽関節・内固定材の破損 |
| 禁忌肢位 | 後方アプローチ術後は屈曲・内転・内旋 | 原則なし(早期離床可) |
| 術後荷重 | 翌日から全荷重可能なケースも多い | 骨癒合状況により段階的 |
介護職は手術名と禁忌肢位を申し送りで必ず確認します。特に人工骨頭置換術後の「股関節を90度以上曲げない」「足を内側に交差させない」「内側にひねらない」の3点は、移乗・トイレ介助・更衣の場面で脱臼を起こす要因となるため徹底が必要です。
あなたに合った介護の働き方は?
簡単な質問に答えるだけで、ピッタリの施設タイプがわかります
術後リハビリと離床の流れ
大腿骨頸部骨折の標準的な術後経過は以下のとおりです。施設や術式により多少前後しますが、いずれも「術後できるだけ早く離床する」ことが基本方針です。寝たきり期間が長引くほど、廃用症候群・誤嚥性肺炎・褥瘡・認知症進行のリスクが高まります。
- 術直後(0〜2日目):ベッド上座位、深呼吸練習、関節可動域訓練。痛みコントロールしながら抗血栓療法を継続
- 術後3〜7日目:車椅子移乗開始、平行棒内立位訓練、患側荷重練習。せん妄・尿路感染を予防
- 術後1〜2週目:歩行器歩行、ADL練習(トイレ・更衣)。リハ転院・回復期病棟への移行を検討
- 術後1〜3か月:杖歩行・階段昇降練習。家屋調査、福祉用具選定(手すり・ポータブルトイレ・歩行器)
- 退院後:通所リハ・訪問リハで歩行能力維持。再骨折予防のため骨粗しょう症治療を継続
介護現場での連携ポイント
退院前カンファレンスでは、リハビリ担当のPT/OTから禁忌肢位・荷重制限・移乗時の注意点を直接共有してもらうのが望ましい運用です。また、ケアマネジャーは退院前に住宅改修(手すり設置・段差解消)と福祉用具レンタル(特殊寝台・歩行器)の手配を済ませ、退院当日からADLが途切れない設計にします。詳細な介助手順は歩行介助とは・移乗介助(トランスファー)とはもあわせて参照してください。
再骨折・転倒予防の実務ポイント
大腿骨頸部骨折は1度受傷すると反対側もリスクが約2〜10倍に高まることが報告されています(日本整形外科学会)。退院後のケア計画には次の3軸を必ず組み込みます。
1. 骨粗しょう症の継続治療
受傷後は骨吸収抑制薬(ビスホスホネート、デノスマブ)や骨形成促進薬(テリパラチド、ロモソズマブ)の継続が必要です。看護職・介護職は服薬管理を支援し、自己中断を防ぎます。年1回のDXA検査でフォローアップします。
2. 環境整備による転倒予防
- ベッドサイド・トイレへの動線に手すりを設置
- 夜間照明(フットライト)でトイレ移動を視認しやすく
- カーペットの段差・コードを撤去
- 滑りにくい靴下・室内履きに変更
- ベッド高さを「足底全面が床につく」高さに調整
3. サルコペニア・フレイル対策
下肢筋力低下が転倒の根本原因です。サルコペニア・フレイルの評価とタンパク質摂取・レジスタンス運動を組み合わせ、再転倒を防ぎます。デイケアやデイサービスでの集団体操、訪問リハでの個別運動が有効です。廃用症候群の進行も同時にモニターします。
よくある質問
Q1. 大腿骨頸部骨折の手術はどれくらい入院しますか?
急性期病院での入院は2〜3週間が一般的です。その後、回復期リハビリテーション病棟に転院し、1〜3か月のリハビリを経て自宅または施設に退院します。合計で1〜4か月の経過となります。
Q2. 介護保険は使えますか?
大腿骨頸部骨折そのものは介護保険の特定疾病ではありませんが、骨折を伴う骨粗しょう症は第2号被保険者の特定疾病に該当し、40〜64歳でも要介護認定を受けられます。65歳以上は要介護認定を申請できます。
Q3. 寝たきりにならないために介護現場で何ができますか?
術後早期からの離床、歩行訓練の継続、骨粗しょう症治療の継続、転倒予防環境の整備、栄養(タンパク質・カルシウム・ビタミンD)の確保が4本柱です。多職種連携(医師・看護師・PT/OT・ケアマネ・介護職)で支えます。
Q4. 受傷したのに手術を選ばないケースもありますか?
あります。心肺機能の著しい低下、認知症で全身状態が極めて悪い場合などは保存療法(ベッド上安静)を選択することがあります。ただし寝たきりリスクが高いため、原則として早期手術が推奨されています。
Q5. 反対側の骨折を防ぐ最も重要な対策は?
骨粗しょう症治療の継続です。受傷後1年以内に反対側も骨折する例が多く、退院時に専門医からの薬物療法処方と服薬指導を受け、ケアマネ・訪問看護でモニタリングします。
関連する詳しい解説
- 📖 親トピック: 介護現場で働く看護師のリアル|特定行為・医療安全・オンライン診療まで — 看護師が介護現場で果たす医療連携の全体像
- 🔗 関連用語: 歩行介助とは|片麻痺・杖歩行・階段の安全な介助手順と転倒予防
- 🔗 関連用語: 移乗介助(トランスファー)とは|ベッドから車椅子への安全な移乗手順・腰痛予防
- 📖 関連用語: サルコペニアとは|AWGS 2019診断基準・握力28kg/18kg・骨格筋量低下を介護現場目線で解説
- 📖 関連用語: フレイルとは|健康と要介護の中間状態と予防のポイントをやさしく解説
- 📖 関連用語: 廃用症候群とは|安静による全身機能低下・寝たきり予防の生活不活発病・リハビリの基本
- 🎯 自分に合う働き方: 介護の働き方診断(無料3分)
まとめ
大腿骨頸部骨折は、骨粗しょう症と転倒が重なって起こる高齢者の代表的な骨折です。年間9万件以上が発生し、要介護原因の上位を占めるため、術後の早期離床と再骨折予防が介護現場の共通課題となります。看護職・介護職は、禁忌肢位・荷重制限を正しく把握し、骨粗しょう症治療の継続と転倒予防環境の整備を多職種で支えることが寝たきり防止のカギです。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
最新の介護業界ニュース

