
外国人介護職員について利用者・家族にどう説明し同意を得るか
訪問系サービスで外国人介護人材が従事する際、利用者・家族への書面交付と署名が厚生労働省の通知で求められます。法定義務のない施設系も含め、説明のタイミング、説明書の記載事項、担当変更を求められたときの線引き、苦情対応の手順を一次資料で整理します。
この記事のポイント
訪問系サービスで技能実習生や特定技能外国人が利用者の居宅を訪問する可能性がある場合、受入事業者は利用者またはその家族に対して、外国人職員が訪問する場合があること、その職員の実務経験、情報通信機器を使いながら業務を行う場合があること、不安があるときの事業所連絡先を書面で交付して説明し、その書面に署名を求めることとされています。厚生労働省の令和7年3月31日付け通知に定められた要件で、署名済み書面の写しは利用者・家族にも交付します。特別養護老人ホームなどの施設系サービスに同じ書面の要件はありませんが、この4項目を骨格にすると、施設でも説明の型と職員を守る線引きを同時に作れます。
目次
外国人職員の受け入れが決まったあと、受け入れ担当者が最初にぶつかるのが「利用者やご家族にどう伝えるか」という問題です。伝え方を誤れば家族から不信を持たれ、逆に何も伝えなければ「聞いていない」という苦情になります。そして担当者は、利用者・家族の意向と、雇い入れた職員を守る責任との間に立たされます。
この領域の情報は「丁寧に説明して理解を求めましょう」という一般論で終わりがちです。しかし2025年4月に外国人介護人材の訪問系サービスへの従事が認められたとき、国は「丁寧な説明」を努力目標ではなく手続として書き下しました。書面を交付して説明し、署名を求め、その写しを利用者・家族に渡し、さらに説明書の写しを提出書類として求める。何を書くかまで4項目で示されています。
この記事では、まず訪問系で制度化されたその要求事項を通知の原文にさかのぼって確認します。そのうえで、書面の要件が課されていない施設系サービスで、その骨格をどう使い回すかを整理します。入居前と入居後の説明タイミング、説明文書の記載項目、「外国人だから担当を代えてほしい」と言われたときの線引き、苦情が起きたあとの手順までを扱います。制度全体の見取り図は外国人介護人材の受け入れガイド、訪問系の従事要件そのものは訪問系サービス従事の要件で解説しています。
訪問系サービスでは書面の交付と署名が求められている
根拠になるのは、厚生労働省社会・援護局長および老健局長が令和7年3月31日に発出した「外国人介護人材の訪問系サービス従事における留意点について」(社援発0331第40号、老発0331第12号)です。この通知は、受入事業者に求める事項を「三 遵守事項」(研修、同行訪問による指導、意向確認とキャリアパス、ハラスメント対策、情報通信技術の活用等による環境整備の5つ)と、「四 その他求められる事項」に分けています。利用者・家族への説明は、5つの遵守事項ではなく「四」の②に置かれています。
通知が求めている手続
通知の四②は、外国人介護人材が利用者の居宅に訪問して介護業務を行う可能性がある場合に、当該利用者やその家族に対して次の点などについて書面を交付して説明し、当該利用者またはその家族にその書面へ署名を求めることとしています。
- 外国人介護人材が訪問する場合があること
- 訪問予定の外国人介護人材が実務経験等の要件を満たしていること(実務経験の期間等)
- 情報通信機器を使用しながら業務を行う場合があること
- 外国人介護人材の業務従事にあたって、不安なことがある場合に利用者または家族から連絡するための事業所連絡先
あわせて公表されたQ&Aの問15は同じ内容を確認したうえで、「利用者・家族に署名いただいた書面の写しは当該利用者・家族に交付すること」と付け加えています。署名をもらって事業所が保管して終わり、ではありません。控えを手元に残してもらうところまでが手続です。
様式は国が用意している
通知には別添として説明様式が2種類付いています。別添1が実務経験1年以上の職員を想定したもの、別添2が実務経験1年未満の例外に対応したものです。表題は「当事業所のサービス提供体制について」で、事業所名を入れる書き出しのあと、実務経験、情報通信機器の使用、相談窓口の連絡先が番号を振って並び、末尾に「上記について説明を受けました」という一文と、日付、利用者氏名、署名代行者(または法定代理人)の続柄と氏名の欄が置かれています。
実務上、この様式で押さえておきたいのは2点です。第一に、署名欄が本人だけでなく署名代行者・法定代理人を想定していること。認知症などで本人の署名が難しいケースを様式が織り込んでいます。第二に、様式の本文が「利用者や家族等の意向や希望を伺い、事業所で総合的に判断した上で訪問の相談をさせて頂くことを基本と致します」という書きぶりになっていること。利用者に拒否権を与える文言でも、事業所が一方的に決める文言でもなく、意向を聞いたうえで事業所が判断する、という中間の立て付けです。この一文は施設系の説明文書にも応用が利きます。
