
帯状疱疹とは
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で起こる皮膚疾患。高齢者では帯状疱疹後神経痛に移行しやすく、2025年度から65歳に定期接種が始まりました。症状・治療・ワクチン・介護現場の感染対策を整理します。
この記事のポイント
帯状疱疹とは、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢・免疫低下・ストレスをきっかけに神経節で再活性化し、神経の走行に沿って片側性に痛みと水疱性発疹を起こす疾患です。50歳以降で発症率が急増し、80歳までに約3人に1人が経験します。早期の抗ウイルス薬投与(72時間以内)が重症化と帯状疱疹後神経痛の予防に直結し、2025年度からは65歳を中心とした定期接種が始まりました。
目次
帯状疱疹の発症メカニズムと疫学
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster Virus, VZV)による感染症です。子どもの頃に水痘に罹患した人の体内では、ウイルスが脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏し、加齢・免疫抑制(がん・糖尿病・ステロイド治療)・過労・ストレスで細胞性免疫が低下すると再活性化し、神経を伝わって皮膚に到達して発症します。
日本国内の疫学(宮崎県の大規模疫学調査、SHEZ Study)では、年間発症率は人口1,000人あたり5.0人で、50歳以上で急増し、80歳までに約3人に1人が経験するとされています。女性のほうがやや発症率が高く、約60%を占めます。
典型的な経過は、(1)皮疹に先行する片側性のピリピリ・チクチクした痛み(前駆痛、3〜7日)、(2)発赤と水疱が体の左右どちらかの神経の走行に沿って帯状に出現、(3)水疱の破裂・痂皮化を経て3〜4週で軽快、です。胸腹部・顔面(特に三叉神経第1枝)に好発し、発症部位によって合併症が異なります。介護現場で最も注意すべきは「帯状疱疹後神経痛(PHN)」で、皮疹が治った後も3か月以上痛みが残る状態を指し、高齢者では2〜3割が移行するとされます。
主な症状と要警戒の合併症
典型的な症状
- 前駆痛:皮疹が出る3〜7日前から、片側性のピリピリした痛み・違和感・かゆみ。
- 皮疹:紅斑→水疱(小水疱が群がって帯状)→膿疱→痂皮、と段階的に変化。皮膚分節(デルマトーム)に沿って体の左右どちらかにのみ出現するのが特徴。
- 痛み:「焼けるような」「電気が走るような」と表現される神経痛が、皮疹のある部位で持続。
合併症
- 帯状疱疹後神経痛(PHN):皮疹治癒後3か月以上続く痛み。高齢者では2〜3割が移行。睡眠障害・うつ・QOL低下を招く。
- 三叉神経第1枝帯状疱疹(眼部帯状疱疹):眼瞼・前額に皮疹が出現。角膜炎・ぶどう膜炎・視力障害のリスクがあり、皮膚科+眼科併診が必須。
- ラムゼイ・ハント症候群:膝神経節の帯状疱疹。耳介の水疱・顔面神経麻痺・めまい・難聴を起こす。早期治療で予後が大きく変わる。
- 運動麻痺:脊髄前角細胞へのウイルス波及で、皮疹のある側の上肢・下肢の脱力が出ることがある。
- 髄膜炎・脳炎:稀だが免疫抑制者では重篤化する。
診断と治療の流れ
- 診察:片側性・神経分節に沿った水疱性発疹で臨床診断が可能。前駆痛のみの段階で診断するのは困難。
- 検査:水疱内容のPCR検査・Tzanck試験で確定診断(必要時)。
- 抗ウイルス薬の早期投与:発症72時間以内のアシクロビル・バラシクロビル・ファムシクロビル・アメナメビルが標準治療。アメナメビル(経口・1日1回)は腎機能調整不要で、高齢者で使いやすい。
- 疼痛管理:NSAIDs・アセトアミノフェン→ノイロトロピン・プレガバリン・ミロガバリン→重症例ではトラマドール・神経ブロックを併用。
- 皮膚ケア:水疱を破らないよう清潔に保ち、必要に応じて軟膏・被覆材で保護。
- 合併症の評価:眼部帯状疱疹は眼科併診、ラムゼイ・ハント症候群は耳鼻咽喉科併診。
抗ウイルス薬を発症72時間以内に開始すると、皮疹の治癒期間短縮と帯状疱疹後神経痛のリスク低下が確認されています。介護現場では「片側性の痛み+皮疹」を認めた段階で速やかに医療連携することが核心です。
2025年度開始の定期接種ワクチン比較
2025年4月から、帯状疱疹ワクチンが予防接種法のB類疾病として定期接種化されました。対象は65歳の方と、60〜64歳の特定の免疫障害を有する方です。さらに2025〜2029年度の経過措置として、年度内に70・75・80・85・90・95・100歳となる方も対象になります(100歳以上は2025年度のみ全員対象)。
