
介護記録・申し送りの書き方|5W1Hで多職種に伝わる文章の作り方
介護の申し送りと介護記録の書き方を、厚労省の指定居宅サービス基準を踏まえて解説。5W1H・SOAP・SBARの使い分け、状態変化・服薬・転倒の例文、看護師やケアマネ・家族への伝え方、NGワードと事実/解釈の分離、保存期間2年のルールまで、新人〜リーダーが今日から使える実務ガイド。
この記事のポイント
介護の申し送り・介護記録は、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を順序通り並べ、観察した「事実」と職員の「解釈」を必ず分けて書くと多職種に伝わります。介護記録は厚労省の運営基準で完結の日から2年間(自治体によっては5年)の保存が義務。状態変化・服薬・転倒の3場面は、時刻と数値(バイタル・量・回数)を必ず数値化して記録するのが鉄則です。
目次
「申し送りで何を伝えればよいか分からない」「介護記録に書いた内容が看護師やケアマネに伝わっていない」——介護現場で働き始めたばかりの方も、リーダー職になって新人を指導する立場の方も、一度はこうした悩みに直面します。
介護の申し送り・介護記録は、利用者の生活と命を守る情報インフラです。日勤と夜勤、介護職と看護職、施設とケアマネ、現場と家族——立場の違う複数の職種が、同じ利用者の状態を共有し、ケアの方針を揃えるためのバトンの役割を果たします。記録の書き方が曖昧だと、服薬漏れ・転倒の見落とし・誤嚥のリスク評価ミスといった事故に直結します。
厚生労働省の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」では、サービス提供記録を整備し完結の日から2年間保存することが事業者に義務付けられています(自治体の条例で5年に延長されている地域もあります)。記録は法的にも重要な書類であり、訴訟やトラブルの際は「書かれていない=行っていない」とみなされかねません。
この記事では、新人〜中堅の介護職員、介護リーダー、ケアマネジャーが今日から使える「多職種に伝わる申し送り・記録の書き方」を、5W1Hの基本から始めて、SOAP・SBARの応用フォーマット、状態変化・服薬・転倒の3場面別の例文、看護師やケアマネ・家族への伝え方、NGワードまで、実務ベースで解説します。記事の最後には、厚労省・介護労働安定センター・日本看護協会など一次ソースへのリンクもまとめました。
申し送り・介護記録とは|法令上の位置づけと違い
申し送りと介護記録は混同されがちですが、目的・媒体・タイミングが異なります。両者の関係を正しく理解しておくと、「何をどこに書くか」が迷わなくなります。
申し送り:シフト交代やケア前後の口頭・書面共有
申し送り(もうしおくり)は、勤務交代時やケアを引き継ぐタイミングで、利用者の状態・対応・注意事項を次の担当者へ伝える行為です。日勤から夜勤、夜勤から早出、デイサービスから家族——いずれの場面でも、「直近〜数時間以内に共有しないと事故につながる情報」を絞って伝えるのが特徴です。媒体は口頭・申し送りノート・チャット・電子記録システムなど多様で、特養や老健では朝礼で15〜20分程度行うのが一般的です。
介護記録:サービス提供の事実を残す法的書類
介護記録は、提供したサービス内容と利用者の状態を時系列に記録する書類の総称です。経過記録(ケース記録)、バイタルサイン記録、食事・排泄・入浴チェック表、ヒヤリハット報告書、アクシデントレポート、ケアプラン評価記録など、種類は多岐にわたります。厚労省の運営基準では、記録の整備と保存が事業者の義務として明記されています。
法令上の位置づけ:完結の日から2年保存(条例で5年延長も)