実務経験1年未満の例外では、同意がさらに重い意味を持つ
訪問系に従事するには介護事業所等での実務経験1年以上が原則です。ただし通知の四①は、受入事業所の判断で例外的に1年未満の職員を従事させる場合の条件を定めています。日本語能力試験N2相当など在留資格上求められる水準より高い日本語能力を有する場合に限ったうえで、利用者ごとに同行訪問を行うというものです。週1回のサービス提供なら同行訪問は半年、週2回なら3か月、週3回以上なら2か月とされ、それ以上の短縮は認められていません。
ここで同意が登場します。週1回のケースについて通知は、利用者・家族の同意が得られる場合には同行訪問を3か月にしたうえで、サービス提供時に見守りカメラを活用するなど情報通信技術を用いて常に事業所とやりとりできるようにする対応も可能としています。Q&Aの問14は、この「同意」を、見守りカメラの活用について利用者・家族に説明したうえで同意を取ることと説明しています。つまり例外運用では、書面への署名とは別に、居宅にカメラを持ち込むことへの同意という第2の同意が必要になります。
説明書の写しは提出書類でもある
訪問系サービスに従事させるには、巡回訪問等実施機関に事前に書類を提出し、適合確認書の交付を受ける必要があります。その提出書類のなかに「外国人介護人材が訪問すること等についての利用者・家族への説明書の写し」が含まれます。実務経験1年以上であることが分かる書類、初任者研修等の修了状況が確認できる書類、キャリアアップ計画と並ぶ位置づけです。説明は内部の心がけではなく、確認書が出るかどうかに直結する要件だと理解しておく必要があります。
なお、通知の「三」以降の対応が求められる訪問系サービスは、訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、介護予防・日常生活支援総合事業(第一号訪問事業に限る)です。訪問入浴介護と介護予防訪問入浴介護についても従事は認められましたが、複数人でサービスを提供するものであり初任者研修課程の修了などが必ずしも求められていないことなどから、適切な指導体制を確保したうえで職場内研修を経て従事させる、という別の書き方になっています。自事業所がどちらに当たるかは最初に確認してください。
施設系サービスでは、いつ説明するのが現実的か
特別養護老人ホームや介護老人保健施設、通所介護などの施設系・通所系サービスには、外国人職員の従事について書面を交付して署名を得るという要件はありません。実際、介護分野の特定技能外国人が最も多く受け入れられているのは特別養護老人ホームで、訪問介護は件数が少ない類型に含まれます。つまり大多数の受け入れ担当者は、法定の型がないところで説明を設計することになります。
ここで訪問系の要件が使えます。国が「これだけは伝えろ」と整理した4項目は、居宅か施設かに関係なく、家族が知りたいことそのものだからです。あとは、いつ伝えるかを施設の運営サイクルに合わせて決めます。
タイミング1: 入居・利用開始前(重要事項説明のなかで)
指定介護老人福祉施設の基準は第4条で、サービス提供の開始に際してあらかじめ入所申込者またはその家族に対し、運営規程の概要、従業者の勤務の体制その他の重要事項を記した文書を交付して説明し、同意を得なければならないと定めています。訪問介護など居宅サービスにも同趣旨の規定(指定居宅サービス等基準第8条)があります。
「従業者の勤務の体制」は、もともと説明対象です。ここに外国人職員の在籍と配置の考え方を一段落加えるのが、最も摩擦の少ないやり方です。入居契約の場で初めて聞く話にしておけば、あとから「聞いていない」という苦情が立ちにくくなります。逆に、入居後に個別に切り出すと、その利用者だけ特別扱いされた印象になり、説明が交渉に変わってしまいます。介護におけるインフォームドコンセントの考え方でいえば、選択の余地が残っている段階で情報を渡すことが本質です。
タイミング2: 配属・担当開始の前後
入居時の包括的な説明とは別に、実際にその職員がユニットやフロアに入る時点で、もう一段の周知を行います。ここで有効なのは、個別面談ではなく掲示と広報です。新入職員の紹介として、名前、出身、担当する時間帯、これまでの経験、日本語学習の状況を、日本人職員と同じ書式で掲示します。外国人職員だけ別枠の告知にすると、それ自体が「特別な存在」というメッセージになります。同じ書式に載せることが、説明の内容以上に効きます。
タイミング3: 家族会・広報での地ならし
個別の説明が難しくなるのは、家族が突然「知らない話」に直面するときです。逆に言えば、事前に何度か情報が流れていれば、個別の説明は確認作業になります。家族会、施設だより、掲示板は、そのための地ならしの場です。
