
訪問看護にも処遇改善加算が創設|2026年6月施行・管理者と看護職員が知るべきポイント
2026年6月施行で訪問看護にも介護職員等処遇改善加算(加算率1.8%)が新設。算定要件、届出期限(体制届5/15・計画書6/15)、看護師の賃上げ規模、転職市場への影響を厚労省通知をもとに解説します。
結論:訪問看護にも処遇改善加算が創設、加算率1.8%で2026年6月1日スタート
2026年(令和8年)6月1日、ついに訪問看護にも「介護職員等処遇改善加算」が新設されます。これは介護保険制度が始まって以来、訪問看護ステーションにとって最大級の制度改正と言ってよい出来事です。厚生労働省は2026年3月13日付「介護保険最新情報Vol.1478」において、令和8年度臨時介護報酬改定の一環として、これまで処遇改善加算の対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援の3サービスについて、新たに加算区分を創設することを正式に告示しました。訪問看護の加算率は基本サービス費+各種加算減算後の総単位数に対して1.8%、訪問リハは1.5%、居宅介護支援は2.1%と、サービス種別ごとに決定されています。
この加算の最大のポイントは、賃上げ対象が「介護職員」から「介護従事者全体」へ広がったことです。つまり訪問看護ステーションにおいては、介護保険サービスの提供に従事する看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・事務職員など、常勤・非常勤を問わずほぼすべての職種が賃金改善の対象になります。算定に当たっては「令和8年度特例要件(ケアプランデータ連携システムの利用、または社会福祉連携推進法人への所属)」または「処遇改善加算Ⅳに準ずる要件(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ+職場環境等要件)」のいずれかを満たす必要があり、令和9年3月末までは「誓約による申請」でも算定開始が認められる柔軟な運用が示されています。
届出期限は、訪問看護など新設対象サービスのみを運営する事業者(加算新設事業所のみの事業者)の場合、体制届が2026年5月15日、処遇改善計画書が2026年6月15日が原則です。同一法人内ですでに訪問介護などの処遇改善加算を算定している事業者は、4月15日までの提出が必要となりますので注意してください。加算額はそのまま賃金改善の原資に充当する必要があり、基本給・毎月支払われる手当によるベースアップが原則です。月間総単位数30万単位(売上約300万円)規模のステーションでは、年間で約65万円の増収が見込まれ、これを原資に看護師1人あたり月数千円~1万円超の賃上げが可能になります。転職市場では、加算取得の有無がそのまま「ステーションを選ぶ指標」になりつつあり、求人票への算定区分明記を進めるステーションが急増しています。本記事では、厚労省通知(介護保険最新情報Vol.1474~1481)をもとに、算定要件・届出期限・賃上げシミュレーション・他職種への波及効果・転職市場の変化を詳細に解説します。
訪問看護における「介護職員等処遇改善加算」とは何か
介護職員等処遇改善加算とは、介護現場で働く職員の賃金を安定的に引き上げ、あわせて職場環境を整備することを目的とした介護報酬上の加算制度です。もともとは2012年度の介護報酬改定で「介護職員処遇改善加算」として創設され、その後「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」と段階的に拡充されてきました。2024年6月にはこれら3加算が「介護職員等処遇改善加算」へ一本化され、介護事業所における賃上げ原資の中心となっています。しかしこの制度は、創設以来一貫して訪問看護ステーションを対象外としてきました。理由は「訪問看護は医療職中心のサービスであり、介護職の処遇改善を目的とする加算の趣旨になじまない」という整理でしたが、実際の訪問看護現場では病院看護師との賃金格差、24時間対応やオンコール負担の重さ、人員不足による疲弊が深刻化しており、業界団体からは繰り返し対象拡大の要望が出されていました。
