
ACP(人生会議)とは
ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)とは、もしものときに望む医療・ケアを前もって考え家族や医療チームと繰り返し話し合うプロセス。厚労省ガイドラインの位置づけ・進め方・看取り現場での実践を解説します。
この記事のポイント
ACP(Advance Care Planning、愛称「人生会議」)とは、もしものときに自分が望む医療・ケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い共有する取り組みです。厚生労働省は2018年に「人生会議」を愛称に決定し、11月30日を「人生会議の日」と定めています。終末期の意思決定を本人不在で家族や医療者が抱え込む事態を防ぎ、本人の価値観を反映したケアにつなげることが目的です。
目次
ACP(人生会議)の定義と制度上の位置づけ
ACPは「Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)」の略で、本人の人生観・価値観・希望を踏まえ、人生の最終段階における医療・ケアの目標や具体的な治療・療養について、本人と家族・医療従事者が繰り返し話し合うプロセスを指します。「文書を1回書いて終わり」ではなく、状態の変化に応じて何度も対話を重ねることが本質です。
制度上は、厚生労働省が2007年に策定し2018年に改訂した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」がACPの根拠となっています。同ガイドラインは、(1) 本人による意思決定が基本、(2) 医療・ケアチームによる適切な情報提供と説明、(3) 本人の意思は変化し得るため繰り返し話し合う、(4) 本人の意思が確認できない場合は家族等が推定する、という原則を定めています。
2018年の改訂では従来の「終末期医療」を「人生の最終段階における医療・ケア」と改め、病院だけでなく在宅・介護施設での意思決定支援も含む枠組みに拡張されました。介護報酬の看取り介護加算・ターミナルケア加算も、このガイドラインに沿った話し合いの実施を算定要件としており、介護職・看護職にとってACPは日常業務の重要な一部です。
ACPはリビングウィル(事前指示書)と混同されがちですが、リビングウィルが「文書化された意思表示の最終形」であるのに対し、ACPはそこに至る「対話のプロセス全体」を指します。文書だけが目的化すると、本人の気持ちの揺れや変化を取りこぼします。
人生会議で話し合う5つの主要テーマ
- 1. 大切にしている価値観・人生観:「家族と過ごす時間が一番」「最後まで自分のことは自分でしたい」など、医療判断の土台になる本人の生き方の軸を共有する。
- 2. 過ごしたい場所・最期を迎えたい場所:自宅・病院・介護施設・ホスピスなど。住み慣れた地域で最期を迎えたいか、家族に負担をかけたくないかなどを確認する。
- 3. 医療処置の希望:人工呼吸器・心肺蘇生・経管栄養(胃ろう)・人工透析・抗がん剤治療などについて、状態が悪化したときどこまで希望するかを話し合う。
- 4. 痛みや苦しみへの向き合い方:苦痛緩和をどこまで優先するか、鎮静(セデーション)を許容するか、意識が保たれる時間を優先するかなど。
- 5. 信頼して任せられる人(代理意思決定者):本人の意思が確認できなくなったとき、価値観を一番理解して代わりに判断してくれる家族・親族・友人を指名する。
これらは一度に決める必要はなく、「元気なうちに価値観の話から始める」「入退院や要介護度の変化など節目ごとに見直す」のが基本です。話し合った内容を本人・家族・医療ケアチームで共有し、必要に応じて記録・更新します。
ACP・リビングウィル・事前指示書・DNARの違い
| 用語 | 形式 | 内容 | 法的拘束力 |
|---|---|---|---|
| ACP(人生会議) | 対話のプロセス | 本人の価値観・希望を家族・医療チームと繰り返し共有する取り組み | なし(プロセス自体は文書ではない) |
| リビングウィル | 本人が書く文書 | 延命治療の希望/不希望を事前に表明する書面 | なし(ガイドライン上は尊重される) |
| 事前指示書(Advance Directive) | 本人が書く文書 | リビングウィル+代理意思決定者の指名を含む包括的な文書 | なし |
| DNAR指示 | 医師の指示書 | 心肺停止時に蘇生処置を実施しない医療指示 | 医療行為の方針として有効 |