- 家族会: 受け入れの背景(人員体制の維持)、採用時に確認している要件、教育体制、相談先の4点を、決定事項の報告としてではなく年間計画の共有として出します。質疑の時間を必ず取り、出た不安はその場で否定せず記録します
- 施設だより: 単発の告知で終わらせず、研修の様子や資格取得の進捗を継続的に載せます。「受け入れました」という一度の記事より、育っている経過が見えることのほうが家族の安心につながります
- 掲示: 相談窓口の連絡先を常設で掲示します。訪問系の説明書が事業所連絡先を必須項目にしているのと同じ趣旨で、不安を苦情になる前に受け止める入口を用意しておくためです
タイミング4: 説明したことを記録に残す
訪問系では説明書の写しが提出書類になりますが、施設系では記録の様式が決まっていません。それでも、いつ・誰に・何を説明し、どんな反応があったかは残しておくべきです。理由は2つあります。ひとつは、のちに苦情や担当変更の求めが出たとき、説明の有無が対応の出発点になるから。もうひとつは、職員側から「利用者に受け入れられていない」という相談が上がったときに、施設として何を伝えていたかを振り返る材料になるからです。介護記録システムの申し送り欄でも、家族対応記録でも構いません。様式より、残っていることが重要です。
説明文書に何を書くか
訪問系の法定4項目を土台に、施設系で使う説明文書の記載項目を組み立てます。左が通知の項目、右がそれを施設に置き換えたときの書き方です。
| 訪問系の法定記載事項 | 施設系での書き方 |
|---|---|
| 外国人介護人材が訪問する場合があること | 外国人職員が介護業務に従事していること。特定のフロアや時間帯に限定していないこと(限定している場合はその範囲) |
| 訪問予定の職員が実務経験等の要件を満たしていること | 採用時に確認している要件。在留資格の種類、日本語能力、これまでの介護経験、施設内での研修と指導の体制 |
| 情報通信機器を使用しながら業務を行う場合があること | 翻訳機器や記録端末を使う場面があること。記録や申し送りを職員全員で共有する仕組みがあること |
| 不安がある場合の事業所連絡先 | 相談窓口の部署名、担当者名、電話番号。苦情受付窓口とは別に明示するか、同じ窓口で受けるかを決めて書く |
施設系で足したい3項目
居宅と施設では、家族が心配する内容が少しずれます。訪問系は「1対1で自宅に入る」ことへの不安が中心ですが、施設系は「毎日の生活の担い手が誰か」という不安が中心です。そのため次の3つを足すと、質問の量が目に見えて減ります。
- 誰が最終的に責任を負うか: 外国人職員が単独で判断する場面と、リーダーや看護職員に必ずつなぐ場面の切り分けを書きます。「一人で任せきりにはしない」ことを、精神論ではなく手順として示すのが要点です
- 言葉が通じにくいときにどうするか: 聞き取れなかった場合に確認し直すルール、翻訳機器の使用、記録での二重確認。実際に困る場面を先回りして書くほど、家族の想像上の不安が具体的な運用に置き換わります
- 意向をどう扱うか: 国の説明様式にある「利用者や家族等の意向や希望を伺い、事業所で総合的に判断した上で」という言い回しをそのまま借ります。意向は聞く、ただし決めるのは事業所である、という立て付けを最初に文書化しておくと、あとの担当変更の話し合いが感情論になりにくくなります
書かないほうがよいこと
説明文書を作るときに、つい入れたくなるが避けたい表現もあります。
- 過剰な保証: 「日本人職員と全く同じ対応ができます」といった断定は、ひとつの失敗で信頼をまとめて失います。要件と体制を書き、結果は書かないほうが安全です
- 人手不足の言い訳としての説明: 「人が集まらないので外国人を採用しました」という書き方は、家族に「質を落とす選択をした」と受け取られます。国の通知も、外国人介護人材を単なる日本人の穴埋めとしての労働力ととらえることは適当ではない、という考え方を冒頭に置いています
- 国籍の列挙だけで終わる紹介: 出身国を書くこと自体は問題ありませんが、それだけを書くと属性の告知になります。経験と研修の情報を必ずセットにしてください
日本語能力についてどこまで書くかは判断が分かれるところです。試験の級だけを書くと、家族はその数字を絶対視します。通知も、試験で測られる語学力と現場でのコミュニケーション能力は必ずしも一致しないとしたうえで、現場での経験を積みながらレベルアップしていく側面があることに留意するよう求めています。級を書くなら、施設内でどう学習を支援しているかを併記するのが実態に合います。教育体制の組み立て方は外国人介護人材の日本語教育で整理しています。
説明の材料になる公的データ
説明の場でいちばん効くのは、担当者の熱意ではなく、答えに使える数字です。ここでは公表されている調査から、家族の質問に対応できるものを整理します。
実際にケアを受けた利用者・家族の評価