2026/5/6
財政審、27年度介護報酬改定で「報酬適正化」要求|訪問介護12.4%・通所介護8.7%の利益率を問題視
財政制度等審議会・財政制度分科会(2026年4月28日)が示した「サービス類型ごとの報酬適正化」「処遇改善加算へのテクノロジー要件追加」「利用者負担2割対象拡大」の論点を、介護現場・転職希望者の視点で読み解く。

2026/5/1
看護師等養成所の遠隔授業推進事業、令和8年度公募|地方の人材確保と介護現場への波及
厚労省が令和8年度予算で1.21億円を計上した「人口減少社会の看護師等養成所における遠隔授業推進支援事業」の概要と、地方の養成所閉校・定員割れが介護施設の看護師確保に及ぼす影響を解説。

2026/5/1
居宅介護支援に処遇改善2.1%、6月施行直前ガイド|ケアマネの給料はいくら上がる?
2026年6月から居宅介護支援・介護予防支援に処遇改善加算(2.1%)が新設。ケアマネ事業所が初めて対象に。算定要件はケアプー加入か加算IV準拠の二択、届出は4月15日締切、月額換算では一人あたり約7,000〜10,000円の賃上げ見込み。算定方法・配分ルール・特定事業所加算との関係まで施行直前の実務ガイド。

2026/5/1
第2回・2040年看護職員養成検討会|実習・供給推計・資質の3論点と介護現場への波及
厚労省は2026年5月8日、第2回「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」を開催。看護学生実習・供給推計・看護職員の資質という3論点を議論する。第1回の論点と介護現場への影響を解説。

2026/5/1
介護人材確保のリアル|2040年57万人不足と求職者の交渉力(2026年最新)
2026年度に約25万人、2040年度に約57万人の介護職員が不足する見通しです。有効求人倍率4倍超の売り手市場の構造的要因、国の5本柱対策、特定技能介護の拡大、倒産176件の経営インパクト、そして求職者にとっての交渉力と戦略を一次データで解説します。

2026/5/1
LIFE第2回説明会の動画・資料が公開(vol.1498)|介護現場が押さえる入力フローと加算の関係
厚労省が4月28日にvol.1498を発出し、3月開催のLIFE第2回説明会の動画・資料を公開。令和6年度改定後の新フィードバック画面の見方、ブラウザ閲覧化、都道府県・要介護度での絞り込み、活用事例の概要を整理し、科学的介護推進体制加算など関連加算と現場の入力フローへの影響まで読み解きます。
このテーマを深掘り
関連トピック









