介護保険2割負担、対象拡大は今年度見送りか|結城康博教授「医療の窓口負担増が優先される」と予測

介護保険2割負担、対象拡大は今年度見送りか|結城康博教授「医療の窓口負担増が優先される」と予測

淑徳大学 結城康博教授は2026年5月、介護保険の2割負担対象拡大が今年度見送られる可能性が高いと予測した。医療の窓口負担増が優先される見通しで、財源効果が約210億円にとどまる介護分野は政治的リスクに見合わないと分析。介護現場と利用者家計への影響を整理する。

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淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は2026年5月12日のコラムで、介護保険の2割負担対象拡大は2026年度中に見送られる可能性が高いと予測した。背景にあるのは、2025年10月の自民党・日本維新の会の連立政権合意書で先に明記された「医療費窓口負担の応能負担実現」だ。介護保険部会(2025年12月1日・第130回)の試算では、年収230万円基準まで引き下げても新たな対象は約35万人・財源効果は約210億円にとどまる。読者であるケアマネ・介護職にとっては、2026年度の現場ルール変更リスクは小さく、当面はサービス計画の見直しを急ぐ必要はないとの見方が現実味を帯びる。

目次

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介護保険の利用者負担を1割から2割に引き上げる対象を拡大するかどうか――この議論は、2027年度(第10期介護保険事業計画)の開始前までに結論を出すと、厚生労働相と財務相の2025年12月の閣僚折衝で確認されている。厚生労働省は2025年12月1日の社会保障審議会・介護保険部会(第130回)で、2割負担対象を「年収260万円以上」から「年収230万円以上」まで引き下げる4案を提示。最大ケースで約35万人が新たに2割負担の対象になる試算が公表された。

こうした状況に対して、社会福祉学者として知られる淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は2026年5月12日付のコラムで、踏み込んだ予測を示した。「2026年度中の対象拡大は見送られる可能性が高い」――その理由は、政府にとってより大きな財源効果が期待できる医療の窓口負担増が先行する公算が高く、介護分野で同時に火種を抱えるメリットが乏しいからだという。

本記事では、結城教授の予測の根拠を整理したうえで、自民党・日本維新の会の連立政権合意書、厚労省の試算データ、医療の窓口負担見直し議論との関係から「なぜ介護2割負担拡大は今年度後ろ倒しになり得るのか」を読み解く。介護現場で働く方や、家族介護の当事者にとっては、当面の制度予測を冷静に立てるための材料となる内容を目指す。

結城康博教授が示した「今年度見送り」予測の骨子

予測の主体:淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授

結城康博氏は淑徳大学総合福祉学部の教授で、社会福祉学・社会保障論を専門とする研究者だ。法政大学大学院で経済学修士・政治学博士を取得し、社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャーの実務資格も持つ。介護現場と政策の双方を見渡せる立場から、介護保険制度に関する積極的な発信を続けている。

その結城教授が2026年5月12日に公表したコラムで明確に踏み込んだのが、「政府は今年度、2割負担の対象拡大を見送るのではないか」という予測である。「予測が外れたらお詫びするしかない」と注釈を加えつつも、複数の根拠を積み上げた上での見立てだ。

予測の3つの柱

結城教授が示した論理は、次の3点に整理できる。

第一に、政府の最優先事項は医療費の窓口負担引き上げだという見立て。2025年10月20日に自民党と日本維新の会が交わした連立政権合意書には、医療費窓口負担に関して「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」と「2026年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」が明記されている。連立合意書で具体名が出ている以上、まずはここから着手するのが政治的に自然だという読み解きだ。

第二に、医療と比べて介護2割負担拡大の財源効果が小さいこと。厚労省試算では最大の引き下げ案でも約210億円にとどまり、国予算120兆円超の中では大きいとは言えない規模である。

第三に、政治的リスクの大きさ。高齢者本人や介護業界、野党からの強い反発が予想される一方、得られるリターン(財源効果)が見合わないという「リスク・リターン」の観点だ。

予測の射程:あくまで「今年度」の話

結城教授の予測の射程は2026年度(今年度)の話に限られる。中長期的に2割負担の拡大議論が消えるという主張ではなく、医療の窓口負担増を先行させた後に介護負担の見直しが続く、という時間軸の予測だ。介護保険部会自体は「2026年度中に結論」という日程感を維持しており、議論のテーブルからは外れていない。