厚生労働省の令和3年度老人保健健康増進等事業「介護施設等における外国人介護職員の就労実態に関する調査研究」(株式会社サーベイリサーチセンター)では、受入施設・事業所の利用者本人と家族に対するアンケートが行われ、有効回収数は2,714件でした。技能実習生からサービスを受けた回答(n=1,944)の内訳は次のとおりです。
| 設問 | 回答 | 割合 |
|---|---|---|
| 介護サービスの満足度 | 十分満足できる水準である | 42.4% |
| おおむね満足できる水準である | 38.2% | |
| 普通(どちらともいえない) | 16.6% | |
| 日本語での意思疎通の程度 | 特に問題なく意思疎通ができる | 51.6% |
| 時々話が通じないときはあるが、ゆっくり話せばおおむね伝わる | 38.9% | |
| 挨拶や簡単な会話程度であれば、なんとか伝わる | 8.6% | |
| 働きぶりへの評価 | 大変仕事熱心であり、高く評価できる | 59.8% |
| 足りない部分はあるが、おおむね評価できる | 27.7% |
EPA介護福祉士候補者について答えた回答(n=418)でも、満足度は「十分満足」42.8%、「おおむね満足」36.8%、意思疎通は「特に問題なく」49.3%と、ほぼ同じ水準でした。
この数字の限界を先に言っておく
この調査は、外国人職員を受け入れている施設・事業所を経由して調査票が配布され、対象者の選定も施設側が行っています。回答方法も、技能実習生についての回答では「自分の回答を、家族又は職員に記入してもらった」が69.7%を占めます。受け入れがうまくいっている施設ほど回答が集まりやすく、記入を職員が手伝った回答も多い、という構造的な偏りがあります。報告書自身も、就労2年以内の職員を対象にした設計だったが2年以上の職員に関する回答が多く含まれた点に留意するよう注記しています。
したがってこの数字は「外国人職員のケアの質が客観的に高いことの証明」ではありません。使い方としては、「不安を持たれることは多いが、実際に受けた人の評価は低くない」という一般的な傾向を示す材料に留めるのが誠実です。家族に示すときも、調査名と対象を一緒に伝えてください。数字だけを切り出して提示すると、あとで出典を問われたときに信頼を損ないます。
規模の話
もうひとつ、説明の場で意外に効くのが「珍しいことではない」という情報です。厚生労働省の資料によると、介護分野の特定技能外国人の在留者数は2025年11月末時点で65,505人となり、受け入れが始まった2019年以降で最多です。受け入れ先の類型を見ると、特別養護老人ホームが10,563件で最も多く、次いで病院、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、介護老人保健施設と続き、上位5類型で約7割を占めます(令和7年9月12日時点で編集、複数回答)。
一方、訪問系は解禁されたばかりで規模が小さく、訪問介護は件数の少ない類型に含まれています。この非対称は、担当者にとって実務的な意味を持ちます。施設系では「他の施設でも当たり前に行われていること」として説明できるのに対し、訪問系では利用者にとって初めての経験である可能性が高い。国が訪問系にだけ書面と署名を課したのも、居宅で1対1になるという業務特性に加えて、この経験の少なさを踏まえた設計と読めます。
担当変更を求められたときの線引き
説明を尽くしても、「あの人ではなく日本人の職員にしてほしい」という求めは出ます。受け入れ担当者が最も判断に迷い、そして最も孤立しやすい場面です。ここを「利用者の言うとおりにする」でも「我慢してもらう」でもなく処理するには、求めの中身を分けることから始めます。
まず3つに切り分ける
| 層 | 訴えの中身 | 扱い |
|---|---|---|
| ケアの問題 | 指示が伝わらなかった、手順が違った、確認が足りなかった | 苦情として受け、事実確認と改善を行う。職員の属性とは切り離す |
| 症状に起因する言動 | 人物の誤認、不安から生じる拒否、記憶の混乱による訴え | ハラスメントではなくケアの課題として扱う。主治医やケアマネジャーの意見も確認する |
| 属性を理由とする拒否 | ケアの内容とは無関係に、出身や国籍を理由に担当を替えるよう求める | 意向として受け止めたうえで、施設の方針と職員保護の観点から判断する |
2層目の考え方は、厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」に明記されています。マニュアルは、認知症等の病気または障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとしてではなく医療的なケアによってアプローチする必要があるとし、ハラスメントか症状による言動かの判断は施設・事業所だけでなく、利用者の主治医やケアマネジャー等の意見も確認しながら行うことが必要だとしています。同時に、症状に起因する言動であっても職員の安全に配慮する必要があることに変わりはないとも述べています。症状だと整理することは、職員に我慢させる理由にはなりません。