| POLST | 医師と本人の合意書 | 具体的な医療行為(蘇生・人工呼吸など)の希望を医師指示として文書化 | 医療指示として有効 |
ACPは対話のプロセス全体、リビングウィル・事前指示書はその成果物としての文書、DNAR・POLSTは医療現場での具体的な指示書、と階層的に整理できます。日本ではリビングウィル・事前指示書・DNARに直接の法的拘束力はありませんが、厚労省ガイドラインに沿って話し合われた本人の意思を医療・ケアチームは尊重します。
人生会議の進め方|介護現場での6ステップ
- STEP 1:本人の状態と病状の正確な情報共有 — 主治医・看護師から本人と家族へ、現在の病状・予後・治療選択肢を分かりやすく説明する。
- STEP 2:本人の価値観・大切にしていることを聴く — 「これまでの人生で大切にしてきたことは?」「今、一番気になっていることは?」など、開かれた質問で本人の言葉を引き出す。介護職員が日常会話の中で拾うことも多い。
- STEP 3:医療・ケアの希望と心配事を整理 — 痛みのコントロール、過ごしたい場所、避けたい処置などを具体的に確認する。判断に迷う希望は「保留」のまま記録する。
- STEP 4:代理意思決定者の確認 — 本人が意思表示できなくなったとき、価値観を代弁する人を本人と一緒に決め、その人にも同席してもらう。
- STEP 5:話し合いの内容を記録・共有 — 施設記録・ケアプラン・看護記録に残し、本人・家族・主治医・ケアマネ・施設職員で同じ情報を持つ。介護報酬の看取り介護加算・ターミナルケア加算では、この記録が算定要件に含まれる。
- STEP 6:状態の変化に応じて繰り返す — 入退院・要介護度の変化・本人の発言の変化があれば、改めて話し合い直す。意思は変わるという前提を共有する。
よくある質問
Q1. 人生会議はいつから始めればよいですか?
厚生労働省は「元気なうちから」を推奨しています。慢性疾患の診断時、家族の介護を経験したとき、定年退職時など、人生の節目で考え始めるのが現実的です。とくに要介護認定を受けたタイミングや、入退院を繰り返すようになった段階では、ケアマネや主治医とともに具体化しておくと安心です。
Q2. 認知症の人ともACPはできますか?
可能です。判断能力が低下していても、本人の意思を引き出す「意思決定支援」が前提です。厚労省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年)が指針となります。認知症が進行する前の早期段階から本人の言葉を記録し、状態に応じて家族・代理意思決定者が推定する形へ段階的に移行します。
Q3. 看取り介護加算・ターミナルケア加算とACPはどう関係しますか?
介護報酬の看取り介護加算(特養等)・ターミナルケア加算(看護小規模多機能型・訪問看護等)は、いずれも厚労省ガイドラインに沿った話し合いの実施・記録を算定要件としています。ACPの実践は加算の根拠であり、施設運営上も重要です。
Q4. 本人と家族で意見が違う場合はどうしますか?
本人の意思を最優先するのが原則です。家族が本人と異なる希望を持っている場合、医療・ケアチームが間に入り、本人の言葉と家族の不安の両方を整理します。本人が意思表示できない場合は「本人だったらどう考えるか」を中心に家族と医療者で推定します。
Q5. 話し合った内容を残す書式はありますか?
厚労省サイトや自治体(横浜市・大阪府・神戸大学医学部「ゼロからはじめる人生会議」など)が、無料の記入シートを公開しています。施設や訪問看護では事業所ごとの様式を使うことも多く、ケアマネと相談して本人・家族が書き込みやすいフォーマットを選んでください。
まとめ
ACP(人生会議)は文書を1回書いて終わるものではなく、本人・家族・医療ケアチームが繰り返し対話しながら本人の価値観と希望を共有していくプロセスです。厚労省ガイドラインを根拠に、看取り介護加算・ターミナルケア加算など介護報酬上の算定要件にも組み込まれており、介護現場の日常業務の中核的なテーマです。元気なうちから、入退院や要介護度の変化など節目ごとに、本人の言葉を中心に話し合いを重ねること。これがACPの本質であり、本人らしい最期と、家族・医療者の納得を両立させる最も確実な手段です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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