医療の窓口負担増が優先される根拠|連立政権合意書のロジック

連立政権合意書に明記された医療優先の方向性

結城教授が予測の最大の根拠とするのは、2025年10月20日に取り交わされた自民党・日本維新の会の連立政権合意書だ。同合意書には、医療費窓口負担に関して以下の文言が盛り込まれている。

「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」

「2026年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」

合意書には13項目の社会保障改革が並ぶが、医療窓口負担はその中で具体的な実施期限(2026年度中)まで明示された数少ない項目の一つだ。自民・維新両党は2026年5月にも改革骨子をまとめる方針が報じられており、政府としても「先送りが許されない案件」として位置付けられている。

高齢者医療の現行ルールと見直しの方向性

高齢者の医療費窓口負担は、現行では年齢階層によって以下のように決まっている。

  • 70歳から74歳:原則2割(現役並み所得は3割)
  • 75歳以上(後期高齢者):原則1割(一定以上所得は2割、現役並み所得は3割)

連立合意書の「年齢によらない応能負担」とは、この「年齢による線引き」を撤廃または見直し、所得や金融資産といった支払い能力に応じた負担割合に組み替える方針を示すものだ。財政制度等審議会・財政制度分科会は2026年4月末に、70歳以上の窓口負担について「可及的速やかに現役世代と同様に原則3割とすべき」と提言した。

医療負担増の財源効果が大きい構造的理由

医療負担増が介護より優先されやすい背景には、財源効果のスケールの差がある。70歳から74歳の就業率は2024年で35.1%と、2014年の24.0%から大きく上昇しており、収入を得ている高齢者の層が広がっている。この世代の窓口負担を原則3割に引き上げれば、対象人数も医療費総額も介護よりはるかに大きい。受診控えの影響も含めて一定の給付費抑制が見込めるため、政府にとって「やる価値のある改革」になりやすいというのが結城教授の見方だ。

裏返せば、政府が同時並行で介護分野まで負担増議論を進めれば、高齢者世帯の反発を一気に背負い込むことになる。リスクを集中させる代わりに、財源効果の大きい医療を先行させ、介護は次のフェーズに回すというのが結城教授が読み解く政治的な合理性である。

介護2割負担対象拡大の財源効果はわずか210億円|厚労省試算

介護保険部会で示された4案の所得基準

厚生労働省は2025年12月1日の社会保障審議会・介護保険部会(第130回)で、2割負担の対象を拡大する場合の所得基準について、機械的な選択肢を4案提示した。判定対象は「年金収入+その他の合計所得金額」で、単身世帯の所得水準とそれに対応する夫婦世帯の合計所得水準が以下の通り示されている。

  • 上位約25%:260万円(夫婦326万円)
  • 上位25%と30%の間:250万円(夫婦316万円)
  • 240万円(夫婦306万円)
  • 上位約30%:230万円(夫婦296万円)

現在の2割負担基準(一定以上所得:単身200万円以上、複数世帯320万円以上を別の要件で判定)よりも、いずれもより低い所得層まで対象を広げる試算となる。

4案の影響人数と財源効果

厚労省資料に示された粗い財政試算によると、配慮措置を一切付けない場合の影響人数と給付費の抑制効果は以下の通り。

  • 260万円基準:影響者数 約13万人 / 給付費 約80億円減
  • 250万円基準:影響者数 約21万人 / 給付費 約120億円減
  • 240万円基準:影響者数 約28万人 / 給付費 約170億円減
  • 230万円基準:影響者数 約35万人 / 給付費 約210億円減

最も範囲を広げる「230万円基準」でも、新たに2割負担となるのは約35万人、給付費の抑制効果は約210億円にとどまる。これに月7,000円の負担上限を設ける配慮措置案や、預貯金が一定額以下なら申請により1割に戻す案を組み合わせると、財源効果はさらに縮小する。

国予算120兆円の中での210億円という規模感

結城教授は、この210億円という数字を「国の予算全体(120兆円超)で考えると大きいとはいえない」と評価する。割合にすれば0.018%程度であり、政府が高齢者世帯の負担増という政治的代償を払ってまで実行するインセンティブは小さい。