意向は考慮要素であって、決定権ではない
訪問系の通知は、訪問先の選定について明快な立て付けを取っています。ハラスメント等が発生しにくいようにすることに留意しつつ、利用者の健康状態や日常生活自立度、居住環境といった状態像や周辺環境、利用者や家族の意向、外国人介護人材のコミュニケーション能力や介護技術の状況・意向等を踏まえ、サービス提供責任者や事業者等が総合的に判断する。そして、その判断について適切に記録を残すこととされています。
ここで利用者・家族の意向は、複数ある考慮要素のひとつとして並べられています。意向だけで決まるとは書かれていませんし、意向を無視してよいとも書かれていません。さらに通知は、同行訪問の期間中にも利用者や家族の意向を改めて確認しつつ、その職員が適切な支援を提供できるか、利用者と良好な関係性が構築できるかも勘案しながら、サービス提供を継続するか判断することが適当だとしています。国が示しているのは、一度で白黒をつけるのではなく、同行という猶予期間を挟んで判断を更新する運用です。施設系でも、この「猶予を挟む」設計はそのまま使えます。すぐに担当を外すのでもなく、押し切るのでもなく、期間を区切って一緒に入る形にする、という選択肢です。
2026年10月から、職員を守ることは事業主の義務になる
令和7年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となります。施行は令和8年(2026年)10月1日です。令和8年2月26日には防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)も公布されました。
介護施設の受け入れ担当者が押さえておくべき点は3つあります。
- 指針は「顧客等」の例として「施設・サービスの利用者及びその家族」を明示しています。介護サービスの利用者と家族は、この枠組みの対象です
- 「職場」には、労働者が業務を遂行する場所であれば顧客の自宅等も含まれるとされています。訪問介護の利用者宅は職場です
- 該当するのは、顧客等の言動であって、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるという3要素をすべて満たすものです。指針は、顧客等からの苦情のすべてが該当するわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであるとも明記しています
義務づけられる措置は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などです。指針は、毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を顧客等に周知・啓発することも被害の防止に効果的だとしています。施設に置き換えれば、入居時の重要事項説明や掲示で、職員への言動について施設の方針を先に示しておくということです。外国人職員の受け入れ説明と、この方針の周知は、同じ場でまとめて行うのが合理的です。
同時に指針は、対策を講じる際に消費者の権利や、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律で定められた不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとし、顧客等との建設的対話を重ねるなど事案に応じて適切に対応することを求めています。さらに、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して適切に対応する必要があるとも述べています。介護はまさにこの但し書きが効く分野です。職員保護を理由に対応を打ち切れば済む、という構造にはなっていません。
提供拒否と契約解除には「正当な理由」がいる
指定居宅サービス等基準は第9条で、指定訪問介護事業者は正当な理由なく指定訪問介護の提供を拒んではならないと定めており、この規定は訪問看護、短期入所生活介護、短期入所療養介護など他の居宅サービスにも準用されています。厚生労働省も、利用者やその家族等からハラスメントがあった場合がすべからく「正当な理由」に当たるわけではないが、事案によっては提供を拒否することも考えられるとしています。
ハラスメント対策マニュアルは、契約解除の「正当な理由」の判断にあたって、結果の重大性、再発可能性、契約解除以外の防止方法の有無・可否および解除による利用者の不利益の程度を考慮する必要があるとしています。そのうえで、正当な理由が否定される可能性のある場合として、必要な措置を講じることなく直ちに解除した場合を挙げ、その「必要な措置」の例に「担当職員を変更する」を明記しています。