今回の2026年6月創設は、こうした現場の声にようやく応えるかたちで実現しました。厚生労働省の告示(介護保険最新情報Vol.1474)は、「介護分野の職員の他職種と遜色のない処遇改善に向けて、令和9年度介護報酬改定を待たずに期中改定を実施」するとし、その施策の一つとして、これまで処遇改善加算の対象外だった訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援等に介護職員等処遇改善加算を新たに創設すると明記しています。注意すべきは、この加算は介護保険分の訪問看護に対して算定されるものであり、医療保険のみで運営している訪問看護ステーション、あるいは医療保険分のレセプトに対しては算定できないという点です。介護保険法に基づく指定を受け、要介護・要支援認定の利用者に対して訪問看護を提供していることが前提条件になります。
対象職種については、算定した加算額は介護保険サービスの提供に関わるすべての職種に配分することができます。看護師、准看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、事務職員、管理者、さらには常勤だけでなく非常勤・パート職員も含まれます。厚労省通知では「介護従事者への配分を基本としつつ、事業所内で柔軟な配分を認める」と定められており、たとえば「オンコール手当を厚くする」「管理者手当を新設する」「若手看護師の基本給底上げを行う」といった、ステーションごとの人事戦略に応じた配分設計が可能です。一方で、医療保険のみの業務に従事している職員(訪問看護ステーションが医療保険と介護保険の両方を扱っていて、特定の職員が医療保険業務専従の場合など)への配分は不適切と判断される可能性があるため、配分ルールの設計段階で労務担当者・社労士と協議しておく必要があります。訪問看護ステーションにとっては「看護師の賃上げ原資を公的に確保できる初めての恒久制度」であり、制度の趣旨を正しく理解することが、運営指導での指摘回避と職員定着の両方につながります。
加算率・賃上げ規模・届出期限のデータで見る制度の全体像
訪問看護の新設処遇改善加算について、厚生労働省が告示した数値と届出スケジュールを整理します。まず加算率は1.8%で固定です。これは基本サービス費に各種加算減算(処遇改善加算を除く)を加えた1月あたりの総単位数に対して乗じる数値で、既存の訪問介護のように「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ」や「イ・ロ」のような複雑な区分分けはされず、一本化された単一加算率として設計されています。訪問リハビリテーションは1.5%、居宅介護支援・介護予防支援は2.1%と、新設3サービスでも種別ごとに差が設けられています。今回の臨時改定全体での介護報酬改定率は+2.03%、政府は介護従事者1人あたり月額最大1.9万円(約6.3%相当)の賃上げ実現を掲げており、訪問看護ではこの賃上げを1.8%の加算率で実現する建付けになっています。
【事業所規模別の増収シミュレーション】
①月間総単位数9,000単位・地域単価11.4円(1級地)・利用者30人規模のステーション:9,000単位×1.8%×11.4円=約1,847円/利用者、30人分で月間約55,400円、年間約66.5万円の増収。
②月間総単位数30万単位(売上約300万円)規模のステーション:30万単位×1.8%×約10円=月間約5.4万円、年間約65万円の増収。
③月間総単位数150万単位(大規模法人):150万単位×1.8%=2.7万単位相当、年間300万円超の増収も可能。
この金額はすべて賃金改善の原資として職員に還元する必要があり、基本給・毎月支払われる手当によるベースアップが原則とされています(厚生労働省通知「新たな賃上げは『ベアを基本に』」)。賞与や一時金のみでの配分は原則認められません。
【届出期限の一覧(2026年度)】この改定は期中改定のため、通常と異なる届出スケジュールが設定されています。
- 加算新設事業所のみの事業者(訪問看護単独運営など):体制届は2026年5月15日、処遇改善計画書は2026年6月15日が提出期限。
- 同一法人内ですでに処遇改善加算を算定中の事業者:体制届・処遇改善計画書ともに2026年4月15日が期限(4月・5月分の既存サービスと6月以降の訪問看護分をまとめて提出)。
