
補足給付の所得区分、判定基準額を82.65万円に引き上げ|厚労省告示公布、8月から「対象になる人」の境界が動く
厚労省は2026年6月22日、補足給付(特定入所者介護サービス費)の所得区分の判定基準額を80.9万円から82.65万円へ引き上げる省令・告示を公布した。8月施行で第2段階と第3段階①の境界が動く。年金額改定に連動した今回の見直しの意味を、利用者・家族と現場の双方向けに解説する。
この記事のポイント
厚生労働省は2026年6月22日、補足給付(特定入所者介護サービス費)の所得区分を判定する基準額を、現行の80.9万円から82.65万円へ引き上げる省令・告示を公布した。対象は「第2段階」と「第3段階①」を分ける境界ラインで、年金収入と合計所得の合算額がこのラインを下回るかどうかで負担限度額が変わる。施行は2026年8月1日。前年の老齢基礎年金(満額)が80.9万円を超えたことを受けた、年金額改定に連動した措置だ。食費・居住費の単価引き上げが「いくら払うか」の話であるのに対し、今回の基準額変更は「そもそも軽減の対象になるか」という入口の線引きが動く点に本質がある。施設で入退所の相談を受ける介護職やケアマネにとっては、この夏、利用者・家族から負担の質問が増える局面で押さえておきたい改正だ。
目次
解説動画|補足給付の所得基準引き上げ(2026年8月)
介護保険施設に入る低所得の高齢者には、食費と居住費の自己負担を抑える「補足給付(特定入所者介護サービス費)」という仕組みがある。住民税非課税の世帯を中心に、所得に応じて4つの段階(第1段階から第3段階②まで)に区分し、段階ごとに負担の上限額(負担限度額)を定める制度だ。どの段階に当てはまるかで、毎月の施設利用料は数万円単位で変わる。
その「どの段階に入るか」を決める基準額が、2026年8月1日から変わる。厚生労働省が6月22日に公布した省令・告示により、第2段階と第3段階①を分ける年金収入等の基準額が、これまでの80.9万円から82.65万円へと引き上げられる。一見すると1.75万円という小さな数字の動きだが、これは年金額そのものの改定に合わせて軽減対象の入口を維持するための調整であり、結果として「これまで第3段階①だった人が第2段階に移る」ケースが生まれうる。
この記事では、今回の基準額引き上げが何を意味するのかを、まず公布された改正の中身から押さえる。そのうえで、同じ8月に行われる食費・居住費の単価引き上げとの違いを整理し、利用者・家族の負担にどう響くのか、そして施設の相談員やケアマネといった現場の専門職が窓口でどう説明すべきかという実務の視点まで、順を追って解説していく。制度の数字を追うだけでなく、それが現場と家計のどこに落ちるのかまで見ていきたい。
公布された改正の中身|基準額80.9万円から82.65万円へ
6月22日に省令と告示が公布された
厚生労働省は2026年6月22日、介護保険最新情報Vol.1513を発出し、補足給付に関わる省令と告示が公布されたことを関係者に周知した。具体的には、介護保険法施行規則の一部を改正する省令と、特定入所者介護(予防)サービス費の食費・居住費の負担限度額等を定める告示(令和8年厚生労働省告示第88号)が、同日付で公布された。いずれも2026年8月1日から施行される。
このうち施行規則の改正によって動くのが、補足給付の支給と、食費・居住費の負担限度額を設定する際に用いる「所得区分の基準額」だ。具体的には、第2段階と第3段階①を分ける基準が、これまでの80.9万円から82.65万円へと見直された。所得区分は、本人の年金収入金額(非課税年金を含む)と合計所得金額を合算した額で判定される。
「第2段階」と「第3段階①」の境界が動く
補足給付の対象となる低所得者は、預貯金額などの要件に加えて、この所得段階によって区分される。8月以降の整理では、世帯全員が市町村民税非課税である人のうち、年金収入金額と合計所得金額の合算が82.65万円以下なら第2段階、82.65万円超から120万円以下なら第3段階①、120万円超なら第3段階②となる。これまで「80.9万円以下が第2段階」とされていた境界が、82.65万円以下に引き上げられた形だ。
負担限度額は段階が下(第1段階に近い)ほど低く抑えられる。つまり同じ収入の人であっても、境界が上がることで第3段階①から第2段階へと判定が移れば、食費や居住費の上限額がより低い水準に当てはまる可能性がある。1.75万円の基準額引き上げは、こうした境界線上にいる利用者の区分判定を左右する。
事前周知はVoL.1506で5月から始まっていた
