ROM訓練とは

ROM訓練とは

ROM訓練(関節可動域訓練)は関節の動く範囲を維持・拡大するリハビリ。他動・自動・自動介助の3種類、拘縮予防の手順、参考可動域、禁忌、介護現場での実施頻度を看護師目線で解説。

ポイント

この記事のポイント

ROM訓練(関節可動域訓練、Range of Motion exercise)は、関節を動かす範囲(可動域)を維持・拡大して拘縮を予防することを目的としたリハビリです。利用者自身が動かす自動運動(AROMex)、わずかな筋力をスタッフが補助する自動介助運動(AAROMex)、第三者がすべて動かす他動運動(PROMex)の3種類があり、寝たきりや麻痺がある方でも安全に実施できます。

目次

ROM訓練の定義と背景

ROM(Range of Motion)は関節可動域、つまり「関節がどれだけ動くか」を角度で表した指標です。日本リハビリテーション医学会と日本整形外科学会が共同で定めた「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年改訂)が現場の標準で、肩屈曲180°・膝屈曲130°のような参考可動域が部位ごとに定義されています。

ROM訓練はその可動域を保つためのリハビリで、主目的は関節拘縮(こうしゅく)の予防です。拘縮とは関節周囲の軟部組織(皮膚・筋・腱・靭帯・関節包)が短縮し、関節が動かなくなる状態を指します。寝たきりや麻痺で関節を動かさない期間が続くと、わずか1〜2週間で軟部組織の伸張性が失われ、進行すると着替え・入浴・食事姿勢の保持といった生活動作(ADL)に直接影響します。

もう一つの重要な目的が廃用症候群の予防です。安静による全身機能低下は関節だけでなく筋力・心肺機能・認知機能にも及ぶため、ROM訓練は単なる関節ケアではなく、生活機能全体の維持装置として位置づけられます。介護保険制度では訪問リハビリ・通所リハビリ・施設サービスのすべてで実施され、機能訓練指導員(PT・OT・ST・看護師など)の業務の中核です。

ROM訓練の対象は脳卒中後の片麻痺、脊髄損傷、パーキンソン病、関節リウマチ、骨折後のリハビリ期、終末期の安楽体位保持まで幅広く、「関節が動く人すべて」が潜在的な対象者です。看護師は医療処置と並行して全身を観察できる職種として、日常ケアの中にROM訓練を組み込む役割を担います。

主要関節の参考可動域

主要関節の参考可動域(一部抜粋)

日本リハビリテーション医学会・日本整形外科学会の「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年改訂)から、ROM訓練で頻出する関節の参考可動域を一覧にしました。5°刻みで測定するのが標準です。

部位運動方向参考可動域
肩関節屈曲(前方挙上)0〜180°
肩関節外転0〜180°
肩関節伸展0〜50°
肘関節屈曲0〜145°
手関節背屈0〜70°
手関節掌屈0〜90°
股関節屈曲0〜125°
股関節伸展0〜15°
股関節外転0〜45°
膝関節屈曲0〜130°
足関節背屈0〜20°
足関節底屈0〜45°

※あくまで健常成人の目安。年齢・既往・骨格で個人差があるため、訓練前に各利用者のベースライン可動域を測定して比較するのが原則です。

3種類のROM訓練の違い

3種類のROM訓練の違い(自動・自動介助・他動)

ROM訓練は利用者の筋力・運動能力に応じて3種類を使い分けます。同じ関節でも段階的に強度を変えられるよう、それぞれの違いを把握しておくと現場で迷いません。

種類略称動かす主体適応主目的
自動運動AROMex利用者本人自分で関節を動かせる筋力維持・可動域維持
自動介助運動AAROMex本人+介助者わずかに動かせるが筋力不足運動学習・残存機能の活用
他動運動PROMex介助者・機器麻痺・意識障害で自力では動かせない拘縮予防・血行促進

選択の優先順位は「自動 > 自動介助 > 他動」です。本人が動かせる部分は本人にやってもらった方が筋力維持・脳活性・自己効力感のすべてで優れています。麻痺や意識障害で他動運動しか選択肢がない場合でも、声かけをしながら「肩を上に動かしますね」と動作を意識させることで、運動野の刺激につながると報告されています。

機器を使う他動運動として、整形外科術後のリハビリで使われるCPM(Continuous Passive Motion、持続的他動運動装置)もあります。膝関節置換術後などに自動でゆっくり屈伸を繰り返す機械で、看護師は装着・速度設定・皮膚観察を担います。

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ROM訓練の基本手順

介護現場でのROM訓練の基本手順(他動運動)

