厚労省、リハビリテーション統括調整室を新設|PT/OT法施行60年で制度見直しへ
介護職向け

厚労省、リハビリテーション統括調整室を新設|PT/OT法施行60年で制度見直しへ

厚生労働省は2026年5月19日、リハビリテーション統括調整室を新設した。室長は江浪武志大臣官房審議官、総勢17名体制。上野賢一郎厚労相は「攻めの予防医療でリハ専門職の役割は大きい」と発言。PT/OT法施行60年を機に制度見直しを検討する。

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厚生労働省は2026年5月19日、医政局・老健局・保険局を横串で束ねる「リハビリテーション統括調整室」を新設した。室長は江浪武志大臣官房審議官、総勢17名体制。上野賢一郎厚労相は「攻めの予防医療の具体化に取り組んでいく中で、リハビリテーション専門職の果たす役割は大きい」と発言し、理学療法士及び作業療法士法施行から約60年を経た制度見直しの検討にも踏み込む方針を示した。介護現場で働く理学療法士・作業療法士のキャリアパスや、介護報酬・診療報酬におけるリハ加算の議論にも波及する転換点となる。

目次

解説動画

厚生労働省が、リハビリテーション政策を一元的に統括する新組織を立ち上げた。2026年5月19日に大臣官房直轄で設置された「リハビリテーション統括調整室」は、医政局・老健局・保険局という従来の縦割りを横断する形で、医療・介護・予防・健康増進にまたがるリハビリ施策を国家戦略として再設計する役割を担う。

背景にあるのは、理学療法士及び作業療法士法(PT/OT法)の施行から約60年が経過し、医療制度・介護保険制度・健康政策のいずれにおいてもリハビリ専門職の活動領域が拡大してきたという現実だ。介護老人保健施設での在宅復帰支援、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、地域包括ケアシステムにおける介護予防、フレイル対策、復職支援、産業保健まで、PT・OTの守備範囲は当時の想定をはるかに超えて広がっている。

本記事では、新組織の体制と役割を一次情報ベースで整理したうえで、(1)リハビリ専門職を取り巻く現状の数値、(2)既存制度との接続点、(3)介護現場で働く読者にとっての中長期的な影響、までを掘り下げる。

統括調整室の体制と発足の経緯

大臣官房直轄、3局横断の17名体制

新設されたリハビリテーション統括調整室は、大臣官房の直下に置かれた。室長には江浪武志大臣官房審議官が就任し、室は総勢17名で構成される。注目すべきは次長級の人選で、医政局・老健局・保険局の課長クラスが横並びで配置された点だ。それぞれ「医療提供体制」「介護サービス提供体制」「医療保険・介護報酬」を所管する局であり、リハビリ施策が制度横断であることを組織図そのものが体現している。

さらに介護予防やフレイル対策を担当する職員も加わり、急性期医療からプライマリケア、介護予防、産業保健までを単一の窓口で議論できる体制が整った。これまで個々の局で別個に走っていたリハビリ関連の通知・加算・予算事業を、新組織が情報集約と司令塔機能を担う形で束ねていくとみられる。

大臣の問題意識と「攻めの予防医療」

設置にあたり上野賢一郎厚生労働大臣は「今後、攻めの予防医療の具体化に取り組んでいく中で、リハビリテーション専門職の果たす役割は大きい」と発言した。この一文には二つの含意がある。第一に、医療費・介護費の伸びを抑える「治療から予防へ」のシフトを政策の中心に据えるという宣言。第二に、その実装役としてリハビリ専門職を明示的に位置付けるという宣言だ。

従来、予防は保健師・栄養士・健康運動指導士などの担い手を中心に語られることが多く、PT・OTは「治療後の機能回復」を主戦場としてきた。しかし、要支援者・要介護1〜2層への給付見直し議論や、地域支援事業の総合事業化が進むなか、運動器・認知機能・生活動作の専門知識を持つPT・OTを地域の予防現場でも活用する必然性は高まっている。