これは実務上、重要な意味を持ちます。担当変更は、施設が屈したことを意味しません。マニュアルの枠組みでは、契約解除という最終手段に至る前に検討すべき措置のひとつです。担当を替えたうえで話し合いを継続し、それでも改善しない場合に次の段階へ進む、という順序が想定されています。
担当を替える場合に、職員に対してやるべきこと
判断として担当変更を選んだとき、最も避けたいのは、当の職員が「自分が否定された」と受け取ったまま業務に戻ることです。厚生労働省の通知が例として挙げている事例でも、利用者からの言動について本人が相談し、事業所内で対応を検討し、利用者家族に説明したうえで訪問者を変更するという流れが紹介されています。順番があります。本人の相談、事業所での検討、家族への説明、そして変更です。本人に相談させないまま先に変更を決めると、配慮のつもりが排除として伝わります。
- 変更の理由を本人に説明する。ケアの問題ではないなら、そうはっきり伝える
- 変更は一時的な措置なのか、恒久的な配置転換なのかを明示する
- 他の利用者の担当や評価に影響しないことを明確にする
- 相談窓口があること、今回の経緯が記録されていることを伝える
- 同種の求めが繰り返される場合に施設としてどう対応するかの方針を示す
訪問系の遵守事項では、相談窓口の設置と周知が受入事業者に求められています。施設系にはこの形の要件はありませんが、2026年10月からのカスタマーハラスメント対策では相談体制の整備が措置義務に含まれます。外国人職員のために特別な窓口を作るというより、既存の窓口が実際に使われる状態になっているかを点検するのが先です。母国語での相談先が用意されているか、相談したことで不利益を受けないと明示されているかも確認してください。
苦情やトラブルが起きたときの手順
苦情は、対応の巧拙よりも手順の有無で結果が変わります。介護保険の運営基準は、指定訪問介護事業者について第36条で、利用者およびその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために窓口を設置する等の必要な措置を講じること、受け付けた苦情の内容等を記録することを求めています。指定介護老人福祉施設にも第33条に同趣旨の規定があります。外国人職員に関する苦情も、この既存の枠組みで処理します。別建ての仕組みを作る必要はありません。
手順1: 受け止めと事実確認を分ける
その場で結論を出さないことが第一です。「申し訳ありません、すぐ担当を替えます」も、「そういうことは言わないでください」も、どちらもこの段階では早すぎます。まず何が起きたのかを聞き取り、記録します。運営基準が求めているのは内容等の記録であって、解決の即時性ではありません。
聞き取りでは、出来事と評価を分けて書き取ります。「言葉が通じなくて不安」という評価の裏に、「呼んだのに来なかった」「説明を求めたが答えられなかった」という具体的な出来事があることが多く、その出来事はケアの手順で解決できる場合があります。逆に、具体的な出来事が出てこない場合は、属性への不安が中心である可能性が高くなります。どちらであるかで、その後の打ち手が変わります。
手順2: 職員本人から聞く
家族の話だけで判断すると、職員は事後報告で結果だけを知ることになります。必ず本人からも聞き取ります。日本語での説明が難しい場合は、翻訳機器の使用や、通訳できる同僚の同席を検討します。ただし同僚を通訳に使うときは、内容がハラスメントに関わる場合に本人が話しにくくなる点に注意してください。訪問系の遵守事項が相談窓口の設置を求め、国が母国語による相談窓口の設置に取り組むこととしているのは、この難しさを織り込んでのことです。
手順3: 一人に抱えさせない
ハラスメント対策マニュアルは、暴言・暴力を受けた場合に職員が一人で問題を抱え込まず、上長や施設・事業所へ適切に報告・共有できるようにすることが大切だとしています。報告・共有の場は、対応を検討する場であると同時に、どうケアするかのノウハウを施設内で共有する機会にもなるという整理です。
実務では、報告のハードルを下げる工夫が要ります。外国人職員にとって、日本語で経緯を文章にすることは大きな負担です。チェック方式の様式を用意する、口頭で受けて聞き手が記録する、といった形にしておくと報告が上がるようになります。訪問系の通知でも、記録作成の負担を情報通信技術の活用で軽減することや、記録作成そのものを簡略化する工夫を行う環境整備が重要だとされています。
手順4: 外部と連携する
マニュアルは、ハラスメントは状況・程度・要因が多様で、個々の施設・事業所だけで適切かつ法令に即して対応することが困難な場合もあるとし、医師等の他職種、保険者、地域包括支援センター、保健所、地域の事業者団体、法律の専門家または警察等との連携が大切だとしています。外国人職員が関わる事案では、これに加えて登録支援機関や監理団体、巡回訪問等実施機関も相談先になります。施設内で完結させようとするほど、担当者一人に負荷が集中します。