介護保険法に基づく「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)の第39条では、訪問介護事業者に対して以下の記録を整備し、完結の日から2年間保存することが義務付けられています(同様の規定は通所介護・施設サービスにも準用されています)。
- 訪問介護計画(ケアプラン)
- 具体的なサービス内容・利用者の心身の状況・必要事項の記録
- 市町村への通知に係る記録
- 苦情の内容等の記録
- 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録
2026年現在、東京都・神奈川県・大阪府などでは条例で保存期間を5年に延長している自治体もあります。法令を満たしていない記録は運営指導(旧:実地指導)で指摘を受け、報酬返還や指定取消の根拠となるため、勤務先の所在地の保存ルールを必ず確認しましょう。
申し送りと記録は補完関係:両方なければチームケアは成立しない
口頭の申し送りは「速さ」、書面の介護記録は「確実性・証拠性」が強みです。申し送りで素早く共有した内容も、最終的には介護記録として書面に残さないと、次のシフト・次の週・1か月後の振り返りで再活用できません。逆に、記録を書いても申し送りで強調しなければ、忙しい日勤帯に見落とされる可能性があります。「言って・書いて・確認する」の3点セットがチームケアの基本です。
5W1Hの基本|順序通り書くと事実が立ち上がる
多職種に伝わる介護記録・申し送りの土台が5W1Hです。「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」の順番で並べると、読み手の頭の中に状況が時系列で再現されます。順番をバラバラにすると、いくら情報を盛り込んでも「結局何があったのか分からない」記録になります。
When(いつ):時刻は分単位、可能なら数値で
「朝」「夕方」ではなく「8:45」「14:20頃」のように分単位で書きます。発見時刻と対応開始時刻が異なる場合は両方書き、対応終了時刻も記録します。バイタル測定や服薬の場面では、時刻が後の医師・看護師判断の材料になります。
Where(どこで):施設内の具体的な場所
「居室」「食堂」だけでは不十分。「301号室のベッドサイド」「食堂Aテーブル隣の窓側」「中央廊下のトイレ前」のように、再現可能な具体性を確保します。転倒事故では、後から現場検証する場合に「どこで・何につまずいたか」を特定できる書き方が必要です。
Who(誰が):利用者・職員・第三者を区別
利用者は施設で決められたフルネームまたはイニシャル+号室で。職員側は「介護職員Aと介護職員B」「夜勤者の田中・看護師の佐藤」など、関わった全員を漏らさずに記載。家族・他利用者・外部訪問者が関わった場合も「ご長男・◯◯様」「同室の◯◯様」と明記します。
What(何を):起こった出来事と提供したケア
客観的な事実だけを書きます。「Aさんが起き上がった」「右上腕を職員Bが支えた」「ベッドから車椅子へ移乗した」——動詞を具体的にし、観察できない感情・心理は事実欄に入れません。
Why(なぜ):原因は推測と分かるように分離
5W1Hの中で唯一、推測が混じる要素です。事実欄とは分けて「〜のご様子」「〜と思われる」「〜と感じた」といった表現で書き、職員の解釈であることが分かるようにします。原因が断定できない場合は「不明」と書く方が誠実です。
How(どのように):数値化して具体的に
「少し」「たくさん」「いつもより」を数値に置き換えます。食事は割合(主食7割/副食5割)、水分は量(150ml)、排泄は回数と性状、バイタルは血圧・脈拍・体温・SpO2、移乗は介助レベル(自立/一部介助/全介助)、歩行は距離(廊下5m)と速度など、後で比較できる単位を選びます。
5W1Hを並べた基本例(転倒)
原則を当てはめると以下のように整理できます。