制度見直しの照準はPT/OT法そのもの

新組織のもう一つのミッションは、理学療法士及び作業療法士法(1965年制定、1966年施行)の見直し検討だ。法施行から約60年を経て、PT・OTのフィールドは医療、介護、予防、健康増進、産業保健、学校保健へと広がった。この間に生じた業務範囲・養成カリキュラム・名称独占のあり方の変化を踏まえ、制度見直しが考えられるかどうかを正面から議論する方針が示されている。

数字で見るリハビリ専門職の拡大とその限界

60年で20万人を超えたPT、12万人超のOT

1966年のPT/OT法施行当初、国家試験合格者は両資格合わせても数百人規模だった。厚生労働省「医療関係従事者数調査」および両職能団体の登録者統計によれば、2025年時点で理学療法士の有資格者は累計約22万人、作業療法士は約11万人にまで増加している。直近の合格者は理学療法士国家試験で毎年9,000人前後、作業療法士で約4,000人前後が新たに加わっており、医療職のなかでも極めて速い拡大ペースを維持してきた。

同時に、活躍の場は病院から大きく分散した。介護老人保健施設、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、デイサービスの機能訓練指導員、地域包括支援センター、住宅型有料老人ホームなど、介護領域だけでも複数のセクターでPT・OTが配置されている。

介護保険サービス側の需要構造

介護給付費分科会の議論資料によれば、2024年度時点で老健には常勤換算で平均PT・OT・STあわせて1施設あたり5〜6名が配置されており、訪問リハ事業所、通所リハ事業所においてもリハ職の常勤・非常勤を組み合わせた配置が一般的となっている。一方で、施設系では「リハマネジメント加算」「個別機能訓練加算」など複数の加算が用意されているものの、現場ではPT・OTの専門性を活かしきれず、機能訓練の介助補助的な業務に時間が割かれているとの指摘も繰り返されている。

養成校過剰と就職先のミスマッチ

もう一つの構造課題が、養成校数の急増と地域偏在だ。1990年代後半から2010年代にかけて新設が相次ぎ、PT・OT養成校は全国に数百校に達した。その結果、新卒の就職先確保が地域によって難しくなり、急性期病院から介護分野へ、さらには介護分野のなかでも訪問・通所領域へと就業構造がシフトしてきた。新組織が制度見直しを射程に入れる以上、養成数のあり方や、卒後教育・専門領域の認定制度の整備も論点に上がる可能性が高い。

kaigonews視点:介護現場のPT・OTにとって何が変わるか

「機能訓練の担い手」から「予防のオーケストレーター」へ

新組織が「攻めの予防医療」の旗を掲げる以上、介護現場で働くPT・OTには、これまで以上に予防的介入の設計者としての役割が求められる方向にシフトしていく可能性が高い。具体的には、地域支援事業の通いの場づくり、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)のプログラム監修、ケアプランへのリハ視点の組み込みなど、機能訓練を提供する役割から、機能訓練を含む地域の予防エコシステムを設計する役割への重心移動である。

これは老健・通所リハ・訪問リハで働くPT・OTにとって、業務範囲の拡大であると同時にキャリア選択肢の拡張でもある。地域包括支援センター職員、自治体の介護予防事業企画担当、産業保健領域のリハコンサルタントなど、従来は副次的だった就業先が、政策的な追い風を受けて主要選択肢に格上げされる可能性がある。

介護報酬・リハ加算の議論への波及

新組織が保険局課長を次長に据えた事実は、診療報酬・介護報酬のリハ関連加算が再設計の俎上に乗ることをほぼ確実にしている。次回改定(2027年度予定の医療・介護同時改定)に向けては、(1)リハマネジメント加算と個別機能訓練加算の整理、(2)アウトカム評価の本格導入、(3)介護予防領域でのリハ職活用に対する加算新設、などが論点として浮上する可能性がある。

とりわけ、リハ職の専門性に応じた報酬区分の見直し、または認定資格・専門資格を持つPT・OTに対する加算上乗せといった、「資格内格差」を制度的に評価する仕組みの議論が動き出す可能性がある。これは現場のPT・OTが「キャリアラダーをどう設計するか」を考えるうえで極めて重要な変数だ。