- 実績報告書:2027年7月31日までに都道府県知事等へ提出。
厚労省は自治体の事務負担を考慮し、「都道府県知事等は、体制届の期日を令和8年6月15日としても差し支えない」とする柔軟運用を認めているため、正確な期日は各自治体の通知を必ず確認してください。書類の保存義務は2年間で、処遇改善計画書、実績報告書、就業規則、賃金規程、賃金台帳、職員への周知資料などが運営指導の確認対象になります。
【算定要件の2ルート】訪問看護ステーションは以下いずれかを満たせば算定できます。
ルートA:令和8年度特例要件=①ケアプランデータ連携システムの利用、または②社会福祉連携推進法人への所属、のいずれか。ICT導入を検討中のステーションにはこちらが現実的。誓約書による申請も可能で、令和9年3月末までに実際に利用開始すればよい。
ルートB:処遇改善加算Ⅳに準ずる要件=キャリアパス要件Ⅰ(職位・職責・賃金体系の明確化と周知)+キャリアパス要件Ⅱ(研修計画と能力評価の実施)+職場環境等要件(28項目から区分ごとに複数実施)。既存の人事制度がある程度整っている中堅以上の法人向け。
なお、処遇改善加算の単位数は区分支給限度基準額の算定対象から除外されるため、加算取得によって利用者のサービス利用枠を圧迫する心配はありません。ただし利用者の自己負担額は増えるため、加算取得前に重要事項説明書を更新し、利用者・家族の同意を得る必要があります。出典:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1474」(https://www.mhlw.go.jp/content/001666256.pdf)、「同Vol.1478」(https://www.mhlw.go.jp/content/001673853.pdf)、公益財団法人日本訪問看護財団「令和8年度臨時介護報酬改定(処遇改善加算)について」(https://www.jvnf.or.jp/news/r8_housyukaitei/)。
管理者と訪問看護師が2026年6月までに準備すべき実務チェックリスト
訪問看護ステーションの管理者にとって、2026年6月1日の施行まで残された時間は限られています。届出・賃金規程改定・職員説明のいずれも数週間では終わらない作業ですので、早い段階から手を打っておく必要があります。ここでは、管理者が着手すべき実務ステップと、現場の看護職員が勤務先ステーションに確認しておくべきチェックポイントを整理します。
【管理者向け:優先順位順に進めるべき7ステップ】
- 要件ルートの選択:令和8年度特例要件(ケアプランデータ連携システム利用)と処遇改善加算Ⅳ準拠要件のどちらを選ぶかをまず決定。ケアプランデータ連携システムは令和9年3月末までの誓約でも可のため、ICT未導入ステーションでも特例要件ルートを選べます。社会福祉連携推進法人への所属は短期間では困難なため、現実的にはデータ連携システム利用が主流になる見込みです。
- 現行賃金体系の棚卸し:常勤看護師、非常勤看護師、オンコール手当、同行訪問手当、管理者手当、事務職員給与など、現行の賃金構造を一覧化。加算原資をどこに乗せるかの判断材料になります。
- 加算額シミュレーション:直近3ヶ月の介護保険分総単位数平均×1.8%×地域単価で、月額・年額の原資を算出。年間50万円なのか200万円なのかで配分設計の選択肢が大きく変わります。
- 配分ルールの設計と賃金規程改定:「基本給底上げ型」「処遇改善手当新設型」「手当拡充型」から選択し、就業規則・賃金規程を改定。労働基準監督署への届出も忘れずに。
- 職場環境等要件の整備(ルートB選択時):28項目の中から区分ごとに取り組みを実施し、ホームページ等で公表。研修計画書、OJT体制、メンタルヘルス対策記録などの根拠資料を準備。
- 体制届と処遇改善計画書の作成・提出:自治体指定の様式(別紙1-1 体制等状況一覧表、別紙様式2 処遇改善計画書)を使用。加算新設事業所のみの事業者は5月15日・6月15日が原則期限。
- 職員への周知と重要事項説明書の更新:賃金改善の内容を全職員に書面で周知。利用者負担が増えるため重要事項説明書を改定し、同意書を取得。