今回の公布に先立ち、厚労省は5月29日に介護保険最新情報Vol.1506(老健局介護保険計画課・老人保健課の事務連絡)を出し、8月施行予定の見直しを「改正作業中」として事前に周知していた。この時点ですでに、利用者負担段階に関する基準額を80.9万円から82.65万円へ見直す方向が示されており、自治体や事業所への周知協力が依頼されていた。6月22日のVol.1513は、その「作業中」だった内容が正式に決まったことを伝える通知にあたる。
制度改正がこうして二段階で周知されたのは、8月施行に向けて施設や市区町村の現場が認定証の差し替えや利用者への説明を準備する時間を確保するためだ。補足給付は申請に基づく「介護保険負担限度額認定証」の交付を通じて適用されるため、基準額が変われば認定や更新の実務にも影響が及ぶ。現場が混乱なく8月を迎えられるよう、国は早めに情報を流していたといえる。
なぜ今動かすのか|年金額改定との連動と、食費・居住費引き上げとの違い
引き金は前年の年金額改定だった
今回の基準額引き上げの理由は、制度の都合ではなく年金額そのものの動きにある。厚労省の説明によれば、令和7年度の年金額改定を踏まえた措置であり、前年の老齢基礎年金(満額)が80.9万円を超えたことが直接の引き金となった。補足給付の第2段階は、もともと「老齢基礎年金満額の水準に近い低所得層」を念頭に設計されてきた区分だ。年金の満額が引き上げられたのに基準額を据え置けば、満額の年金だけで暮らす人が境界をまたいで重い区分に押し出されてしまう。
そこで基準額を82.65万円へ引き上げ、年金額の上昇に軽減対象の入口を合わせる。言い換えれば、今回の改正は新たに対象を広げる「拡充」というより、年金改定に追従して従来の軽減水準を維持するための調整という性格が強い。物価や年金が動いても低所得者保護の趣旨が薄まらないようにする、いわばメンテナンスの一環だ。
同じ8月に「食費・居住費の引き上げ」も別に行われる
ここで混同しやすいのが、同じ2026年8月から実施される食費・居住費の負担限度額・基準費用額の引き上げだ。これは今回の基準額変更とは別の改正であり、性格がまったく異なる。基準額の変更が「どの段階に区分されるか」という入口の線引きの話であるのに対し、食費・居住費の引き上げは「各段階の人がいくら払うか」という金額そのものの話である。
厚労省の資料によると、8月からは第3段階①・②に該当する人について、食費が日額で30円から60円、一部の人を除き居住費が日額100円引き上げられる。食費の基準費用額(標準的な費用の額)も日額100円引き上げられる。例えば食費が日額30円から60円上がると、ひと月(30日換算)ではおよそ900円から1800円の負担増となる。負担限度額の具体的な水準は、施設のタイプ(多床室、従来型個室、ユニット型個室など)と段階の組み合わせで細かく定められている。
2つの改正が同時に効く利用者もいる
注意したいのは、この2つの改正が同じ8月に重なることで、人によっては影響が打ち消し合ったり、逆に複雑に絡んだりする点だ。境界線上にいて第3段階①から第2段階へ移る人は、より軽い負担限度額が適用される一方、第3段階①にとどまる人は食費・居住費の単価引き上げの影響を受ける。つまり「基準額が上がって対象が広がる」という良い面と、「単価が上がって負担が増える」という面が、同じタイミングで別々の利用者に作用する。1人の利用者にとって最終的に負担がどう動くかは、所得段階の判定と施設タイプの両方を見なければ分からない。
過去にも年金改定に合わせて調整されてきた
所得段階の基準額を年金額の動きに合わせて見直す対応は、今回が初めてではない。補足給付は2015年や2021年にも対象範囲や負担限度額の見直しが行われ、その都度、年金水準や資産要件との整合が図られてきた。低所得者保護という制度の根幹を保ちつつ、物価や年金の変動に制度を追従させていくのは、介護保険を持続可能に運営するうえで避けて通れない調整だ。今回の80.9万円から82.65万円への引き上げも、この継続的なメンテナンスの延長線上にある。現場でこの改正を説明する際も、「年金が上がった分、軽減の入口も合わせて動かした」という背景を添えると、利用者の理解が得られやすい。
利用者・家族はどう受け止めればよいか|「対象判定」を見直す好機
「自分は対象になるのか」をもう一度確認する
利用者や家族の立場で今回の改正を受け止めるなら、最も大切なのは「うちの場合、補足給付の対象に変化があるか」を確認することだ。とくに、これまで年金収入と合計所得の合算が80.9万円をわずかに超えていて第3段階①に区分されていた人は、基準額が82.65万円に上がることで第2段階に移る可能性がある。第2段階に該当すれば、食費や居住費の負担限度額がより低く設定されるため、月々の施設利用料が下がる余地が生まれる。