さらに、新たな2割負担対象者の生活への影響を抑えるために、月7,000円の負担上限(介護保険部会第130回の配慮措置案①)や、預貯金が一定額以下なら申請により1割に戻す措置(同②)を組み合わせると、実効的な財源効果はさらに圧縮される構造だ。「2割負担拡大は、リスクをとるだけの十分なリターンが見当たらない」という結城教授の指摘は、この試算の規模感に裏打ちされている。

読者の家計・介護現場への影響と次の論点(独自見解)

利用者・家族にとっての「当面の安心材料」

結城教授の予測通り2割負担対象拡大が2026年度に見送られれば、年金収入が230万円から280万円の層(夫婦合算で約300万円超)の利用者にとっては、当面の自己負担割合が1割のまま維持されることになる。介護サービスを月20万円利用している場合、1割(2万円)と2割(4万円)の差は月2万円・年24万円と決して小さくない。配慮措置(月7,000円の負担上限)を加味しても、年金生活者にとっては可処分所得への影響が大きい層だ。

ただし「先送り」は「撤回」ではなく、議論のテーブル自体は2027年度の介護保険事業計画開始前までに必ず結論を出す日程感である。家族介護を担う世帯は、向こう1〜2年で2割負担対象が拡大する前提でのライフプラン(介護保険外サービスの活用余力、預貯金の取り崩しペース)を整えておきたい。

ケアマネ・介護現場への業務影響

2割負担対象が拡大すれば、ケアマネジャーは利用者ごとの負担割合を踏まえたケアプラン調整、ケアプラン総額の見直し相談、配慮措置(月7,000円上限・預貯金確認)の制度説明など、業務負荷が一気に増える。とくに預貯金確認が要件化される場合、補足給付と類似する自己申告・金融機関照会の運用が必要となり、市区町村の事務負担とともにケアマネ側にも事前案内・書類補助の役割が回ってくる可能性が高い。

2026年度中の2割負担拡大が見送られれば、こうした業務シフトが2027年度以降にずれ込む。介護現場としては、2026年度は2026年6月施行の臨時介護報酬改定(処遇改善加算の取り扱い等)や、住宅型有料老人ホームの登録施設介護支援などの「サービス提供側のルール変更」に集中できる環境になる。

2027年度改定議論への波及

2割負担対象拡大が2027年度の第10期介護保険事業計画開始前までに決着するとして、その議論は2026年度後半から2027年度前半にかけて本格化する。医療の窓口負担見直しが先行する場合、その結果(負担増対象者の規模・受診控えの影響・低所得者への配慮設計)が介護分野の制度設計のたたき台になる可能性が高い。たとえば医療側で導入される金融資産反映の仕組みは、介護2割負担拡大の配慮措置案②(預貯金が一定額以下なら申請により1割に戻す)と直接連動するロジックである。

つまり今年度(2026年度)に医療負担増の制度設計が完了することは、その後の介護2割負担拡大の「中身」を方向づける重要なステップになる。介護業界としては、医療側の議論を「自分たちの先取り情報」として注視する姿勢が求められる。

まとめ

淑徳大学 結城康博教授は2026年5月12日のコラムで、介護保険の2割負担対象拡大は2026年度中に見送られる可能性が高いと予測した。背景には、自民党と日本維新の会の連立政権合意書に明記された医療費窓口負担の応能負担化が先行する政治的な力学がある。介護保険部会(2025年12月1日)の試算では最大ケースでも対象拡大は約35万人、給付費抑制は約210億円にとどまり、国予算120兆円超の中では政治的リスクに見合う規模ではないという見立てだ。

とはいえ「先送り」は議論の終わりではない。2027年度の第10期介護保険事業計画開始前までには結論を出す日程感は維持されており、家族介護を担う世帯やケアマネジャー・介護現場は、医療の窓口負担見直しがどのような制度設計(金融資産反映・配慮措置の上限額など)でまとまるかを注視しておきたい。介護分野の制度議論は、その先行事例の中身に強く左右されることになる。

自分や家族の介護に関わる人にとって、「制度がどう変わるか」と同じくらい大事なのは、「自分の働き方・収入・介護負担をどう設計するか」だ。社会保障の見直しを横目に、自分に合った働き方を考えてみたい方は、無料の働き方診断を試してみてほしい。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

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