
グリーフケアとは
グリーフケアとは、身近な人と死別し悲嘆に暮れる遺族を支援する取り組み。介護施設・訪問看護・ホスピスでの実践方法、ケアする職員自身のセルフケア、看取り介護加算との関係、相談窓口・資格を解説します。
この記事のポイント
グリーフケア(grief care)とは、身近な人との死別を経験し悲嘆に暮れる遺族を、悲しみから立ち直れるように支援する取り組みです。介護施設や訪問看護、ホスピス・緩和ケア病棟などで、亡くなった利用者・患者の家族を対象に手紙・追悼会・電話相談・サポートグループなどの形で実施されます。利用者・患者を看取った介護職・看護職自身の心のケア(職員グリーフケア)も重要なテーマです。
目次
グリーフケアの定義と歴史的背景
グリーフ(grief)は「深い悲しみ」を意味する英語で、グリーフケアは「悲しみのケア」と訳されます。死別だけでなく、離別・病気・喪失体験全般に伴う悲嘆も対象に含まれることがありますが、介護・看護領域では主に利用者・患者の死別後の家族支援を指します。
近年、日本でグリーフケアが注目されるようになった背景には、(1) 在宅看取りの増加、(2) ホスピス・緩和ケアの普及、(3) 2005年JR福知山線脱線事故・2011年東日本大震災などを契機にした遺族支援への社会的関心の高まり、があります。上智大学グリーフケア研究所(2009年設立)など、専門人材育成の場も整備されてきました。
介護報酬上、特養等の看取り介護加算や訪問看護等のターミナルケア加算は、看取った後の家族支援(遺族への声かけ・記録共有)を要件には含みませんが、看取り後のフォローアップは事業所運営の質を左右する要素として位置づけられています。日本ホスピス緩和ケア協会の調査でも、ホスピス・緩和ケア病棟の多くが遺族ケアプログラム(追悼会、手紙、電話、サポートグループ)を提供しています。
遺族側が辿る悲嘆の心理的プロセスは「グリーフワーク」と呼ばれ、ケアを提供する側のグリーフケアとは区別されます。グリーフケアはグリーフワークが健やかに進むように寄り添い支援する行為です。
グリーフケアの主な5つの実践方法
- 1. 追悼会・お別れの会:施設・ホスピスで定期的に故人を偲ぶ会を開催し、遺族と職員が一緒に思い出を語る場を作る。
- 2. 手紙・カードの送付:四十九日・一周忌など節目に、故人を担当した職員から遺族へ手紙やカードを送り「忘れていない」というメッセージを届ける。
- 3. 電話相談・面談:遺族の心境や生活の変化を聴き、必要に応じて専門機関(精神科・心療内科・心理カウンセラー)へつなぐ。
- 4. 遺族会・サポートグループ:同じ立場の遺族同士が体験を分かち合い、孤立感を和らげる場(ピアサポート)。月1回の集まりや読書会形式が一般的。
- 5. 情報提供・心理教育:「悲嘆は何年も続いてもおかしくない」「波があるのは普通」といった正常な悲嘆反応の知識を提供し、自分を責めずに済むよう支援する。
これらは単独で完結するものではなく、複数を組み合わせて遺族が必要とするタイミング・方法を選べる体制が望ましいとされます。とくに死別直後の数か月は「眠れない」「食欲がない」など身体症状を伴うことが多く、医療・心理職との連携が重要です。
グリーフケアと類似する3つの概念の違い
| 用語 | 担い手 | 対象・目的 |
|---|---|---|
| グリーフケア | 医療・介護職、ボランティア、専門カウンセラー | 遺族の悲嘆プロセスに寄り添い、立ち直りを支援する |
| グリーフワーク | 遺族本人 | 本人が悲しみと向き合い、喪失を受け入れて生活を立て直す心理的作業 |
| ビリーブメントケア(bereavement care) | 医療・介護職 | 「死別後のケア」の総称。グリーフケアとほぼ同義で使われる |
| 看取り介護・ターミナルケア | 介護職・看護職・医師 | 本人が亡くなる前の終末期ケア。看取り後のグリーフケアと対をなす |
| 職員グリーフケア(グリーフシェア) | 施設管理者・同僚・産業医 | 看取りを担った職員自身のメンタルケア。バーンアウト予防 |
グリーフケアは「ケアを提供する行為」、グリーフワークは「遺族本人が辿る心の作業」と区別されます。看取り介護・ターミナルケアが本人を対象とするのに対し、グリーフケアは家族・遺族を対象とする点で時間軸も対象も異なります。両者は連続したプロセスとして設計されることが理想です。
グリーフケアの実践で気をつけたい7つのポイント
- 傾聴を最優先する:助言やアドバイスより、遺族の言葉をそのまま受け止める姿勢が中心。沈黙を恐れない。