14:30頃(When)、食堂のテーブル横(Where)、A様(Who)が、食器を片付けようと立ち上がった際に(Why/推測)、足がもつれてバランスを崩し(How)、床に尻もちをついた(What)。意識・呼吸・四肢の動きに異常なし。看護師Bへ14:35に報告(対応)。
この順序で書くだけで、読み手は「いつ・どこで・誰が・どう倒れて・どう対応したか」を5秒で把握できます。慣れないうちは、上記のテンプレを申し送りノートに付箋で貼っておくと、書き漏れを防げます。
記録フォーマット比較|5W1H・SOAP・SBARの使い分け
介護記録・申し送りには複数のフォーマットがあります。場面に応じて使い分けるとより伝わりやすくなります。代表的な3つを比較します。
| フォーマット | 主な用途 | 構成要素 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 5W1H | 日常記録・申し送りの基本 | When/Where/Who/What/Why/How | 食事・排泄・入浴などルーチン記録、ヒヤリハット第一報 |
| SOAP | 専門職判断を含む経過記録 | S(主観)/O(客観)/A(評価)/P(計画) | 看護記録、ケアプラン評価、看取り期の経過記録 |
| SBAR | 医師・看護師への急変報告 | S(状況)/B(背景)/A(評価)/R(提案) | 電話で医師にコール、夜間オンコール、救急搬送依頼 |
| フォーカス・チャーティング | 焦点を絞った経過記録 | Focus/DAR(Data・Action・Response) | 特定の課題(褥瘡・認知症BPSDなど)を継続観察 |
SOAPの書き方:S→O→A→Pの4段で組み立てる
SOAP(ソープ)は医療現場発祥のフォーマットで、看護記録・ケアプラン評価・サービス担当者会議の議事録などで広く使われています。介護記録にも応用できます。
- S(Subjective/主観情報):利用者・家族の発言、訴え。「『お腹が痛い』と話される」など、原文をかぎカッコで引用。
- O(Objective/客観情報):観察・測定したデータ。バイタル、表情、動作、回数、量。
- A(Assessment/評価):SとOから職員が判断した見立て・リスク。
- P(Plan/計画):今後の対応・観察ポイント・他職種への報告予定。
例(食欲低下):S「あまり食べたくない」と話される/O 主食2割・副食1割・水分100ml摂取。体温36.8℃、脈拍72回/A 普段は完食されており食欲低下が見られる。発熱はないが脱水リスクあり/P 看護師Bへ報告済。次食前にバイタル再測定、水分こまめに勧奨。
SBARの書き方:医師への報告は4段で1分以内に
SBAR(エスバー)はもともと米軍の状況報告で開発され、医療現場で標準化された急変報告のフォーマットです。介護施設で利用者の状態が急変した際、施設の看護師や協力医・主治医にコールするときに使うと、限られた時間で漏れなく伝えられます。
- S(Situation/状況):「301号室の鈴木様が15分前から胸の痛みを訴えています」
- B(Background/背景):「85歳男性、既往に高血圧と心房細動。3日前から食事量低下傾向」
- A(Assessment/評価):「血圧168/92、脈拍110、SpO2 94%。冷汗あり」
- R(Recommendation/提案):「指示を仰ぎたい。救急搬送が必要かご判断いただきたい」
SBARを使う場面では、電話をかける前にメモに4項目を書き出してから受話器を取るのがコツ。「えっと…」と詰まる時間を減らせます。
使い分けの判断軸
「日常のルーチン記録は5W1H/専門職判断を含む経過は SOAP/医師への急変報告は SBAR」が基本の使い分けです。施設のルールでフォーマットが指定されている場合はそれに従い、自由記述欄では5W1Hを土台にすると失敗しません。
この記事に登場する介護用語