| 項目 | 生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン) | 組換えワクチン(シングリックス) |
|---|---|---|
| 接種回数 | 1回 | 2回(2か月以上の間隔) |
| 接種方法 | 皮下注射 | 筋肉注射 |
| 発症予防効果(1年後) | 約60% | 97%以上 |
| 効果持続(5年後) | 約40% | 約90% |
| PHN予防効果(3年時点) | 約60% | 91%以上 |
| 免疫抑制者への接種 | 禁忌 | 可能 |
| 副反応 | 軽度(局所反応中心) | 強め(発熱・倦怠感・局所痛が出やすい) |
自己負担額は自治体により異なり、生ワクチンで4,000〜5,000円程度、組換えワクチンで1回10,000〜11,000円程度(2回で約20,000円)が一般的な目安です。市町村の健康増進課または地域包括支援センターで確認できます。
介護現場での観察と感染対策
- 水痘患者・水痘ワクチン未接種の妊婦・免疫抑制者への接触に注意:水疱内容にはVZVが含まれ、空気感染・接触感染で水痘を発症させる可能性がある。利用者と職員の罹患歴・ワクチン歴を把握しておく。
- 痂皮化までは接触感染対策を継続:すべての水疱が痂皮化したら感染力はなくなる。それまでは患部を清潔なガーゼで覆い、職員は手指衛生を徹底。
- 夜間の痛みコントロールが鍵:神経痛は夜間に増悪しやすく、不眠・せん妄を誘発する。就寝前の鎮痛薬服用と保温(冷えで悪化)が有効。
- 眼の症状を見逃さない:顔面、特におでこに皮疹がある場合は眼部帯状疱疹を疑う。視力低下・充血・流涙を訴えたら即眼科紹介。
- 顔面の左右非対称・耳の痛みは耳鼻科紹介:ラムゼイ・ハント症候群の早期治療が予後を決める。
- ワクチン勧奨:65歳の定期接種対象者にはケアマネ・看護師から接種を案内。糖尿病・ステロイド治療中の利用者は組換えワクチン推奨。
- 記録と多職種連携:発症時刻・皮疹の範囲・痛みの性状を写真付きで記録し、訪問看護師・主治医と即時共有。
よくある質問
Q. 帯状疱疹は他人にうつりますか?
A. 帯状疱疹そのものが「帯状疱疹」として他人にうつることはありません。ただし水疱内容にはVZVが含まれ、水痘未罹患・ワクチン未接種の人(特に乳幼児・妊婦・免疫抑制者)に接触すると、その人は「水痘(水ぼうそう)」を発症します。すべての水疱が痂皮化するまでは接触感染対策を続けてください。
Q. 抗ウイルス薬はいつまでに飲み始めるべきですか?
A. 発症(皮疹出現)から72時間以内が標準的な開始目安です。早期投与ほど皮疹治癒までの期間が短く、帯状疱疹後神経痛への移行リスクも下がります。前駆痛の段階でも片側性の痛みが疑わしければ、皮膚科・内科への速やかな受診を促してください。
Q. 帯状疱疹は再発しますか?
A. 一度かかるとしばらくは免疫が強化されますが、生涯のうち6〜10%程度で再発します。免疫低下のきっかけ(がん治療・ステロイド・過労)があれば再発リスクが上がるため、再発予防のためにも50歳以降のワクチン接種が推奨されます。
Q. 帯状疱疹後神経痛(PHN)は治りますか?
A. PHNは難治性で、治療には数か月〜数年を要することがあります。プレガバリン・ミロガバリン・三環系抗うつ薬・神経ブロックなどを組み合わせ、ペインクリニックでの長期管理が必要なケースもあります。発症初期の十分な抗ウイルス薬治療と疼痛管理が、PHN移行を最小化する最大の対策です。
Q. 介護施設で帯状疱疹の利用者が出たらどう対応しますか?
A. 標準予防策+接触予防策で対応します。水疱がすべて痂皮化するまで個別対応とし、水痘未罹患の職員(妊婦含む)の担当を避けます。職員の手指衛生、リネン・寝具の取り扱い、患部の被覆を徹底すれば、施設内アウトブレイクのリスクは抑えられます。
まとめ
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で起こる片側性の神経・皮膚疾患で、50歳以降に発症が急増します。発症から72時間以内の抗ウイルス薬投与が皮疹治癒と帯状疱疹後神経痛の予防に直結し、介護現場では「片側性の痛み+皮疹」を見たら即座の医療連携が原則です。2025年度から65歳を中心に定期接種が始まり、組換えワクチン(シングリックス)は90%以上の予防効果があります。介護施設では水疱が痂皮化するまでの接触感染対策と、夜間の疼痛管理が利用者のQOLを守る鍵となります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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