- 「頑張って」「元気を出して」を避ける:励ましのつもりでも、遺族には「悲しんではいけない」というプレッシャーになる。代わりに「つらいですね」「お辛いですよね」と感情を肯定する。
- 「時間が解決する」と決めつけない:悲嘆に正解の期間はない。何年も波がある人もいるという前提で接する。
- 故人の名前を出して語る:「お亡くなりになった方」より「○○さん」と固有名詞で語ることが、故人と遺族の存在を尊重するサインになる。
- 節目で連絡する:四十九日・一周忌・命日など、遺族が孤独を感じやすい時期に手紙・電話で接点を持つ。
- 専門機関へつなぐ判断を持つ:「眠れない・食べられない」「死にたいという発言」「半年以上強い症状が続く」場合は複雑性悲嘆の可能性があり、精神科・心療内科への紹介を検討する。
- 職員自身のセルフケアを優先する:看取りを担った介護職・看護職もグリーフを抱える。施設として振り返りミーティング・カンファレンス・産業医面談を制度化することがバーンアウト予防につながる。
よくある質問
Q1. グリーフケアに資格は必要ですか?
必須資格はありませんが、専門性を高める研修・資格として上智大学グリーフケア研究所「グリーフケア人材養成講座」、日本グリーフケア協会の認定資格、日本グリーフ専門士協会の認定資格などがあります。介護職・看護職が業務の一環として行う基本的なグリーフケアに資格は不要です。
Q2. 介護施設でどこまでグリーフケアをすべきですか?
事業所の規模・体制によりますが、最低限「死亡後の手紙・カードの送付」「四十九日や命日など節目の連絡」「電話相談を受けられる体制」を整えることが望ましいとされます。さらにできる場合は遺族会・追悼会・サポートグループの開催、専門機関への橋渡しなどが上位の取り組みです。
Q3. 「複雑性悲嘆」とは何ですか?
死別後の強い悲嘆が長期化(一般に半年以上)し、日常生活に支障をきたしている状態を指します。専門的治療が必要な可能性が高く、精神科・心療内科や臨床心理士・公認心理師による介入が推奨されます。家族が「何年経っても悲しみから抜け出せない」と訴える場合は、見守りつつ専門機関への受診を勧めることも選択肢です。
Q4. 看取りを担った介護職員自身のケアはどうすればよいですか?
施設として、(1) 看取り直後のデブリーフィング(振り返りミーティング)の実施、(2) 担当職員の勤務調整・連休取得、(3) 産業医・EAP(従業員支援プログラム)の活用、(4) 同僚と感情を共有する「グリーフシェア」の場の設置、などが有効です。職員のグリーフを軽視するとバーンアウト・離職につながります。
Q5. グリーフケアにかかる費用はありますか?
介護施設・訪問看護事業所が業務として提供する基本的なグリーフケア(手紙・電話・追悼会への招待等)は無料が一般的です。専門カウンセラーによる継続的な遺族カウンセリングは自費になることが多く、自治体によっては遺族向け相談窓口を無料で運営しています。
参考資料
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂) — 看取りプロセスにおける家族支援の位置づけ
- 日本ホスピス緩和ケア協会 — 遺族ケアプログラムの実態調査・研修
- 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 — 遺族のための情報提供
- 日本緩和医療学会 — 終末期ケア・遺族ケアに関する学術的指針
- 上智大学グリーフケア研究所 — 人材養成講座・公開講座
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年) — 看取り前後の家族支援に関連
まとめ
グリーフケアは、看取りで終わらない介護・看護のもう一つの責務です。手紙・追悼会・電話相談・遺族会など多様な手段を組み合わせ、遺族の悲嘆プロセスに「忘れていない」というメッセージを継続的に届けることが核となります。同時に、看取りを担った介護職・看護職自身もグリーフを抱える存在であり、施設として職員のセルフケア体制(振り返り・勤務調整・産業医連携)を整えることが、質の高いケアを長く続ける条件です。看取り介護とACPに続くフェーズとして、グリーフケアまで含めた連続的なケア設計を意識しましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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