場面別の例文集|状態変化・服薬・転倒の3パターン
5W1HとSOAPを土台に、現場で頻出する3場面の例文を紹介します。そのまま申し送りノートに書き写しても通用する形で構成しました。
パターン1:状態変化(発熱・食欲低下)
状態変化の記録は、観察した数値と前日との比較が重要です。「いつもと違う」と感じた根拠が分かるように書きます。
14:00(When)/A様(Who)/体温37.8℃、脈拍92、SpO2 96%を測定(How/O)。「だるい、起きていたくない」(S)と話され、ベッド上で休まれている(What)。前日同時刻は36.5℃で、本日朝の食事量は主食3割・副食2割と普段(完食)より大幅減(O)。看護師Cへ14:10報告。15:00再検予定。水分こまめに勧奨。家族への連絡は看護師判断待ち(P)。
ポイント:体温の数値、前日比較、摂取量、報告時刻、次のアクション——これだけ書けば、夜勤者は「この人を1時間おきに観察すべき」と即座に判断できます。
パターン2:服薬(拒否・誤薬・飲み忘れ)
服薬関連は事故・訴訟リスクが特に高い領域です。実施/未実施、量、時刻、利用者の反応を漏らさず記録します。
9:00 朝食後(When)/A様(Who)/降圧薬(アムロジピン5mg)を提供(What)。「今日は飲みたくない」(S)と口を閉じて受け取られず(How/O)。理由を尋ねるも「気分」とのみ返答。職員Dと2名で5分後に再勧奨するが拒否継続。9:15 看護師Cへ報告し、本日朝薬は未服用として記録(A)。10:00 看護師より主治医に確認、夕食後に投与の指示あり(P)。
誤薬の場合は「他利用者の薬を提供したか」「気付いた時点」「飲み込んだか/吐き出したか」「報告先と時刻」を時系列で。誤薬は隠さず記録するのが鉄則です。記録がないと、後の血液検査・経過観察の判断ができなくなります。
パターン3:転倒(発見・対応・経過観察)
転倒は介護現場で最も多い事故の一つ。アクシデント/インシデントレポートとは別に、経過記録にも詳細を残します。
2:30(When)、「ドン」という音を聞き305号室訪室(Where/What)/B様(85歳男性、Who)が、ベッド右側の床に座り込んでいた(How)。「トイレに行こうとして立ち上がれず倒れた」(S)と話される。意識清明、呼吸20回/分、血圧138/82、脈拍78、SpO2 97%(O)。頭部・顔面・四肢に外傷なし、痛みの訴えなし。2:35 リーダー田中、看護師佐藤へ報告。2:40 ご家族(長男)へ電話連絡し、明朝主治医受診の方針で同意(P)。夜間中、30分おきの訪室観察を継続。
転倒記録の重要ポイント:①発見時刻と発見の経緯(音・呼び鈴・巡回中など)、②利用者の体位(うつ伏せ/座り込み/仰臥位)、③意識・バイタル・外傷の有無、④報告先と時刻、⑤家族連絡の有無、⑥その後の観察計画——この6点を必ず含めます。
申し送りノートに使える3つの定型文
頻出場面の文頭を定型化しておくと、書き始めの迷いが減ります。
- 「【状態変化】◯時◯分、◯◯様、〜の症状あり。バイタル〜。看護師◯◯へ報告済」
- 「【服薬】◯時◯分、◯◯様、〜薬を〜(実施/拒否/誤薬)。看護師◯◯へ報告済」
- 「【事故】◯時◯分、◯◯様、〜にて発見。意識・バイタル〜。リーダー・看護師・家族へ報告済」
角括弧(【】)で場面を最初に明示すると、読み手が自分に関係する情報かを即座に判断できます。
多職種に伝える書き方|看護師・PT/OT・ケアマネ・家族の視点
同じ事実でも、読み手の専門性によって「重視する情報」が違います。一つの記録を書くときに、自分の職種以外の視点を3秒だけ意識すると、伝達精度が大きく上がります。
看護師・医師に伝えるとき:バイタルと医療判断材料
看護師・医師が知りたいのは医療判断に必要な情報です。具体的には次の優先順位で並べます。