補足給付は自動的に適用されるものではなく、市区町村に申請して「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けて初めて使える。基準額の見直しで新たに対象となりうる人や、段階が変わる可能性のある人は、認定証の内容を確認し、必要に応じて申請や更新を行う必要がある。すでに認定を受けている人も、8月以降の区分がどうなるかは市区町村からの通知や施設の案内を待ちつつ、不明な点は早めに問い合わせておくと安心だ。
負担が「下がる人」と「上がる人」が混在する
家族として理解しておきたいのは、今回の8月改正によって負担が下がる人と上がる人が同時に存在することだ。基準額の引き上げで第2段階に移れば負担は軽くなる方向に働くが、第3段階①・②にとどまる人は、別途行われる食費・居住費の単価引き上げによって月900円から1800円程度の負担増を受ける。同じ施設の入所者同士でも、所得段階によって8月以降の負担の動き方が逆になりうる。
そのため「8月から制度が変わる」と一括りにせず、自分や家族がどの段階に当てはまるのかを具体的に確認することが欠かせない。預貯金額の要件(第2段階なら夫婦で1,650万円以下など)もあわせて満たす必要があるため、年金収入だけでなく資産の状況も含めて、施設や市区町村の窓口で相談するのが確実だ。在宅で介護を続ける中で将来の施設入所を見据えている家族にとっても、補足給付の仕組みと基準額を知っておくことは、費用の見通しを立てるうえで役立つ。
申請のタイミングと、家計全体での見通し
負担限度額認定証には有効期間があり、多くの市区町村では毎年の更新申請が必要だ。8月は前年の所得や年金額をもとに段階を判定し直す時期と重なるため、基準額の見直しと更新が同じタイミングで行われる自治体も多い。新たに対象となりうる人は、更新を待つだけでなく、自分から申請しないと軽減を受けられないことがある。年金収入が80.9万円をわずかに超えていて「対象外」と思い込んでいた人ほど、今回の引き上げで状況が変わる可能性があるため、一度確認しておく価値は大きい。
また、補足給付は食費と居住費に関わる軽減であり、介護サービスそのものの利用者負担(1割から3割)や、高額介護サービス費による上限とは別の仕組みだ。施設入所にかかる費用を家計全体で見通すには、これらの制度を組み合わせて考える必要がある。補足給付の基準額が動くこの機会に、自分や家族が利用できる軽減制度を一通り棚卸ししておくと、思わぬ負担増に慌てずに済む。判断に迷うときは、施設の相談員や地域包括支援センター、市区町村の介護保険担当窓口に相談するのが確実だ。
現場の専門職が押さえるべき実務|窓口対応とケアプランへの波及
相談員・ケアマネは「2つの改正」を分けて説明する
施設の生活相談員や居宅のケアマネジャーにとって、この夏は補足給付に関する問い合わせが増える局面だ。利用者や家族は「8月から負担が上がるらしい」という断片的な情報で不安を抱きやすい。そこで現場の専門職に求められるのは、今回の基準額引き上げ(対象判定の入口の話)と、食費・居住費の単価引き上げ(金額の話)を切り分けて説明できることだ。両者を混同したまま「負担が増える」とだけ伝えると、本来は負担が軽くなる可能性のある利用者にまで誤った不安を与えてしまう。
具体的には、相談を受けた際にまず本人の所得段階を確認し、基準額の引き上げで段階が変わりうるのか、それとも単価引き上げの影響を受ける側なのかを見極める。第3段階①でも、年金収入と合計所得の合算が82.65万円に近い人ほど第2段階への移動の可能性があるため、認定証の更新案内とあわせて丁寧に伝えたい。判断に迷う場合は、最終的な区分判定は市区町村が行うため、確定的な金額を断言せず窓口への確認を促す姿勢が安全だ。
認定証の差し替えと利用料計算の実務
施設側の事務としては、8月施行に合わせた負担限度額認定証の確認と、利用料計算の更新が発生する。所得段階の判定基準が変わることで、これまでと同じ収入の利用者でも適用される負担限度額が変わるケースがあるため、8月以降の請求では段階区分を改めて確認する必要がある。月初の請求業務が始まる前に、対象となりうる入所者をリストアップしておくと、現場の混乱を防ぎやすい。
居宅のケアマネにとっては、在宅から施設入所への移行を支援する場面で補足給付の知識が問われる。ショートステイを定期的に利用している在宅高齢者も補足給付の対象になり得るため、ケアプランに短期入所を組み込んでいる利用者については、8月以降の費用がどう変わるかを把握しておきたい。利用者の経済状況はサービス選択を左右する重要な要素であり、補足給付の基準額が動くタイミングは、改めて費用負担の見通しを利用者と共有する機会にもなる。