【現場の訪問看護師向け:勤務先に確認すべき5つのポイント】転職・定着を考える現場看護師は、勤務先が加算を取得するのかどうか、取得する場合いくら自分に配分されるのかを、労働条件に直結する情報として把握しておくべきです。
- ①加算取得の意思:「2026年6月から処遇改善加算を算定しますか?」を管理者に確認。届出を出さない=自分の賃上げ原資がゼロになるという意味です。
- ②配分対象に自分が含まれるか:常勤・非常勤の別、医療保険業務と介護保険業務の割合によっては配分対象外になる可能性があります。とくに医療保険専従の訪問看護師は注意が必要です。
- ③配分方法と金額の目安:基本給に乗るのか、手当として支給されるのか、賞与に反映されるのか。生涯年収・退職金・将来の住宅ローン審査への影響が変わります。
- ④賃金規程の書面周知:処遇改善加算の配分ルールは、就業規則や賃金規程に記載され、全職員に周知される義務があります。口頭説明のみの場合は要件未達の可能性があります。
- ⑤キャリアパス・研修機会:キャリアパス要件Ⅱでは研修機会の確保が必須。「研修に出してもらえない」「能力評価がない」という状況は、要件未達=加算返還リスクを示唆します。
とくに訪問看護ステーションは職員数が少ないケースが多く、1人あたりの配分額が大きくなる傾向があります。年間100万円の原資を看護師5人で分ければ1人20万円の賃上げ、月額換算で約1.7万円のベースアップが可能です。これは東京都内の病院看護師との賃金格差を縮める大きな一歩であり、管理者の配分設計次第で採用競争力に直結します。逆に言えば、配分設計に失敗すると職員の不満が一気に噴出し、離職リスクが跳ね上がります。管理者は配分案を決定する前に、主要な看護職員と個別面談を行い、基本給重視・手当重視・賞与重視のどの方法が望ましいかを聞き取っておくことを強く推奨します。
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訪問看護・訪問介護・訪問リハ・居宅介護支援の加算率比較と訪問看護師への影響
2026年6月の臨時改定では、訪問看護だけでなく、すでに対象だった訪問介護・通所介護・特別養護老人ホームなどの既存サービスの加算率も見直され、あわせて訪問リハビリテーション・居宅介護支援・介護予防支援が新たに対象に加わります。訪問看護ステーションで働く看護師が自分のキャリアを考えるうえで、他サービスとの加算率・賃上げ水準の違いを把握しておくことは極めて重要です。以下、主要サービスの加算率と特徴を比較します。
【2026年6月以降の主要サービス別 介護職員等処遇改善加算の加算率】
- 訪問介護(訪問介護員):加算Ⅰロで約28.7%(ロ区分)、従来から最も加算率が高く、新設のⅠロにはケアプランデータ連携システム加入などの要件あり。訪問介護員1人あたり月額最大1.9万円の賃上げが政府目標。
- 訪問看護:1.8%(一本化、区分なし)。加算率自体は訪問介護より大幅に低いが、これは訪問看護の基本報酬単価が訪問介護よりかなり高いため、1%あたりの金額インパクトが大きいことに起因します。
- 訪問リハビリテーション:1.5%(一本化)。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が配分対象。
- 居宅介護支援・介護予防支援:2.1%(一本化)。ケアマネジャーの賃上げが主目的。
- 通所介護・特養・老健等:既存加算の拡充。イ・ロの2段階化により、生産性向上・ICT活用に取り組む事業所ほど高い加算率を取得可能。
【訪問介護の28.7%と訪問看護の1.8%、なぜこれほど差があるのか】訪問介護の加算率が桁違いに高いのは、訪問介護員の基本給がもともと低く、加算率を大きくしないと意味のある賃上げができないからです。対して訪問看護師は看護師免許保有者であり、基本給が相対的に高いため、1.8%でも金額的には相当な原資が確保できます。たとえば月間総単位数が同じ30万単位でも、訪問介護(単価11.4円想定)と訪問看護(単価11.4円想定)では基本報酬の規模が異なり、訪問看護は1回あたりの単位数が高い分、ステーション全体の売上規模が大きくなりやすい特性があります。結果として、看護師1人あたりの配分額は「月額5千円~1.5万円程度のベースアップ」が現実的な水準になると見込まれます。