- バイタルサイン(体温・血圧・脈拍・呼吸・SpO2)の実測値と測定時刻
- 症状の発生時刻と経過(突然か/徐々にか)
- 普段との違い(前日同時刻、前回測定値との差)
- 関連する既往歴・服薬の状況
- 家族の意向と連絡状況
「元気がない」「食欲がない」のような曖昧表現は医療職には響きません。「主食2割・副食1割摂取/前日完食/体温37.8℃/前日36.5℃」のように数値と前日比で伝えるのが鉄則です。
PT・OT・STに伝えるとき:ADLと機能の変化
リハビリ職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)が必要としているのは、ADL(日常生活動作)と機能の変化です。
- 移乗・歩行の介助レベル(自立/見守り/一部介助/全介助)
- 歩行距離と速度(廊下◯mを◯分で)
- 嚥下機能(むせの有無、飲み込みまでの時間、食形態の適合)
- 意欲・参加状況(リハビリ拒否、レクリエーション参加の様子)
- 疼痛の部位・強度・誘発動作
「動作のどこで・何を介助したか」を具体的に書くと、PT・OTは次のリハ計画の調整材料に使えます。
ケアマネジャーに伝えるとき:ケアプラン見直しの根拠
ケアマネ(介護支援専門員)はケアプランの作成・見直しの責任者です。月1回のモニタリング訪問で記録を確認するため、ケアプランの目標達成度に関わる情報を意識的に記録に残します。
- 本人・家族の希望や訴えの変化
- サービス利用の効果(できるようになったこと/低下したこと)
- 事故・ヒヤリハットの発生(リスクの再評価が必要なケース)
- 他サービス(訪問看護・通所リハ)との連携状況
サービス担当者会議の前に、直近1か月の記録を見返してケアマネに伝える3点を整理しておくと、会議の質が変わります。
ご家族に伝えるとき:日常の安心感と異常の早期共有
家族への申し送り(連絡帳・面会時の口頭説明・電話連絡)は、日常の安心感と異常時の早期共有の2軸を意識します。
- 日常:食事・排泄・入浴・睡眠といった基本のADL、笑顔の場面、レクの参加、施設での過ごし方
- 異常時:いつ・何が起きて・どう対応したか・現在の状態・今後の見通し(受診の有無)
家族向けには専門用語を避け、「バイタルは安定しています」より「熱や血圧は普段と同じです」のように平易な言葉で言い換えるのが基本。ただし、医療判断が必要な場面では「主治医に確認しています」と医療職への引き継ぎ状況を明示します。
新人・リーダー・夜勤者への申し送りで特に意識すること
同じ介護職でも、立場により必要な情報の粒度が違います。
- 新人:「いつ何をやればよいか」のタスクと、利用者ごとの注意点(誤嚥リスク、服薬の癖など)を具体的に
- リーダー:シフト全体の俯瞰、医療職連携の進捗、家族との関係性、苦情・トラブルの有無
- 夜勤者:当夜のリスク(転倒・誤嚥・徘徊・体調変化)、次のシフトに必ず伝えるべき継続観察項目
朝礼の申し送りでは、まず「全員に共有する事項」を3分以内、次に「今日のシフトに関係する事項」を5〜10分で伝える二段構えにすると、聞き手の集中力が保てます。
NGワードと事実/解釈の分離|訴訟リスクを下げる書き方
介護記録は法的書類です。書き方一つで、運営指導での指摘・利用者家族とのトラブル・訴訟になった際の証拠としての信頼性が大きく変わります。書いてはいけない言葉と、避け方のセットで覚えましょう。
使ってはいけないNGワード一覧
差別的・主観的・推測を断定として書く表現は避けます。
| NGワード | なぜダメか | 置き換え例 |
|---|---|---|
| 徘徊 | 本人の目的を否定する差別的表現 | 「廊下を◯往復歩かれている」「食堂と居室を行き来されている」 |
| 暴れる/暴言 | 職員の主観評価が混じる | 「『触らないで』と大きな声で言われた」「右手で職員Aの前腕を叩く動作あり」 |