  1. バイタル確認と全身状態の観察 — 開始前に体温・血圧・脈拍・SpO₂、痛みの有無、皮膚状態をチェック。発熱や血圧変動が大きいときは中止します。
  2. 声かけと姿勢調整 — 「肩を動かしますね」と毎動作前に説明し、利用者の同意を得ます。仰臥位を基本に、訓練する関節がベッドの中央に来るようポジショニング。
  3. 体を温める(可能なら) — 入浴後・蒸しタオル使用後は筋肉の伸張性が高まり、可動域が出やすく疼痛も軽減します。
  4. 関節の近位と遠位を支える — 例:肘の訓練なら上腕(近位)と前腕(遠位)を両手で支え、関節包に負担をかけない。
  5. ゆっくり可動域いっぱいまで動かす — 反動をつけず、痛みが出る手前で止める。1運動あたり3〜5秒かけて、各関節5〜10回×1日2セットが目安。
  6. 反対側も同様に — 左右差を意識して、健側のROMもベースラインとして把握しておく。
  7. 記録 — 実施部位・回数・痛みの有無・抵抗感・新たな関節音などを記録。看護記録やリハビリ記録に残すことで、次回担当者と情報共有できます。

頻度の目安:拘縮リスクが高い臥床利用者は1日1〜2回、状態が安定している方は週3〜5回。短時間でも毎日行う方が、長時間まとめて行うより効果が出やすいとされています。

禁忌・注意事項

ROM訓練の禁忌と注意事項

ROM訓練は安全なリハビリと思われがちですが、状態によっては関節や全身に大きな害をもたらすため、禁忌・相対的禁忌を必ず確認します。

絶対禁忌(実施しない)

  • 急性炎症のある関節(化膿性関節炎、痛風発作、関節リウマチの炎症急性期など)
  • 骨折直後・骨転移のある部位(病的骨折のリスク)
  • 術後早期で固定指示が出ている部位(医師の指示に従う)
  • 不安定な循環動態(収縮期血圧180mmHg以上、安静時頻脈、新規不整脈)

相対的禁忌(医師・PT に確認)

  • 骨粗鬆症が高度(FRAX高リスク)— 強い力での他動運動は避け、可動域内のごく軽い動きに留める
  • 深部静脈血栓症の疑い — 下肢の他動運動は塞栓のリスク
  • 脱臼歴のある関節 — 肩・股関節の脱臼方向の動きは禁忌肢位を避ける
  • 強い疼痛 — 痛みが10段階で4以上に増強する場合は中止し、医師・PT に報告

看護師がよくやりがちな注意点

  • 1関節1運動方向ずつ:複数関節を同時に動かすと関節包に過度な負担。例えば肩屈曲と外旋を同時にやらない。
  • 「気持ちいい」の範囲で止める:参考可動域まで毎回到達させる必要はない。本人が痛みを訴えない範囲が原則。
  • 麻痺側の肩は要注意:脳卒中後の片麻痺では肩関節亜脱臼が起きやすく、上腕骨を引っ張る動作(屈曲時に手だけ持ち上げる等)は厳禁。

よくある質問

Q1. ROM訓練は誰が実施するのですか?

医療・介護現場では、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)が中心ですが、看護師・介護職員も日常ケアの一部として実施します。介護施設では機能訓練指導員(PT・OT・ST・看護師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師など)が計画を立て、現場の介護職員が体位変換やオムツ交換と組み合わせて実施するケースが多いです。

Q2. ROM訓練とストレッチは同じですか?

違います。ストレッチは筋肉の伸長を目的とし、約30〜60秒キープして筋・腱の柔軟性を高める運動です。一方、ROM訓練は関節を動かすこと自体が目的で、可動域いっぱいまで動かして関節包・滑膜・軟部組織を伸ばします。両者は併用可能で、訓練前のストレッチで筋を緩めてからROM訓練に入ると効果的です。

Q3. 1日何回・1部位何回が適切ですか?

明確な統一基準はありませんが、現場の経験則として1関節あたり5〜10回を1〜2セット、1日1〜2回が目安です。拘縮リスクが高い寝たきり利用者には毎日、安定している方は週3〜5回を維持できれば可動域は概ね保たれます。短時間でも継続することが最重要です。

Q4. 認知症で指示が通らない方にどうやって行いますか?

声かけと表情観察を組み合わせ、痛みのサインを見逃さないことが最優先です。眉間のしわ、顔をしかめる、手を引っ込めるなどの非言語サインで中止判断します。なじみの音楽をかけたり、好きな話題で気を紛らわせながら行うと拒否が減ることがあります。BPSD増悪時は無理せず、別のタイミングに切り替えます。

Q5. 家族が在宅で行う場合の注意点は?

退院前に必ずPT・OT・看護師から具体的な手順を指導してもらい、写真や動画でメモを残すことを推奨します。「痛みが出たら中止」「無理に伸ばさない」「左右差・腫れ・赤みが出たら訪問看護師に連絡」の3原則を共有すれば、家族でも安全に継続できます。訪問リハビリ・訪問看護を組み合わせて専門職の関わりを残すと安心です。

参考資料

関連する詳しい解説

まとめ

ROM訓練(関節可動域訓練)は、寝たきり・麻痺・術後など関節を動かしにくい人の拘縮予防と廃用症候群対策を目的とした基本リハビリです。自動・自動介助・他動の3種類を本人の能力に合わせて使い分け、日本リハビリテーション医学会の参考可動域を目安に、痛みのない範囲でゆっくりと動かすことが原則です。看護師は医療観察と組み合わせて毎日のケアにROM訓練を組み込む役割を担います。介護現場でリハビリ職と密に連携できる職場を探したい方は、介護の働き方診断で自分に合う働き方を確認してみてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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