
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は脳損傷により記憶・注意・遂行機能・社会的行動に障害が生じる状態。診断基準・主要症状・介護現場での対応・支援制度を一次ソースに基づいて解説します。
この記事のポイント
高次脳機能障害とは、脳卒中や事故による脳外傷などで脳が損傷した結果、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などの認知障害が生じ、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。外見からはわかりにくく「見えない障害」とも呼ばれ、本人も障害に気づきにくい特徴があります(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)。
目次
高次脳機能障害の定義と原因
高次脳機能障害は、厚生労働省の行政的定義では「脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されており、脳の器質的病変による認知障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など)を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する」状態を指します。
主な原因疾患
原因となる脳損傷は大きく2つに分けられます。脳血管障害では脳梗塞・脳出血・くも膜下出血が代表的で、突然の発症後に高次脳機能障害が残ることがあります。外傷性脳損傷は交通事故・転倒・スポーツ事故などによる頭部外傷が原因で、若年層に多い傾向があります。そのほか、低酸素脳症(心肺停止後)、脳炎・脳症、脳腫瘍術後なども原因となります。
「見えない障害」と呼ばれる理由
身体麻痺と異なり外見からは障害がわかりにくいため、家族・周囲・本人すら気づきにくいことが多いのが特徴です。退院後に職場復帰や家事再開を試みて初めて、ミスの多発や対人トラブルから障害が顕在化するケースも少なくありません。診断には脳の器質的病変がMRI・CT等の画像検査で確認されることが必要です。
主要4症状と現れ方
高次脳機能障害は症状の組み合わせや程度が一人ひとり異なります。代表的な4つの症状を整理します。
1. 記憶障害
- 新しい出来事を覚えられない(前向性健忘)
- 約束・予定を忘れる、同じ質問を繰り返す
- 物の置き場所がわからなくなる
- 過去の記憶(手続き記憶等)は比較的保たれることが多い
2. 注意障害
- 集中が続かず、ミスが増える
- 2つのことを同時にできない(同時処理困難)
- テレビなど周囲の刺激で気が散りやすい
- 半側空間無視(左側の物に気づかない等)を伴うこともある
3. 遂行機能障害
- 計画を立てて行動できない
- 段取りが悪く、家事・仕事の手順が崩れる
- 状況の変化に対応できない
- 時間を守れない、優先順位がつけられない
4. 社会的行動障害
- 感情コントロールの低下(怒りっぽくなる、突然泣く)
- 意欲・発動性の低下(自分から何もしない)
- 対人関係の困難(場の空気が読めない)
- 固執性(同じ話題・行動にこだわる)
このほか、失語症・失行症・失認症も高次脳機能障害に含めて扱われることがあります。
認知症との違い
高次脳機能障害と認知症は症状が重なる部分もありますが、原因と経過に決定的な違いがあります。
| 項目 | 高次脳機能障害 | 認知症 |
|---|---|---|
| 原因 | 脳卒中・外傷など特定の脳損傷 | アルツハイマー病など進行性の脳変性疾患 |
| 発症 | 多くは突然(受傷・発症時点が明確) | 緩やかに進行 |
| 経過 | 原則として進行しない・改善が見込める | 多くは進行性 |
| 好発年齢 | 若年〜中年も多い | 高齢者が中心 |
| 主な制度 | 精神障害者保健福祉手帳・障害者総合支援法 | 介護保険制度 |
40歳未満の若年で発症した場合は介護保険の対象外となるケースが多く、障害者総合支援法によるサービスを利用します。一方、65歳以降の発症では介護保険サービスが中心となり、両制度の併用が必要な場合もあります。
介護現場での対応のポイント
記憶障害への対応
- メモ・カレンダー・スマートフォンのリマインダーで「外部記憶」を活用
- 同じ場所に同じ物を置く、ラベリングで視覚的に手がかりを残す
- 一度に多くの情報を伝えず、短く区切って繰り返す
注意障害への対応
- テレビ・人の出入りなど刺激の少ない環境を整える
- 1つの作業に集中できるよう、課題を1つずつ提示する
- 疲労で症状が悪化するため、休憩をこまめに挟む
遂行機能障害への対応
- 手順を1ステップずつ書き出す(チェックリスト化)
- タイマーやアラームで時間管理を補助
- 「次に何をするか」を予告し、急な変更を避ける
社会的行動障害への対応
- 感情の高ぶりは脳損傷由来であり「性格が悪くなった」のではないと家族・スタッフで共有
- 怒りが現れたら静かに距離をとり、落ち着くのを待つ
- 意欲低下にはルーティンを作り、達成感を得られる小さな課題を設定
本人が障害を自覚していない(病識欠如)場合も多いため、否定せず、できることに焦点を当てる関わりが基本です。
よくある質問
Q. 高次脳機能障害は治りますか?
A. 損傷部位や程度によりますが、発症・受傷から1年程度はリハビリにより改善が期待できます。国立障害者リハビリテーションセンターの報告では、訓練を受けた当事者の多くが6か月〜1年で機能尺度の改善を示しています。完全な回復が難しい場合でも、補助具や環境調整・代償手段の獲得で生活の質は大きく改善できます。
Q. 介護保険は使えますか?
A. 65歳以上、または40〜64歳で脳血管障害が原因の場合は介護保険の対象になります。それ以外の若年発症では障害者総合支援法による自立訓練・就労移行支援などを利用します。
Q. 障害者手帳は取得できますか?
A. 高次脳機能障害は精神障害者保健福祉手帳の対象となるのが一般的です。失語症や運動麻痺を伴う場合は身体障害者手帳の対象になることもあります。
Q. 介護職として勉強しておくべきポイントは?
A. 「症状は性格ではなく脳損傷の結果」「疲労で悪化する」「環境調整が最大の支援」の3点を押さえておくとケアの質が大きく変わります。失語症や失行・失認の基礎、半側空間無視への対応なども押さえておきましょう。
参考資料
- [1]高次脳機能障害を理解する- 国立障害者リハビリテーションセンター
- [2]高次脳機能障害者支援の手引き(標準的リハビリテーションプログラム)- 国立障害者リハビリテーションセンター
- [3]高次脳機能障害および其の関連障害に対する支援普及事業- 厚生労働省
- [4]日本高次脳機能障害学会- 日本高次脳機能障害学会
- [5]介護職員・地域ケアガイドブック 高次脳機能障害- 東京都医師会
まとめ
高次脳機能障害は脳卒中・外傷などによる脳損傷で生じる「見えない障害」で、記憶・注意・遂行機能・社会的行動の4症状が中心です。認知症と異なり原則進行せず、リハビリと環境調整で改善が見込めます。介護現場では症状を性格と誤解せず、外部記憶の活用・刺激の少ない環境・1ステップずつの指示で本人の「できる」を引き出すことが基本です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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