| 拒否/拒絶 | 本人の意思を曖昧に断定 | 「『今はいい』と話され、◯回声をかけても応じられず」 |
| 問題行動 | 問題かどうかは状況次第 | 具体的な行動を時系列で記述 |
| ボケる/ボケている | 差別的・侮蔑的 | 「同じ質問を◯回繰り返される」「短期記憶の低下が見られる(医療職の判断は別途)」 |
| 元気がない/いつもと違う | 主観的、根拠がない | 「会話が普段より短い」「食事量が前日比5割減」など事実で |
| 汚い/きたない | 侮蔑的 | 「衣服に食べこぼしあり、更衣を実施」 |
| 痴呆 | 2004年に認知症へ用語変更済み | 「認知症」(症状名としては「見当識障害」「記憶障害」など) |
事実と解釈を分ける具体的な書き方
「事実」は誰が見ても同じ結論に至る情報、「解釈」は職員の判断・推測を含む情報です。混ぜると後で問題になります。
NG例:「Aさんは今日機嫌が悪く、職員に怒っていた」
OK例(事実+解釈):14:00集団体操時、A様より「今日はやめておく」と発言あり(事実)。腕を組んで席に座り、職員の声かけに返答されず(事実)。普段は積極参加されているため、午前の受診で疲れた様子に見えた(解釈/下線部)。
解釈部分には「〜のご様子」「〜と思われる」「〜のように見えた」と主観であることを示す表現を必ず入れます。記録ソフトによっては「事実」「解釈」の入力欄が分かれているものもあり、混同を防ぐ仕組みになっています。
誤記訂正のルール|修正液・修正テープは使わない
介護記録は公的な書類のため、誤記の訂正方法にもルールがあります。
- 誤った箇所に二重線を引く(消しゴム・修正液・修正テープは禁止)
- 正しい内容を二重線の上または横に書く
- 訂正者の署名(または印)と訂正日時を記載
- 電子記録の場合は、修正履歴が残るシステム機能を使う(上書き保存はNG)
後から「書き換えた」と疑われないために、訂正の痕跡を残すのがルールです。
「書かれていない=行っていない」の原則
裁判や運営指導の場面では、記録に書かれていない事実は「行われなかった」と推定されます。実際にはバイタルを測定したのに記録がないと、「測定していない」と判定されかねません。「忙しくて書けなかった」は通用しません。
逆に、自分を守るためにも記録は丁寧に。事故対応で「リーダーに報告した」「家族に電話した」と書面に残しておけば、後の責任分担で身を守る盾になります。
記録の効率化|メモ・テンプレート・介護ICT
介護現場では、記録に時間を割きすぎて利用者と向き合う時間が減るのは本末転倒です。情報の質を保ちながら、書く時間を短縮する工夫を紹介します。
常時携帯のミニメモ|思い出す時間をゼロに
「後でまとめて書こう」と思うと、夕方には半分以上忘れています。その場で、エプロンのポケットに入るA6ミニノートまたはメモ用紙を取り出して、時刻と一言だけ書きます。
- 「8:45 A様 朝食 主食7/副食5」
- 「10:20 B様 トイレ 排尿あり」
- 「14:30 C様 訪室 入眠中」
清書のときに、メモを見ながら5W1Hを補えば文章になります。メモは退勤時にシュレッダー処理を忘れずに(個人情報保護の観点)。
テンプレートの整備|頻出場面は型を作る
食事・入浴・排泄・バイタル・夜間巡視といった毎日繰り返す場面は、テンプレート化が効きます。
- 食事:◯時◯分/主食◯割/副食◯割/水分◯ml/介助レベル(自立/一部介助/全介助)/むせ(無/有)
- 入浴:◯時◯分/浴槽(一般/機械)/皮膚状態(異常無/発赤◯cm)/本人反応
- 排泄:◯時◯分/排尿(無/少/中/多)/排便(無/少/普通/多/性状)/介助レベル
- 夜間巡視:◯時◯分/訪室/入眠(◯)/中途覚醒(◯)/呼吸(穏/努力性)