2027年度改定論議の伏線としても読む
視野を広げると、今回の基準額引き上げは2027年度の介護報酬改定に向けた議論の文脈にも置いて読める。社会保障審議会の介護給付費分科会では、物価高騰や経営環境の悪化を背景に、施設サービスの基本報酬や利用者負担のあり方が継続的な論点となっている。補足給付のような低所得者保護の仕組みは、利用者負担の公平性と制度の持続可能性のバランスをどう取るかという、より大きな議論の一部だ。年金額の改定に基準額を連動させる今回の対応は、制度を物価・賃金の動きに合わせて維持していく姿勢の表れであり、現場の専門職にとっては今後の改定動向を読むうえでの一つの手がかりになる。
よくある質問|補足給付の基準額引き上げ
基準額が80.9万円から82.65万円に上がると、私の負担は必ず下がりますか
必ず下がるわけではありません。負担が軽くなる可能性があるのは、年金収入と合計所得の合算が80.9万円超から82.65万円以下の範囲にいて、これまで第3段階①に区分されていた人です。この層は第2段階に移ることで負担限度額がより低くなる場合があります。一方、もともと第2段階だった人や、合算額が82.65万円を大きく超える人は、今回の基準額変更による段階の移動は生じません。預貯金額などの他の要件も満たす必要があるため、最終的な判定は市区町村に確認してください。
食費・居住費の引き上げと基準額の引き上げは何が違うのですか
役割が異なる別々の改正です。基準額の引き上げは「どの所得段階に区分されるか」という対象判定の入口を動かすもので、誰が軽減対象になるかに関わります。食費・居住費の引き上げは「各段階の人がいくら払うか」という負担額そのものを上げるもので、主に第3段階①・②の人が対象です。8月から両方が同時に施行されるため、人によって影響の出方が変わります。
手続きは必要ですか
補足給付を受けるには、市区町村への申請と「介護保険負担限度額認定証」の交付が必要です。すでに認定を受けている人も、基準額の見直しで段階が変わる可能性があるため、市区町村からの通知や施設からの案内を確認してください。新たに対象となりうる人は、申請をしないと軽減が受けられない点に注意が必要です。
在宅でショートステイを使う場合も関係しますか
関係します。補足給付は施設入所だけでなく、短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)の食費・居住費(滞在費)にも適用されます。在宅介護でショートステイを定期的に利用している人も、所得段階に応じて負担限度額が設定されるため、今回の基準額や単価の変更の影響を受ける場合があります。
参考文献・出典
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まとめ
2026年8月1日から、補足給付の所得区分を判定する基準額が80.9万円から82.65万円へ引き上げられる。第2段階と第3段階①を分ける境界が動くことで、境界線上にいた利用者が第2段階に移り、食費・居住費の負担限度額がより低くなる可能性が生まれる。これは前年の老齢基礎年金(満額)が80.9万円を超えたことを踏まえた年金額改定連動の措置であり、新たな拡充というより従来の低所得者保護の水準を維持するための調整という性格が強い。
同じ8月には食費・居住費の単価引き上げも別に行われるため、利用者によって負担が下がる人と上がる人が混在する。利用者・家族はまず自分がどの段階に当てはまるかを確認し、現場の相談員やケアマネは「対象判定の話」と「金額の話」を切り分けて説明する姿勢が求められる。制度の数字の動きが、誰の家計にどう落ちるのかまで見届けることが、この夏の窓口対応の鍵になる。あなたが介護や医療の現場で働いているなら、こうした制度改正を利用者にどう伝えるかは、専門職としての価値が問われる場面でもある。自分の強みを活かせる働き方を、この機会に見つめ直してみてはいかがだろうか。8月の改正を「負担増のニュース」とだけ捉えるのではなく、自分や家族、あるいは担当する利用者がどの段階にいるのかを具体的に確かめることが、損をしないための第一歩になる。制度の細かな数字の裏側にある「誰を守るための調整なのか」という視点を持つことが、改正を正しく読み解く助けになる。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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