手順5: 記録を残し、説明の型に戻す
対応が終わったら、経緯と判断理由を記録します。訪問系では訪問先の選定の判断について記録を残すことが明示されていますが、施設系でも同じことをしておく価値があります。次に同種の求めが出たときに、施設としての判断基準が一貫するからです。判断が担当者ごとにぶれると、職員は「誰に当たるかで守られ方が変わる」と受け取ります。
そして、起きた事案は説明の型に反映させます。「言葉が通じにくいときにどうするか」の説明が足りなかったなら、次の入居説明からその項目を足す。相談窓口が知られていなかったなら、掲示の位置を変える。苦情対応を個別の火消しで終わらせず、入口の説明に戻す循環を作ることが、結果的に担当者の負荷をいちばん下げます。
よくある質問
Q. 施設系サービスでも、利用者・家族から署名をもらう必要がありますか
書面を交付して説明し署名を求めることが求められているのは、通知の対象となる訪問系サービスに従事させる場合です。特別養護老人ホームや通所介護などで外国人職員を配置することについて、同じ形の要件はありません。ただし施設系でも、運営基準上、サービス提供の開始に際して従業者の勤務の体制を含む重要事項を記した文書を交付して説明し、同意を得ることが求められています。この既存の説明のなかに外国人職員の配置に関する記載を組み込む形が現実的です。
Q. 利用者が説明書への署名を拒んだ場合はどうなりますか
通知とQ&Aは、書面を交付して説明し署名を求めることまでを定めており、署名が得られなかった場合の取扱いは示されていません。一方で、説明書の写しは巡回訪問等実施機関への提出書類に含まれます。判断に迷う場合は、自己判断で運用を決めずに、提出先である巡回訪問等実施機関に確認してください。署名を求める前段として、通知の説明様式が「利用者や家族等の意向や希望を伺い、事業所で総合的に判断した上で訪問の相談をさせて頂く」という書きぶりになっている点も、説明の際に伝えておく価値があります。
Q. 誰が署名するのですか。本人が書けない場合は
通知は「当該利用者又はその家族に当該書面に署名を求める」としています。国が示す説明様式には、利用者の氏名欄に加えて、署名代行者(または法定代理人)の続柄と氏名を記入する欄が設けられています。本人が署名できない状況を様式が想定した作りになっています。
Q. 説明はいつ行えばよいですか。新規の利用者と既存の利用者で違いますか
通知は「外国人介護人材が利用者の居宅に訪問して介護業務を行う可能性がある場合」と書いており、実際に訪問する前の段階を想定しています。既存の利用者についても、その職員が訪問する可能性が生じた時点で説明が必要になります。通知に紹介されている実例では、同行研修の終了後に一人で訪問業務を行うことになるタイミングで利用者・家族に説明し了解を得た、という運用が挙げられています。
Q. 見守りカメラを使う場合、別に同意が必要ですか
実務経験1年未満の職員を例外的に従事させ、週1回のサービス提供で同行訪問を半年から3か月に短縮する場合には、利用者・家族の同意が条件になります。Q&Aの問14は、この同意について、常に事業所とやりとりできるよう見守りカメラを活用することを利用者・家族に説明したうえで同意を取ることを想定していると説明しています。書面への署名とは別の同意です。なお同Q&Aは、ここでいう情報通信技術には見守りカメラのほか、スマートフォンやタブレット等の常に事業所とやりとりができるものを想定しているとしています。
Q. 家族から「外国人職員には担当させないでほしい」と言われたら、応じなければなりませんか
応じる義務も、拒む義務もありません。訪問系の通知は、訪問先の選定を、利用者の状態像や周辺環境、利用者や家族の意向、職員のコミュニケーション能力や介護技術の状況・意向等を踏まえて、サービス提供責任者や事業者等が総合的に判断すると定めています。意向は考慮要素のひとつです。同時に、その判断について記録を残すことが求められています。施設系でも、意向を聞いたうえで施設が判断し、判断理由を記録する、という手順に揃えるのが実務的です。
Q. 職員に対する言動が続く場合、サービスを断ることはできますか
指定居宅サービス等基準は、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないと定めています。厚生労働省は、利用者や家族等からハラスメントがあった場合がすべからく正当な理由に当たるわけではないが、事案によっては提供を拒否することも考えられるとしています。ハラスメント対策マニュアルは、契約解除の正当な理由の判断にあたって結果の重大性、再発可能性、解除以外の防止方法の有無・可否、解除による利用者の不利益の程度を考慮する必要があるとし、担当職員の変更などの措置を講じずに直ちに解除した場合は正当な理由が否定される可能性があるとしています。順を踏むことが前提です。