テンプレに「異常なし」と入れる場合も、最低限時刻だけは個別に記入します。「◯時◯分 訪室 異常なし」が並ぶだけでも、後から行動の記録として有効です。
介護ICTの活用|タブレット記録・音声入力・LIFE連動
介護労働安定センターの令和5年度「介護労働実態調査」によると、ICT機器(介護ソフト・タブレット端末・音声入力など)を日常的に利用している事業所は増加傾向にあります。記録に費やす残業時間の削減効果が大きく、特に夜勤帯の記録負担を軽減します。
- タブレット入力:その場で利用者のベッドサイドで入力でき、清書の二度手間が無くなる
- 音声入力:両手がふさがる入浴介助・移乗介助の直後に、ハンズフリーで記録
- 定型文呼び出し:頻出表現を辞書登録、3タップで挿入
- LIFE(科学的介護情報システム)連動:厚労省のデータベースに記録を提出すると、加算が算定でき、フィードバックがケア改善に活用できる
2024年度の介護報酬改定では、ICTを活用した記録・情報共有が複数の加算で算定要件に組み込まれており、施設としての投資回収も見込めます。
朝礼・申し送りの時短テクニック
口頭の申し送りも工夫次第で時短できます。
- 事前資料共有:申し送りの30分前に申し送りノートを回覧、または電子掲示板で共有しておくと、当日は質疑応答だけで済む
- 持ち時間の固定:1人あたり1分以内、全体で15分以内など、時間ルールを明示
- 「全員」と「個別」を分ける:全員に関係する情報を最初に3分、その後シフトに関わる職員だけ残って詳細を10分、と二段階で
- 記録参照を前提に:詳細はノート・電子記録に書いてあるので、口頭では結論と注意点だけ
記録の質を保ちながら時短するコツ
速さを優先しすぎて中身が空洞化すると、結局後で問い合わせ対応に時間が取られます。「数値」「時刻」「氏名」の3つは絶対に省略しないと決めておけば、文章は短くても情報量は保てます。
よくある質問(FAQ)
Q. 介護記録は手書きと電子記録のどちらが良いですか?
A. 法令上はどちらでも構いません。手書きの利点は停電・システム障害に強いこと、低コストで導入できること。電子記録の利点は検索・集計・他職種との同時参照が容易で、誤記訂正の履歴管理が確実なことです。実務では夜勤帯の急変対応や訪問先で手書き、清書を電子記録に転記するハイブリッド運用も多く見られます。重要なのは、どちらでも「いつ・誰が・何を書いたか」が後から追えること。
Q. 申し送りで何を最優先に伝えるべきですか?
A. 「次のシフトで知らないと事故につながる情報」を最優先に伝えます。具体的には、①体調変化の継続観察事項(発熱・血圧変動・SpO2低下)、②服薬関連(拒否・誤薬・追加指示)、③事故・ヒヤリハット後の経過観察、④家族からの強い要望や苦情、⑤本日中の予定(受診・面会・サービス担当者会議)。日常のADL記録は介護記録に残せば良いので、口頭の申し送りでは省略しても構いません。
Q. 5W1Hで「Why(なぜ)」が書きにくいときはどうすればよいですか?
A. 原因が明確でない場合は「不明」「経緯は確認中」と書く方が、無理に推測を断定するより誠実です。可能性が複数ある場合は「◯◯または△△と思われる」と並列で書きます。Whyは唯一推測が混じる要素なので、「〜のご様子」「〜と感じた」のように、職員の主観であることが分かる表現を使い、事実と分けます。
Q. 介護記録を見られて、家族から「書き方に納得できない」と言われたら?
A. まず具体的にどの記述が問題かを確認します。「徘徊」「拒否」のようなNGワードを使っていた場合は素直に謝罪し、訂正手順(二重線+訂正者署名+訂正日時)に従って修正。事実関係に争いがある場合は、その日のシフト職員・看護師・施設長で当時の状況を再確認し、追記または別途のメモを残します。記録は「事業所の事務文書」ですが、家族への開示請求があれば応じる義務があるため、いつ見られても説明できる書き方が前提です。