【障害福祉サービス・診療報酬との比較】同時期に施行される障害福祉サービスの報酬改定では、訪問系の居宅介護・重度訪問介護などで最大45.6%という非常に高い処遇改善加算率が設定されています。一方で医療保険の訪問看護には、2024年度診療報酬改定で創設された「訪問看護ベースアップ評価料」がありますが、算定要件が複雑で事務負担が重く、多くのステーションが申請を見送った経緯があります。今回の介護保険側での処遇改善加算創設は、医療保険のベースアップ評価料より要件が明確で実務負担が軽い点が特徴です。誓約による算定開始が認められていること、書類保存期間が2年間と限定的であることなど、現場運用のしやすさに配慮されています。
【転職市場への波及効果】この改定は、訪問看護師の転職市場に3つの影響を与えます。第1に、加算取得ステーションと未取得ステーションの賃金差が可視化されます。求人票に「介護職員等処遇改善加算 算定」の記載があるかどうかが、応募者の判断材料になります。第2に、訪問介護との併設ステーション(サ高住併設や複合型サービス)では、訪問介護の28.7%加算とあわせて配分できるため、総合的な賃上げ原資が大きくなります。第3に、病院看護師からの流入加速が予想されます。これまで病院と訪問看護ステーションの賃金差は転職を躊躇する最大の理由でしたが、加算創設によりその差が縮まり、ワークライフバランスを重視する看護師の選択肢として訪問看護がさらに魅力的になります。逆に、小規模で加算取得の事務負担に対応できないステーションは、採用市場で不利になるリスクがあります。自身のキャリアを真剣に考えるなら、勤務先ステーションが2026年6月にきちんと算定を開始するかどうかは、重要な判断材料として捉えるべきです。
訪問看護処遇改善加算に関するよくある質問
訪問看護処遇改善加算に関するよくある質問
Q1. 医療保険のみで運営している訪問看護ステーションも算定できますか?
A. いいえ、算定できません。今回創設される介護職員等処遇改善加算は介護保険制度に基づく加算であり、介護保険法上の指定を受け、要介護・要支援認定の利用者に対して訪問看護を提供している事業所のみが対象です。医療保険のみで運営しているステーションは、別制度である「訪問看護ベースアップ評価料」(診療報酬)で対応することになります。多くの訪問看護ステーションは医療保険と介護保険の両方を扱っているため、介護保険分の総単位数に対して1.8%を算定するかたちになります。医療保険の訪問看護に関わる業務のみに従事する職員への加算原資の配分は、運営指導で指摘されるリスクがあるため避けましょう。
Q2. パート看護師や事務職員も賃金改善の対象になりますか?
A. はい、対象になります。厚労省通知では、介護保険サービスの提供に関わるすべての職種・雇用形態が配分対象と明確に定められています。常勤看護師、非常勤(パート)看護師、准看護師、管理者、事務職員、同行する理学療法士などが含まれます。ただし、配分方法は「均等配分」ではなく、経験・技能・役割に応じた合理的な配分が求められます。事業所内で配分ルールを就業規則・賃金規程に明記し、全職員に書面で周知することが必要です。とくに小規模ステーションでは、1人当たりの配分額が大きくなる傾向があるため、誰にいくら配分するかは慎重に設計してください。
Q3. 届出が間に合わなかった場合、どうなりますか?
A. 届出期限(原則として体制届5月15日、処遇改善計画書6月15日)を過ぎると、2026年6月からの算定はできません。翌月以降に遅れて届け出ることは可能ですが、遅れた分の加算は算定できず、結果として職員への賃金改善原資が減少します。自治体によっては柔軟運用として6月15日までの体制届受付を認めている場合がありますので、所在地の都道府県・市町村の通知を必ず確認してください。算定要件の一部(ケアプランデータ連携システムの利用開始、キャリアパス要件の整備など)については、申請時点で「誓約書」を提出し、令和9年3月末までに実際に要件を満たせばよいとされています。この誓約制度を活用すれば、準備が完全に整っていなくても算定を開始できます。
Q4. 加算取得で利用者の自己負担はどれくらい増えますか?