介護職・看護職との連携設計にも影響

リハ施策が国家戦略として再設計されれば、介護職・看護職との連携モデルも更新を迫られる。たとえば、訪問リハと訪問介護の連携、機能訓練指導員と介護職員の役割分担、看護師との褥瘡・摂食嚥下領域での協働など、現場での多職種連携プロセスが制度的に再定義される可能性がある。介護職員・看護師にとっても、リハ職と何をどう分担し、ケアの成果指標をどう共有するかが、今後のチーム運営の中核論点になる。

今後の論点:PT/OT法改正シナリオと業界への波及

シナリオA:業務範囲の弾力化と名称独占の見直し

PT/OT法見直し議論の最有力論点は、業務範囲の弾力化だ。現行法上、理学療法・作業療法は「医師の指示の下に」行うとされ、活動範囲は医療類似行為との境界線で慎重に設計されてきた。介護予防・健康増進領域では、医療行為ではない運動指導・生活動作指導も多く含まれるため、医師の包括的指示の枠組みや、産業保健・スポーツ・教育領域での独立した活動可能範囲をどう整理するかが課題となる。

あわせて、名称独占(理学療法士・作業療法士の名称を国家資格者以外が使えない)の対象範囲・運用も論点になる。健康運動指導士・運動器系トレーナーとの境界をどう整理するかは、養成現場と業界団体の双方が注視する論点だ。

シナリオB:認定・専門領域制度の法定化

看護師の特定行為研修や認定看護師・専門看護師制度のように、PT・OTにも認定理学療法士・専門作業療法士などの上位資格が両職能団体で運用されているが、これらは現在のところ任意制度である。新組織が制度見直しの方向性を打ち出すなかで、これら上位資格を法定資格化し、特定領域(脳卒中後遺症、運動器、地域支援、認知症など)での独占的な業務範囲・加算評価を与えるという議論が動く可能性がある。

シナリオC:介護報酬におけるアウトカム評価強化

新組織が保険局を引き込んでいる以上、リハビリ関連加算がプロセス評価からアウトカム評価へとさらに踏み込む可能性は高い。すでに介護老人保健施設では在宅復帰率・在宅生活継続率を評価指標として導入してきたが、これを訪問リハ・通所リハ・個別機能訓練加算にも拡大し、ADL改善・社会参加指標などを評価軸として組み込む流れが強まる可能性がある。アウトカム評価が強化されれば、PT・OTの臨床評価スキル・記録スキルの重要性はさらに高まる。

業界団体・養成校の動きにも注目

日本理学療法士協会(会長:斉藤秀之氏)と日本作業療法士協会(1966年設立)は、それぞれ60周年記念事業や2026年度重点活動項目を打ち出している段階にあり、新組織との連携・要望書提出のあり方も今後の焦点となる。両協会の動きと厚労省統括調整室の議論がどう噛み合うかが、制度見直しのスピードを左右する。

参考資料

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まとめ

厚生労働省が2026年5月19日に大臣官房直轄で発足させた「リハビリテーション統括調整室」は、医政局・老健局・保険局という従来の縦割りを横断し、医療・介護・予防・健康増進にわたるリハビリ政策の司令塔となる組織だ。上野賢一郎厚労相が示した「攻めの予防医療におけるリハビリテーション専門職の役割の大きさ」というメッセージは、PT・OTを治療後の機能回復から予防のオーケストレーターへと位置付け直す政策的シグナルとして読み取れる。

同時に、約60年を経た理学療法士及び作業療法士法の見直し検討にまで踏み込んだことで、業務範囲の弾力化、認定・専門領域制度の法定化、介護報酬のアウトカム評価強化などが今後の論点として浮上する。介護現場で働く理学療法士・作業療法士はもちろん、連携相手となる介護職員・看護師・ケアマネジャーにとっても、リハビリ政策の構造変化は中長期のキャリア設計とチーム運営に直結する変数となる。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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