Q. 2026年10月のカスタマーハラスメント対策義務化で、何が変わりますか
改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務になります。施行は令和8年10月1日です。防止指針では「顧客等」の例に施設・サービスの利用者およびその家族が挙げられており、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などの措置が求められます。外国人職員の受け入れに固有の制度ではありませんが、職員への言動に対する施設の方針を利用者・家族に示す根拠として使えます。
Q. 認知症のある利用者が特定の職員を拒むケースはどう扱いますか
厚生労働省のハラスメント対策マニュアルは、認知症等の病気または障害の症状として現れた言動については、ハラスメントとしてではなく医療的なケアによってアプローチする必要があるとしています。判断は施設・事業所だけで行わず、主治医やケアマネジャー等の意見も確認しながら行うこととされています。ただし同マニュアルは、症状に起因する言動であっても職員の安全に配慮する必要があることに変わりはないとも述べています。症状として整理することと、職員を守らないことは別です。
参考資料・出典
- [1]
- [2]外国人介護人材の訪問系サービス従事における留意点について(社援発0331第40号、老発0331第12号)- 厚生労働省
令和7年3月31日付け通知。四②に書面交付・署名と4つの記載事項、四①に実務経験1年以上の原則と例外を規定
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]
- [7]
- [8]事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)- 厚生労働省
顧客等に施設・サービスの利用者及びその家族を明示。顧客の自宅も職場に含まれる旨、3要素の判断枠組み
- [9]介護施設等における外国人介護職員の就労実態に関する調査研究 報告書(令和3年度老人保健健康増進等事業)- 株式会社サーベイリサーチセンター(厚生労働省補助事業)
利用者・家族向けアンケート(有効回収数2,714件)。満足度・意思疎通・働きぶりの評価と調査設計上の留意点
- [10]
- [11]
まとめ
外国人職員の受け入れを利用者・家族にどう説明するかという問題は、「理解を求める」という心構えの話にされがちです。しかし訪問系サービスについては、2025年4月の解禁にあわせて、国が説明を手続として書き下しました。書面を交付して説明すること、署名を求めること、署名済み書面の写しを利用者・家族に交付すること、そして説明書の写しを提出書類として出すこと。記載すべき事項も、外国人職員が訪問する場合があること、実務経験等の要件を満たしていること、情報通信機器を使う場合があること、不安があるときの事業所連絡先の4点と示されています。様式も国が用意しています。
特別養護老人ホームをはじめとする施設系サービスに、この書面の要件はありません。ただし実際には、外国人職員の多くは施設系で働いています。法定の型がないところで説明を組み立てるとき、訪問系の4項目は最も筋のよい下敷きになります。そこに、責任の所在、言葉が通じにくいときの手順、意向の扱い方の3点を足し、入居時の重要事項説明に組み込み、家族会と施設だよりで地ならしをする。これが施設系での現実的な設計です。
担当変更の求めについては、求めの中身を、ケアの問題、症状に起因する言動、属性を理由とする拒否の3つに切り分けるところから始めます。訪問系の通知は、訪問先の選定を利用者・家族の意向を含む複数の要素から総合的に判断し、その判断を記録すると定めています。意向は考慮要素であって決定権ではない、という立て付けです。ハラスメント対策マニュアルは、担当職員の変更を、契約解除に至る前に検討すべき措置のひとつとして位置づけています。担当を替えることは屈服ではなく、順序のなかの一手です。
そして2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。防止指針は「顧客等」に施設・サービスの利用者およびその家族を明示し、労働者が業務を遂行する場所であれば顧客の自宅も職場に含めています。同時に、サービスが途絶すると利用者の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることにも留意を求めています。職員を守ることと、必要なケアを続けること。この2つを同時に成り立たせる方針を、施設として文章にしておく時期に来ています。外国人職員の受け入れ説明は、そのための最初の実践の場になります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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