A. 訪問看護の1.8%加算の場合、1割負担の利用者で1回の訪問あたり数円~十数円程度の増加にとどまるケースが多く、大きな負担増にはなりません。ただし、加算を新たに算定開始する際には、利用者・家族に対して重要事項説明書の更新と同意書の取得が必要です。サービス提供責任者が事前に説明し、書面で同意を得る手続きを省略すると、運営指導で指摘されます。なお、処遇改善加算は区分支給限度基準額の算定対象から除外されるため、利用者のサービス利用枠(月額の利用限度)を圧迫する心配はありません。
Q5. 転職希望の看護師が面接で確認すべきポイントは?
A. 面接時に以下の3点を確認することをおすすめします。①「2026年6月から介護職員等処遇改善加算を算定していますか?(あるいは算定予定ですか?)」②「算定している場合、加算原資はどのような方法で配分されていますか?(基本給・手当・賞与のいずれか)」③「配分ルールは就業規則・賃金規程に明記され、書面で周知されていますか?」。これらに明確に答えられないステーションは、制度対応が追いついていない可能性が高く、入職後の賃金改善が期待できないリスクがあります。逆に、算定区分や配分方針を丁寧に説明できるステーションは、労務管理の水準が高く、長期的に働ける職場と判断できます。
まとめ|訪問看護師にとって2026年6月は「待遇が変わる転換点」
2026年6月1日から訪問看護にも介護職員等処遇改善加算(加算率1.8%)が新設される今回の改定は、制度創設以来対象外だった訪問看護ステーションにとって歴史的な転換点です。これまで訪問看護師は「病院看護師より年収が低い」「夜勤がない分の手当が少ない」「管理者の業務量に見合った処遇が得られない」といった構造的な課題を抱えてきました。今回の加算創設は、これらの課題に対する制度的な第一歩であり、訪問看護の専門性を国がようやく公的に評価したという意味を持ちます。
管理者の視点で見ると、今回の改定はただの「報酬が1.8%増える話」ではありません。加算額は全額を賃金改善に充てる必要があり、ベースアップを基本とする配分ルールが求められます。誰に、どれだけ、どの方法で配分するかは、ステーションの採用競争力・離職率・モチベーションを左右する重大な経営判断です。配分設計を誤れば、せっかくの原資が職員の不満や離職を招く結果にもなりかねません。逆に戦略的に設計すれば、加算取得を「選ばれるステーション」への強力な武器にできます。まずは加算額のシミュレーション、要件ルートの選択、賃金規程の改定、そして2026年5月15日(体制届)・6月15日(計画書)の届出期限厳守という流れを、2026年4月中に本格始動させることを強く推奨します。
現場の訪問看護師、そして転職を考えている病院看護師にとっても、この改定は大きな意味を持ちます。転職先を選ぶ際に「介護職員等処遇改善加算を算定しているか」「配分方法は基本給ベースアップか」「配分ルールが明文化されているか」を確認することで、労務管理のレベルが高い信頼できるステーションを見極めることができます。加算取得に積極的なステーションは、ICT活用・キャリアパス整備・職場環境改善にも取り組んでいる可能性が高く、長期的に働ける職場である傾向があります。逆に、制度対応が後手に回っているステーションは、他の労務管理面でも課題を抱えている可能性が高いと判断してよいでしょう。
2026年6月の施行は、訪問看護業界全体にとっての「通過点」にすぎません。2027年度には本格的な介護報酬改定が控えており、加算区分の細分化や、訪問看護独自の加算設計の見直しが議論される可能性もあります。長期的には、訪問看護ステーションの大規模化・法人化が進み、加算取得の事務負担に対応できない小規模事業所の淘汰が進むことが予想されます。訪問看護師として自分のキャリアを守るためには、制度改正の動向を継続的にウォッチし、働き方・賃金・職場環境のバランスが取れたステーションを選ぶ目を養うことが欠かせません。介護ニュースを定期的に確認する習慣をつけること、そして自分自身の「働き方診断」を通じて希望条件を明確にしておくことが、次の転職・キャリア選択を成功させる最短ルートになります。
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