Q. 介護記録の保存期間は2年と聞きましたが、5年と言う人もいます。どちらが正しいですか?
A. 厚労省の運営基準(指定居宅サービス基準)では「完結の日から2年」が原則です。ただし、自治体(都道府県・政令市・中核市など)によっては条例で5年に延長している地域もあります。東京都・神奈川県・大阪府などが該当します。事業所所在地の条例を必ず確認してください。なお、医療記録(診療録)は医師法により5年保存が義務付けられているので、施設内の看護記録は5年と覚えておくと無難です。
Q. 新人の頃は文章が長くなりすぎてしまいます。どうすれば短くまとめられますか?
A. 「事実を時系列で並べる」と決めて、形容詞・副詞を削るだけで2〜3割短くなります。「とても」「すごく」「いつも」「だいぶ」などの曖昧表現を、数値や時刻に置き換えるのがコツ。「箇条書きで箇条書きで書く→上司にチェックしてもらう→繋げる」の3ステップで、自分のクセを掴めます。書き慣れるまでは、1日の終わりに自分の記録を読み返して、削れる言葉を探す習慣をつけましょう。
Q. 申し送りが苦手で緊張してしまいます。改善方法はありますか?
A. 申し送りが苦手な介護職員は新人だけでなく中堅にも多くいます。改善のコツは「事前にメモに書く→重要度の順に並べ替える→1分以内のショートバージョンを作る」の3点。順序が決まっていれば、本番で詰まりません。慣れないうちは、自分の申し送りをスマホで録音して聞き返すと、無駄な「えっと」「あの」が減らせます。
参考文献・出典
- [1]指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)- e-Gov 法令検索
記録の整備(第39条)と完結の日から2年間の保存義務、サービス提供記録の作成義務など介護記録の法的根拠
- [2]指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(老企第25号)- 厚生労働省
指定居宅サービスの運営基準の解釈通知。サービス内容の記録、利用者への情報提供、秘密保持義務など多職種連携の規定を含む
- [3]
- [4]
- [5]介護プロフェッショナルキャリア段位制度(評価項目・実習様式)- 一般社団法人 シルバーサービス振興会/厚生労働省
介護職員のキャリアアップを支える評価制度。記録様式・実習チェックリストなどが公開されており記録の標準フォーマットの参考になる
- [6]
- [7]
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まとめ|5W1Hを土台に、事実と解釈を分けて書く
介護の申し送りと介護記録は、単なる事務作業ではなく、利用者の命と生活を守るチームケアの根幹です。本記事の要点を振り返ります。
- 5W1Hを順序通り並べると、読み手の頭の中に状況が再現される。「いつ」は分単位、「どこで」は具体的な場所、「どのように」は数値で。
- 状態変化・服薬・転倒の3場面は、時刻と数値(バイタル・量・回数)を必ず記録。報告先と時刻、家族連絡の有無、今後の観察計画まで含める。
- 看護師にはバイタルと前日比、PT・OTにはADLと機能の変化、ケアマネにはケアプラン目標達成度、家族には平易な言葉と異常時の引き継ぎ状況を意識した書き分けを。
- 「徘徊」「拒否」「元気がない」などのNGワードは避け、事実と解釈を分ける。「〜のご様子」「〜と思われる」で主観を明示。
- 介護記録は厚労省の運営基準で完結の日から2年保存が義務(自治体条例で5年延長の地域あり)。「書かれていない=行っていない」と推定される。
- 場面に応じて5W1H/SOAP/SBARを使い分ける。日常記録は5W1H、専門職判断はSOAP、医師への急変報告はSBAR。
- ICT・タブレット記録・音声入力で記録時間を短縮しつつ、数値・時刻・氏名は必ず残す。
記録は書き慣れるまで時間がかかりますが、形式を3つ覚えれば応用が効きます。明日のシフトから、まず1人の利用者だけでも5W1Hの順序を意識して書いてみてください。1週間続ければ自然に身につき、1か月後には新人指導もできるようになります。
多職種に伝わる申し送り・記録は、自分自身を守る盾でもあります。「あの時どう対応したか」が記録に残っていれば、訴訟や運営指導の場面でも堂々と説明できます。日々の記録の積み重ねが、利用者・家族・チーム・自分の4者を支える土台になります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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