在宅酸素療法(HOT)とは

在宅酸素療法(HOT)とは

在宅酸素療法(HOT)は慢性呼吸不全患者が自宅で酸素を吸入する治療法。対象疾患・機器の種類・介護職にできる対応・火気2mルールなど安全管理を一次ソースに基づいて解説します。

ポイント

この記事のポイント

在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)とは、慢性呼吸不全などで血液中の酸素が慢性的に不足している方が、自宅で酸素濃縮装置や液化酸素装置を使って酸素を吸入する治療法です。日本では約18万人が利用しており、COPDや間質性肺炎など長期酸素吸入が必要な方の生活の質を支える保険適用の医療です(出典:日本呼吸器学会)。

目次

在宅酸素療法(HOT)の定義と対象

在宅酸素療法は、医師の処方に基づき自宅で長期にわたり酸素を吸入する治療法です。1985年に保険適用となり、現在は介護現場でも遭遇する頻度の高い医療機器の一つになっています。

主な対象疾患

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 間質性肺炎・肺線維症
  • 慢性心不全
  • 肺結核後遺症
  • 肺がん末期の呼吸困難など

保険適用の主な基準

厚生労働省告示の診療報酬において、在宅酸素療法の対象は「動脈血酸素分圧55Torr以下」または「動脈血酸素分圧60Torr以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者」、慢性心不全では「ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類III度以上で睡眠時のチェーン・ストークス呼吸を認める」等が定められています。診断・処方は呼吸器内科や循環器内科の医師が行います。

3種類の酸素供給装置

在宅で使用される酸素供給装置は主に3種類あり、生活スタイルや活動量に応じて選択されます。

1. 設置型酸素濃縮装置(最も普及)

  • 室内空気から酸素を濃縮(90%以上)
  • 電源さえあれば連続使用可能
  • 長距離延長チューブ(10〜20m)で家中を移動可能
  • 停電時は外部酸素ボンベに切り替え

2. 携帯型酸素ボンベ

  • 外出時・通院時に使用
  • 残量計とリットル毎の使用可能時間表(流量2L/分で約3〜5時間など)を確認
  • 呼吸同調装置(デマンドバルブ)併用で長時間化

3. 液化酸素装置

  • 親器(設置型)と子器(携帯型)のセット
  • 子器は数百グラム〜1kg台で軽量
  • 外出機会が多い方に適するが導入コストが高い

酸素流量は処方箋で「安静時◯L/分・労作時◯L/分・睡眠時◯L/分」と細かく指定されます。介護職は流量設定を勝手に変更してはいけません。

介護職にできる対応と禁止事項

介護職にできること(医行為ではない)

  • 処方された流量どおりに装置が動作しているか確認
  • カニューラ(鼻チューブ)の固定状態・皮膚の状態を観察
  • 装置のフィルター掃除(取扱説明書の範囲)
  • 残量計の確認・酸素ボンベの交換予約をケアマネ・業者に連絡
  • 本人・家族への安全教育(火気・流量遵守)

介護職が単独で行ってはいけないこと

  • 酸素流量の変更(医師の指示が必要)
  • カニューラの新規挿入(呼吸器ケアの一部で看護師領域)
  • SpO2測定値に基づく流量調整の判断

火気2mルールの徹底

酸素は燃焼を激しく助長します。タバコ・ガスコンロ・ストーブ・線香・ろうそくなどの裸火から「2m以内に近づかない」が原則です。実際に喫煙による顔面熱傷・自宅火災事故が国内で複数報告されています(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 PMDA 注意喚起)。仏壇のろうそくや調理器具にも注意が必要で、訪問前に環境チェックを行います。

停電・災害時の備え

  • 装置の電源は単独コンセントを使用(タコ足配線禁止)
  • 停電時は予備の酸素ボンベに切り替え、酸素業者に連絡
  • 避難所では「酸素使用中」を表示

観察すべき異常サインとCO2ナルコーシス

観察項目正常範囲・目安異常時の対応
SpO2処方医の指示値(一般に90%以上)処方値以下が続くなら看護師・医師へ連絡
呼吸回数1分間に12〜20回30回以上または8回以下は要報告
顔色・口唇色ピンクチアノーゼ(青紫)は緊急
意識レベル清明・受け答え正常傾眠・呼びかけへの反応低下は要警戒
呼気時の苦しさ会話可能会話困難・起座呼吸は要報告

CO2ナルコーシス(重要)

COPDなど一部の利用者では、酸素を多く吸い過ぎると呼吸中枢の働きが鈍り、二酸化炭素が体内に蓄積して意識障害を起こす「CO2ナルコーシス」が生じることがあります。眠気・頭痛・意識低下が現れたら直ちに医療スタッフに連絡し、流量を勝手に上げないことが鉄則です。「苦しそうだから流量を上げる」は最も危険な誤対応です。

よくある質問

Q. 在宅酸素療法の費用はどれくらいかかりますか?

A. 月の医療費は健康保険3割負担で約2万円前後(在宅酸素療法指導管理料+酸素濃縮装置加算など)が目安です。高額療養費制度の対象になる場合があり、自治体や難病医療費助成制度を利用できることもあります。

Q. 入浴時はどうすればよいですか?

A. カニューラを装着したまま入浴可能です。ただし防水性確保のため装置は脱衣所に置き、延長チューブを使います。湯船の温度は38〜40℃程度に抑え、長湯は避けます。

Q. 訪問介護で酸素ボンベの交換はできますか?

A. 酸素ボンベの交換そのものは介護職員でも実施可能ですが、事業所のマニュアル整備と研修が前提です。トラブル発生時は酸素業者の24時間連絡先(業者ステッカーで確認)に通報します。

Q. SpO2が下がったときどうすればよいですか?

A. まず安静を保ち、呼吸回数・顔色・意識レベルを観察。装着不良・電源切断などのトラブルがないか確認し、SpO2が処方医の指示値を下回り続ける、意識状態がおかしい場合は速やかに看護師・医師へ報告します。

参考資料

まとめ

在宅酸素療法(HOT)は呼吸不全の方が自宅で生活を続けるための重要な医療です。介護職は流量を勝手に変更しないこと、火気から2m離す安全管理、SpO2やCO2ナルコーシス兆候の観察、停電・災害時の備えが基本になります。「苦しそうだから流量を上げる」が最大の誤対応であることを覚え、異常時は迷わず看護師・医師に連絡することが利用者の命を守ります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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